エンプロイージャーニーとは、勤務する際に社員が直面する一連の体験や経験のことです。今回はエンプロイージャーニーマップ作成の流れや注意点などについて、解説します。
目次
1.エンプロイージャーニーとは?
エンプロイージャーニーとは、社員が入社から退職までにさまざまな経験をとおして成長していく道のりのこと。
「エンプロイー(employee)」は社員、「ジャーニー(journey)」は旅の意味を持ち、採用から退職までの一連のプロセスを旅になぞらえているのです。なお「マップ(map)」とは地図、つまり図式化することを意味します。
エンプロイーエクスペリエンスとは?
社員が受ける企業内での経験や体験のこと。業務やそれにともなうスキルの習得、人間関係やキャリア形成など社内で発生したあらゆる体験を経験値として捉えます。
現代のビジネスでは、社員にも価値のある経験をしてもらう事が重要視されています。ただ賃金や待遇を用意するのではなく、自社で働く事そのものから経験値を重ねて意義を見出し、より人生を充実させたいと考える人が増えてきたからです。
エンプロイーエクスペリエンスが向上すると、社員のモチベーション向上や働きがいの発見などにつながります。
2.エンプロイージャーニーマップとは?
企業と出会った社員が入社から昇進、退職したのちOBやOGとして過ごすまでの時間の流れを可視化したもの。その都度起きる出来事だけでなく、そのときどのような感情や考えを抱いたのか、まで記載します。
たとえば人事部がエンプロイージャーニーマップを作成する場合を例に見てみましょう。
その際、複数のペルソナ(仮の社員像)を用意して入社や配属、業務や評価、退社といった項目を作ります。そして都度起きる出来事と社員の心の動きをマップへ書き込むのです。マップをもとに必要となる施策を決めて実行していきます。
エンプロイージャーニーマップを作成する目的
大きな目的は、エンプロイーエクスペリエンスの向上です。従来の人事は、「社員を入社から退職までどう管理するか」が目的でした。しかしエンプロイーエクスペリエンスを向上させるには、「現代人が抱く仕事への価値観」を取り込み、社員の視点から組織の在り方を考えなければなりません。
そのためには入社した社員の期待や悩みといった心境や思考、およびそれにともなう行動までを把握し、適切な対策を講じる必要があります。
エンプロイージャーニーマップの作成により、人事がこれまで見落としてきた施策の抜けや漏れを発見できる可能性は高いのです。
エンプロイージャーニーマップを作成するメリット
社員にとって快適な職場作りを目指すための施策や取り組みを、際限なく生み出せる点。社員の要望はすべて叶えられないものの、主要なニーズを捉えて施策を打てます。
エンプロイージャーニーマップをとおして優先すべき重要な課題を分別すれば、ゴールを見失わず、エンプロイーエクスペリエンスを向上させる施策を進められるでしょう。
エンプロイージャーニーマップを考える
エンプロイージャーニーマップについてより深く知るには、社員の視点をもつことが不可欠です。しかし社員は世代によって異なる価値観を有するため、社員が企業へ求めるものも同じではありません。
ここではエンプロイーエクスペリエンスを中心に、エンプロイージャーニーマップを考える際のポイントを解説します。
EXにも影響を与えるエンプロイージャーニーマップ
社員が求めるEX(エンプロイーエクスペリエンス)は世代ごとに異なります。そのため世代の価値観に寄り添ったエンプロイージャーニーマップが不可欠です。
昨今、1980年から1990年代後半までに生まれたミレニアル世代が組織の中核を担い、Z世代と呼ばれる2000年代生まれが新社会人となっています。この世代は、従来の年功序列や終身雇用といった制度になじみがありません。
生まれついてデジタル機器と触れあっている世代は、企業に対してもデジタル化された経験価値を求めるという傾向が見られます。
企業はこのような働き手の意識や価値観の変化を汲み取り、彼らの指向性や感性を生かして能力を最大限発揮できる職場環境を構築する必要があるのです。
エンプロイージャーニーマップとエンプロイーエクスペリエンス
EX(エンプロイーエクスペリエンス)は社員が企業で遭遇する一連の出来事や経験を指し、エンプロイージャーニーマップにはそのなかから入社や配置転換、評価といった主要な項目を記載するのです。
より質の高い経験を得られた社員は成長が進み、モチベーションやエンゲージメントが向上します。さらに業務の生産性や効率なども高まり、ひいては自社の発展や飛躍なども期待できるのです。
そのための第一歩として、自社の社員が求めるEXを可視化する必要があります。そこでEXを図式化した、エンプロイージャーニーマップを作成するのです。
類似する言葉、カスタマージャーニーマップとは
カスタマージャーニーマップとは、社員ではなく顧客の目線に立って作成するマップのこと。「カスタマー(Customer)」は顧客という意味を持つ英語です。
顧客が抱く心理を時系列に起こして可視化することを目的とし、消費者の具体的な購入行動や正確なニーズを探るために活用されます。
昨今は消費者の行動パターンや心理、ニーズなどが多様化しているため、マーケティングや製品開発でも多くの行動パターンを考慮しなくてはなりません。
カスタマージャーニーでは、さまざまな属性(年代や性別、地域や職種などの顧客情報)をもとに、複数のペルソナが設定されます。
3.エンプロイージャーニーマップの作成の流れ
より高い精度のエンプロイージャーニーマップを作成するには、社員の価値観に合わせる必要があります。そのため「社員へのヒアリング」から開始するのが一般的です。ここではエンプロイージャーニーマップを作成する流れについて、解説します。
