経済産業省から、『デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン』 (DX推進ガイドライン)が公表されています。
『DX推進ガイドライン』は、
- DX実現において重要なポイントが11個に整理されている
- 注意したい「失敗ケース」や、参考になる「先行事例」も併記されている
という特徴があり、経営者やDX担当者が一度は目を通しておきたい資料です。
この記事では11個の項目それぞれについて解説しています。また、ガイドラインのシンプルな活用方法を紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
目次
1.DX推進ガイドラインとは?
『DX推進ガイドライン(デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン)』とは、DX(デジタルトランスフォーメーション)において経営陣がおさえるべきポイントを明確化したガイドラインです。経済産業省より公表されています。
2018年9月にまとめられた『DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~』をふまえ、同年12月に公開されました。
DX推進ガイドラインでは、DXの実現において重要なポイントが11の項目に整理されています。
活用用途としては、
- どこができていないのか、自社の問題点を把握する
- どうあるべきなのか、目標を確認し対策を考える
この2点に役立つでしょう。
2.DX推進ガイドラインでチェックするべき11の項目
『DX推進ガイドライン』は、上図のような構成になっています。
この記事では『DX推進ガイドライン』をもとに、11の項目を次のようにまとめ、解説しています。
(1)経営のあり方
●経営戦略・ビジョンが提示できているか
●経営トップが強くコミットできているか
●DX推進に必要な体制が整備できているか
●投資などの意思決定が適切にできているか
●スピーディな対応ができるか
(2)基盤となるITシステムの構築
(2)ー1 体制・仕組み
●体制が整っているか
●ガバナンスを確立しているか
●事業部門がオーナーシップを持てているか
(2)ー2 実行プロセス
●IT資産の現状を分析・評価できているか
●IT資産の仕分けと今後のプランニングができているか
●刷新後のITシステムが変化に対応できるか
(1)経営のあり方
経営戦略・ビジョンが提示できているか
DX推進において、経営戦略やビジョンを明確に示せているかは最重要事項です。経営戦略がないままにDXをしようとすると、技術の活用が目的となり無意味な検証が繰り返されるだけとなります。
この項目では、経営戦略やビジョンを明確に提示できているかをチェックします。次のポイントを明言できているか確認しましょう。
- どの事業分野でどのような価値を生み出していくか
- そのためにどのようなビジネスモデルを構築すべきか
経営戦略がないままに、「AIを使って何かやろう」など技術ありきの戦術を考えてしまっている
経営トップが強くコミットできているか
DX推進は不確実性の高い取り組みです。臨機応変かつスピーディに施策を進めなければなりません。そのためには、経営トップが強くコミットし、現場を引っ張っていくリーダーシップが必要となります。
この項目では、次のポイントを満たせているかどうかチェックします。
- 経営トップ自らが、組織や企業文化、業務プロセスの変革に強くコミットしているか
- 社内での反発が大きい場合にも、経営トップがリーダーシップを発揮し、意思決定できているか
DX推進に必要な体制が整備できているか
DX推進は全社横断的で中長期的な取り組みです。各事業部門がスムーズに連携し、取り組みを継続的に行える体制や環境の整備が必要です。
この項目では、継続的に挑戦できる環境を整えているかをチェックします。重要なポイントとして次の3つが挙げられています。
①マインドセット
●挑戦し失敗から学ぶ、仮説検証のプロセスが確立できているか
●仮説検証を評価し、環境変化に応じてすばやく対応できる仕組みがあるか
②推進・サポート体制
●DXの推進・サポートに必要な体制整備や権限の付与ができているか
③人材
●DX推進部門で、データ活用やデジタル技術についてくわしい人材を育成・確保できているか
