自社株の利益を従業員へ還元するアメリカの報酬制度の1つがESOP(イソップ)です。これを参考にした日本版ESOPが今、注目を集めています。これから導入を検討している企業に、アメリカのESOPと、日本版ESOPについて、またそのメリット、デメリットを紹介します。
ESOP(イソップ)とは?
ESOPは1950年代にアメリカの投資家で経済学者であるルイス・ケルソにより提唱された制度です。
ESOPはイソップまたはイーソップと発音し「Employee Stock Ownership Plan(従業員による株式所有計画)」の略で、企業が自社株を買い付けて、退職金や年金として従業員に分配する制度です。
ケルソは1929年の世界大恐慌直後、富が偏在することで社会主義的な動きが出て民主主義社会が崩壊してしまうことを危惧し、従業員に富を公平に分け与え、経済格差をなくす方法を模索しはじめました。そして、1950年代になってこのESOPを形にしました。
このアメリカの制度を参考にしたものが、日本版ESOP(J-ESOP:株式給付信託)です。日本版ESOPは、アメリカのオリジナルESOPとは少し違い、「持株会型」と「退職給付型」の2つのタイプがあります。
「持株会型」という名前のために、従業員持株制度と混同されやすいですが、従業員持ち株制度をさらに発展させた形と言えます。一方の「株式付与型」はアメリカのESOPに近い形になっています。
日本版ESOP(J-ESOP:株式給付信託)「持株会型」と「株式付与型」
日本版ESOPでは、「株式付与型」よりも、「従業員持株会型」を採用する企業が多くなっています。これは、ほとんどの上場企業が採用している従業員持株会を利用することで、日本版ESOPを導入することができるからと考えられます。
元々あった従業員持株会は加入している従業員の給与や賞与から天引きした拠出金を持株会で取りまとめ、毎月自社株を買い付けていきます。
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一方、日本版ESOP「持株会型」は、金融機関から資金を借り入れて株式市場より数年分の株式を購入して信託します。そこから持株会が毎月一定の株式を買付け、数年後株価が上がれば従業員の利益となり、下落した場合はその損失の補てんは会社が行いますので、従業員は損をすることはありません。
「株式給付型」は、アメリカのESOPに近い制度で、企業が自社で持つ株、または現金を拠出して市場で購入した自社株を付与して信託設定し、一定条件を満たせば退職金の一部として株式を交付するものです。
企業によっては、在職中に一定条件で交付する制度を取るところもあります。こちらも株価が上がれば従業員の利益となりますが、下がった場合は企業が損失補填をすることになります。
このように日本版ESOPの「持株会型」と「株式給付型」は、企業が予め拠出して自社株を購入して信託するという共通点がある一方、従業員側から見ると、「持株会型」は自己資金を出すいわゆる投資であり、「株式給付型」は株式で交付される報酬であるという違いがあります。
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日本版ESOPのメリットとデメリット
企業が日本版ESOPを導入するメリットとデメリットを考えてみましょう。
ESOPでは、企業が予め多額の拠出金を出し、株式をまとめて購入して保持されます。これは信頼できる大株主がひとり増えるようなもので、企業買収などの防衛策となります。
また、自社株の値上がりが従業員の利益につながるため、業績アップを目指して従業員のモチベーションが向上することが期待できます。
デメリットとしては、株価が下落した際は従業員のモチベーションも下がる可能性があることと、損失補填を企業が負担しなければならないことです。
日本版ESOPには、このようにデメリットも考えられます。また、「持ち株会型」などはルイス・ケルソが考えたESOPの「企業が拠出し自社株を買い付け、従業員に給付する」という定義から外れています。
しかし、日本版ESOPは、安定的な株主を確保できるという意味で企業にとって魅力的な制度で、導入を検討している企業はこれからも増えていくと思われます。