雇用調整助成金とは、企業が事業を縮小した場合、従業員の雇用を維持しようと努めた際に支給される助成金のこと。そんな雇用調整助成金について、定義をはじめ効果や特徴などについて説明します。
目次
1.雇用調整助成金とは?
雇用調整助成金とは、景気の移り変わりやさまざまな経済上の理由から事業活動の縮小を余儀なくされた企業が、一時的な休業、教育訓練などで雇用調整をして、従業員の雇用を維持した際に支給される助成金のこと。
雇用調整助成金の受給にあたっては定められた要件を満たさなくてはなりません。
2.雇用調整助成金による効果
独立行政法人労働政策研究・研修機構が実施した調査によると、2008年後半に生じたリーマンショックは、日本経済に急激な生産収縮など多大な影響を及ぼしましたが、企業は雇用調整助成金の全面的な活用によって支えられたそうです。
この雇用調整助成金による効果は、政府の重要な政策手段として大いに意義深いものだと発表されました。
3.雇用調整助成金の特徴
雇用調整助成金の特徴について詳しく見ていきましょう。
支給の対象
雇用調整助成金の支給の対象となるのは、雇用保険を適用している企業の被保険者となっている従業員です。
ただし、事業主の休業などで実施単位となる判定基礎期間(給与締め切り期間)の初日前日あるいは出向開始日の前日に、同じ事業主に引き続き被保険者として雇用された期間が6カ月未満となる従業員は、雇用調整助成金の対象とならないと定められています。
支給の要件
雇用調整助成金の主な支給要件は以下の通りです。
- 売上高、または生産量などの企業の事業活動を示す指標が最近3カ月間の月平均値が前年同期と比較して10%以上減少している
- 雇用保険被保険者数、または受け入れている派遣労働者数の最近3カ月間の月平均値の雇用指標が前年同期と比較して、中小企業の場合は10%超えでかつ4人以上、大企業の場合は5%超えでかつ6人以上増加していない
- 実施する休業や出向が労使協定に基づいている
- 過去に雇用調整助成金、あるいは中小企業緊急雇用安定助成金の支給を受けたことがある企業が新たに対象期間を設ける場合、直前の対象期間満了の日付の翌日から一年を超えている
助成率と支給金額
休業を行った場合の休業手当、あるいは教育訓練を実施した場合の賃金相当額、出向を行った場合の出向元事業主の負担額に対する助成率は、大企業で2分の1、中小企業で3分の2となっています(対象従業員1人当たりの上限は8,335円)。
また企業が従業員に教育訓練を実施した際の加算額は、1人当たり1日1,200円。休業や教育訓練のケースでは、その初日から1年の間に最大100日分、3年の間に最大150日分が支給されます。
不支給となる要件
虚偽の支給申請を行った場合、当然ながら雇用調整助成金は支給されません。また、事業所や組織が暴力団であれば不支給となります。不正受給が判明した場合は、不正が発覚した最初の判定基礎期間以降に支給された助成金を返還しなくてはなりません。
この不正受給防止対策として、都道府県労働局では不正受給が重大で悪質なケースであると認められる場合、ホームページ上で事業主の名称、代表者氏名、事業所の名称、所在地、事業概要などの内容を公表するとしています。
特に悪質な不正受給の場合は、捜査機関に刑事告訴などを行うと発表しているのです。
4.雇用調整助成金と雇用調整
事業活動の縮小などで従業員の雇用維持を図る際、企業は従業員に対して「休業」「教育訓練」「出向」のいずれかの措置を計画しなくてはならないのです。
また事前に、事業所を管轄する労働局かハローワークへ届出を提出することが求められます。
休業
休業によって低下した生産量が、短期間で回復すると見込まれる場合に実施する措置です。休業の際、事前準備が容易なため、生産量の変動に対応する場合や、比較的短期間での回復が予想できる場合に実施するケースが多く見られます。
従業員が所定労働日に仕事をする意思と能力があるにもかかわらず、業務にあたることが不可能な状態を指すため、ストライキなどといった仕事を行う意思がない、疾病休暇のように労働能力を失っている場合などは支給対象になりません。
教育訓練
企業が実施する教育訓練は雇用調整助成金の支給対象となります。しかしこれは、職業や業務への知識や技術の向上を目的とする研修や訓練であることが条件です。
「職業や業務への知識や技術の向上」とは、従業員がその時点で就いている職業に関わるものだけに限らず、その職業に結び付くような技術や知識の向上に役立つものも含みます。そのほか、企業活動の縮小による部署や配置転換に必要な訓練も該当するのです。
一方で企業が定めている就業規則によって行われる教育訓練や、従業員の転職や再就職を目的としたものは支給対象となりません。
出向
出向は、従業員がその企業の従業員という立場を維持しながら、他の雇用主の事業所で業務を行うこと。将来出向元企業に戻るという前提で、一度出向元である企業を退職して、出向先企業で業務を行うケースも含まれます。
一方で資本的な観点や経済的な結び付きから判断してその独立性が認定されない企業間の出向はいわゆる人事異動と変わらないため、雇用調整助成金の支給対象にはなりません。
出向では、「出向の対象となる従業員の同意を得る」「出向先企業での勤務条件などを明瞭にする」など雇用条件や環境整備の実施が企業に求められています。