●各事業部門で、顧客や市場、業務内容をよく知っており、DXをリードし実行できる人材を育成・確保できているか
DX人材とは? 求められる8つの職種とスキル、人材育成の要点
経済産業省による後押しが実施されるなど、国を挙げて進められているDX(デジタルトランスフォーメーション)。デジタル競争の激化や新型コロナウイルスなどの影響もあり、推進に力を入れる企業が増えています。
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投資などの意思決定が適切にできているか
DXを継続的に続けるためには、適切な投資判断や予算配分が重要です。
この項目では、DX推進のための意思決定で次の3つを満たせているかを確認します。
- コストだけではなくビジネスへのインパクトを考慮しているか
- 確実なリターンを求めすぎて挑戦を阻害していないか
- DXに投資をしないことでデジタル競争から取り残されるリスクを考えているか
スピーディな変化に対応できるか
ビジネスを取り巻く外部環境は、日々めまぐるしく変化します。コロナ禍においても、早々にデジタル対応できた企業とそうでない企業の差が広がりました。DXによって実現すべきもののひとつに、迅速な変化対応力があげられるでしょう。
この項目では、DXを取り入れた経営戦略が次のポイントを満たすかチェックします。
- DXによって、経営方針の転換やグローバル展開などがスピーディに行えるか
(2)基盤となるITシステムの構築
(2)ー1 体制・仕組み
体制が整っているか
DX推進は、全社横断的な取り組みです。各部門で意思疎通をはかるためにも体制を整える必要があります。DX推進に先進的な企業では、経営、事業部門、DX部門、情報システム部門から人材を集め、少人数のチームによるトップダウンで取り組んでいる事例もあります。
この項目では、次のポイントをチェックします。
- 部門を超えてデータ連携ができるなど、全社で活用できるITシステムを構築できるか
- 経営戦略に合ったITシステムの全体設計(アーキテクチャ)を描ける体制・人材を確保できているか
ガバナンスを確立しているか
DXを推進する上では、部門を超えて全社最適を目指す判断をしなければなりません。そのためにはガバナンスが効いた体制を確立し、経営トップが意思決定を下していく必要があります。
この項目では、次のポイントをチェックします。
- ITシステムが全社最適となり、複雑化・ブラックボックス化を防ぐために必要なガバナンスを確立しているか
- 新しいITシステムを構築する際にベンダー企業に丸投げせず、ユーザー企業自らが要件定義や企画を行っているか
事業部門がオーナーシップを持てているか
国内のDXが遅れている原因のひとつに、ITシステムを構築する際に要件定義からベンダー企業に丸投げしてしまうことが挙げられています。丸投げしてしまうと修正が多く発生しコストが肥大化するだけでなく、ノウハウが自社内に蓄積されないというデメリットがあります。
DXを進めるには、事業部門が主導権を持つことが大切です。この項目では、事業部門が事業企画や業務企画を明確にし、オーナーシップを持てているかを確認します。
- ベンダー企業からの提案を鵜呑みにせず、取捨選択できているか
- 事業部門自らが要件定義を行い、完成までの責任を負っているか
- 要件定義をベンダー企業に丸投げせず、ユーザー企業が確定することになっているか
(2)ー2 実行プロセス
IT資産の現状を分析・評価できているか
この項目では、IT資産の現状を分析・評価できているかをチェックします。IT資産とは、導入しているITシステムやソフトウェアのことです。
どの部署にどのようなシステムがあり、どう活用されているのかがわからなければ、最適な投資判断も難しいでしょう。
先行事例では、IT資産の現状を分析した結果、半分以上が使われておらず廃棄を決めた例もあります。古くからデジタル化に取り組んでいる企業こそ、現状分析から始めることが大切です。
IT資産の仕分けと今後のプランニングができているか
IT資産の現状把握ができたら、システムの機能ごとに仕分けを行い、今後のプランニングを行います。次の図のように4象限に分けるとわかりやすいでしょう。仕分けを行うことで、不要なシステムは廃棄し、必要なITシステムに予算を使うなど投資を最適化できます。
この項目では、仕分けと今後のプランニングができているかを確認します。次のポイントをチェックしましょう。
