衛生要因とは、仕事に対する不満をもたらす要因のこと。動機付け要因との関係や要素、改善方法などを解説します。
目次
1.衛生要因とは?
衛生要因とは、満たされなくなると仕事への不満が高まる要素のこと。給与や福利厚生、人間関係などが該当します。臨床心理学者のフレデリック・ハーズバーグが提唱した「動機付け、衛生理論」における要因のひとつで、「不満足要因」とも呼ばれます。衛生要因の英語表記は「Hygiene Factor」です。
ハーズバーグは動機付け・衛生理論において、従業員が感じている不満や不快感がモチベーションや生産性の低下につながると指摘しました。具体的には給与や職場環境、労働時間などに関する不満や不快感が、その対象です。
一方、衛生要因が十分に満たされていたとしても、それだけで仕事にやりがいを感じるわけではなく、別途「動機付け要因」が必要であるとしています。
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ハーズバーグの二要因理論とは?
先に挙げた「動機付け・衛生理論」のこと。従業員が仕事で満足するには「動機付け要因」と「衛生要因」を重視する必要があるという考え方です。
- 動機付け要因:仕事に対する成果ややりがい、認知や自己実現など、仕事そのものに関する要因です。満たされると仕事への熱意やモチベーションを高める
- 衛生要因:給料や職場の環境、人間関係など、仕事に直接は関係しないものの不満足を引き起こす要因。満たされると従業員の不満やストレスの低減につながる
2.衛生要因と動機付け要因との関係
衛生要因と動機付け要因は、お互いが足りない部分を補っています。両方の要因が満たされてはじめて不満が解消され、なおかつ満足度が高まり、仕事に対するモチベーションも向上するからです。
要因の関係性は4分類
ふたつの関係性は、以下4つに分類できます。
- 動機付け要因も衛生要因も満たされており、仕事に対する不満がなく、意欲はある状態
- 動機付け要因も衛生要因も満たされておらず、仕事に不満を持ち、意欲がない状態
- 動機付け要因は満たされているが衛生要因は満たされておらず、仕事に不満はあるものの高い意欲を持っている状態
- 動機付け要因は満たされていないが衛生要因は満たされており、仕事に不満はないが意欲もない状態
従業員のモチベーションを管理する場合、これらの状態を見極めて適切なアプローチをする必要があります。
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3.衛生要因を満たすメリット
衛生要因を満たすと、従業員の職場環境に関する不満が解消されます。それにより心身の不調や休職・離職などを防ぎやすくなるのです。
従業員の心身健康の維持
衛生要因を満たすと労働環境が改善され、従業員の心身健康を維持または改善できます。ストレスが軽減された状態で仕事に臨めるため、離職や休職などの予防に役立つのです。衛生要因のなかでも、対人関係は心身に大きな影響をおよぼすと考えられています。
離職の防止
衛生要因が満たされると、他社への離職を防げます。給与や労働環境、人間関係などに不満を持った従業員は、転職を検討するようになるからです。このような不満を解消すれば、それだけで離職リスクを低減できます。
4.衛生要因を構成する主な要素
衛生要因は、主に次のような要素で構成されます。
- 給与
- 福利厚生
- 企業の方針、および管理体制
- 同僚や上司との対人関係
衛生要因が満たされていない場合
衛生要因が満たされていない場合、従業員の早期離職が起こりえます。
独立行政法人 労働政策研究・研修機構の資料『若年者のキャリアと企業による雇用管理の現状「平成30年若年者雇用実態調査」』によると1年未満に早期離職した人のうち、35.3%が主な離職理由として「人間関係」を挙げていました。
衛生要因が満たされないと、従業員の離職リスクは遅かれ早かれ高まってしまうでしょう。
参考 若年者のキャリアと企業による雇用管理の現状「平成30年若年者雇用実態調査」独立行政法人 労働政策研究・研修機構5.衛生要因を見える化する方法
衛生要因を満たすためには、現状の「見える化」が必要です。具体的な方法には、「ミーティング」と「モチベーションサーベイ」が挙げられます。
