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エンパワーメントとは、「権限を与えること」「自信を与えること」「力を付けてやること」などの意味を持つ英単語です。
しかし、企業経営や障害者福祉、人権など、特定の文脈で用いられる場合、より具体的な意味を含むことがあります。
- 「エンパワーメント」の概念や成り立ち
- 特定の文脈において用いられる場合の意味
- 経営学におけるエンパワーメントの考え方や手法
- 具体例
などについて詳しく解説しましょう。
目次
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1.エンパワーメント/エンパワメントとは?
エンパワーメント(empowerment)とは、社会や組織の一人ひとりが、抑圧されることなく力を付けることで、大きな影響を与えるようになること。自分はもとより、自分を取り巻く環境をコントロールできるように成長を促すことを目指します。ビジネスでは、主に権限委譲の意味合いで使用される言葉です。
もともとは、20世紀にアメリカで起こった市民運動や先住民運動などの公民権運動で提唱された考え方で、1980年代の女性の権利獲得運動を経て広がりました。
地域社会で抑圧されている人々に対し、一個人として重要性を認めるべきではないか、という指摘が発端とされています。
ビジネスでのエンパワーメントの使い方
「エンパワーメント」という単語の本質的な意味は「力を与えること」ですが、ビジネスの場で用いられる場合は、「自律性促進」「権限委譲」「能力開花」などといった意味が多くなっています。
力や権限を与えることが、結果的に個人の自律性を促進したり、能力を開花させたりすることにつながるからです。
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●エンパワーメントにおける意思決定速度が向上する
2.福祉分野のエンパワーメント理論
ビジネス以外でも、たとえば、政治や福祉、人権運動などの文脈で用いられることもあり、各文脈によって「力」や「権限」の解釈は異なります。
看護や介護でのエンパワーメントの意味
看護・介護の分野では、患者が主体性を持ってプロセスに積極的に関わる、という意味でエンパワーメントが用いられます。患者エンパワーメントとも言われます。
看護・介護の現場では、ともすれば患者は治療などに受け身になりがちです。患者の積極的な参加を促すためには、医療・介護に従事する者より、現状や治療内容について十分に情報提供する必要があります。患者とのコミュニケーションの量・質も考慮する必要があり、その点はインフォームドコンセントと似ています。
障害者福祉でのエンパワーメントの意味
障害者福祉の分野では、障害者が本来持つ能力や権限を発揮することの重要性が指摘されており、その観点からエンパワーメントに関する研究が進められています。
この文脈でのエンパワーメントは「障害者を保護すべき対象として扱うことが障害者の自立を妨げる社会的抑圧となり、結果、人間として高い能力があるにもかかわらず人間としての生き方が保障されない状況に陥っているのではないか」という問題提起から生まれた考え方です。
障害者自身が自己決定し、人生の主人公になれるように社会的資源を再検討し、条件整備を行っていく必要があるのではないか、ということが提唱されています。
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3.エンパワーメントの起源・歴史
エンパワーメントという概念の起源は、20世紀にアメリカで起こった公民権運動にさかのぼります。
1970年代、作家・ジャーナリストのバーバラ・ソロモンによって、介護におけるエンパワーメントの重要性を説く概念へと昇華され、80年代になると、女性の権利獲得運動の中で、「社会的地位の向上」という文脈で広く知られるようになりました。
ソロモン(B. Solomon)『黒人のエンパワーメント(Black Empowerment):抑圧されている地域社会におけるソーシャルワーク』
『黒人のエンパワーメント(Black Empowerment):抑圧されている地域社会におけるソーシャルワーク』の著者、バーバラ・ソロモン(B. Solomon)は、介護におけるエンパワーメントの概念を用いた最初の人物です。
ソロモンは、「エンパワーメントとは、『スティグマ化された集団の構成メンバーであることに基づくパワーの欠如状態を減らす』こと」と定義しています。
ソーシャルワーカーや第三者が被介護者に果たす役割は、ただ闇雲に力を貸すのではなく、本人が本来持つ力を尊重していかにその力を引き出し自立を促すか、という意味です。
