高年齢者雇用安定法とは、高年齢者の雇用促進を目的とする法律です。ここでは、高年齢者雇用安定法について解説します。
目次
1.高年齢者雇用安定法とは?
高年齢者雇用安定法とは、高年齢者の雇用促進を目的とした法律で、1971年に「中高年齢者等の雇用の促進に関する特別措置法」として制定されました。
1986年に高年齢者雇用安定法という現在の名称に変更されています。
現在、少子高齢化にともなう労働力不足は深刻な社会問題です。同法では、希望する高年齢者を65歳まで雇用するよう企業に義務付けるなど、高齢者が働き続けられる環境整備を事業主に求めています。
改正を重ねる高年齢者雇用安定法
高年齢者雇用安定法は1971年に「中高年齢者等の雇用の促進に関する特別措置法」として制定されて以後、改称や改正を重ねてきた歴史があります。
最近行われた改正は、
- 2012年
- 2020年
の改正です。
2.2012年の高年齢者雇用安定法改正のポイント
2012年の高年齢者雇用安定法改正にはポイントがあります。改正のポイントを抑えることは、法律遵守に欠かせません。ここでは、
- 改正の背景
- 改正に関するみっつのポイント
をあげて、それぞれ簡単にその内容を解説します。
改正の背景
2012年に行われた高年齢者雇用安定法改正の背景には、労働人口の減少があります。『令和2年版高齢社会白書』で、2019年の日本の総人口1億2,617万人のうち、
- 65歳以上の人口は3,589万人
- 65際以上の人口の総人口に占める割合は28.4%
であるという結果が発表されました。
この数字から、
- 少子高齢化が予想以上のスピードで進んでいる
- 労働人口の減少が社会問題となっている
ことがわかります。
高年齢者雇用安定法改正には高齢者を安定して雇用することで、労働力の確保を目指したことが背景にあります。
参考 令和2年版高齢社会白書内閣府改正のポイント
2012年に行われた高年齢者雇用安定法改正のポイントは、3つあります。ここでは、みっつのポイントについて解説します。
高年齢者雇用安定法第8条、60歳未満定年の禁止
2012年に行われた高年齢者雇用安定法改正のひとつ目のポイントは、高年齢者雇用安定法第8条、60歳未満定年の禁止です。
定年とは、
- 就業規則
- 労働契約
が定める退職年齢です。労働者が定年年齢に達すれば、本人の解雇の意思表示もしくは自動的により地位が失われます。
現在、企業は、定年年齢を60歳未満と設定することを禁じられています。定年制度を設ける場合には、定年年齢を60歳以上としなければなりません。
高年齢者雇用安定法第9条、65歳までの雇用確保措置
2013年に行われた高年齢者雇用安定法改正のふたつ目のポイントは、高年齢者雇用安定法第9条、65歳までの雇用確保措置です。
定年を65歳未満に設定している事業主は、以下の高年齢者雇用確保措置のうち、いずれかの措置を講じることが義務付けられています。
- 65歳までの定年引き上げ
- 定年制の廃止
- 再雇用制度、勤務延長制度など、 65歳までの継続雇用制度の導入
なお、継続雇用制度の対象者は希望者全員となっています。
中高年齢者が離職する場合の措置
2014年に行われた高年齢者雇用安定法改正の3つ目のポイントは、中高年齢者が離職する場合の措置です。事業主は、解雇などで離職することが予定されている45歳以上65歳未満の労働者が希望する場合、
- 求人開拓など再就職の援助に必要な再就職援助措置を講じること
- 中高年齢者に対し交付する休職活動支援書の作成
を行わなければなりません。
また、事業主は45歳以上65歳未満の者で5人以上を解雇などで離職させる場合、多数離職届の提出も求められます。
3.2020年の高年齢者雇用安定法改正のポイント
2020年の高年齢者雇用安定法改正のポイントがあります。ここでは、
- 改正の背景
- 対象となる事業主の範囲
- 改正された高年齢者就業確保措置の対象措置
- 70歳までの就業確保措置は努力義務
について解説します。
改正の背景
2020年の高年齢者雇用安定法改正の背景には、
- 少子高齢化
- 年金の支給開始年齢の拡大
があります。
想定を超えて進む少子高齢化により、日本における労働力不足は深刻度を増しています。また、現在は原則65歳から70歳までの選択制となっている年金支給開始年齢が、2022年4月から60から75歳までに拡大。
- 労働力不足を解消する
- 年金支給開始年齢までの生活を安定させる
といった社会の課題を背景として、2020年に高年齢者雇用安定法は改正されました。
