エレベータートークとは、短時間で言いたいことを相手に伝える会話術のこと。ここではエレベータートークが必要な場面や例文、トレーニング方法などについて説明します。
目次
1.エレベータートークとは?
エレベータートークとは、エレベーターに乗っている程度の短時間で自分の伝えたいことを伝えるトークスキルのこと。「エレベーターピッチ」や「エレベーターブリーフィング」と呼ばれる場合もあります。
エレベータートークの発祥はITビジネスの中心地、アメリカのサンフランシスコ、シリコンバレー。ITビジネスの起業家が投資家に短時間で自身のアイデアを売り出し、そこからプレゼンテーションの機会を得て資金調達まで実現したという逸話から生まれました。
2.エレベータートークが必要な場面
エレベータートークは「多忙な相手に話を聞いてもらいたい」「短時間で相手の印象に残る必要がある」ときに活躍します。相手の時間を無駄に奪わないことは、日々のなかでも重要でしょう。こうしたエレベータートークの具体例は下記のとおりです。
- 上司への報連相:日々多くの部下から報連相を受けている上司に、要点を簡潔に伝える
- 自己紹介:赴任先での挨拶や紹介を受けた際、短時間で印象に残る自己紹介をして相手に覚えてもらう
- 顧客や取引先とのやり取り:要件や概要を話の最初に伝えて、やりとりを手短に終える
3.日本のエレベータートーク
日本におけるビジネスマナーの場合、エレベーター内での会話はあまり歓迎されていません。なぜならさまざまな企業が入居するオフィスビルでは、だれが乗り合わせているかわからないからです。
よって情報漏えいからエレベータートークは望ましいものと言いにくいのです。しかし短時間で話すトークスキルそのものは日本のビジネスシーンでも十分活用できます。
相手の時間を無駄にしないよう、わかりやすく簡潔に、スピーディーに説明するエレベータートークは、鍛えるべきビジネススキルのひとつといえるでしょう。
4.エレベータートークのメリット
エレベータートークを身につけると、ビジネスパーソンに必須の「コミュニケーション能力」を鍛えられます。短時間で要点を伝えなければならないため、無駄な言葉を自然と省けるのです。ここではエレベータートークのメリット3つについて解説します。
- わかりやすく伝える能力が身につく
- 相手に印象を強く残せる
- 報・連・相がスムーズになる
①わかりやすく伝える能力が身につく
エレベータートークのメリットとして大きいのは、やはり「相手に伝わりやすい言葉を選んで話せるようになる」点。回りくどい表現や余計な話をだらだらとする余裕はありません。
エレベータートークは相手の印象に残る言葉を吟味するトレーニングです。よって身につけると、情報を正確かつスピーディーに伝えられるようになります。
②相手に印象を強く残せる
営業担当者にとっては、初対面の顧客に印象を残せるかどうかが重要になるもの。エレベータートークで整理された情報をスピーディーに伝えられれば「また会ってみたい」「もっと詳しい話を聞きたい」と思ってもらえるでしょう。
初対面の相手にスマートで知的な印象を与えられれば、その後の説明にも熱心に耳を傾けてもらえます。
③報・連・相がスムーズになる
スピードが求められる現代のビジネスシーンにて、長い話をして相手の時間を無駄に奪ったらビジネスマナーに反します。
最初から最後まで時系列を追って詳細に報告しても、話の結論は伝わりません。「話が長いばかりで、結局何を伝えたいのか分からない」という印象を与えてしまいます。エレベータートークによって要点だけをまとめて話せれば、報連相もスムーズになるのです。
5.エレベータートークを構成する要素
限られた時間で相手に印象を残すエレベータートークは、以下の要素で構成されます。
- 自分の情報(名前・肩書き・商品名)
- 商品のベネフィット
- 信ぴょう性を持たせる理由・根拠
- 次のステップに進めるクロージング
この4つの要点を意識して、30秒から1分30秒程度の短時間で話せるようトレーニングしておくとよいでしょう。
①自分の情報(名前・肩書き・商品名)
まずは自分が何者なのか、どんな仕事をしてどんな商品を手がけているかなどを伝えます。その際、自分の地位や役職を伝えるより、商品の特徴や実績など、相手に何が提供できるかを明確に伝えるほうが重要です。