ミーティング時の観察
ミーティングを実施し、参加した従業員のモチベーションを観察する方法です。
たとえば参加した従業員に、「積極的にコミュニケーションを取ろうとしない」「デスク周りが片付いていない」などが見られたら、その従業員は衛生要因が満たされておらず、モチベーションが低下している状態かもしれません。
ここで本人から話を聞くと、「人間関係の悪化」「職場環境の悪化」などが見つかる可能性もあります。従業員の表情やふるまい、発言などをよく観察しましょう。
従業員満足度調査(モチベーションサーベイ)の実施
アンケートをとおして個々の従業員へ不満に感じていることを問い、衛生要因の現状を探る方法です。
ミーティングといった対面では本音を伝えにくい従業員は、匿名のアンケートなら回答する可能性があります。
一度に多数の従業員から聞き取れるため、効率的かつ多角的に状況を把握するのが可能です。またモチベーションサーベイを定期的に実施し、結果を分析し続けると満足度の推移を把握でき、衛生要因の改善がなされているか、確認できます。
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6.衛生要因を改善する方法
衛生要因を見える化し、課題が見つかったら改善施策を講じる必要があります。ここでは4つの方法を解説しましょう。
- 対人関係のケア
- 人事評価制度の改正
- 企業の課題把握
- 職場環境の整備
①対人関係のケア
職場における対人関係の悪化は、仕事や企業そのものへの不満を生じさせる原因となりかねません。重大な課題が見つからなかったとしても、つねに改善に取り組むべきです。
上司と部下、他部署などとコミュニケーション機会を増やすといった施策が挙げられます。社内の人間関係を良好に保ち、新たな人間関係も構築できる状態にすれば、不満の軽減はもとより新たな不満の発見につながるのです。
②人事評価制度の改正
人事評価制度の改正も衛生要因の改善において欠かせません。従業員の取り組みや成果が正当に評価されないのも、企業への不満を生じさせる原因になりえます。人事評価への不満を解消する施策の例は「昇給や昇進などに関して具体的な評価基準を公表する」です。
人事評価制度の見直しで従業員が正当な評価や報酬を得られるようになると、離職防止の効果が高まります。また「認められた」という気持ちになり、仕事に対するモチベーションが向上する可能性もあるのです。
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③企業の課題把握
企業において衛生要因を改善するには、課題の把握も重要です。しかし独自の調査だけでは実際の問題点を見落とす場合もあるため外部の組織診断を利用する必要があります。
この方法なら、外部からの客観的な視点により企業の課題を明確化し、見逃すことなく改善を進められるのです。
ただしこの取り組みでは企業の課題全般を改善することが重要になります。衛生要因の改善だけが目的とならないよう、注意しなければなりません。
④職場環境の整備
職場環境を整備すると従業員が快適に働けるため、不満の解消につながります。たとえばフレックスタイム制やテレワーク、時短勤務など多様な働き方を導入する施策が有効です。
このような環境整備に向けた施策に着手する際、従業員の声に耳を傾けて、どのような不満や要望があるのか、調査するとよいでしょう。
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7.衛生要因と動機付け要因を活用したモチベーション向上の具体例
モチベーションを向上させるには、動機付け要因と衛生要因の両方を満たす必要があります。そのためふたつの要因を関連付けた取り組みを実施しましょう。
- 企業理念や目標の周知
- 金銭以外の報酬制度の設置
- 人材育成に注力
- チャレンジ機会の提供
- ワークライフバランスの充実
- 社会貢献の体験
①企業理念や目標の周知
衛生要因である企業理念や目標と、動機付け要因であるやりがいや責任などを紐づける方法です。企業理念や目標を周知すると、従業員は自分の仕事が企業に貢献していると実感でき、仕事に対するモチベーションも高まります。
