エンプロイーサクセスとは、「従業員の成功」を意味する概念または取り組みのこと。この記事ではエンプロイーサクセスのメリットや導入のポイントについて、解説します。
目次
1.エンプロイーサクセスとは?
エンプロイーサクセスとは、その会社に勤める従業員の成功やキャリアアップを実現するための取り組み、および考え方のこと。成功には報酬や出世だけでなく、従業員一人ひとりの理想や価値観に合わせた「実現したい自分」なども含まれるのです。
従業員が充実感をもって仕事に取り組めれば、人材流失の回避や会社の持続的成長にもつながるでしょう。そのため近年では積極的に、エンプロイーサクセスへ取り組む会社も増加しています。
エンプロイーとは?
「Employee(エンプロイー)」は「従業員」という意味です。この言葉に「成功」を意味する「Success(サクセス)」を組み合わせたものがエンプロイーサクセスです。なお「雇用者」は「Employer(エンプロイヤー)」と表します。
2.なぜ今エンプロイーサクセスが注目されているのか
近年、エンプロイーサクセスが注目を集め、多くの会社が取り入れ始めています。その理由は、会社の持続的成長や雇用維持、従業員が持つ価値観の多様化など、さまざまな効果が得られるからです。ここでは4つの理由について解説します。
- 社会を動かす働き方改革の影響
- コミットメントの重要性の指摘
- 価値観の多様化
- 他社との差別化
①社会を動かす働き方改革の影響
エンプロイーサクセスは働き方改革のなかで、重要な位置を占めています。国が進める働き方改革とは、従業員が心身ともに健康に働ける職場環境を作っていく取り組み。
一方エンプロイーサクセスは「従業員が充実感を持って働ける職場」を目指す取り組みです。つまりエンプロイーサクセスは、国が進める働き方改革とリンクします。
会社が安心して働ける環境や仕組み、適切なキャリアパスを整備すれば、従業員は心身ともに健康かつ満足感を持って働けるようになるでしょう。
②コミットメントの重要性の指摘
エンプロイーサクセスが充実している会社では、従業員の会社に対するコミットメントが高い傾向にあります。会社に対するコミットメントとは「この会社が好き」や「この会社で働けて幸せ」「この組織の一員でいたい」といった気持ちのこと。
エンプロイーサクセスが実現されると、会社に対する従業員のコミットメントが高まります。その結果、従業員の離職を防止する効果が期待できるのです。
また会社への帰属意識が強い従業員ほど仕事に意欲的になり、高いパフォーマンスを発揮する傾向も見られます。
コミットメントとは? ビジネスでの意味や使い方をわかりやすく
コミットメントとは公約、責任を持った約束などの意味があります。ビジネスシーンでも多用されるコミットメントについて深く掘り下げていきます。
1.コミットメントとは?
コミットメントとは、責任のある約束...
③価値観の多様化
労働者の価値観の多様化してきた点も、エンプロイーサクセスが注目を集めている理由です。
近年、労働者は自身の将来性やビジョンを思い描き、それを叶えられる会社を選ぶようになりました。会社は「人材を選ぶ側」であると同時に「求職者から選ばれる側」でもあるのです。
そのため「この会社なら自分の夢を実現できそう」や「こんな会社で働きたい」という気持ちにさせる環境構築の一環として、エンプロイーサクセスへの取り組みが進められているのです。
④他社との差別化
他社と差別化を図るため、エンプロイーサクセスを行う会社も見られます。エンプロイーサクセスによってその会社にしかない風土や文化を作り出せれば、独自性の高い商品や顧客体験の提供にもつながるからです。
同じようなサービスや商品があふれている昨今、いかに独自性のあるものを生み出すかは会社にとって重要な課題のひとつ。独自性と自社にしかできない顧客体験を生み出す方法として、エンプロイーサクセスが注目されています。
3.エンプロイーサクセスを実現して得られるメリット
エンプロイーサクセスを取り入れると、従業員のエンゲージメント向上や離職率の低下、他社との差別化やコミュニケーションの円滑化などさまざまなメリットが期待できます。それぞれについて解説しましょう。
- 従業員エンゲージメントの向上
- 円滑なコミュニケーションの実現
- ミスマッチの回避
- 業績向上
- 採用力強化と採用コストの削減
①従業員エンゲージメントの向上