この考え方はその後、開発援助論や社会学の分野に広がり、さらには経営においても取り入れるべき考え方として知られるようになりました。
エンパワーメントの概念が普及した理由
エンパワーメントという言葉が広く普及した理由として、次の要素が挙げられています。
- 意味が多層的・多義的
- 「Powerless」から「Powerのある」状態にするという概念
- 伝統的心理癒法・伝統的心理学モデルへの反発
- 社会変革を引き起こすために有用な言葉だった
①意味が多層的・多義的
エンパワーメントという言葉にはさまざまな定義が存在しますが、それぞれに共通するのは、
- 個人・環境
- 個人・家族・グループ・コミュニティ
- 人・組織・コミュニティ
など対象のレベルにかかわらず、多層的・多義的であるため自分の行う分野や行為に合わせてあらゆる意図でエンパワーメントという言葉を用いることが可能です。
レベルや行為に応じて柔軟に、いかようにも使うことができる言葉だったため、広がりやすかったのではないでしょうか。
②「Powerless」から「Powerのある」状態にするという概念
「Powerless」な状態にある人とは弱い立場に置かれた人々や抑圧された人々、貧困の中に生きる人々などのこと。
エンパワーメントは、こうした人々を「Powerのある状態にする」ことであり、社会福祉の理念と合致する概念であったことから、社会福祉に携わる人々を中心に急速に広がったという側面があります。
たとえば、女性運動においても、男性と比較して女性は「Powerless」な存在という文脈の中で、エンパワーメントの言葉が用いられました。
③伝統的心理癒法・伝統的心理学モデルへの反発
伝統的心理癒法・伝統的心理学モデルは、精神科医のフロイトが提唱した精神分析学に基づく考え方。その人が現在抱えている情緒的問題は、過去の経験から引き起こされる無意識な情緒が原因、という個人の弱い側面に目を向けた手法でした。
対して現代の心理療法・心理学では、個人の強い側面を重視し、社会的能力を高めて環境に対処できるようサポートするのです。
この考え方がエンパワーメントの概念と一致していたため、心理学がエンパワーメントの普及の一助となった側面もあると考えられます。
④社会変革を引き起こすために有用な言葉だった
社会福祉や女性運動、現代の心理学など、エンパワーメントの概念を用いる分野は、いずれも社会変革を重視しています。社会変革を引き起こすために、エンパワーメントという言葉が有用だったことも普及の要因といえるでしょう。
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4.いまエンパワーメントが注目される理由・背景
ビジネスにてエンパワーメントが注目され導入が進んでいる理由には、下記が求められている背景があります。
- スピーディーな意思決定
- 若手人材の育成
- 中途社員の早期戦力化
①スピーディーな経営判断の必要性
AIなどの技術革新やグローバル化の影響により、日本のビジネスの進行は90年代とは比べものにならないほど速くなりました。同時に、意思決定もスピーディーに実行する必要が生じ、もはや上層部の会議体のみで事業の細部をすべて決めることは不可能に。一部権限委譲を行い、現場に判断を委ねることで、時代の流れに則った企業運営を実現できます。
②次世代リーダー育成の必要性
若手人材に裁量を付与すると、早期育成を図れます。上司が手取り足取り教えるスタイルではなく、実地において若い人材にも判断の機会を与え、限定的な範囲でも裁量を持たせて行動させます。
人材不足が声高に叫ばれる今、若手社員の早期育成は、経営戦略における重要なポイントのひとつ。短期的な成長を促進し、戦力となる人材を増やしましょう。
③中途人材の早期適合の必要性
転職市場がオープン化し、人材の流出が激しくなりました。中途採用を主として行う場合に課題となるのは、企業文化や事業スタイルへの早期適合です。
企業独自の仕事文化に早期に慣じませ、成果を上げやすい環境を作るべくエンパワーメントを活用する企業が増えています。人材を信用し権限を移譲することで、現場から吸収できる情報量を一段と増やすことができます。
エンパワーメントの効果を適切に発揮するには、エンパワーメントの対象となる従業員の選出と委譲する権限の内容のマッチ度が重要です。
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5.経営学におけるエンパワーメントの重要性
経営学においても、エンパワーメントの重要性が指摘されています。エンパワーメント経営が目指すのは、従業員の本来の力を引き出し活用して、生産性と従業員満足感の両者を高めること。課題は、どのようにして従業員の力を引き出すのかです。
社員の力を引き出すチーム・エンパワーメントとは?
