エシカル消費とは、さまざまな社会問題に配慮した消費活動のこと。メリットとデメリット、問題点、具体例などを解説します。
目次
1.エシカル消費とは?
エシカル消費(Ethical Consumption)とは、社会問題の解決につながる消費活動のこと。消費者庁の定義では、「地域の活性化や雇用なども含む人や社会、環境に配慮した消費行動」とされています。物やサービスを選ぶあるいは使うとき、好みやこだわりのみを基準とするのではなく、社会問題に配慮しているかも考慮するのがエシカル消費です。
エシカル商品とは?
エシカル商品とは、社会問題や環境問題に配慮した商品のこと。目標は、商品の開発や製造、販売をとおして、「社会や人」「環境」「地域」の問題の解決につなげることです。エシカル商品は、大きく3つに分類できます。
- 労働環境改善や社会的弱者に配慮した商品
- 環境に配慮した商品
- 地域の活性化を目的とした商品
2.エシカル消費でできることの具体例
エシカル消費で重視されるテーマは、「人や社会」「環境」「地域」に、「動物福祉」をくわえた4つです。エシカル消費の具体的な実践例を解説します。
- .人・社会への配慮
- 地域への配慮
- 環境への配慮
- 動物福祉
①人・社会への配慮
企業側ができることは、労働者の搾取(児童労働など)につながる商品の生産を行わないこと。消費者側でできることは、公正公平な取引で販売されている商品や困窮者含めた弱者を支援している企業の商品を買うものです。
フェアトレード商品の購入や活用
フェアトレード商品とは、公平公正な取引で販売されている商品のこと。フェアトレード商品の購入は、労働問題の改善に向けたエシカル消費です。
発展途上国で生産されている商品や原材料を適正価格で仕入れ、現地労働者の労働環境および生活の質の改善を目指します。
②地域への配慮
各地域独自の食文化や特産品に関する商品を購入すると、地域の活性化につながります。具体的な行動として挙げられるのは「インターネットで購入するのではなく、地元の商店で購入する」「伝統工芸品を購入する」「被災地で生産されたものを購入する」など。
地産地消
その地域(地元)で生産された物をその地域で消費すること。地元で生産あるいは収穫される農林水産物や、その地域にしかない伝統工芸品などを購入すると、地域経済の活性化や伝統の保護につながります。
被災地支援
被災地で生産された商品を購入するのもエシカル消費のひとつ。被災で苦しんでいる人の経済復興を支援する活動です。
③環境への配慮
人間社会は、自然環境や自然エネルギーなくして存在できません。しかし物の「大量生産・大量消費・大量廃棄」が行われた結果、自然破壊や資源の枯渇などの問題を抱えました。持続可能な社会の実現に向けて、環境問題に配慮した消費のあり方が求められます。
再生可能エネルギーの利用
再生可能エネルギーとは、枯渇することなく永続的に使用できるエネルギーのこと。具体的には太陽光や風力、地熱やバイオマスなどが挙げられます。
石油や天然ガスのような資源は有限であり、再生利用できません。持続可能な社会を実現するには、再生可能エネルギーの利用率を上げる必要があります。
資源ロスの削減
資源を効率的に消費し、ロスを削減するのもエシカル消費のひとつ。取り組み例として挙げられるのは「エコバックやマイボトルの活用」「節電や節水でエネルギー消費量を減らす」「食品ロスへの対策」などです。
④動物福祉
動物福祉(アニマル・ウェルフェア)とは、動物が感じる苦痛をできるだけ軽減しようという取り組みのこと。対象は畜産動物や実験動物、伴侶動物などです。動物福祉の考えを取り入れた企業や生産者の商品などを購入すると、動物福祉活動を支援できます。
認証ラベルやマークの取得
多くのエシカル商品には、認定ラベルや認証マークがつけられています。主な認定は次のとおりです。
- エコマーク
- JASマーク
- FSC認証
- 国際フェアトレード認証
企業がこれらの認証を取得すると、エシカル商品を販売していると消費者へ周知できます。