見ず知らずの人から突然肩書だけを伝えられても、印象に残りにくいもの。何を提供できる人なのか、それがどれだけ信頼できるかを伝えたほうが、相手の印象に残りやすいです。
②商品のベネフィット
ベネフィットとは「恩恵」のこと。「自分と仕事をすると」もしくは「この商品を使うことで」相手にどんな利益が生まれるかを伝えます。4つのうち特に重要な部分です。
どれだけ素晴らしい人材や商品でも、相手のニーズに合っていなければ、こちらからの一方的なアピールで終わってしまいます。
人の関心は自分に有益な情報であるか否かで大きく変わるもの。その人材や商品を使うことでユーザーが得られる恩恵を訴求するのがポイントです。
③信ぴょう性を持たせる理由・根拠
ベネフィットを伝える際は、その理由や根拠をあわせて伝えましょう。信頼性の高い話になります。
商品の特徴や便利な点をつらつらと述べるだけでは、「それは本当の話なのだろうか」「机上の空論だけを伝えられても困る」「根拠や実績のない話は聞きたくない」と相手に思わせてしまうでしょう。
具体的な売上実績や経験談などを取り入れて、聞き手を納得させることが重要になります。
④クロージング
以上の3点を伝えたら、相手にその後どんなアクションを取ってほしいかを伝えて、話をクロージングします。セールス色を前面に押し出す必要はありません。ここまでに3つの要素がうまく盛り込めていれば、最後に背中を押すだけでよいのです。
相手に求める具体的なアクションは、申し込みフォームからの問い合わせや資料ダウンロードなどまどろっこしいものより電話やメールなどシンプルでかんたんなものがよいでしょう。相手が行動しやすくなります。
6.エレベータートークの例文
エレベータートークの構成要素を理解したところで、実際に例文を作ってみましょう。大まかな流れはこのままに、[]のなかを変えて使用します。
①名前や肩書
「はじめまして。私は[カオナビコーポレーションで管理ソフトウェアの開発]を担当している[カオナビ太郎]と申します」
②ベネフィット
「私は[総務部における業務のブラックボックス化の問題]を、[この管理ソフトウェアを使用]して解決してきました」
③理由や根拠
「この[管理ソフトウェア]を使用すれば、[見える化されていなかった膨大な業務工数や多岐にわたる作業の時間を大幅に削減]できます」
④クロージング
「もしお時間とご興味があれば、詳しく説明いたしますので、[明日、改めてお電話しても]よろしいでしょうか」
7.エレベータートークの作り方
エレベータートークを実施する前に、短時間で的確な会話ができるよう、あらかじめトーク全体の設計図を作っておきます。一度作っておけば、エレベータートーク以外のコミュニケーションでも応用できるでしょう。
ここではエレベータートークを作る際のポイントについて解説します。
- 目的を明確にする
- 相手の視点から分析する
- 紙に会話の内容を書き出す
- 内容をブラッシュアップする
①目的を明確にする
はじめに、自分の行動の目的を明確にします。エレベータートークによって何を実現したいのでしょうか。「これを売りたい」「これについて知ってほしい」など、まずはゴールを明確にしておきましょう。
相手に自分の意見を伝えることがゴールではありません。意見を伝えたうえで、相手からアクションを引き出すことが最終的なゴールです。
②相手の視点から分析する
目的を明確にしたら、相手の視点に立って分析します。相手は何を望んでいて、話そうとしている議題についてどの程度知っているのでしょうか。
あらかじめ相手と情報が共有できている場合、すべてを説明する必要はありません。しかし相手が知らない情報を知っている前提で話してしまうと、相手は混乱してしまいます。必要に応じて相手の情報を集めましょう。
③紙に会話の内容を書き出す
エレベータートークを作る際、会話内容を一度紙に書き出してみるとよいでしょう。はじめのうちは思いついた内容を書き殴る程度で構いません。いざエレベータートークが必要となったときに慌てないよう、以下の手順で会話の内容を考えていきます。
ポイントの洗い出し
まずは話す内容を洗い出します。この段階では文法や文脈など細かいことを気にする必要はありません。Wordやメモ帳などを使って、思っていることを箇条書きにしてみましょう。