エンパワーメント経営では、チームへの権限付与が有効に働く可能性があります。小規模の自律型チームにエンパワーすることで、
- 作業ローテーションや研修、出勤時間や休暇などのシフト決めといったメンバーの労働に関わること
- 部品納入の判断や営業活動など経営に関わること
などについて現場のチームメンバーで決定できるようになるのです。結果臨機応変に迅速で柔軟な対応ができるようになるだけでなく、メンバーの充足感や自己決定感の向上にもつながるでしょう。
自律型チームを効果的に働かせるには、3つのポイントをおさえる必要があります。
- 目標を設定してからのチームの自律性を最大化する
- チームの異質性を高くし、内部の統合過程を活性化する
- チームメンバーの発言力・影響力をできるだけ平等に保ち、リーダーの発生を促す
日本では伝統的にチーム制の労働編成をとってきた基盤があるため、自律型チーム組織の形態が定着しています。チーム・エンパワーメントの効果を期待しやすい環境といえるでしょう。
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星野リゾート社長・星野佳路氏『社員の力で最高のチームをつくる 1分間エンパワーメント』
星野リゾート社長の星野佳路氏は、自身が監訳した『社員の力で最高のチームをつくる 1分間エンパワーメント』(ケン・ブランチャード、ジョン・P・カルロス、アラン・ランドルフ著)に多大な影響を受け、実際にそれまで行ってきた「指揮命令的発想」から「支援的発想=エンパワーメント」へと180度の転換を図り、組織改革を行ったといいます。
星野社長がそこまで入れ込んだ『社員の力で最高のチームをつくる 1分間エンパワーメント』の中で、真のエンパワーメントの実践に必要なことが3つ挙げられています。
- 全社員と正確な、そして重要な情報を共有すること
- 境界線を明確にして、自律的な働き方を促すこと
- 階層的組織特有の思考をセルフマネジメント・チーム型思考に置き換えること
そして、この3点を組織全体に浸透させ、実践できたときこそ、企業は飛躍的に成長を遂げることができると、説かれているのです。
「この本がなければ、今の星野リゾートは存在しなかった」
また、「信念を持って、『従業員を信じる』ことを貫く」こと、そして、そのためにリーダー自らが「変わる」ことの重要性についても一貫して述べられており、星野氏に「この本がなければ、今の星野リゾートは存在しなかった」とまで言わしめています。
星野リゾートが国内屈指のリゾートホテルとして名を馳せるに至った背景には、トップが率先してエンパワーメントを実践し、社員を信じ、力を引き出したことが大きく影響している、といっても過言ではないでしょう。
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6.エンパワーメントを重視した組織づくりの効果
エンパワーメントの効果を向上させるために有効なのが、監督するのではなく、従業員を大人として扱いリーダーシップを発揮させることです。
従業員一人ひとりがリーダーシップを発揮し自己決定する力を持つようになれば、上司の監督のもと判断を仰ぐ必要がなくなるため中間管理職が減り、人材の合理化が実現しやすくなります。
こうした組織づくりを進めるには、
- 上司は部下に責任を与える
- 部下はその責任を進んで受ける
という環境を整える必要があるでしょう。
リーダーシップは育成によって習得できるスキルです。
カオナビを活用すれば素質としてリーダーシップを持っている従業員を把握するだけでなく、育成余地のある従業員を適切に見極めることができます。エンパワーメントで適切なリーダーシップを発揮してもらうためにも、従業員のスキル・素質をしっかりと把握しましょう
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7.エンパワーメントの2種類のアプローチ
研究者の間には、
- 権限を委譲することによる構造的アプローチ
- 自己効力感を高めることが重要であるとする心理的アプローチ
両方のアプローチが必要という考え方があり、議論が繰り返されています。2つのアプローチの特徴について解説しましょう。
①構造的アプローチ(関係概念としての捉え方)