- 社員へのヒアリングの実施
- ヒアリングをもとにしたペルソナの設定
- フェーズの作成
- アクションプランの策定
①社員へのヒアリングの実施
エンプロイージャーニーマップを作成するためには社員が具体的に何に困り、どのような状況に置かれていて、どう感じているかをヒアリングが必要です。
たとえば社内研修に関するマップを作るなら、「社員が研修についてどう思っているのか」「どのようなスキルや学習に興味があるのか」について、ヒアリングできる質問を用意しましょう。
職種やポジション、年代や性別など、パラメーターが偏らないようヒアリングする対象者を選ぶのもポイントです。
②ヒアリングをもとにしたペルソナの設定
ヒアリングで得た情報を分析し、ターゲットとした社員が抱える課題や問題、感情や行動パターンを細かく分類し、ペルソナ(社員像)を設定します。ポイント派年齢や性別、家族構成や趣味嗜好などの要素を細かく決めていき、リアルなペルソナを作り上げること。
その際、理想の社員像を追い求めすぎないようにしましょう。企業に都合のよい理想像を作ってしまうと現実の社員とかけ離れ、ペルソナの意味が薄れてしまうからです。
③フェーズの作成
ペルソナを設定したら、具体的なフェーズを設置してマップを作り込みます。ここでいうフェーズとは、社員が企業で体験する一連の流れを構成する出来事のこと。たとえば入社や配属、育成や業務、転職や退職などです。
フェーズを設置し各フェーズにてペルソナが直面する壁や問題、そこで生じる思考や感情、企業に対する期待などをイメージしてそれぞれを書き込んでいきます。ポイントは具体的なセリフや行動を記載していくことです。
④アクションプランの策定
これまで作成してきたエンプロイージャーニーマップをもとに、アクションプランに落とし込みます。
たとえば自分の成長やキャリアアップに対するビジョンを描いている新入社員は、「キャリアパスの条件やルートが不透明だ」と不安に思っている可能性も高いです。このとき挙げられるアクションプランは、キャリアパスの具体的な条件の提示や可視化など。
何をどうすれば評価され昇進や昇給するのかといった明確な基準を設けると、社員の不安や迷いが減り、エンプロイーエクスペリエンスの向上につながります。
4.エンプロイージャーニーマップの注意点とポイント
エンプロイージャーニーマップは職場環境を良くするために有効な手法です。しかしやみくもに作成しても効果は見込めません。ゴールはあくまでもエンプロイーエクスペリエンスの向上です。手段が目的にすりかわらないよう注意しましょう。
ここではエンプロイージャーニーマップ作成における注意点とポイントを解説します。
エンプロイージャーニーマップの作成における注意点
より精度と効果の高いエンプロイージャーニーマップを作成する際、何に注意すればよいのでしょう。目的がずれてしまうと、エンプロイーエクスペリエンスが十分に与えられない恐れもあります。それぞれについて解説しましょう。
- 目標やビジョン、課題を明確にする
- 社員主体の体制を構築する
- 社内に周知する
①目標やビジョン、課題を明確にする
エンプロイージャーニーマップを作成する前に、自社における具体的な目標や課題、将来的な組織の像などを明確化しましょう。たとえば「離職率が高いので定着率を上げたい」や「社員の能力を把握し、適材適所に配置したい」などです。
目標や課題などを明確にしないまま進めると、的確な施策やアクションを定められず、良質なエンプロイーエクスペリエンスの付与につながりません。
②社員主体の体制を構築する
社員が主体となって働ける環境を構築するとモチベーションや働きがいにつながり、エンプロイーエクスペリエンスが向上しやすくなります。
そのためにも、「業務を通して自分はどうなりたいか」や「各体験のフェーズにおいて企業にどうしてもらいたいか」など、社員の希望やニーズ、期待を把握できるような仕組みを取り入れましょう。
③社内に周知する
この企業で働くとどのような成長が見込めるか、欲するキャリア形成につながるかなどを、社員全員へ周知する必要があります。
社員が主体となって働ける環境を整えたとしても、社員が価値や意義、メリットなどを感じなければエンプロイーエクスペリエンスにつながらないからです。
漏れなく周知する方法として、「社員と上司、役員などが交流できる場を設ける」「社内報を利用して伝える」「チャットで気軽にコミュニケーションを取る」などが挙げられます。
エンプロイージャーニーマップによる施策実施におけるポイント
エンプロイージャーニーマップを作成したら、施策を決めて実行します。その際、何に気をつければよいのか、見ていきましょう。普遍性のある施策ばかりですので、改善のヒントとなるはずです。
- ペルソナへの即時アクセスができるか
- 個々の社員へのアプローチができるか
①ペルソナへの即時アクセスができるか
エンプロイージャーニーマップを活用していく際、社員が直面する各フェーズにて、即時に状況を確認できる仕組みが必要でしょう。各フェーズで新たな課題や問題が生じる場合も多く、それらに対して必要な情報を収集しなければならないからです。
チャットツールやモバイル端末などを導入すると、社員と日常的にやりとりできる仕組みを作れます。
②個々の社員へのアプローチができるか
エンプロイーエクスペリエンスの向上には、個々の社員へアプローチする仕組み作りも重要です。
個々の社員は価値観やビジョン、キャリアプランなども異なります。よってそれぞれを成長させるには個人の志向性や欲求、現段階のスキル、過去の経歴などを踏まえたうえで、最適な研修プログラムを提供する必要があるからです。