人事のDX(HRDX)という言葉をご存じでしょうか? 働き方改革や新型コロナウイルス感染症拡大の影響によって、労働環境は大きく変わりつつあります。そこで注目を集めているのがHRDXです。この記事ではHRDXについて、メリットや関連する人事施策、DXの進め方、事例などをくわしく解説します。
目次
1.そもそもDXとは?
DX(Digital transformation:デジタルトランスフォーメーション)とは、デジタル技術を活用することで、社会全体がよりよい方向へ「変革」していくことです。国内では、経済産業省が「企業の成長や競争力強化のためにデジタル技術を活用し、新たなビジネスモデルを創出、改革すること」とし、推進しています。よく混同されがちなのが「デジタライゼーション」です。これはITを使って既存の業務を効率化することで、DXはさらにその先、ビジネスモデルそのものを変えていくことです。
【図解】DX(デジタルトランスフォーメーション)とは? 意味や推進など
近年、急激に注目を集めるDX(デジタルトランスフォーメーション)。ビジネスやプライベート問わず見聞きする言葉ですが、一方で「そもそもDXとは何なのか?」「具体的に何をすればいいのか」という声もよく聞か...
2.人事部門のDX(HRDX)とは?
最近では、人事部門でもDX(HRDX)への関心が高まっています。人事部門のDXには大きくふたつの考え方があります。
①業務負荷を減らし「考える時間」を生み出す
ひとつめは、ITツールを活用することで業務負荷を減らし、創造的な業務に時間を割けるようにすることです。紙やExcelを使用した、日々のルーティン業務に多くの時間を割いている人事部門も少なくありません。ITを活用し、業務効率化を図ることで、従業員と向き合う時間や、人事施策などを練る時間が確保できます。
②データを戦略人事に活かす
もうひとつは、DXによって人事データを戦略人事に活用することです。戦略人事とは、企業の経営目標や経営課題を把握し、最適な人材マネジメントを行うこと。DXで従業員のスキルや強みなどが可視化できれば、人材開発や育成、採用活動もより戦略的にできます。
業務効率化と戦略人事はいわば両輪です。効率化によって戦略を立てるための時間も捻出しやすくなるため、DXは戦略人事の実現に必要不可欠といえるでしょう。
3.人事部門のDXがもたらす未来
人事部門のDXによって何が、どう変わるのでしょうか? 4つご紹介します。
①従業員の状況の可視化
DXによってあちこちに散らばった人事データが集約され、従業員一人ひとりの状況が可視化されます。紙やExcel、あるいはマネージャーのパソコン内などに散在している情報を、クラウドなどで一元管理します。そうすることで従業員のスキルや資格、過去の評価、現在のモチベーションなどあらゆる情報を、いつでも見ることが可能です。
②可視化・蓄積したデータをもとにした分析
データを蓄積し可視化したあとは、それを加工・編集しさまざまな分析ができます。たとえば、大きな成果をあげている従業員(ハイパフォーマー)の特性を分析できれば、人事評価やマネジメントに組み込めます。早期離職者の傾向を分析すれば、退職予備軍を事前に予測し、適切な対応をとることも可能です。
③最適な人材配置や人材採用の実現
人材データを可視化し分析できるようになれば、適材適所の人材配置もしやすくなります。人材配置や昇格などを主観的に決めてしまうと、ミスマッチが生じるかもしれません。データを人材評価の材料として加えることで、より適切な判断ができるようになります。
採用時の募集要件も、ハイパフォーマー分析のデータなどを参考にすれば、よりマッチ度合いを高められるでしょう。
④従業員のワークエンゲージメント向上
DXによってデータ活用が進めば、従業員のワークエンゲージメントを高める効果も期待できます。データをエビデンスとした公平で納得感のある評価制度の整備は、そのひとつでしょう。年功序列や上司の主観による評価では、従業員の納得を得ることは難しくなってきています。評価にデータを加えることで信憑性が増し、公平性と納得感を高められます。
エンゲージメントサーベイを定期的に実施し、従業員のモチベーションを可視化すれば、モチベーションの下がっている従業員やチームに対して、フォロー面談なども実施可能です。
4.DXを推進するための人事制度や評価制度とは?
