「エンプロイアビリティ」とは被雇用者が持つ能力のことです。近年、転職が多く行われるようになったためエンプロイアビリティが注目されるようになりました。今回はエンプロイアビリティについて解説します。
目次
1.エンプロイアビリティとは?
継続した雇用を得るための能力で、ひとつを指すのではなく個々の「雇用される能力」「継続して雇用される能力」「環境の変化に合わせて異動やほかの企業への転職ができる能力」の3つが含まれているのです。
エンプロイアビリティの意味
エンプロイアビリティは「Employ(雇用する)」と「Ability(能力)」を合わせた造語です。転職が当たり前になった近年、人材の価値を見極める指標のひとつとされます。
エンプロイアビリティが高い人材は自社のさまざまな部門で活躍が期待されるため、企業もこのような人の採用や育成に前向きとなるのです。
2.エンプロイアビリティの種類
エンプロイアビリティはスキルによって、「絶対的エンプロイアビリティ」「相対的エンプロイアビリティ」の2つにわかれます。また組織と労働者における種類では、「内的エンプロイアビリティ」と「外的エンプロイアビリティ」の2つがあるのです。
それぞれについて解説しましょう。
絶対的エンプロイアビリティ
時代の流れや流行りに左右されずに安定して特定の仕事を獲得できるスキルのこと。たとえば医療に関するスキルがそのひとつです。どれだけ時代が移り変わっても景気が変動しても医療が必要なくなる状況はありません。
したがって医者や看護師などの医療系の資格を持っている人は、絶対的エンプロイアビリティを持っているといえます。
相対的エンプロイアビリティ
時代の流れやそのときの流行で需要や必要性が左右されるスキルのこと。たとえば以前、電話交換手という仕事がありました。通話先へ手動で電話回線を接続する必要があったためです。
しかし回線の接続が自動化できるようになり、電話交換手は大学といった一部を残して不要となりました。相対的エンプロイアビリティは、今は需要があっても技術の進歩によっては今後必要なくなってしまう可能性にあるのです。
内的エンプロイアビリティ
その企業での評価を高めて雇用され続けるスキルのこと。この評価は業績に限らず、ナレッジやノウハウなども含みます。
内的エンプロイアビリティが低い人は企業の中で必要性が薄れていき、最悪の場合はリストラの候補になってしまう場合もあるのです。内的エンプロイアビリティを高めるには、その企業で必要とされる専門知識や経験を習得するとよいでしょう。
外的エンプロイアビリティ
どの企業に行ったとしても通用するスキルのこと。たとえば営業やマネジメントのスキル、汎用性の高い資格などです。コミュニケーションスキルやリーダーシップなども、どの企業に行っても必要とされる外的エンプロイアビリティとなります。
以前は外的エンプロイアビリティを重視する傾向にありました。しかし近年、内的エンプロイアビリティとのバランスを重視する企業が増えているようです。
3.エンプロイアビリティの対象
エンプロイアビリティの対象は、「雇用されていない人」と「雇用されている人」のふたつに分けられます。
雇用されていない人とは、卒業前の学生や長期に渡って失業状態が続いてしまっている人、体に何らかの障害を抱えている人など。このような人々は新しいスキルを取得しなければ、再度雇用してもらうのは難しいでしょう。
雇用されている人でも企業で必要とされるスキルを習得していかなければ評価が下がり、いずれリストラを受けてしまうかもしれません。
4.エンプロイアビリティが注目される背景
終身雇用の時代は終わり、転職が当たり前の時代に突入。それゆえに優秀な人材はどんどん引き抜かれ、優秀な人材の確保は難しくなってきています。そんな背景のなかで注目を集めているのがエンプロイアビリティなのです。
終身雇用制度の崩壊
終身雇用制度の崩壊はエンプロイアビリティの必要性を高めました。一度入社したら定年まで勤められる終身雇用という制度が廃れ、よりよい職場を求めて転職する人が増えたのです。
転職する場合、ほかの企業でも通用するようなスキルを身につけなければなりません。企業側も半永久的な雇用ができなくなるため、他社でも通用するエンプロイアビリティの取得をサポートする傾向にあります。
転職者の増加