エンプロイーサクセスに取り組み、従業員が働きやすい環境や正当な評価を得られる職場環境を整備すると、「従業員エンゲージメント」の向上に役立ちます。
従業員エンゲージメントとは、「従業員の会社に対する愛着」や「従業員が会社に貢献したいと思う姿勢」のこと。エンプロイーサクセスを得られた従業員は、従業員エンゲージメントが上昇し、モチベーションやパフォーマンスの向上、離職の防止などにつながるのです。従業員エンゲージメントに、目的や風土などのほかに、待遇が影響します。
②円滑なコミュニケーションの実現
エンプロイーサクセスで従業員エンゲージメントを高めると、コミュニケーションが円滑になります。従業員が心身ともに健康で充実感を持って働けていれば、人間関係を良好に保ちやすくなるからです。
従業員エンゲージメントが上がると意欲や向上心なども高まるので、課題解決のためのコミュニケーションも活性化するでしょう。
経営層と従業員、上司と部下、営業部と商品開発部など役職間や部署間を超えたコミュニケーションが円滑になれば、会社全体の作業効率や生産性の向上にもつながります。
③ミスマッチの回避
エンプロイーサクセスによって、会社と従業員のミスマッチを解消できます。従業員が会社を辞めたいと思う理由のひとつとして挙げられるのが、従業員の考え方と会社の考え方のミスマッチ。
現在の職場や待遇に対する不満、キャリアアップへの不安などから「この会社にいても仕方ない」と思われると、離職率が高くなります。従業員とのミスマッチを解消するには、エンプロイーサクセスによる職場環境の整備が効果的でしょう。
④業績向上
業績向上には、エンプロイーサクセスと従業員エンゲージメントの向上が欠かせません。
従業員一人ひとりのモチベーションを高めるには「この会社で働きたい」や「この会社に貢献したい」という従業員エンゲージメントが必要であり、従業員エンゲージメントを高めるのに有効な方法が、エンプロイーサクセスだからです。
従業員のモチベーションはクオリティの高い商品やサービス、優れた顧客体験などを生み出します。従業員一人ひとりのモチベーションが高まれば組織全体も活発に動くでしょう。それにより生産性や業務効率が向上し、業績アップへと結びつくのです。
⑤採用力強化と採用コストの削減
エンプロイーサクセスは、「リファラル採用(自社の従業員が知り合いを人材として紹介する採用方式)」の促進や採用力の強化につながります。求人サイトでの募集や会社説明会が不要なため、採用コストを削減可能です。
しかし従業員からの紹介を受けるには、エンプロイーサクセスで従業員の信頼やエンケージメントを向上させる必要があります。
また近年、求職者も多様な価値観をもって職場を探しているのです。エンプロイーサクセスで「ほかの会社にはない独自の職場環境」を強調すると、一般の求職者に対してもアピールできるでしょう。
4.エンプロイーサクセスの実現
エンプロイーサクセスを会社で実現して高い効果を得るには、実施のステップと、従業員のスキルアップを理解しておく必要があります。ここではエンプロイーサクセスの実現に欠かせないポイント3つと3つのスキルについて、解説しましょう。
エンプロイーサクセスを実現させるための3つのステップ
エンプロイーサクセスをよりスムーズかつ効果的に実現させるには、何が必要なのでしょうか。下記3つのステップについて解説します。
- 成功体験の検証と言語化
- エンゲージメントサーベイ
- 継続的な取り組みの実施
①成功体験の検証と言語化
「何をもって従業員の成功とみなすのか」や「どうすれば従業員の成功体験を実現できるか」という点を明確に定義しておきましょう。
これらは個々の従業員によって異なるため、コミュニケーションツールや面談などをとおして、おのおのが思い描く成功を把握しなければなりません。
また従業員の成功や満足度を重要視するといっても、それが会社のプラスになることが前提です。そのため会社のビジョンや経営方針をしっかり示し、その枠組みのなかで従業員の成功に結びつける必要があります。
②エンゲージメントサーベイ
エンゲージメントサーベイ(調査によって従業員エンゲージメントを数量化すること)を実施し、会社と従業員の信頼関係を可視化する必要があります。
目的は、可視化したデータから導き出された課題を解決し、従業員のエンゲージメントを高めること。たとえばまずはアンケートで一斉調査を行い、その結果からエンゲージメントサーベイや従業員の本音を把握したうえで面談を行います。