DXを推進するには人事の観点からどのような仕組みが必要でしょうか? キーワードは「評価」「コミュニケーション」「働きやすさ」です。
①公平で納得感のある評価制度
DXを推進するうえで、公平で納得感のある評価制度の整備は重要です。DXを推進する目的のひとつは、従業員の状況を可視化し、その能力をフルに発揮してもらい、生産性を向上しイノベーションにつなげること。肝心の評価制度が主観に頼ったアナログ的なものでは、従業員の生産性を高めることは難しいでしょう。
エビデンスに基づいた納得感のある評価制度を整えることで、従業員の働きがいも向上し、DXによる効果もさらに高められます。
②従業員の情報を吸い上げ共有するための仕組み
人事におけるDXでは、従業員の情報や状況をいかに収集し、集約するかが大切です。とくに最近増えつつあるテレワークでは、従業員の顔が見えづらく、コミュニケーションの機会も減りがちです。オンラインの1on1ミーティングを実施し、従業員の課題や悩みをキャッチアップするなど、情報収集と共有の仕組みは不可欠といえるでしょう。
③選択可能な働き方
テレワークやフレックスタイム制など、柔軟な働き方を整備することもDXには有効です。必要な人材を定義し採用できたとしても、活躍できる環境を整えなければ、取り組みも中途半端に終わるでしょう。地方の人材や子育て中の人材など、選択可能な働き方を整備することは、DXの効果を高めると同時に、企業の採用力を高めることにもつながります。
④複線型の柔軟なキャリアパス
ゼネラリストやスペシャリストなど、従業員のキャリアパスを柔軟にすることで、DXの効果をより高められます。たとえ従業員のニーズやスキルなどを可視化したとしても、単線型のキャリアパスしか描けない仕組みでは、その能力をフル活用できません。柔軟なキャリアパスが描ける仕組みを整えることで、データをもとにしたタレントマネジメントもしやすくなります。
管理職よりも待遇のよいスペシャリストなど、給与制度も柔軟にすれば、IT人材も確保しやすくなりさらにDXも推進できるでしょう。
5.人事部門のDXにおける課題
DX推進の旗を掲げるのは簡単ですが、実行するにあたっては課題もあります。人事部門がDXを推進するにあたって直面する課題とは何でしょうか?
①あちこちに散在する人事データ
人事部門のDXを阻む壁としてあげられるのが、企業のあちこちに散らばった人事データです。ありがちなのが、異動や昇進履歴などの情報は人事部でも把握しているけれど、従業員のスキルや資格、過去の担当プロジェクトや1on1で得られた情報などの活動履歴は事業部門のみにあるパターン。この場合情報を棚卸しし、集約する作業が必要になります。
②紙やExcelによる業務負荷
評価業務や採用業務など、紙やExcelで業務を行っているケースは少なくありません。とくに評価業務などは従業員数が多くなればなるほど、負荷も高くなります。ルーティン業務に時間をとられすぎていることが原因で、新しい仕組みや施策を検討する余裕がない場合は、業務負荷をどうやって減らせるかを検討する必要があります。
③既存システムが抱える技術的負債
大企業や歴史のある企業にありがちなのが、昔からある業務システムがボトルネックになっているケースです。システムの担当者が不在で仕様書も残っておらず、ブラックボックス化されているため、リプレースやバージョンアップのリスクが判断できず二の足を踏んでしまいます。古い業務システムにあわせて、業務フロー自体が複雑で非効率になっていることも少なくありません。
古いシステムは技術的負債になり、将来的にOSなどの動作環境がサポート対象外になることもあります。セキュリティのリスクも高まるため、新しいプラットフォームへのリプレース検討をお勧めします。
④現場や経営トップとの温度差
DXの意義や効果などについて、経営層や事業部門などとギャップが生じてしまうこともあります。DXを推進するには、ITツールやサービスの導入、業務フローの刷新などコストや労力が必要です。コスト削減など明確な費用対効果が出しにくい場合もあるでしょう。現場の事業部門のなかには、変化するオペレーションに対し、ネガティブなイメージをもつ従業員もいるかもしれません。
「笛吹けども踊らず」ということわざがあるように、経営トップがいくら発信してもいざやるとなると、現場の理解が得られずなかなか進まないこともあるでしょう。これからの「あるべき姿」を共有し、目標として定めることが重要です。
6.人事部門のDXを推進する5つのステップ
人事部門のDXを推進するには手順が大切です。闇雲に取り組んでもうまくいきません。ここでは人事部門のDXを推進する手順について、5つのステップに分けて解説します。
①DXの目的や目標を決め、共有する
人事部門のDXを推進するにはその意義や目的を決め、経営層や現場、事業部門などと共有することが大切です。DXは局所最適で進めるべきものではありません。全体最適で推進する必要があり、経営目標や経営課題と連動し、他部門とも連携しながら進めていくべきです。
