ダイナミックケイパビリティとは、環境変化に対応するためのフレームワークです。ここでは、ダイナミックケイパビリティについて解説します。
目次
1.ダイナミックケイパビリティとは?
ダイナミックケイパビリティとは、市場や顧客のニーズといった変化に対応し、企業自ら変革していくフレームワークのこと。
ダイナミックケイパビリティは、カリフォルニア大学バークレー校のデイヴィッド・ティース氏が提唱したフレームワークで、以下のような特徴があります。
- 変化の激しいビジネス環境をいち早く認識する
- 企業の経営資源を素早く再構築・再編成する
です。
不確実性や不透明性の高まるビジネスにおいて、企業の進むべき道を示してくれます。
2.ダイナミックケイパビリティを構成する2つの理論
ダイナミックケイパビリティは、「競争戦略論」「資源ベース論」2つの理論から構成されているのです。それぞれについて解説しましょう。
競争戦略論
競争戦略論は、「企業が属する市場の分析」「自社の最適なポジションの発見」を実現するための理論です。
自社の最適なポジションとは、競争優位性が確率できるポジションのこと。それを見極めるため、
- 新規参入企業の脅威
- 売り手の交渉力
- 買い手の交渉力
- 代替品の脅威
- 既存企業同士の競争
といったファイブフォースを分析します。
資源ベース論
資源ベース論は、「業界を同じくする企業ごとの競争力の違いは、保有している経営資源の異質性によって生まれる」という理論です。企業に競争優位性の獲得に貢献している経営資源こそが、企業の成長に影響しているというもの。
資源ベース論では、企業の経営資源における、強みや弱みを分析する手法に、VRIOを用いています。
3.ダイナミックケイパビリティを構成する3つの要素
ダイナミックケイパビリティには、構成する3つの要素があります。それぞれについて解説しましょう。
- Sensing(感知)
- Seizing(捕捉)
- Transforming(トランスフォーミング:変革)
①Sensing(感知)
Sensingとは、顧客ニーズの変化や競合他社の動向といったビジネス環境を観察・分析して、生じそうな脅威・機会を察知する能力のこと。言葉自体は、感知を意味します。Sensingは、ポジショニング派が持つ思考を適用しているともいえるでしょう。
②Seizing(捕捉)
Seizingとは、企業が保有している既存の資源・知識を応用し、再利用する能力のこと。言葉自体は、捕捉を意味します。
資源や知識の活用に際しては、「外的要因の変化を察知する能力」「柔軟な思考」「臨機応変な対応」が求められます。Seizingは、ポーターの競争戦略論との結びつきの強い要素となるのです。
③Transforming(トランスフォーミング:変革)
Transformingとは、社内に存在する多種多様な資産を、再構築・再構成する能力のこと。言葉自体は、変革を意味します。
Transformingでは、「既存の組織構造を組み替える」「あらゆる資産を有効活用できるよう、社内ルールを整備し直す」などにより、企業体質を変化に対し迅速に対応できる体質へ最適化していくのです。
4.ダイナミックケイパビリティが注目される理由
ダイナミックケイパビリティが注目される理由は、5つあります。それぞれについて解説しましょう。
- 不確実性が高まる時代
- 技術革新
- グローバル化
- 顧客のニーズの変化
- 働き方の多様性
①不確実性が高まる時代
米中貿易摩擦を始めとした、政治・経済における不確実性は、アジア諸国の輸出動向だけでなく世界経済全体にも大きな影響を与えています。不確実性の高い時代には、世界の変化に合わせ自己を変革させていく力が強く求められるのです。
②技術革新
デジタル技術の革新は、社会全体に大きな影響を及ぼしています。IoT・AIなどの新技術をいかに効果的に活用するかで企業の将来は左右されるため、「柔軟な思考で既存の経営資源の活用する」「新製品・サービスの提供」が求められているのです。
③グローバル化
グローバル化の進行は世界全体の経済成長を一気に加速させた反面、個々の企業レベルでの国際競争の激化を生み出しました。そのため企業は競争を逆手に取って、競争を上手く活用しながら、新たな価値を生み出す力を必要としているのです。
④顧客のニーズの変化
