人事や組織開発において、会社に対する「信頼」や「思い入れ」と言い換えられる「エンゲージメント」。関わりや関係性を中核に据えたこの概念は、いったいどのように調査すればいいのでしょうか。
目次
1.従業員エンゲージメントの調査方法
従業員エンゲージメントの調査方法は、包括的でリッチな情報を得るための「従業員エンゲージメントサーベイ」と、限定されたトピックでシンプルな情報が得られる「従業員パルスサーベイ」の2種類です。それぞれのサーベイを比較してみましょう。
従業員エンゲージメントサーベイとは?
従業員エンゲージメントサーベイの大きな特徴は、年次のサイクルで大規模に行う調査方法であること。通常は50個以上の質問からなり1度に多くの質問ができるため、組織のテーマを多角的に、またそれらの課題をより詳細に確認できます。
しかし1年間の状態を一時的に見るため、単発的な事象を捉えにくいといったデメリットも。また膨大な質問量は回答者の負担も大きく、正直な回答割合も低くなりがちです。
従業員パルスサーベイとは?
従業員エンゲージメントサーベイのデメリットを解消すべく登場したのが、短時間で回答が完了する「従業員パルスサーベイ」です。質問項目は10個ほどと簡易的で、これにより回答率も高まり、定期的な実施を実現させました。
また一般的に、従業員パルスサーベイにはデータ分析機能が付随しています。集計結果を迅速に出すため、従業員は「自分の声が企業に届いている」と実感できるのです。
2.従業員エンゲージメントの調査ツール
従業員の満足度や状態を測定するための調査サーベイは以前から存在しています。2000年初頭からアメリカでは、従業員エンゲージメントと業績の相関を示す研究が行われてきました。
また近年では、新しいテクノロジーを活用した「少設問・高頻度」のサーベイに注目が集まっています。アメリカの「Qualtrics」や、イギリスの「Peakon」、「Qlearsite」などのソリューションです。
いずれのシステムも、アルゴリズムを用いて数値から感情に至るまでの見識を出力するため、効果的で実行可能なアクションを素早く検討できます。
3.社員のエンゲージメント調査の具体的事例
従業員エンゲージメントの調査にあたって、実際にパルスサーベイを取り入れた企業の実例を見ていきましょう。
スポーツアパレルの小売りという事業柄、従業員間のコミュニケーションに課題を抱えていたアディダス社と、モチベーションの高い従業員による、更なる業績向上を目指したユニリーバの例を紹介します。
事例①アディダスにおけるエンゲージメント調査方法
アディダス社では、ディレクターがフィードバック把握に洗練されたアプローチを取っているのに対して、従業員の理解が追い付いていない点に問題を抱えていました。そこで利用したのが「Qualtrics」のツールです。
People Pulseというプログラムを使って、5分という短時間で回答できる質問を月次で配信し始めました。回答者が即時に集計結果を確認できるシステムには、「企業は従業員の意見を尊重している」という従業員からの信頼を確立するという目的もあります。
調査項目
調査内容は、eNPS(従業員の職場に対する愛着や信頼の度合を数値でスコアリングした指標)に月ごとのテーマを加え、6カ月サイクルでデザインされています。テーマは会社が重要視する価値観や、事業部別に調査したい項目などさまざまです。
また回答結果はモバイルツールでの閲覧も可能となっています。これにより、マネージャーはいつどこにいても集計結果に基づいてアクションが検討できるようになりました。
事例②ユニリーバにおけるエンゲージメント調査方法
ユニリーバのドイツ工場では、従業員からのフィードバックを日次で行っています。その方法は、「How was your day?(今日はどうだった?)」という質問に対して、従業員が退社時、出口にある2つのボタンから選ぶだけのシンプルなもの。
アディダス社と同様に、ユニリーバでも同僚たちの回答結果を即時に確認できるほか、定期的に過去のトレンドを共有しています。
導入効果
ユニリーバが調査を導入した目的は、日々のフィードバックによってタイムリーに従業員の状態を知ること。この調査により職場でのマネジメントが満足度の向上につながっているかを即座に見きわめられます。
取り組みの結果、継続的かつ時機をとらえた組織の舵取りに成功しました。
4.エンゲージメント調査の運用におけるポイント
そもそもエンゲージメント調査は何のために行うのでしょうか。エンゲージメント向上の意味が「企業と従業員の信頼関係」と分かれば、自ずと調査運用のポイントが見えてくるはずです。ここでは3つのポイントにフォーカスしてみましょう。
- 社員との信頼関係を構築する
- 回答する社員の負荷に配慮する
- 変革の主役は人である
①社員との信頼関係を構築する
パルスサーベイの実施には、社員と企業との間に信頼関係を構築する目的があります。しかしパルスサーベイを意味のある施策にするには、サーベイの閲覧範囲を明確化すること、調査の結果を施策に反映することが重要です。
従業員が「回答しても意味がない」「結果によって不当な扱いを受けるかもしれない」と思わないようにしましょう。
②回答する社員の負荷に配慮する
設問数をコントロールしたりUIやデバイスを工夫したりして、回答する従業員の負荷に配慮しましょう。設問を増やして現場での工数を増やすと、回答率や正確性の低下を招きます。
「こんなに回答したところで、どうせ何も変わらない」そんな思いを抱かせないための工夫が必要です。
③変革の主役は人である
どんなに優れたサーベイも、現状を測定する測定器でしかありません。変革の主役はあくまで人であり、サーベイではありません。ツールの導入や活用に話の焦点が向きすぎて固執してしまわないよう注意しましょう。
パルスサーベイに過剰な期待はせず、さまざまな工夫の主体的な実施が重要です。