目標については、費用対効果や定量的なKPIなどを厳密に決めたり、短期的なリターンを求めすぎるとうまくいかないこともあります。中長期的な取り組みとして「あるべき姿」を共有することが大切です。
②業務フローとデータの棚卸しを行う
DXを推進する際には、現状把握が重要です。現在の業務フローをあらためて整理し、業務で取り扱うデータの種類や介在するシステムなどを棚卸ししましょう。その際には、フローチャートなどにするとよりわかりやすく、共有もしやすくなります。あらかじめ定めた目標の実現にあたって、足りないデータがあるならば、明確にしておくと、ツールや仕組みを検討する際に活かせます。
③デジタル化する業務を特定する
具体的にどの業務をデジタル化するのかを決めていきます。いきなりすべての業務をデジタル化するのは、コストがかかりますし、成果を実感するまでのリードタイムも長くなります。成果までの期間が長くなると、中だるみしプロジェクトが停滞するかもしれません。採用業務や評価業務など、業務単位でスモールスタートし実績を出すのも有効です。
優先的に取り組む業務を特定する場合は、重要度や緊急度、見込める成果(業務負荷の軽減など)といった複数の観点で決めるとよいでしょう。
④ITツールなどの仕組みを導入する
評価システムやタレントマネジメントシステムなど、DX推進に必要なITツールを選定し、導入しましょう。その際に局所最適に陥らないように、システムの要件定義をする必要があります。あとから機能を拡張できるか、幅広い業務に活用できる汎用的なプラットフォームかといった観点も重要です。
⑤必要であればツールにあわせて業務フローを変える
DXを推進する際に、ツールにあわせて既存の業務フローを変えるという考え方も大切です。既存の業務ありきでシステムを探すと、なかなかフィットするものがなく、結果的にゼロからシステム構築することになりかねません。オリジナルのシステムも最初はいいかもしれませんが、やがて古くなりボトルネックになる可能性があります。
DXを推進する際は、既存の業務フローを思い切って変えてみることも、重要な考え方といえます。
7.カオナビの導入によって人事のDXを推進した成功事例
①ルーティン業務を効率化し「考える時間」を捻出|株式会社デンソー
ルーティン業務を効率化し「考える時間」を捻出|株式会社デンソー
自動車部品メーカーとして時代の最先端を走り続ける株式会社デンソー。グループで約16万人の従業員を抱える同社は人材情報が事業部門などに散らばっており、評価などのルーティン業務に多くの時間を割いていました。業務を効率化し「より創造的な業務に時間を費やす」ことを目的に、人材データベースであるカオナビを導入しました。
課題
- 人材情報が散在しているため、ルーティン業務に多くの時間をとられていた
- ルーティン業務に時間をとられすぎ、「考える時間」を捻出できずにいた
成果
- 人材情報が一元化され、昇格会議においてもペーパーレスを実現
- 紙資料が減りルーティン業務を減らせたことで「考える時間」を捻出できた
②約2,000名の人事情報を一元化しタレントマネジメントに活用|サトーホールディングス株式会社
約2,000名の人事情報を一元化しタレントマネジメントに活用|サトーホールディングス株式会社
「自動認識ソリューション」で国内シェアナンバーワンを誇るサトーホールディングス株式会社。同社では中期経営計画における人材戦略ロードマップのひとつとして、タレントマネジメントへの注力を決定。しかしそのために必要な約2,000名の人事情報は国内の各拠点に散らばっていました。そこでカオナビを導入し、人材情報の一元化に取り組みました。
課題
- タレントマネジメントを推進するために必要な約2,000名の人事情報が拠点ごとなどに散在していた
- 散在した人事データを集約する作業が、現場にとって大きな負担となっていた
成果
- 人事で取得できる情報をすべてデータベースとして一元管理でき、業務を効率化できた
- 可視化したデータを次期役員候補の選出会議で活用、タレントマネジメントの第一歩を踏み出せた
③散在したデータを一元化し人事戦略に活用|フジッコ株式会社
日本を代表する食品メーカーであり、2020年に創業60周年を迎えたフジッコ株式会社。従業員一人ひとりの能力をフル活用するため、抜本的な人事制度改革に取り組んでいます。しかし散在する人事データや、人事部門への問合せ業務の負担、紙やExcelを使った評価業務がそのための大きな障壁となっていました。そこで人事情報を一元管理すべく、人材データベース「カオナビ」を導入。人事改革への一里塚となりました。
課題
- 人事データが関係各所に散らばり、最新の人事データを施策に活かせずにいた
- 人事異動の際には人事部への問合せが急増、大きな業務負担に
- 紙やExcelの評価フローが現場と人事の両方の負担になっていた
成果
- 人事情報の一元管理を推進できた
- 使いやすいUIで人事部への問合せも減らせた
- 紙とExcelで行っていた評価業務を新たなフローへ、今後の工数削減を期待
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