転職者が増加したこともエンプロイアビリティが注目される理由です。現在では、個人の働き方と企業のあり方が多様なものになってきました。そのためより自分らしく働ける場所を探して転職者が増加しているのです。
エンプロイアビリティが高い人材は入社後に社内で高い評価を得やすく、終身雇用制度がなくても長期雇用が見込めます。万が一リストラを受けたとしてもエンプロイアビリティが高ければすぐに次の職場が見つけられるでしょう。
人事評価制度への活用
企業にとって必要な能力であるエンプロイアビリティは、人事評価の項目として活用できます。しかしエンプロイアビリティには「協調性」や「積極性」などが含まれており、明確な評価基準を設けるのが難しいのです。
エンプロイアビリティを人事評価制度に組み込む際は、既存の人材評価制度を用いて足りない部分を補う形で組み込むとよいでしょう。
5.厚生労働省の資料におけるエンプロイアビリティの要素
厚生労働省がまとめた資料では、エンプロイアビリティの要素は下記3つとされています。それぞれについて解説しましょう。
- 知識・スキル
- 思考特性・行動特性
- パーソナリティ
①知識・スキル
エンプロイアビリティには、その業務を遂行するために必要な知識やスキルが必要とされます。
たとえばプログラマーであれば、プログラミングの知識やスキルがないと話になりません。営業職であるなら商品を売り込むためのセールストークや商品知識が必要になり、医者であれば医療に関する知識や資格などが不可欠でしょう。
また働く業界の専門知識も含まれます。これらの特定知識やスキルは、客観的にレベルが判断しやすいでしょう。
②思考特性・行動特性
エンプロイアビリティには、思考特性と行動特性、つまりどのように考えて行動するのかといった点も必要となります。たとえば協調性や積極性、コミュニケーション能力や計画力、計画性や柔軟性、交渉力などです。
求められる試行特性や行動特性は職種や、企業の戦略や理念などによって異なるでしょう。たとえば顧客対応が多い職種では柔軟性が重視されるといったものです。
エンプロイアビリティが高いと評価される人は、その企業が望む思考特性と行動特性を持つ人といえます。
③パーソナリティ
パーソナリティつまり個人的な価値観や信念、人柄や性格もエンプロイアビリティの要素です。
たとえば働く動機はパーソナリティが大きく関与します。そのためパーソナリティは、仕事に対するモチベーションやパフォーマンスに大きな影響を与えやすいのです。
またパーソナリティに含まれる性格や価値観を数値化して判断するのは難しいもの。人事評価制度にエンプロイアビリティのパーソナリティを組み込むのは、適切といえません。
6.エンプロイアビリティを高めるメリット
エンプロイアビリティを高めると、どんなメリットが得られるのでしょう。それぞれについて解説します。
- 雇用の継続、転職先の確保がしやすくなる
- 転職などキャリアアップしやすくなる
- ビジネスパーソンとしての方向性を明確にできる
①雇用の継続、転職先の確保がしやすくなる
エンプロイアビリティが高い人材は、働いている企業で一定の評価を得やすくなり、雇用が継続される可能性も高まります。経営が苦しくなって人員整理が始まったても、エンプロイアビリティが高いほどリストラを回避できるでしょう。
転職をする際にもさまざまな企業へ経験やエンプロイアビリティをアピールでき、次の転職先を見つけやすくなります。エンプロイアビリティを高めると、雇用の継続や転職先の確保がしやすくなるのです。
②転職などキャリアアップしやすくなる
転職先の業界や企業が求めるエンプロイアビリティを把握し、獲得あるいは向上できれば、今より好条件のポストに就ける可能性も高まります。
ただし現在働いている企業だけに求められているような狭いエンプロイアビリティを磨くのではなく、ほかの業界や企業でも通用する外的エンプロイアビリティの向上が重要です。
③ビジネスパーソンとしての方向性を明確にできる
求められているスキルや経験を知ると、現状の自分に足りていないスキルや経験もわかります。
また今後自分が目指す、ビジネスパーソンの方向性も見えてくるでしょう。方向性は、自分のキャリア形成や転職などを検討する際にも役立ちます。
7.エンプロイアビリティをチェックシートで確認