構造的アプローチでは、社会学的なパワーに焦点を当てます。社会学的なパワーの分配、つまり経営者のようなパワーのある者から、パワーの無い従業員もしくは部署にパワーを与えることがエンパワーメントだとする考え方です。
上司と部下のような上下関係の中で権限移譲が行われるため、関係概念としての捉え方ともいわれます。具体的には、
- 従業員に対する大幅な権限の付与
- 管理者から部下に対する権限委譲
- 従業員が意思決定に参加する共同決定
などが挙げられます。
構造的アプローチの特徴「権限委譲」=エンパワーメント要素
構造的アプローチでは、権限委譲=エンパワーメント要素と定義しています。エンパワーメント要素とは、エンパワーメント効果をもたらす根幹となる要素を意味します。
つまり、構造的アプローチの視点では、権限(=パワー)を従業員や部署に与えることが、最も重要だとしているのです。
権限を与えられることで従業員の持つ本来の力を引き出し、全体にも大きな利益をもたらすことにつながる、というのが、構造的アプローチの考え方です。
②心理的アプローチ(モティベーショナルな概念としての捉え方)
一方、心理的アプローチは、モティベーショナルな概念としての捉え方ともいわれており、社会学的なパワーより心理学的なパワーに焦点を当てます。
心理的アプローチでは、構造的アプローチのように、パワーは力のある者から与えられるものではなく、人間の自己自身にあると考えるのです。
自分の心のエネルギーを強くした結果、自己効力感が高まり「やればできる」という効力期待を持つこれが心理的にエンパワーされた状態としています。
自己効力感とは? 自己肯定感との違い、高め方をわかりやすく
自己効力感とは、ある状況の中で必要とされる行動のこと。
たとえば、
結果を出す
目標を達成する
といった結果を出そうとする際「自分がうまくできるかどうか」という予期のことをいいます。
自己効力感は...
特徴:タスクアセスメント=エンパワーメント要素
心理的アプローチでは、タスクアセスメントをエンパワーメント要素と位置づけ、次の4項目を挙げています。
①コンピテンス(自己効力感)
- 自分はやればできるという確信の度合い
- 自己効力感が高いと、努力への意欲も高くなる
- 障害に直面しても耐える力を身に付けることができる
②影響感
- タスクの目的を達成する意図された効果を生み出す度合い
③有意味感
- 個人の理想や規準という観点から判断されたタスクの目標や目的の価値
④自己決定感
- ある人の行動がどの程度自己決定されたかを知覚している度合い
- 自己決定、すなわち選択する権限は、柔軟性、創造性、主体性、自己統治を生み出す
人材データを活用し、エンパワーメントの意思決定を効率化。
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8.OODA(ウーダ)ループによるエンパワーメント
OODAループとは、「観察(Observe)」「仮説構築(Orient)」「意思決定(Decide)」「実行(Act)」の4つのステップを回すことにより意思決定を行う理論です。アメリカの戦闘機操縦士・航空戦術家のジョン・ボイド大佐によって発明されました。
ジョン・ボイド大佐は「40秒ボイド」という異名を持ち、どんなに不利な戦局でも40秒ほどで形勢を逆転させました。彼の特徴は、迅速な意思決定によるアクションの速さでした。
- Observe = 観察
- Orient = 仮説構築
- Decide = 決定
- Act = 実行
ビジネスの変化が激しく、先が読めない場合、手元にある限られた情報から仮説を構築し、実行する必要があります。ビジネスにスピードが求められる現代において、OODAループは特に有用でしょう。社員の意思決定や実行のスピードを向上させることは、エンパワーメントの手法のひとつです。
変化の早いビジネススピードに対応するには、エンパワーメントを実行するにあたっても迅速な意思決定が重要です。
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OODA(ウーダ)ループとは? 具体例やPDCAとの違いを簡単に
OODAループとは、迅速な意思決定・行動を行うためのフレームワークです。「Observe(観察)」「Orient(状況判断)」「Decide(意思決定)」「Act(実行)」4つから構成され、目標や課題...
