ERPとは、企業の情報戦略に欠かせない「基幹系情報システム」のことです。ここでは企業におけるERPの役割や必要性、導入の手順や注意点などについて解説します。
目次
1.ERP(Enterprise Resource Planning)とは?
ERPとは、「企業資源計画」「統合基幹業務システム」「基幹システム」のことで、Enterprise Resource Planningの略称です。企業の情報戦略に欠かせない重要な仕組みで、下記5つをひとつのシステムで管理し、効率化や情報の一元化を図ります。
- 人事業務
- 会計業務
- 販売業務
- 生産業務
- 物流業務
2.ERPの役割と必要性
ERPでは、はじめから業務システムと基幹システムが統合されています。かつて部門ごとに最適化されたシステムを使ったほうが効率的だった時代もありました。しかしこれには連携や互換性の問題があったのです。
分断された複数システムの連携を行うため、欧米諸国で登場したのがERP。現在、国産ERPやカスタマイズ可能なERPも増え、大企業だけでなく中小企業でも導入されているのです。
ERPと基幹システムの違い
「基幹システム」とは、企業経営の基幹業務を支えるシステムのこと。ERPと基幹システムは非常に似ているものの、システムとしての目的に大きな違いがあるのです。
- 基幹システムの目的:特定の業務を効率化
- ERPの目的:経営基盤の強化
2つは業務視点での効率化を図るシステムと、経営視点での最適化を図るシステムとして区別されています。
BPR(Business Process Re-engineering)との違い
Business Process Re-engineeringの略称です。どちらも後述する「MPR」の発展をきっかけに普及した概念で業務効率向上のための振り返りや再設計を意味します。
しかしERPの主な目的は経営戦略に使う決定材料の提供。よってERPだけでは業務の効率化、利益の向上を達成できません。ERPに目的を持たせ、実現するための実行手段がBPRです。
MPR(Material Resouces Planning)との違い
商品の製造に必要な部品や、部品を調達して完成するまでの工数および日数を計画する「資材所要量計画」のことで、Material Requirement Planningの略称です。
もともと製造業で広く使われていた管理手法でした。しかし正確な生産管理には在庫管理や部品発注だけでなく人材や業務プロセスの改善も必要だという考えから、ERPパッケージへと発展していったのです。
3.ERPの主な機能
複数の基幹システムを統合管理しているERPには、どのような機能が搭載されているのでしょうか。ここではERPが持つ4つ機能について説明します。
- 生産管理
- 販売管理
- 輸出入管理
- 人事労務
①生産管理
生産計画や在庫管理業務をスムーズに行うには「生産管理」が欠かせません。作業工程や人員配置などを見ながら、業務を円滑に進められます。
とりわけ製造業では、ERPの導入に際して生産管理機能に重きを置いているもの。製造業にとって、生産管理はビジネスの中核をなす業務なのです。一般的に生産管理機能は下記2種類にわかれます。
- 決められた生産計画にもとづいて同じ製品を繰り返し生産する「量産型生産管理機能」
- 特定の顧客要望に沿った製品を生産する「個別型生産管理機能」
②販売管理
「販売管理」とは商品やサービスの受注、請求や出荷など販売に関する業務を管理すること。ビジネスの起点ともいえるこの業務をサポートする機能として、ERPには販売管理機能が備わっているのです。
自社の販売方法に適したものでなければ、販売管理の効果を十分に発揮できません。導入の際は受注管理機能や出荷管理機能、販売サポート機能などが自社の販売方法に適しているのか、よく確認しましょう。
③輸出入管理
貿易向けERPシステムには輸入発注および輸出受注、諸掛処理や為替レート処理などを行う「輸出入管理機能」が搭載されているのです。
ほかにもインボイス情報をリアルタイムで取引仕分けに入力する機能や、洋上にある在庫を未着品リストとして出力する機能を備えたERPシステムもあります。いずれも貿易で必要となる「契約「決済」「輸送」のプロセスを管理するのに適した機能です。
④人事労務
ベンダーによっては採用管理や労務管理、給与計算やタレントマネジメントなど「人事労務」を得意としているものもあります。
デジタル技術の進化、経済のグローバル化が進む現代で求められるのは、経営資源の効率化。これは人事労務でも例外ではありません。人事担当者はERPを駆使して従業員という経営資源の管理、生産性の向上に努めなければならないのです。