5.雇用調整助成金のメリット
それでは雇用調整助成金にはどのようなメリットがあるのでしょうか?詳しく見ていきましょう。
従業員満足度の向上
景気の変動や産業構造の急激な変化などに伴う経済状況において、企業が事業活動の縮小を余儀なくされることは珍しくありません。
通常解雇などによる人員整理が一般的なケースとして考えられますが、企業が雇用調整助成金を利用するとできるだけ雇用を維持する方向となるため、従業員満足度も向上すると考えられます。
また従業員は教育訓練を受けることもできるため、知識や技術の向上も見込めるでしょう。
経営面で助けとなる
企業が事業活動の縮小を余儀なくされている状況でも、従業員の解雇なく休業や教育訓練、出向という手段によって雇用の維持に取り組めば、それまで行ってきた企業活動を中長期的な発展へと結び付けられます。
企業側にとっては経営面で大きな助けとなり、従業員側にとっては引き続き勤労意欲が向上するのです。さらに景気回復後の経営や研究開発への効率性が高まる可能性もあります。
6.雇用調整助成金のデメリット、問題点、課題
一方で雇用調整助成金にはデメリットや問題点、課題などもあると考えられているのです。
人によっては対象とならない
労働局では雇用調整助成金の支給対象を雇用保険適用事業所、または雇用保険被保険者と定めています。つまり、雇用保険の被保険者でなければ支給されないため、人によっては対象とならないのです。
日本では、事業主や企業に従業員を雇用保険に加入させることを義務付けています。しかしそれでもなお、雇用保険の加入手続きを怠っている企業も少なくありません。転職や就職活動時、企業が雇用保険制度を利用しているかは必ず確認しましょう。
不正受給の可能性
苦しい状況下でも事業を維持しようとする企業にとって、雇用調整助成金は大変有効な制度です。しかし一方でこの制度を不正に利用するケースが増加傾向にあります。
たとえば提出する書類を偽装したり、従業員はいつも通り業務を行っているにもかかわらず「休業」に見せかけ、雇用調整助成金を不正に受給したりする企業が存在するのです。2012年度には51億円の不正受給が報告されています。
7.雇用調整助成金を支給する流れ、ステップ
ここでは、実際に雇用調整助成金を受給する流れやステップについて説明していきましょう。
- 計画の作成
- 計画届の提出
- 雇用調整を実施
- 支給申請
- 審査と支給
①計画の作成
まず雇用調整を行う際の方法を検討します。雇用調整助成金を受給する要件として、休業、教育訓練、出向の3つがあり、どの手段を選ぶのか決定します。
- 休業の場合:事業計画から判断して期間や部門、人員数などを考察する
- 教育訓練の場合:具体的なカリキュラムの立案や訓練の対象となる従業員、またその目標などを決定する
- 出向の場合:対象となる出向者や受け入れ先などを選定し、それぞれが決定したら書類を作成する
②計画届の提出
計画が決定した後は、休業等実施計画届を都道府県労働局あるいはハローワークに提出します。
初めて「休業」「教育訓練」の提出を行う場合、「雇用調整実施事業所の事業活動の状況に関する申出書」「雇用調整実施事業所の雇用指標の状況に関する申出書」を合わせて、雇用調整をスタートする日の約2週間前までに届け出ます。
「出向」の場合、過去の提出に限らず、「雇用調整実施事業所の事業活動の状況に関する申出書」「雇用調整実施事業所の雇用指標の状況に関する申出書」を、出向をスタートする日の約2週間前までに届け出なくてはなりません。
③雇用調整を実施
都道府県労働局かハローワークに休業等実施計画届を提出した後は、雇用調整の実施です。その際、「休業協定書」を労働組合などと締結する場合もあり、この「休業協定書」には下記の事項の記載が求められます。
- 「休業」「教育訓練」を行う時期や日数、時間数
- 「休業」「教育訓練」の対象を予定する従業員や人数
- 雇用調整を実施する企業が行う教育訓練の主体
- 出向先の企業の名称や所在地、事業の種類
- 出向を実施する具体的な時期や期間
- 出向従業員の人数
- 出向の期間や終了後の処遇
④支給申請
実施した雇用調整に応じた支給申請書と必要な書類を都道府県労働局もしくはハローワークに提出します。
雇用調整助成金を受給する企業は、申請書や書類の提出だけでなく、都道府県労働局やハローワークなどから提出を求められた場合、速やかに対応しなくてはなりません。またその際に提出した書類は支給決定日から5年間は保管すると定められているのです。
出向にあたっては、出向先企業への提出が必要となり、休業や教育訓練の場合と同様、提出した書類は支給が決定された日から5年間保管する必要があります。
⑤審査と支給
必要書類が受理された後は、労働局にて審査が行われ、決定となると雇用調整助成金が振り込まれます。申請の手続きは、「雇用調整の計画」→「計画届の提出」→「雇用調整の実施」→「支給申請」→「労働局の審査」→「支給額の振込」という流れになります。
計画届の提出や支給申請の窓口は、都道府県労働局が原則として取り扱いますが、管轄する地域のハローワークで書類の受付を実施するケースもあるので事前に確認しておきましょう。