企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進を、企業価値向上、税制優遇、融資における特別金利といった形で支援するDX認定制度。役に立つと感じるものの、具体的にどんなメリットがあるのか、どうすれば取得できるのかよくわかりません。
そこで本記事では、DX認定制度のメリットや認定基準、認定までのステップをわかりやすく解説します。
1.DX認定制度とは?
DX認定制度とは、日本のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進のためにつくられた認定制度です。デジタルガバナンスコードと呼ばれる認定基準に対応し、認定を受けた企業はDXに対する先進的な取り組みを行っているDX認定事業者として公表されるほか、税の優遇などのメリットが受けられます。
通年申請が可能で、対象はすべての事業者、申請費用は無料です。
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2.DX認定制度を利用しDX認定事業者になるメリット
DX認定を獲得するメリットは、税の優遇だけではありません。具体的なメリットについて、掘り下げていきましょう。
企業としての価値やイメージが向上する
DX認定の獲得で、積極的にDX推進に取り組んでいることを社内外にアピールできるため、企業イメージの向上が期待できます。具体的には、認定事業者一覧に掲載されたり、DX認定ロゴマークが使用可能になったりします。
獲得したロゴをコーポレートサイトのIRなどへ掲載すれば、企業ブランディングに効果を発揮するでしょう。また、DX推進による組織改革や働き方改革は、人材獲得においてもアピールポイントとなり得ます。
DX推進の課題が整理される
DX認定を取得するためには、8つの項目とそれぞれに設定された「デジタルガバナンスコード」と呼ばれる認定基準をクリアする必要があります。さらにDX推進指標などを利用したDX推進状況の自己診断も必須です。
一見すると認定取得のハードルが高いようにも感じられます。しかし推進指標の自己診断に取り組み自社を理解した上で、デジタルガバナンスコードの各項目のクリアを目指せば、おのずと自社の課題が整理され、DX実現に近づけるようになっています。
参考 デジタルガバナンスコード経済産業省DX投資促進税制の税額控除のデジタル条件が満たせる
DX投資促進税制とは、デジタル技術やクラウド技術の活用に取組む企業に対する税制の優遇措置です。DX促進に必要なソフトウェアや施設などの投資費用に対して、以下のふたつのうちいずれかを選択して受けられます。
- 税額控除(原則3%、外部の企業法人との連携や共有を行う場合には5%)
- 特別償却(投資額の30%まで)
税制の対象となる条件は大きく2つあり、それぞれ「デジタル(D)要件」と「企業変革(X)要件」と呼ばれます。DX認定はこの「デジタル(D)要件」を満たす条件であり、優遇税制の利用に認定獲得が必須となっています。
なおDX投資促進税制の適用期限は2023年3月31日。DX認定は申請から認定まで60日ほどかかるため、DX投資促進税制を利用する場合は早めにDX認定を申請しておきましょう。
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DX銘柄の応募資格が得られる
DX銘柄とは、企業のDX推進を目的に選定される銘柄です。経済産業省と東京証券取引所が選定します。具体的には次の2つの目的があります。
- DX推進において優れた実績を出している企業を選定することで、目標となる企業モデルを広めること
- ITを活用した取り組みの重要性に関して、経営者の意識変革を促すこと
そしてこのDX銘柄に選定されるためにはDX認定の取得が必要です。応募は各年でスケジュールが決まっています。またDX推進にあたり優れた実績が必要になってくるので、DX認定の取得だけでは不十分という点に注意しましょう。
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日本政策金融金庫による融資での特別利率が利用できる
DX認定を取得していると、日本政策金融金庫が提供している「IT活用促進資金」と呼ばれる融資制度において、特別利率を利用できます。具体的には、情報技術の普及にともなう事業環境に変化するための、次のような用途の融資に限られます。
- ITを活用した業務改善、情報交換の高度化
- 他企業、消費者とネットワーク取引、情報の受発信を行う
- 企業内のIT水準を取引先の水準に合わせる
- ITの活用により、業務やその内容の革新を図る
- 上記、1~4を組み合わせ、ITを高度に活用する
制度や融資の詳細については、下記のサイトからご確認ください。
参考 IT活用促進資金日本政策金融金庫3.DX認定制度の設定基準
DX認定の設定基準は次の4つに分かれています。
- DX-Excellent企業
- DX-Emerging企業
- DX認定事業者(DX-Ready)
- DX-Ready以前
このうちDX認定制度では、DX-Readyと呼ばれる状態の企業をDX認定事業者として認定します。DX-Readyとは、DX推進の準備が整った状態を指します。つまりDX認定では、DX実現に向かって戦略を実行している必要はありません。DX推進の準備ができている企業でも認定されるようになっているのです。
そしてこの水準に達しているかどうかを判断するために、デジタルガバナンスコードと呼ばれる8つの申請事項と認定基準が用いられます。
4.デジタルガバナンスコードとは?