4.ERPシステムを導入するメリット
生産管理や販売管理、人事労務や輸出入管理などさまざまな機能が備わったERPを導入すると、下記5つのメリットを得られます。
- 情報の一元化
- 業務効率化
- 戦略人事の実現
- 経営情報の可視化
- 内部統制の強化
①情報の一元化
従来、基幹システムは部門や業務ごとに分かれていたため、ある一部に変更をくわえてもほかシステムに自動で反映されませんでした。そのため情報を連携するための工数が生じていただけでなく、データのずれや入力ミスなどの問題も抱えていたのです。
一方、ERPシステムはリアルタイムでのデータ連携が可能。業務効率の向上はもちろん、ミスを防止できるメリットも生まれます。
②業務効率化
決算時期の業務を例に見てみましょう。決算ではさまざまな部署からデータを集計し、整合性のチェック、分析を行います。そのため従来の基幹システムではそれぞれで多く工数がかかるのはもちろん、データが多くなればなるほど入力ミスの可能性も増えるのです。
ERPを活用すれば、集計や分析が自動化できます。またデータを一つひとつ入力する必要がないため、整合性チェックも不要。結果として業務効率化を実現できるのです。
③戦略人事の実現
人事の責務は従業員という経営資源を管理し、一人ひとりの能力を向上させて生産性を高めること。人事領域にてERPを効率的に活用できれば戦略人事への転換、そしてタレントマネジメントの導入が可能になります。
ERPの導入には、人事管理業務の効率化といったメリットがあります。人事管理業務を効率化できれば、人や組織を活用しながら企業の競争力を高めていけるでしょう。
戦略人事とは?
「戦略人事(戦略的人的資源管理、Strategic Human Resources Management)」とは、企業における経営戦略目標の達成を目指して人的マネジメントを行うこと。具体的には企業が置かれた経営業況に応じて、必要な採用や育成、配置転換などを行うものです。
従来、人事部では業務の効率化を目的としていました。それに対し戦略人事では、経営戦略の実現に貢献できる人材のマネジメントを目的としているのです。
④経営情報の可視化
ERPを導入して情報を一元化できれば、売上や営業状況、人材活用状況の把握など経営情報が可視化されます。ERPの多くはこれらの経営分析機能を搭載しているのです。
ERPを活用すれば、現在の資産情報から売上状況、人材活用の状況などをタイムリーに把握し、素早い意思決定に役立てられます。
⑤内部統制の強化
2002年のエンロン事件、そして2006年の日本版SOX法成立によって、国内すべての企業に「内部統制」の重要性が叫ばれるようになりました。内部統制とは、企業の財務情報を透明化かつ正確化し、間違った財務会計が行われないよう監査証明すること。
ERPが持つ「一元管理によるデータの整合性」「アクセス権限を備えた申請承認の管理」が、内部統制の強化に有効だと考えられています。
5.ERPシステムの種類
ひとことで「ERPシステム」といっても、さまざまな種類が存在するのです。ここではERPシステムの種類について説明します。
- クラウド型
- オンプレミス型
- パッケージ型
- フルスクラッチ型
- コンポーネント型
①クラウド型
クラウドとは、インターネットを介して利用するサービスのこと。インターネット上にシステムを構築するため、自社内にサーバーなどのインフラを整備する必要があります。これを「クラウド型ERP」といいます。
クラウド型ERPはインターネット環境さえあればいつ、どこからでも利用できるのです。リアルタイムでの情報共有も可能なため、需要は年々増加しています。
②オンプレミス型
自社サーバー上にシステムが構築されるERPを「オンプレミス型」といいます。クラウド型ERPが普及するまではこのオンプレミス型ERPが主流でした。そのため今でも多くの企業が、オンプレミス型ERPを活用しているのです。
強みはカスタマイズのしやすさ。自社環境にシステムを構築するため、既存システムとの連携が容易に行えます。
③パッケージ型
ERPシステムを「どこに作るか」がクラウド型とオンプレミス型の違いとなります。対してシステムを「どのように作るか」を区別しているのが「パッケージ型」と後述する「フルスクラッチ型」なのです。
「パッケージ型ERP」ではあらかじめ企業活動を想定して構築されています。自社開発する場合は開発期間や運用コスト、信頼性の確保などさまざまな問題が生じるもの。そこでパッケージ型を利用すれば開発リソースやコストを削減できます。
④フルスクラッチ型