9.エンパワーメント経営の具体例
エンパワーメント経営を実践している企業は多数ありますが、取り入れ方は「心理的実践タイプ」と「構造的実践タイプ」に分かれ、どちらを選択するかは、経営理念やトップ・マネジメントの経営哲学などによって異なります。
エンパワーメント経営の導入企業
日本の代表的企業でいうと、
- 心理的実践タイプ:サントリー、リクルート、未来工業、三和総合研究所(現・三菱UFJリサーチ&コンサルティング)
- 構造的実践タイプ:京セラ、ミスミ、ヤマト運輸など
心理的実践タイプの具体例として、三和総合研究所(当時)が行った、同僚であるプロジェクトメンバー同士が相互に人事評価を行ったケースが挙げられます。
また、構造的実践タイプの具体例としては、研究者から特に高い評価を受ける、京セラの「アメーバ経営」や、ヤマト運輸の「セールスドライバー制度」などが有名です。
株主資本比率においてほとんどの企業が高水準を維持していることからも、エンパワーメント経営の実践後、業績についてタイプによる違いはない、といってよいでしょう。
エンパワーメント経営の事例:リッツ・カールトン
エンパワーメント経営の実践例として、リッツ・カールトンの事例を紹介しましょう。
リッツ・カールトンでは、顧客の要望に応える際に、上司の判断を仰ぐことなく、自分の判断で最良と思うサービスを行ってよいという裁量権を、スタッフ一人ひとりに与えています。
スタッフ一人が1日に2,000ドルまで経費を使える制度が巷で話題となりましたが、本来の目的は、金額ではなく、顧客の要望に対して迅速かつアイデアに富んだサービスを提供することです。
リッツ・カールトンが感じる導入効果
リッツ・カールトンがエンパワーメントを推進する背景には、スタッフへの信頼感を高めリスクを組織として受け止める環境づくりがあり、その結果、スタッフの責任感が強くなっているのです。
また、
- 言葉にあらわれない願望やニーズを先読みする姿勢を重視し、コミュニケーション能力を高める
- 顧客情報の共有などのこまやかな努力
などが顧客感動を生むことにつながるともされています。
適切な権限移譲が行われれば、リッツ・カールトンの事例のような副次効果も期待できます。エンパワーメントを効率化するタレントマネジメントシステムの資料は ⇒ こちらから
10.企業がエンパワーメントを導入するメリット・デメリット
企業にとってエンパワーメントを導入することで得られるものは多くありますが、必ずしもすべてがプラスに働くわけではありません。
エンパワーメントを導入する前にメリットとデメリットを把握し、想定されるデメリットに対して備えるとよいでしょう。
エンパワーメントのメリット3つ
- 意思決定の迅速化
- 自分で考える従業員を育成
- 本来の能力を発揮
①意思決定の迅速化
エンパワーメントが行われていない場合、顧客対応やイレギュラー案件の対応時、ことあるごとに上司に認可をもらうための手続きをする必要があります。これはいうまでもなく大きな時間のロスであり、企業にとっての損失でしょう。
しかしエンパワーメントを行えば、部下が自ら決定を下すことが可能になるため意思決定に至るまでの時間が短縮されたり、企業としての機動力がアップしたり、顧客満足度向上につながったりするのです。
部下にとっては自ら意思決定をする機会が増えるため、自分が下そうとしている決定の理由についてよく考えられますし、決定の結果を身をもって受け止める機会も増えます。
これらを重ねることで、自分の行動に責任が持てる企業人へと成長できるのです。
②自分で考える従業員を育成
自分自身が「決定を下してきた上司の立場や状況」に直面するため、これまで自分に向けられてきた指示の奥にある目的がより深く理解できるようになります。