3.エシカル消費が必要とされる理由
国内外におけるエシカル消費の注目度は、年々増加しています。エシカル消費が重視される理由や背景について説明しましょう。
- SDGsの達成
- 持続可能な社会への関心の向上
- 非論理的なことを避ける考え方の拡大
①SDGsの達成
エシカル消費は、SDGsの目標達成に欠かせない行動として注目されています。SDGsで定められた17の開発目標のうち、12番目に「つくる責任、つかう責任」があるからです。
- つくる責任:「持続可能な生産」
- つかう責任:「持続可能性を意識した消費」
エシカル消費の実践は、そのままSDGsの目標達成に向けた取り組みといえます。
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②持続可能な社会への関心の向上
持続可能な社会の実現に向けて政府や企業だけでなく、今や消費者も高い関心を持つようになり、エシカル消費の必要性が高まっています。
とくに「人」と「環境」に関する社会問題は、国内外においても重大なテーマ。政府や企業だけで解決するのは困難でしょう。社会問題に配慮し、かつ誰でも気軽に取り組めるエシカル消費は効果的だと考えられています。
③非論理的なことを避ける考え方の拡大
社会問題への関心が高まるにつれ、非倫理的な生産や販売を行う企業に対する風当たりが年々強まっています。
このような企業の商品を忌避し、ボイコットする動きも世界で多く見られるようになりました。世界的に人々の意識や行動が変化したため、エシカル消費を推進する企業も増加しているのです。
4.エシカル消費の問題点
メリットが多いとされているエシカル消費には、課題も多くあります。エシカル消費の問題点について説明しましょう。
- 低い認知度
- 高コスト
- エシカル商品の知名度不足
- 認証マーク取得が困難
①低い認知度
エシカル消費は、日本国内ではまだまだ認知度が低いのが現状です。「エコ」や「ロハス」といった言葉はよく使われているのに比べ、エシカル消費という言葉はあまり浸透していません。言葉と意味をどのように広く浸透させるか、が課題のひとつです。
②高コスト
エシカル商品は、ほかの商品に比べて高価になる傾向にあります。サプライチェーンにおいて特殊な管理が必要となり、生産コストも高くなりやすいからです。そのためエシカル消費では、生産する企業も購入する消費者も経済的な負担が大きくなります。
③エシカル商品の知名度不足
エシカル商品もまた、一般的な商品に比べて知名度は高くありません。コストの面から製造や販売ができる企業が限られてしまい、消費者が小売店でエシカル商品を目にする機会が少ないからです。
エシカル商品は、貧困や環境などの社会的な問題への配慮を最優先としているため、デザインや機能性などが劣る場合もあります。
そのため消費者は「デザインがよくない」「値段が高い」「機能性が乏しい」などデメリットが目について、なかなか購入に結びつかないのです。
④認証マーク取得が困難
認定ラベル(認証マーク)の取得で自社のエシカル商品をアピールできるものの、認証の手間とコストがかかってしまいます。またしエシカル商品自体の認知度が低いため、コストをかけて販売してもなかなか売れない、という負のサイクルに陥りやすいのです。
5.エシカル商品に取り組む際のポイント
企業がエシカル商品の利活用に取り組む際は、社会問題の解決という視点と情報開示が重要になります。エシカル商品に取り組む際のポイントを2点説明しましょう。
- 社会問題解決を意識
- サプライチェーンの透明化
①社会問題解決を意識
エシカル商品を製造や販売・利用するにしても「どのような社会的問題を解決したいのか」の意識が大切です。この意識があれば、エシカル商品の利活用以外にも、自社が社会問題の解決に対して貢献できることが見つかる可能性もあります。
②サプライチェーンの透明化