いざエンプロイアビリティを意識しようと思っても現在、自分がどのようなエンプロイアビリティなのか、確認は難しいです。そんなとき役立つのが、厚生労働省が用意しているエンプロイアビリティチェックシートです。
エンプロイアビリティチェックシートとは
設問に答えることで、自分のエンプロイアビリティを計れるシートです。厚生労働省のWebサイトにて簡易版と総合版の2パターンが用意されています。
- 簡易版:「責任感」「計画力」「柔軟性」など15の要素について、3段階で評価する構成
- 総合版:簡易版での15の要素について細かい設問が設けられている。たとえばひとつの問いで「はい」を選んだら、さらに状況や行動、結果などを回答。総合版は数値で測りにくい思考特性や行動特性、パーソナリティなどを明確にしやすい
エンプロイアビリティチェックシートの構成要素
エンプロイアビリティチェックシートは、若者に求められる就業能力を整理した下記2つから構成されています。
- 就職基礎能力
- 社会人基礎力
①就職基礎能力
採用をするにあたって相手に求める能力のうち、比較的短期間の訓練で向上できる能力のこと。「責任感」「向上心と探求心」「職業意識と勤労観」の3つです。
責任感と向上心、探求心ではどのような行動が求められているのかをチェックでき、積極性や向上心を持っているかどうかをチェックできます。職業意識と勤労観は、理想の働き方を考え直せる機会になるでしょう。
②社会人基礎力
「前に踏み出す力(アクション)」「考え抜く力(シンキング)」「チームで働く力(チームワーク)」の3分野に分類される12の能力のこと。
主体性や課題発見力、規律性や情況把握力など、ビジネスパーソンとして業務遂行に必要な能力が多数含まれます。チェックシートでは自身の得意不得意な能力に気づけるよう、12の能力について細かい質問が設けられているのです。
8.エンプロイアビリティを高めるためには
先行きが不透明な現代、エンプロイアビリティの向上が必要不可欠。しかしエンプロイアビリティを高めるにはどうすればよいのでしょうか。ここではエンプロイアビリティを高める方法について説明します。
- チェックシートを利用してセルフチェックする
- 周囲の意見を聞く
- 自分のキャリアプランを立てる
- 仕事で習得できるスキルを明確にする
- 市場が求める人材像をつかむ
- 研修を利用して、エンプロイアビリティを向上
①チェックシートを利用してセルフチェックする
まずは先ほど説明したエンプロイアビリティチェックシートを使ってセルフチェックしましょう。いわゆるスキルの棚卸で、今までの自分の振り返り、現在の自分に足りない能力を把握します。
できるだけ客観的な視点を持ちつつ、エンプロイアビリティチェックシートを作成しましょう。作成後も定期的にチェックシートを使って振り返ります。
②周囲の意見を聞く
職場の同僚や上司など自分を客観的に見てもらえる人へ、自分に不足しているエンプロイアビリティについて聞いてみましょう。ただしエンプロイアビリティを高める理由が転職の場合、複数のキャリアを持っている人や転職エージェントに聞くのがおすすめです。
③自分のキャリアプランを立てる
目の前の仕事をこなすだけでは、今後どうしていきたいか、という思考に進みにくいもの。キャリアプランを考えられれば、「今、自分にどのようなスキルがあるのか」「キャリアに到達するにはどのようなスキルが必要か」見ていけます。
④仕事で習得できるスキルを明確にする
今の仕事をとおして得られるスキルが高まると、相乗的に内的エンプロイアビリティが高まる可能性も高いです。一見何も得られるスキルがないように見えても、物事の見方を変えると、得られるスキルが見えてくるでしょう。
⑤市場が求める人材像をつかむ
いくら高いスキルを獲得しても、その市場でまったく求められていないスキルを獲得していては、評価や雇用につながりにくいです。自社あるいは転職先の雇用市場を確認し、どのようなスキルや経験を持った人物が求められているのか、把握してみましょう。
⑥研修を利用して、エンプロイアビリティを向上
社内の研修に参加すれば自社で必要とされる内的エンプロイアビリティの向上につながります。社外の研修に参加すれば汎用的な外的エンプロイアビリティが習得できるでしょう。ポイントは「自分にとって必要なスキルが獲得できる研修を選ぶ」点です。