デジタルガバナンスコードとは、経営者に求められる企業価値向上に向けて実践すべき事柄をまとめたものです。デジタル競争が激しい市場のなかでも、企業が自主的かつ効果的なDX推進ができることを目的に、経済産業省によって取りまとめられました。
デジタルガバナンスコードの基本的事項は次の通りです。
- ビジョン・ビジネスモデル
- 戦略
- 組織づくり・人材・企業文化に関する方策
- IT システム・デジタル技術活用環境の整備に関する方策
- 成果と重要な成果指標
- ガバナンスシステム
5.DX認定の項目と内容
DX認定を申請する際は、デジタルガバナンスコードの項目に沿った設問に回答しなくてはなりません。まずは取り組み内容に関してIPAが提供しているExcelの「申請チェックシート」をもとに作成。次にその内容をまとめたうえで「認定申請書」に記載しましょう。DX認定の申請ではこのふたつの書類とこれらを補足する資料を提出します。
DX認定申請で確認される項目は次の通りです。
(1)企業経営の方向性及び情報処理技術の活用の方向性の決定
デジタル技術や関連する競争環境を考慮した上で、経営ビジョン、ビジネスモデルの方向性の公表が行われているか確認する項目です。
具体的には、自社や市場の現状を踏まえ、ビジョン実現のためにどのようなDX推進で価値を生み出すのかを、価値創造のストーリーとしてステークホルダーに公表します。
(2)企業経営及び情報処理技術の活用の具体的な方策(戦略)の決定
デジタル技術を活用した戦略がステークホルダーへ公表されているか確認する項目です。戦略とは、①経営ビジョン・ビジネスモデルの項目で明らかにした内容を、実現するためのものを指します。
(2)①戦略を効果的に進めるための体制の提示
デジタル技術を活用した戦略において、実行に必要な組織大切や人材についてステークホルダーに公表されているか確認する項目です。DX推進に向けた人材の確保や育成、外部のリソースをどのように活用していくのか、といった方針についてまとめます。
(2)②最新の情報処理技術を活用するための環境整備の具体的方策の提示
デジタル技術を活用した戦略において、ITシステムやデジタル技術を活用する環境整備に向けた方針がステークホルダーに公表されているかを確認する項目です。デジタル関連のマネジメント方針だけでなく、利用する技術や投資計画などについて明確化します。
(3)戦略の達成状況に係る指標の決定
デジタル戦略の達成度を測るための指標を決め、ステークホルダーに公表しているか確認する項目です。また指標にもとづく戦略成果の自己評価を示すことも重要となります。指標は定量指標に限らず、達成したかどうかで判断できる定性指標を含まれます。具体的な指標は次の通りです。
- 企業価値創造に係る指標
- 戦略実施により生じた効果を評価する指標
- 戦略に定められた計画の進捗を評価する指標
(4)実務執行総括責任者による効果的な戦略の推進等を図るために必要な情報発信
デジタル技術を活用する戦略やその推進状況について、経営者がリーダーシップを発揮し、ステークホルダーに自ら情報発信をしているかを確認する項目です。認定の際には、実際に公開文書などで経営者名義のもと、メッセージが発信されているかどうかが確認されます。
(5)実務執行総括責任者が主導的な役割を果たすことによる、事業者が利用する情報処理システムにおける課題の把握
経営者のリーダーシップの下で、デジタル技術の同行やITシステムの課題の把握が行われているか確認する項目です。そのため経営者は営業部門やITシステム部門などと協力し、自社の現状や課題を適宜把握する必要があります。
また実際にDX推進に取り組む際には、把握した情報を戦略のブラッシュアップに活用します。
(6)サイバーセキュリティに関する対策の的確な策定及び実施