これにより、それまで感じていた一方的な上司への不満が解消されたり、企業活動に対する理解が深まったりといった二次的な効果も期待できるでしょう。
③本来の能力を発揮
エンパワーメントが浸透することで、部下の持つ潜在能力を発見できることも。たとえばある部下には、状況を客観的に分析して的確な解決策を提案する能力が、別の部下には、従業員をまとめて指揮する能力が・・・ということも考えられるでしょう。
本人たちも気付かなかった能力が表に出ればより活躍が見込めます。またその後の昇進や異動においても適材適所な配置ができるでしょう。
エンパワーメントのデメリット2つ
- 組織と個人で方向性がずれることも
- 権限委譲に向かない従業員もいる
①組織と個人で方向性がずれることも
エンパワーメントのメリットは、部下が自分自身で意思決定できる点。しかし時にそれがデメリットとなることもあるのです。
企業内の決定に一個人の考えが反映されることで、企業の方向性と部下の行動が連動しなくなる可能性があります。だからといって企業の方針に追従するよう求めてしまっては、エンパワーメントの概念そのものを否定することになりかねません。
こういった事態を防ぐには、
- どこまでなら個々で判断すべきか
- どういった場合に上司に相談する必要があるか
といった基準を定めるという対策が必要です。
また、権限委譲された従業員がエンパワーメントの本質を理解しそこなった場合、「権限が与えられた=勝手なことが許される」という誤解を招くこともあります。すると、思い思いに行動したりトラブルになったりすることもあるのです。
②権限委譲に向かない従業員もいる
エンパワーメントによる権限委譲に向かない従業員も存在することを想定しておきましょう。
権限委譲される従業員は、多くが今までは誰かの指示を受けて働く側だったと考えられます。そのため、言われたことを言われた通りに行うことが体に染みついており、自分で考える・計画することができない場合もあるのです。
また、中には権限や責任を担うことに必要以上の重圧を感じてしまう人も。人によっては、心身に影響するほどの大きなストレスとなるかもしれません。
しかし、何事もやってみないと分からないことも事実。エンパワーメント導入後は、
- 社員の能力や業務のキャパシティはどうなっているか
- 適切に権限を行使できているか
など様子をつぶさに観察しましょう。もしキャパシティや権限について不穏な様子を把握した場合は、
- 面談をする
- 一旦停止して様子を見る
など対策を取りましょう。
11.部下を育成するためのエンパワーメント
優秀な若手の従業員から次のリーダーを育てる際、鍵となるのがエンパワーメントによる権限委譲です。リーダーには組織をまとめる力、責任感、行動力、そして結果を出せる能力とさまざまな要素が必要とされます。
しかし、それらの能力を持つリーダー候補がいたとしても、
- 職場内で「いつまでも仕事を任せてくれない」という不満
- 「いきなり任せられても自信がない」という不安
を持っているかもしれません。そうした人材を育てるために上司がやるべきことは、ある程度の権限を少しずつその部下に与えることでしょう。
部下の育成時、上司は何に気を付けるのか
仕事の達成目標や課題を明確にした後で、権限を委譲された従業員が、自分の考えで自由かつ自発的に業務を遂行できるようにするのです。自分で責任を持って考え、遂行し、成果を得るという経験を積み重ねることで部下は成長します。
こうした自分から何事も進めるという力を部下から導き出せば、エンパワーメントは成功といえるでしょう。
エンパワーメントリーダーシップとは?