たとえば不動産営業なら「駅の近く」や「眺望抜群」、「緑が多い」や「最近修繕が完了した」など、なるべくたくさんのポイントを洗い出します。
ポイントを厳選
続いて洗い出したポイントを厳選します。自分の目的と相手が得たいものをつなぐ内容になるようにポイントを選びましょう。
その際、相手が得たいものに最も近いポイントを3つに絞ります。なぜならあまり数多く提案しても覚えてもらいにくいためです。自分のアイデアや要望だけでなく、相手の視点から見たメリットも組み込むとより効果的でしょう。
クロージング
クロージングの内容は、相手に行動を促す言葉にします。話を聞いた相手が「早く動き出さなければ」「率先して決めなければ」と思えるようなフレーズを考えるのがポイントです。
不動産営業なら「この物件は人気があり、問い合わせが殺到しています」といった一文になります。この一言で相手は「行動を早めなければ」と考えるようになるでしょう。
フック
スムーズに本題に入る前の前置きを「フック」といいます。
たとえば、物件の購入を考えている相手に対して、「あまり市場に出てこない希少物件をご覧になりませんか」と尋ねたり、「この件について意見を伺いたいのですが」とフィードバックを求めたりして相手の反応を確かめます。
一言で相手を引き込めるフックを考えることが重要です。
④内容をブラッシュアップする
一度テンプレートを作ったら終わりというわけではありません。内容や全体の流れを確認して、会話が途切れる箇所や違和感を覚える部分がないかをつねにチェックする必要があります。
ブラッシュアップの際は、まとめた内容を実際に声に出してだれかに聞いてもらうとよいでしょう。信頼できる人に聞いてもらい、話全体に違和感がないか、聞きづらくはないかなどを細かくチェックします。
8.エレベータートークのトレーニング法
エレベータートークはテキストを読んだり人から話を聞いたりするだけでは習得できません。また作成したエレベータートークの内容がどれだけよくても、実際にうまく話して相手に聞いてもらわなければ意味がなくなってしまいます。
エレベータートークを活用するためには、以下のトレーニング方法が効果的です。
- 人前で話す
- アップデートする
①人前で話す
エレベータートークを鍛える最大の方法は、実際に人前で披露すること。どれだけすばらしい内容を考えていても、相手に伝わらなければ宝の持ち腐れです。
人前で披露すると、伝わりやすい部分だけでなく、伝わりにくい部分や工夫が必要な部分、省略できる文言などが整理できます。30秒程度という短い時間で行われるものですから、時間を意識しすぎて早口にならないよう注意しましょう。
②アップデートする
相手の反応を見てトーク内容を改善していくのも必要です。自分はわかっていても、相手には響かない言葉というのはよくあるもの。
対面ツールであるエレベータートークは、身振りや手振り、表情の抑揚なども影響を与えます。表情ひとつが「この人は信頼できるか」の判断材料になることを意識して、つねにアップデートしていきましょう。
9.エレベータートークに役立つフレームワーク
相手に分かりやすく話を伝える方法はさまざまあります。自分の考えを簡潔に伝えるには、どのようなフレークワークが有効なのでしょうか。ここではエレベータートークに役立つ、ふたつのフレームワークについて解説します。
- PREP法
- SDS法
①PREP法
結論を先に述べ、そのあとに理由を伝えるメソッドのこと。以下4つのポイントから構成されています。
- P(Point、結論):まず結論から伝えますと~です
- R(Reason、理由):理由としては~です
- E(Example、具体例):具体的には~の例があります
- P(Point、結論):したがって結論は~です
②SDS法
大枠から詳細を話し、最後に概要をまとめるフレームワークのこと。Summary(概要)、Details(詳細)、Summary(概要)の頭文字を取ってSDS法と呼ばれています。
- S(Summary、概要):今日は~について紹介します
- D(Details、詳細):このツールには~の役割があり、~のように使えます
- S(Summary、概要):特に~の人におすすめのツールです