戦略実施の土台となるサイバーセキュリティ対策を推進しているか確認する項目です。具体的には『サイバーセキュリティ経営ガイドライン』にもとづいた対策と、セキュリティ監査を実施しているかが確認されます。
中小企業の場合は、IPAが管理している「SECURITY ACTION」に取り組み、二つ星レベルの施策を実行し、自己宣言することでも認定基準を満たせます。
参考 セキュリティ対策自己宣言IPA(独立行政法人情報処理推進機構)6.DX認定取得のプロセス
DX認定の取得までのステップをご紹介します。ステップは次の7つです。
- 経営ビジョンの策定
- DX戦略の策定
- DX戦略推進管理体制の策定
- 経営者による情報発信
- DX推進指標などを利用した自己診断
- セキュリティ監査報告書の作成
- 認定申請書と添付書類をまとめ提出する
①経営ビジョンの策定
経営ビジョン実現のために必要なビジネスモデルの方向性を検討します。検討の際には、自社の状況や経営環境、デジタル競争による影響をベースに考えます。企業全体のビジョンが確定したら、自社内で共有。さらにホームページなど外部から確認できる媒体で公表します。
②DX戦略の策定
経営ビジョンにもとづいて、ビジネスモデルを実現するためのデジタル技術を活用した戦略を策定します。具体的には戦略推進に必要な人材や組織の在り方の検討です。ITシステムなどデジタル技術の活用に向けた推進計画を練っていきます。戦略の策定が終わったら、①と同様に社内外に公表します。
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③DX戦略推進管理体制の策定
DX戦略の達成度を測るための指標(KPI)を検討します。指標は定量的なものに限らず、定性的なものも含まれます。同時に戦略の推進状況を管理するための仕組みづくりについても検討することも重要です。
④経営者による情報発信
DX推進における課題や方向性、推進状況について、経営者が情報発信を行います。情報発信を実施するのは経営トップに限りません。役員も含め、経営陣がリーダーシップを執ってメッセージを発信することが重要です。こうした取り組みの結果、DX推進への理解が社内外で進み、全社的な推進の促進につながります。
⑤DX推進指標などを利用した自己診断
DX推進指標などの指標を用いて、自社のDX推進状況を確認し、結果をまとめます。自社の自己診断にはいくつかの方法がありますが、公的で信頼に足るものとして、経済産業省がまとめた「DX推進指標」がおすすめです。ガイドラインとなる試料や自己診断結果を他社と比較できる仕組みがあるなど、自社のDX推進状況を自己診断しやすくなっています。
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⑥セキュリティ監査報告書の策定
『サイバーセキュリティ経営ガイドライン』などを参考にセキュリティ対策を実施し、その内容をセキュリティ監査報告書にまとめます。『サイバーセキュリティ経営ガイドライン』は、経済産業省とIPAが取りまとめた公的資料です。主な内容な次の3つです。
- 経営問題としてサイバーセキュリティについて
- 経営者がサイバーセキュリティで認識すべき3原則
- サイバーセキュリティ経営で重要な10項目
⑦認定申請書と添付書類をまとめ提出する
認定書類一式を、IPAの「DX推進ポータル」から提出します。審査に要する期間は、原則として60日間(土日祝を含まない)かかります。そのため認定取得を目指す際には、余裕をもったスケジュール設定が大切です。また書類に不備があった場合でも、不備内容を整えた上で再提出が可能です。
認定に必要な書類は次の通りです。
- 認定申請書
- 申請チェックシート
- 必要に応じた補足資料
- 戦略に関する補足資料
- 課題把握に関する証跡資料