エンパワーメントリーダーシップとは、部下がビジョンや戦略に基づいた意思決定を、やる気を高め主体的に行っていけるために、権限委譲を組織の中に構築していくこと。
現場の自主性を高め、パフォーマンス向上につなげるために権限を与える(Em+Power:パワーを与える)という考え方。
参考 MBA用語集「エンパワーメントリーダーシップ」グロービス経営大学院12.エンパワーメント導入の4つの手順
では実際に、エンパワーメントを導入する際の手順について詳しく見てみましょう。ステップは4つあります。
- エンパワーメント推進を宣言する
- 目標への合意と共感を得る
- 情報を公開し権限を委譲する
- 目標達成のための行動の自由を認める
STEP① エンパワーメント推進を宣言する
まずは企業の最高責任者もしくは拠点のトップが、従業員全員の前で、これからエンパワーメント推進を図ることを宣言します。注意したいのは、ただのお知らせで終わることがないようにする点。固い決意と熱意が従業員に伝わるような方法で、「宣言」します。
宣言後はエンパワーメントの必要性や実際に導入するまでのおおまかな流れといったアウトラインを説明しましょう。下記のような事柄などを従業員が理解できる方法で分かりやすく説明するのが良いです。
- なぜ自社にエンパワーメントが必要なのか
- どんなメリットが期待できるのか
- 自社のどんな課題に対して有効なのか
- それが従業員一人ひとりにどう影響するのか
STEP② 目標への合意と共感を得る
宣言によってエンパワーメント推進という目標が周知できても、目標に対して従業員の気持ちが一致していなければ意味がありません。宣言後はできるだけ早いうちに、エンパワーメント導入に関するディスカッションや勉強会を開くとよいでしょう。
その際、従業員には率直な意見を述べることを促してください。心配していることや疑問など、エンパワーメント推進に関する想いをひと通り吐き出してもらうことを意識します。
従業員の不安を解消
エンパワーメントの導入などの新しい提案は、日々業務に追われる従業員に「何か面倒なことになるのでは?」といった不安を生む場合も。
ディスカッションや勉強会を活用
ディスカッションや勉強会を活用し、エンパワーメントが従業員一人ひとりにどのようなメリットを生むのかなどを分かりやすく説明し、不安を解消しましょう。
たとえば、同業種の企業でエンパワーメントを導入し、成功した具体的な事例などがあれば、従業員は導入後のイメージを鮮明に思い描くことができます。
実際に導入している企業の存在を知ることで安心感も生まれますし、「自分の会社でも成功させるために協力したい」と思う可能性も高いでしょう。
従業員が皆、エンパワーメント導入という目標達成に関して合意し、その目標に共感してくれたときが本当のスタートです。企業一丸となってエンパワーメント導入に取り掛かりましょう。
STEP③情報を公開し権限を委譲する
権限委譲や権限付与を行うには、
- 企業の方針や経営戦略
- 人事や経理状況
といった企業の経営に関するあらゆる情報を従業員に公開する必要があるのです。ここには、それまで企業内の一部の人しか知らなかったような情報も含まれます。
もちろん、情報公開には情報漏えいのリスクもあるでしょう。そのため、企業内でも、
- 入社から間もない従業員
- 正式な雇用関係にない人
に対しては、実情に応じた範囲の情報公開にとどめます。
情報公開の意義と効果
情報公開の意義は、企業が従業員に対し「あなたたちを信頼していますよ」という姿勢を見せること。それによって従業員は、信頼されているという充足感を得ることができ、「信頼に応えよう」と気持ちを新たにすることができるのです。
また、会社のことをすべて知っているという認識は、エンパワーメント導入後に与えられる権限行使の方法や、今後自らが下す決定に対しての責任意識を芽生えさせます。
権限の委譲を実行
ここまできたら、いよいよ権限の委譲に進みます。該当する従業員に対し、裁量権を与える仕事の範囲を定め、実際に任せるのです。
注意すべきは、「どこからどこまでがその人の仕事であるか」をあらかじめ明確にしておくこと。さらに、権限委譲される従業員自身がこの点を深く理解できるよう助けなければなりません。
裁量権のある範囲を理解していない場合、部署間での摩擦を生むことも。これは非常に重要なポイントです。
STEP④目標達成のための行動の自由を認める
権限委譲後は、その従業員に与えられた行動の自由を認めましょう。つい口を出したくなるときがあっても、その気持ちを抑え、従業員が成長する過程を見守るのです。
13.エンパワーメントの導入に失敗するケースとは?