- 他社との差別化につながらない協調領域では、SaaSや標準パッケージ、共通プラットフォームを活用しているか
- ITシステムを分別し、使っていないものは廃棄できているか
- 技術的負債(メンテナンス費用が肥大化したシステム)の低減につながるか
刷新後のITシステムが変化に対応できるか
新しいITシステムを導入しても、更新性が低ければいずれブラックボックス化することとなり、根本的な問題は解決しません。
この項目では、刷新後のITシステムが環境変化に迅速に対応できるかどうかをチェックします。
- 刷新後のITシステムは、環境変化に迅速に対応できるようになっているか
- ITシステムが刷新できたかではなく、ビジネスがうまくいったかどうかで評価する仕組みがあるか
ITシステムの刷新自体が目的化し、更新されずに再度ブラックボックス化してしまう(再レガシー化)
3.DX推進ガイドラインの活用方法
『DX推進ガイドライン』の優れている点は、DX推進への道筋が11項目に整理されている点です。
この11項目を利用すれば、自社にどのような課題があるのかを洗い出しやすくなり、具体的なアクションを考えるのに役立つでしょう。
今回は、一例として『DX推進ガイドライン』のシンプルな活用方法をご紹介します。
①現状を把握する
DXを推進する上で最初に必要なのは現状を把握することです。
上の図のようなフォーマットを用意し、11個の項目それぞれに対する現状を記入していきます。
【ヒント】より詳細な現状分析をするには
現状を正確に把握しないことには、DX推進は成功しません。より詳細に現状を分析するのには、経済産業省から出ている『DX推進指標』がおすすめです。
『DX推進指標』では、『DX推進ガイドライン』をさらに細分化した35の項目について、成熟度別に指標が示されています。シートの質問に答えていくことで、自社の状況を簡易診断できます。
また、IPAに自己診断結果を送信すると全体データと比較ができるベンチマークを入手できます。
DX推進指標とは? 【わかりやすく解説】活用のメリットとステップ
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②課題を洗い出し、対策を決める
現状把握ができたら、ガイドラインと比較して課題を洗い出します。
課題が洗い出せたら対策を考え書き出していきます。
③優先順位をつけ、ロードマップを引く
②で洗い出した対策を、優先順位を決めながらロードマップに落とし込みます。いつ何を行うのか、わかるように作成します。
国内のDX推進においては「2025年の崖」が指摘されています。重要なターニングポイントとなるため、2025年までに何をするかを明確するとよいでしょう。
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4.DX推進ガイドラインと合わせてチェックしたい参考資料
『DX推進ガイドライン』のほかにも、経済産業省はDXについての参考資料を公表しています。経営者やDX担当者がチェックすべき資料について紹介します。
「DX推進指標」とそのガイダンス
『DX推進指標』は、DXの推進状況について簡易的に自己診断ができる指標です。項目は、DX推進ガイドラインをもとに、さらに細分化した35項目となっています。
各項目に対して成熟度が具体的に示されているので、質問に答えていくことで自社の問題点や進捗状況が把握できます。
『「DX推進指標」とそのガイダンス』本文では、策定の経緯や各項目について説明されているので、目を通しておくと理解が深まります。
参考 デジタル経営改革のための評価指標(「DX推進指標」)を取りまとめました経済産業省DXレポート
『DXレポート』では、『DX推進ガイドライン』の背景となっている、国内のDX課題について詳細に書かれています。
国内企業のDXを阻んでいるレガシーシステムや、ユーザー企業とベンダー企業の関係性などを指摘し、「2025年の崖」に警鐘を鳴らしています。
なぜDXに取り組む必要があるのか詳しく書いてあるので、経営者やDX担当者なら一度は目を通しておきたい資料です。
しかし累計100ページを超える膨大な量なので、要点をまとめたこちらの記事もご活用ください。
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