③継続的な取り組みの実施
エンプロイーサクセスにおける一連のプロセスを継続できる体制を整えます。
具体的に必要なのは「従業員の成功体験を言語化できる」「数量化した従業員エンゲージメントをもとに具体的な施策を打ち出す」「結果の収集やフィードバックを行う」仕組みです。
またエンプロイーサクセスでは、各部署の上司やマネージャーの力量が問われます。なぜならエンプロイーサクセスを取り回すのはこれらの役職者だからです。そのため施策を継続的に実施するには、役職者へのマネージャーへの教育も欠かせません。
エンプロイーサクセスに不可欠な3つのスキル
従業員のキャリアプランやビジョンを叶え、モチベーションや成果を高めるには、従業員のスキルアップが必要です。社内でスキルの体系化を行い、現在の従業員の能力に合わせた施策を取り入れなければなりません。
ここからはエンプロイーサクセスの実現に必要なスキルを説明します。
- ヒューマンスキル
- テクニカルスキル
- コンセプチュアルスキル
①ヒューマンスキル
人間関係を良好に保つために必要となる技術や能力のこと。たとえば以下のスキルです。
- 傾聴力
- 発信力
- 交渉力
- プレゼンテーション能力
- コーチング能力
- ティーチング能力
- リーダーシップ
ヒューマンスキルが欠けていれば、取引先とのコミュニケーションはもちろん、社内における人間関係も上手くいきません。社内調整役やリーダーになる人ならば、なおさらヒューマンスキルは必須です。
②テクニカルスキル
業務遂行のために必要となる専門的知識や技術的能力のこと。どのような職種であれ、業務遂行にはテクニカルスキルが必要です。具体的には、以下のスキルが挙げられます。
- 事務職:事務処理能力、パソコン操作能力、資料作成能力など
- 接客職:接客スキル、サービス説明能力、観察力など
テクニカルスキルの習得を支援する仕組みを作る際は、各部署や職務によって求められるテクニカルスキルをあらかじめ洗い出しておきましょう。
③コンセプチュアルスキル
多くの知識や情報を概念化して物事の本質を把握する能力のこと。たとえば以下のスキルです。
- 論理的思考
- 多面的視野
- 柔軟性
- 応用力
- 洞察力
- 先見性
コンセプチュアルスキルに秀でた人間が先頭に立ってマネジメントを行うと、経営課題や業務効率化などに対して適切なアクションを行えるため、個人や組織の力が最大限に高まります。とりわけ管理職や経営者層などトップマネジメントにて重視されるスキルです。
5.エンプロイーサクセスの実現のために押さえておきたいポイント
エンプロイーサクセスをスムーズに実現するには、前述した3つのステップや3つのスキルのほかに、押さえておくべき3つのポイントがあります。それぞれについて解説しましょう。
- 従業員の成功体験を大切にする企業文化を作る
- 経験データの蓄積
- 情報開示
①従業員の成功体験を大切にする企業文化を作る
従業員が「この会社は成功を後押ししてくれる」と思えるような、会社文化を作ることが大切です。従業員の働きが正当に評価され、成功を称賛する会社文化や風土は従業員の心の充実度や意欲を高めます。
また経営層は従業員の成功を大切にしたうえで「従業員のロイヤルティの高さ」にも注意しなければなりません。従業員のロイヤルティの高さは、そのまま競争優位性につながるからです。
従業員がロイヤルティの高いサービスを生み出すには成果を評価し、成功を後押しする会社文化を浸透させる必要があります。
②経験データの蓄積
エンプロイーサクセスの実現を目指すには主観によらず「データを元にして施策を実行すること」が大切です。主観は偏りやすいため、人によっては大きく判断が変わってしまうでしょう。
数値化したデータやアンケートなどをもとに客観的に判断したうえで施策を決定する仕組みを、構築しましょう。
③情報開示
従業員が会社に対して不信感を抱かないよう、必要な情報はすべてオープンにするのもポイントです。エンプロイーサクセスの実現には、会社と従業員との信頼関係がなければなりません。
情報にはエンプロイーサクセス関連だけでなく、商品やサービスの開発状況や、経営目標と実績などの重要な情報も含まれます。情報を公開すると、従業員が新たな目標や自分がやるべきことを発見できるため、エンプロイーサクセスの継続につながるのです。