多様化する消費者のニーズ。趣味嗜好・ライフスタイルは時代ごとに変化するだけでなく、近年、変化にかかるスピードもアップしています。猫の目のように変わりやすい消費者ニーズをいかに察知できるかは、企業にとって死活問題です。
⑤働き方の多様性
企業には今、「働く人の視点に立つ」「働く人のライフスタイルやライフステージの変化に応じた職場作りをする」などが求められています。企業にとって、既存の組織や資産などを、再構築・再構成することは近々の課題なのです。
5.ダイナミックケイパビリティを企業経営へ導入した事例
ダイナミックケイパビリティを企業経営へ導入した事例があります。ここでは下記3つの例について、見ていきましょう。
- Apple
- ユニクロ
- アマゾン・ドット・コム
①Apple
Appleは、ウェアラブル製品・ソフトウエアなどの開発、販売を手がける多国籍企業です。
消費者のニーズをもとにオンライン上で、「Macストア」「iPodストア」「iPhoneストア」「iPadストア」コーナーのあるアップルストアを設置しました。そして「PCや周辺機器の販売」「製品の下取り」といったサービスを展開しています。
②ユニクロ
ユニクロは、日本を代表するアパレル企業で、シンプルなデザイン・低価格を売りに商品展開をしているのです。
このようななか、ユニクロを着ていると悟られたくない消費者もいます。そこで有名タレントをTVCMに起用して、有名人もユニクロのファンだとアピールし、製品価値を高める戦略を取っているのです。
③アマゾンドットコム
アマゾンドットコムは、アメリカの代表的なオンラインショップ。
これまで蓄積されたウェブサービス技術を活用し、「コスト削減」「イノベーションの加速」「即時のグローバル展開」「ビジネスチャンスを逃さない俊敏性」を実現するクラウドプラットフォーム、アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)を提供しています。
6.ダイナミックケイパビリティの課題
ダイナミックケイパビリティを企業経営に生かすには、課題もあります。ここでは、下記4つの課題について解説しましょう。
- 経営者の経営力
- 時代のニーズを常に把握して読み解く
- 限られた資源
- 変化に適応できる人材の不足
①経営者の経営力
経営環境がめまぐるしく変化する昨今、「環境変化へ柔軟に対応する」「持続的な成長をする」には、抜本的な改革を断行できる経営者の経営力が欠かせません。経営力の向上なくして、ダイナミックケイパビリティの有効活用は困難です。
②時代のニーズを常に把握して読み解く
ダイナミックケイパビリティは、「企業をとりまく変化に対応する」「自己変革していく」というフレームワークです。時代のニーズ・消費者の動向といったビジネス環境をいかに的確に把握、分析できるかがポイントになります。
③限られた資源
ダイナミックケイパビリティでは、既存の資源や知識を応用したり再利用したりします。しかしダイナミックケイパビリティで活用できる資源は、限られているのです。限られた資源をどう効果的かつ効率よく活用するかで、その結果が大きく違ってきます。
④変化に適応できる人材の不足
ダイナミックケイパビリティでは、「市場ニーズを踏まえ、大胆な発想でモノづくりを進めるイノベーション人材」「技術・技能を武器に活躍する技能工」「企業価値の向上を使命としたマネジメント人材」が求められます。
しかし現実は、それらの人材不足が課題となっているのです。
7.ダイナミックケイパビリティを企業で導入する方法
ダイナミックケイパビリティを企業で導入するための方法は3つあります。それぞれについて解説しましょう。
- 新しいデータを積極的に活用
- 組織文化の改革
- 多様な人材の確保
①新しいデータを積極的に活用
データの活用とは、目的を明確にした上で収集・蓄積・分析すること。新データの積極活用により、「新サービスの創造」「業務改善」「顧客拡大」といったビジネスの課題に対して具体的な解決の糸口を見つけられます。
②組織文化の改革
環境の変化に合わせて組織文化を変革するため、「組織の現状を社員全員に見える化する」「情報共有によって、建設的な意見交換を実施する」「コミュニケーションを通じて、新たな組織文化を醸造していく」といったプロセスを経るのです。
③多様な人材の確保
多種多様な消費者ニーズを掴むためには、多様な人材の確保も必要となります。多様な属性・感性・技術・能力を持った人材が採用・育成されれば、ダイナミックケイパビリティをスムーズに導入できるでしょう。