企業側がエシカル商品を提供する際、消費者からサプライチェーンの透明性が求められます。サプライチェーンとは原料調達・生産・販売といった一連の流れのこと。一連の流れのなかで非倫理的なものがないかどうかを明確にし、その情報を公開しましょう。
6.企業がエシカル消費に取り組むメリット
企業がエシカル消費に取り組むメリットでとくに大きいのは、企業価値や競争優位性の向上と、顧客の獲得です。ここでは3つのメリットを解説しましょう。
- 企業イメージの向上
- 若年層のファン獲得
- 他社との差別化
①企業イメージの向上
エシカル消費に取り組むと、社会問題に配慮した企業として健全かつ優良なイメージを与えられます。エシカル消費を経営の一部に組み込んで長期的に実施すればよいイメージが定着し、消費者はもちろん投資家や国からの評価も高まるでしょう。
新たな顧客の獲得や投資の増加、優秀な人材の確保や既存事業の業績アップなども期待できます。
②若年層のファン獲得
社会活動に関心を持つ若者が増加しているため、エシカル消費をアピールすると若年層ファンの獲得につながります。
近年、SNSをとおして社会問題の情報とその拡散が進み、若者の意識と消費活動に変化が現れてきました。
エシカル消費といった社会活動に参加している若年層は4割以上といわれています。自社のエシカル消費を、このような若年層へのアピール材料として活用できるのです。
③他社との差別化
エシカル消費は、他社と差別化を図る要素になりえます。エシカル消費は国内でまだ広く普及していません。いち早くこの分野に参入すれば、他社との差別化および他社をリードする存在になり、競争優位性を高められるのです。
7.企業がエシカル消費に取り組むデメリット
企業のエシカル消費の参入における主なデメリットは、「コスト」と「ニーズ」です。それぞれについて解説します。
コストの発生
エシカル商品の提供ならびに消費、どちらにおいても、一般の商品よりも多くの手間と費用がかかります。認証マークを取得する場合、そのコストも必要です。
また認証を得て商品を販売できても、必ずしも予想どおりの売上を得られるとは限りません。これらの点からエシカル消費に参入しても、期待する費用対効果が得られない可能性があります。
高くないニーズ
国内におけるエシカル消費の認知度は、まだまだ低いもの。認知度が低い分、売り上げの面ではやはり懸念があります。そのため需要の大きくない分野のエシカル消費へ参入するのは危険だと判断し、取り組みを見送る企業も少なくありません。
8.エシカル消費の取り組み事例
日本でエシカル消費に取り組んでいる企業も増えてきました。ここでは大手3社の取り組み事例をご紹介します。
- 花王
- イオンリテール
- 日本マクドナルド
①花王
花王が取り組んでいる主なエシカル消費は、「詰め替え用ボトルの推進」と「リサイクリエーション」のふたつです。
詰め替え用ボトルの推進は、プラスチック使用量の削減や、海洋プラスチックごみ問題の解決を目的とした取り組み。従来と比べて70%以上のプラスチック削減に成功しました。
リサイクリエーションでは、回収した使用済みフィルム用品を別の材料として再生し、地域に還元する取り組みを行っています。
②イオンリテール
イオンリテールでは、2000年にエシカルファッションブランド「セルフ+サービス」を立ち上げました。
主な取り組みは、環境問題に配慮した素材の使用やリサイクルの実施(衣料品の回収と再生)、カーボンオフセットなど。このブランドの商品を買うと、消費者は環境保護に協力できます。
2022年には、セルフ+サービスの店舗数は350店を超え、イオングループのブランドとして定着しました。
③日本マクドナルド
日本マクドナルドでは、食品廃棄の削減を目指して「MFY(メイド・フォー・ユーシステム)」を導入。このシステムは、顧客から注文を受けてから商品の調理を行うもので、2005年までに全店での導入が完了しています。
導入の結果、完成品の廃棄量は以前に比べて半分以下に減少。使用済みフライオイルも、飼料として100%リサイクルしています。