従業員が自身の企業への貢献度を実感するには、それらを測れる「基準」が必要です。企業理念や目標はこの基準となり、自分の仕事がどのように役立っているかを認識できるようになります。
貢献度を数値化する仕組みをつくると、よりモチベーションを高められるでしょう。
②金銭以外の報酬制度の設置
衛生要因である金銭的報酬とあわせて動機付け要因となる非金銭的報酬を与え、モチベーションを上げる方法です。
金銭的報酬でもモチベーションは上がります。しかし慣れてしまうと効果が弱まるもの。一方称賛や承認といった非金銭的報酬からは、達成感や充実感、やりがいなどの動機付け要因を得られるのです。
具体的な非金銭的な報酬制度としては、成果にもとづいた表彰制度やスキルアップ機会の提供などが挙げられます。
③人材育成に注力
管理体制や人間関係などの衛生要因と、承認や達成などの動機付け要因を満たす方法です。
管理職に適切な教育やトレーニング機会を提供すると、部下に対するマネジメント能力が向上します。それは管理体制の改善や部署内の人間関係の改善につながりますし、部下の成長や目標達成なども実現できるでしょう。
このように職場環境への不満解消とモチベーションアップを両立できます。各部署の管理職が成長すれば、職場全体のモチベーションを高められるでしょう。
④チャレンジ機会の提供
チャレンジしやすい環境整備という衛生要因と、チャレンジによる成長や達成などの動機付け要因を満たす方法です。
教育制度やキャリアパスなどを充足すると従業員は新しいことへ挑戦しやすくなり、成功すれば達成感や充実感、自己成長などを実感できます。動機付け要因が満たされた従業員は、仕事に対するモチベーションが高まるのです。
またチャレンジ機会の提供によって従業員の主体性が引き出されると、生産性の向上などの効果も期待できます。
⑤ワークライフバランスの充実
労働環境や福利厚生などの衛生要因を満たしたうえで、ほかの動機付け要因を改善し、モチベーションを高める方法です。
過剰な労働時間や休日出勤などの問題を改善すると、従業員は仕事とプライベートのバランスを取りやすくなり、ストレスや疲れが軽減されます。またワークライフバランスの改善は、離職率の低下や優秀な人材の確保などにもつながるでしょう。
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ワークライフバランスの意味
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⑥社会貢献の体験
経営理念などの衛生要因と、貢献ややりがいといった動機付け要因を満たしてモチベーションを高める方法です。経営理念にもとづいた自身の仕事が社会貢献につながっていることを実感できると、仕事への意欲が高まります。
今日では多くの企業がSDGsやCSRなど社会貢献活動を実施しているため、このような活動への参加した従業員もまた、自分自身が社会に貢献していると実感できるのです。
いずれにしても自社が行う社会貢献にやりがいや喜びを得た従業員は、仕事に対するモチベーションが向上するでしょう。
8.衛生要因と動機付け要因を改善する際の注意点
衛生要因と動機付け要因には密接な関係があるため、両方の改善を目指す場合は「バランス」と「客観的な視点」のふたつに注意が必要です。
ふたつのバランス
衛生要因と動機付け要因の改善を図る際は、両方をバランスよく満たすことを意識しましょう。とくに衛生要因のみを満たした場合、モチベーションの維持向上が期待できません。
たとえばふたつの要因を改善するために社内で新たな人事評価制度を設ける場合、この制度でどのような課題を解決でき、その結果どちらの要因をどのように満たせるのかを明確にする必要があります。
客観的な視点と基準
ふたつの要因を改善するためには、客観的な視点とその明確な基準を設ける必要があります。ハーズバーグの二要因理論では、従業員の満足度を客観的に観測するための基準が設けられていないからです。
二要因理論の内容だけに従うのではなく、モチベーションサーベイを活用して客観的な基準を設け、改善策を検討しましょう。