対象となる事業主の範囲
2020年の高年齢者雇用安定法改正の対象となる事業主の範囲は、以下のとおり定められています。
- 定年を65歳以上70歳未満に定めている事業主
- 70歳以上まで引き続き雇用する制度を除いた、65歳までの継続雇用制度を導入している事業主
上記に当てはまる事業主は、高年齢者雇用安定法改正の対象となります。
改正された高年齢者就業確保措置の対象措置
改正された高年齢者就業確保措置の対象措置は、5つの措置で構成されていますが、これらは、
- 高年齢者就業確保措置
- 創業支援等措置
といったふたつの措置に大別できます。ここでは大別したふたつの措置について解説します。
高年齢者就業確保措置
改正された高年齢者就業確保措置の対象措置のひとつは、高年齢者就業確保措置です。高年齢者就業確保措置には、
- 70歳までの定年引き上げ
- 定年廃止
- 70歳までの継続雇用制度の導入
の3つの措置があります。
措置導入に際しては、まず労働者に65歳以後の就労希望があるかを把握。そして、労使間で協議し、措置の有無や措置の種類を選択します。
創業支援等措置
改正された高年齢者就業確保措置のもうひとつの対象措置は、創業支援等措置です。創業支援等措置とは、高年齢者が希望するとき、70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度を導入することです。
また、高年齢者が希望するとき、70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度を導入することも創業支援等措置となります。
- 事業主が自ら実施する社会貢献事業
- 事業主が委託、出資などする団体が行う社会貢献事業
70歳までの就業確保措置は努力義務
2020年の高年齢者雇用安定法改正では、70歳までの就業確保措置は努力義務となっています。
努力義務となった理由は、先の改正で65歳までの就業確保措置への対応が終わったばかりの企業に対し、さらに70歳までの就業確保義務化を求めるのは社会的な合意が得られないといった考えによります。
高年齢者雇用安定法はすべての企業に適用される法律です。高年齢者を雇用していない企業であっても、努力義務の対象となる点に注意が必要です。
4.高年齢者就業確保措置と創業支援等措置の留意点をチェック
高年齢者就業確保措置と創業支援等措置の留意点があります。ここでは、高年齢者雇用安定法の理解を深めるために、
- 高年齢者就業確保措置の留意点
- 創業支援等措置の留意点
についていくつかのポイントから簡単に解説します。
高年齢者就業確保措置の留意点
高年齢者就業確保措置には留意点があります。ここでは、みっつの留意点をあげてそれぞれポイント解説します。
高年齢者就業確保措置対象者の基準
高年齢者就業確保措置対象者の基準については、高年齢者就業確保措置が努力義務であることから、対象者を限定して基準を設けられます。
その際、
- 事業主と過半数労働組合などで十分な協議の上、過半数労働組合などの同意を得ることが望ましい
- 労使間の協議の上であっても、法の趣旨や労働関係法令、公序良俗に反するものは認められない
といったことに留意します。
労使で協議するべき事項
労使で協議するべき事項とは、5つの高年齢者就業確保措置のいずれの措置を講ずるかは、
- 労使間の十分な協議
- 高年齢者のニーズ
をもとに講じることが望ましいとされていることです。
措置を複数を選択し、高年齢者の就業機会を確保することも可能です。どの措置を適用するかは、当事者である高年齢者の希望を尊重しなければなりません。
教育研修や災害防止への取り組み
教育研修や災害防止への取り組みとは、高年齢者が定年前の業務と異なる業務に就く場合、
- 研修
- 教育
- 訓練
などを適切に実施することが望ましいことです。具体的な取り組みは、「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」を参考にします。
たとえば、
- 高年齢者が働きやすい職場環境への改善
- 高年齢者の体力や健康の状況の把握
- 高年齢者の就業上の災害防止対策の実施
といった、高年齢者が安心して自らの経験を活かして働くことのできるような積極的な取り組みを実施することが、望ましいと考えられます。
創業支援等措置の留意点
創業支援等措置には留意点があります。ここでは、
- 高年齢者雇用安定法における「社会貢献事業」とは
- 他の団体で創業支援等措置を行う場合
- 所定の手続きが必要