必要機能をあらかじめ備えているパッケージ型と異なり、ゼロからすべて作るのが受託開発形の「フルスクラッチ型」です。パッケージ型ERPでは日本独自の企業慣習に対応していないものもあります。
しかしフルスクラッチ型なら自社に合わせてオーダーメイドにERPシステムを構築できるのです。「もっとこんな機能が欲しかった」とかゆいところに手が届く設定を実現できるのが、フルスクラッチ型の強みでしょう。
⑤コンポーネント型
会計や生産、総務などさまざまな業務の中から必要なシステムを選択し、組み合わせて導入できるタイプを「コンポーネント型」といいます。コンポーネント型ERPは最低ひとつの業務システムから導入できるうえ、必要に応じて機能の追加、拡張が可能です。
特徴は「スモールスタートが可能」「た生産管理や在庫管理など選べるシステムの範囲が広い」といった点になります。
6.ERPシステム導入の手順
ERPを導入する際、どのような手順で進めていけばよいのでしょうか。ここではERPシステム導入の手順を5つの段階に分けて説明します。
目的の例は、下記のとおりです。
- 企業経営の意思決定を迅速に行いたい
- 情報共有を全社的に効率化させたい
- 内部体制によってコンプライアンス対応を強化したい
明確にした自社課題と目標に合わせて、各ベンダーの情報を収集します。ベンダー候補を絞り込む際は、製品カタログやパンフレット、事例集などを参考に以下をチェックするとよいでしょう。
- 導入前のテスト利用期間はあるか
- サポート体制は充実しているか
- アクセス制限や認証制度などのセキュリティ機能は充実しているか
- カスタマイズ性はあるか
国産ERP製品には日本企業の慣習に合わせた機能が標準搭載されているものの、必ずしも100%自社に適合するわけではありません。不足機能があった場合はアドオンやダウンロードコンテンツなどで機能追加を行うのです。
変更不要なもの(フィット)と、変更が必要なもの(ギャップ)を洗い出し、それらの対応について検討します。これを「フィット&ギャップ分析」と呼ぶのです。
システムをどれだけ綿密に整備しても、利用者が意味を理解していなければ業務の効率化は実現できません。説明会やe-ラーニングなどを通じてエンドユーザーとなる従業員の教育を進めます。
もちろん社内マニュアルの作成、不具合が起きた場合の対処法や注意点などの周知も必要です。
なおERP運用前はテストとリリース準備が必要です。ERPを設定した後は、テストサーバーを使って業務に導入しても問題ないかをテストしましょう。
テストとリリース準備に必要な期間はおよそ1カ月~2カ月。可能な範囲で機能デモを提供してもらい、自社の業務に適合するかをチェックしましょう。
7.ERPシステム導入の注意点
ERPシステムを導入する際、どのような点に注意すればよいのでしょうか。ここではERPシステム導入の注意点について説明します。
- 自社にマッチしているものを選ぶ
- 予算に合うかを検討する
- 現場の意見を反映する
- セキュリティ対策も考えておく
①自社にマッチしているものを選ぶ
独自開発でない以上、既存業務に100%適合したERPシステムの導入は不可能です。場合によってはシステムに合わせた業務プロセスの変更が必要となる場合もあります。
変更は、自社にとっての強みを失う状況にもなりかねません。検討しているERPシステムが自社にどれくらいマッチしているか、必ず確認しましょう。
②予算に合うかを検討する
導入を検討しているERPシステムが予算に合うかもあらかじめチェックします。
特に自社内にシステムを構築するオンプレミス型の場合、ハードウェア費用のほかソフトウェアライセンス費用や導入サポート費用などが発生し、膨大な金額になるのも珍しくありません。
コストを抑えたい場合は、クラウド型の導入もあわせて検討しましょう。ネットワーク経由で利用するクラウド型の場合、オンプレミス型の1/10以下の予算で運用できる可能性もあります。
③現場の意見を反映する
ERP導入の失敗事例として多いのが、経営陣はERPを導入したいと考えているのに対し、実際にシステムを利用する現場の従業員が否定的である状況。
この問題を解決するには、「なぜERPを導入するのか」目的をしっかりと現場に説明し、一丸かつ相互協力が必要になります。変化を嫌う現場の声を無視して導入を押し通した結果、かえって現場の負担が増えてしまっては本末転倒です。
④セキュリティ対策も考えておく
外部のサーバーを活用するクラウド型の場合、情報は自社ではなく外部に置いてある状況になります。データセンターはどこにあるのか、ベンダーはどのようなセキュリティ対策を取っているのかなどは必ず確認しておきましょう。
オンプレミス型の場合、自社セキュリティとの親和性が取れているか、事前に確認しておきます。