適切な人材に権限を移譲しなければ、人材の成長を促すことも、パフォーマンスを向上させることも難しくなります。エンパワーメントの導入に失敗してしまう、よくあるケースをご紹介します。
①権限移譲ではなく責任放棄となる
権限移譲の際には、部下に権限だけを移し、責任は管理職が担保することにより、本当に意味で部下が自由に裁量を発揮することが可能となります。権限を与えた結果、企業が損害などを被った場合、その責任は権限を付与した上司にあるという考え方が一般的です。
裁量権を付与した部下に対し、責任まで丸投げすることは、単なる上司の責任放棄です。エンパワーメントが目指す権限移譲とは異なります。
②権限移譲という手段が目的化する
企業がエンパワーメントを導入する目的は、社員の自発的な成長を促し、成果を向上させることです。ところが導入時、権限移譲を無事に果たすという手段自体が目的化してしまうケースもしばしば。
エンパワーメントは、部下に自由に与えること自体が目的ではありません。自由な判断が可能となった部下が、短期的に主体性を持って成長を果たし、その結果ビジネスに好影響を与えることを期待するものです。本来の目的を見失わないようにしましょう。
③結果的に部下が萎縮する
まだ権限を移譲するには未熟な状態の人材に対してエンパワーメントを実行した場合、期待した効果は得られないでしょう。必要以上の大きさの権限を前に、部下が萎縮してしまうと、部下の積極性や自発性は逆に失われてしまいます。エンパワーメントする適切な人材を見極める必要があります。
14.エンパワーメントにおける権限委譲の注意点
権限を委譲する際に気を付けなければならないことは何でしょうか。
権限を委譲する範囲を明確にしておく
前述の通り、権限を委譲する範囲を明確にします。権限委譲したから何でも自由にやっていい、となると大きな失敗につながる可能性も高いのです。
人材育成の場が、大きな損失と優秀な部下の挫折で終わっては元も子もありません。どこまで権限を委譲し、どこからは上司の判断が必要かというラインを明確にしておくことが必要です。
ホウレンソウの徹底
「権限委譲したからあとは任せた、結果も自己責任」というのは単なる丸投げです。常に部下から報告、連絡、相談を受けられるようにしましょう。
報連相とは?【できない原因】おひたし、重要性、本当の意味
報連相とは「報告」「連絡」「相談」の1文字目をとったビジネス用語です。
30年以上前に誕生し、企業に属する社員が場面や用途に合わせて相手に伝える方法として広まっています。
1.報連相とは?
報連相と...
判断基準の明確化
業務遂行の中で、いつの間にか間違った判断基準に陥ることも。上司の判断基準をしっかりと引き継いでおくことが大切でしょう。上司と部下の微妙な判断基準のずれがやがて大きなずれとなって成果に差が出てくることも考えられるからです。
がんじがらめの組織では、エンパワーメントによる権限委譲はしづらいことも。人事としても組織の風通しを良くして、エンパワーメントができる組織づくりをしていきましょう。
失敗を許容する
誰でも最初は失敗します。エンパワーメント導入から間もないうちは、経営側からは想定できなかったミスを犯す部下が出てくる可能性も高いでしょう。
しかし部下自身は、慣れない環境の中、必死に試行錯誤しながら頑張っています。失敗しても厳しく罰せず、どうすれば改善できるかを提案したり話し合ったりなどして優しくフォローしましょう。
そのためにも、いつでも部下が助言やフォローを求めて上司に近づけるようにします。
エンパワーメントを形骸化しない
せっかくエンパワーメント導入をスタートしても、しばらくしたら形骸化していたという場合も多いです。
従業員は日々現場で忙しく働いています。そのため、「そういえば前にそんなことを言っていたな」程度の認識になってしまうことがあるのです。企業内でエンパワーメントを推奨する風土づくりができなかった場合も同様でしょう。
形骸化を抑止するには、従業員にとってエンパワーメントがどのようなメリットを生むかを、定期的に思い起こさせることが必要です。エンパワーメント導入による具体的な成果をグラフ化して周知したり、貢献した従業員へ報酬を与えたりすることが有効でしょう。
エンパワーメントを形骸化させないためには、何よりも責任者や経営者のあきらめない姿勢を見せることが大切です。
【エンパワーメントの効果を実感できない…】
効果的なエンパワーメントを実施するにあたって、適切な対象者の選出・委譲する権限内容を検討することがポイントです。
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