といったみっつの留意点をあげて解説します。
高年齢者雇用安定法における「社会貢献事業」とは
高年齢者雇用安定法における社会貢献事業とは、
- 不特定の者
- 多数の者
の利益に資することを目的とした事業です。
当該事業に該当するか否かは、
- 事業の性質
- 事業の内容
などから個別に判断します。
- 特定宗教の教義を広めるなど、信者の教化育成
- 特定公職の候補者、政党などの推薦、支持、反対
を目的とする事業は社会貢献事業に該当しません。
他の団体で創業支援等措置を行う場合
他の団体で創業支援等措置を行う場合とは、
- 70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入する場合
- 事業主が委託、資金提供などをする団体が社会貢献事業の措置を行う場合
のことです。
このとき、自社や団体間で、当該団体が高年齢者に対し社会貢献活動に従事する機会を提供することを約する契約を締結しなければなりません。また、この契約は、書面を作成することで締結することが望ましいとされています。
所定の手続きが必要
創業支援等措置を実施する場合には、以下のような所定の手続きが必要となります。計画の策定に際しては、12項目の計画記載事項が決まっています。
- 必要事項を盛り込んだ計画を策定する
- 策定した計画について、過半数労働組合などの同意を得る
- 過半数労働組合などの同意を得た計画を労働者に周知する
計画の周知に関しては、下記の方法を採用します。
- 常時、事業所の見やすい場所への掲示、備え付け
- 書面の労働者への交付
- 磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずるものへの記録、かつ、当該事業所に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器の設置
5.2020年の高年齢者雇用安定法改正による企業への影響と対応
2020年の高年齢者雇用安定法改正による企業への影響と対応について、それぞれ簡単にポイントを解説します。
2020年の改正による企業への影響
2020年の改正による企業への影響は、良い影響と悪い影響の両面が考えられます。
良い影響は、
- 優秀な高年齢者の確保と長期的な活躍の場の確保
- 高年齢者が自身に蓄積してきたノウハウの既存社員への確実な伝承
などが考えられます。
悪い影響は、
- 高年齢者の雇用にかかる人件費の捻出
- 高年齢社員の健康管理への配慮
- 既存社員のモチベーションの低下
などが考えられます。企業への影響を良く分析し、制度設計について検討が必要です。
2020年の改正に伴う企業に求められる対応
2020年の改正に伴う企業に求められる対応があります。ここでは、
- 高年齢者雇用状況等報告の準備
- 措置の選択と対象者の設定
- 助成金の活用の検討
にいたった対応についてそれぞれのポイントを解説します。
高年齢者雇用状況等報告の準備
2020年の改正に伴う企業に求められる対応のひとつは、高年齢者雇用状況等報告の準備です。
高年齢者雇用状況等報告書とは、ハローワークへ届け出る書類です。毎年5月下旬~6月初旬に企業に郵送される報告書の書式を使用して、
- 6月1日時点の高年齢者の雇用状況
- 企業の定年年齢
などを記載し、7月15日までに届け出ます。
高年齢者雇用状況報告書の提出が義務付けられているのは、常時雇用する従業員が31人以上の企業です。
措置の選択と対象者の設定
措置の選択と対象者の設定とは、
- 高年齢者就業確保措置導入の有無の選択
- 措置対象者の設定
を行うことです。検討の際は、以下の手順を踏みます。
- 自社の労働者が65歳以上も仕事の継続を希望しているか否かを確認する
- 措置にかかる人件費などの負担を検討する
- 労使間で十分に協議する
- 高年齢者就業確保措置の選択を行う
- 措置の対象者を設定する
措置の対象者の設定に関しては、
- 曖昧な基準
- 差別的な基準
にならないよう注意が必要です。
助成金の活用の検討
助成金の活用の検討とは、高年齢者雇用安定法の対応を進めた事業主に支給される65歳超雇用推進助成金を検討することです。65歳超雇用推進助成金は、
- 65歳超継続雇用促進コース(申請受付は令和3年9月24日で受付停止)
- 高年齢者評価制度等雇用管理改善コース
- 高年齢者無期雇用転換コース
の3つのコースで構成されています。
- 高年齢者の雇用管理制度の整備
- 65歳以上への定年引上げ
などを行う事業主に対して支給されます。