エバンジェリストは、IT業界における新しい職種として注目されています。ここでは、エバンジェリストという名前の意味、その役割、活動の内容、必要性や能力について見ていきたいと思います。
日本国内でも有名なエバンジェリストがいます。実際に活躍している人物にも焦点を当てて、その本質に迫ってみましょう。
目次
1.エバンジェリストの意味とは?
エバンジェリストとは、IT業界で近年注目を集めている新しい職種のことです。もしくは、その役割を担っている専門的な人材のことです。
エバンジェリストの役割とは、最新のテクノロジーを大衆に分かりやすく解説したり、啓蒙することです。エバンジェリストの活動に注目するようになった企業も増加傾向にあり、ポストを新設し、適した人材を配置する企業も見られるようになってきました。
エバンジェリストは企業内だけでなく外部に対しても、イベント講師や、製品、サービスのプレゼンテーションといった活動も行っています。
テクニカルエバンジェリストの登場
アップル社では1984年に、パソコンの自宅使用の必要性を説いたり、競合他社との優位性を示す宣伝活動をする必要がありました。そこで、テクニカルエバンジェリストのポストを設置し、新しい商品や習慣の導入を大衆に働きかける専門家としての役割を担わせました。
同じように、マイクロソフト社もテクニカルエバンジェリストのポストを設置します。これらをきかっけに、「エバンジェリスト」という職種が一気に認知されるようになりました。
伝道師(evangelist)から
エバンジェリストとは、キリスト教における伝道者のことです。
ドイツの神学者であるルターは、イエスの教えに回帰することを説く自らをエバァンゲリスト(福音主義者)と呼びました。
この言葉は現代のIT業界においては「ITの技術的話題を社内外に広く解りやすく布教する」という意味に置き換えられて認識されています。
エバンジェリストの必要性
IT業界は急速な進化を遂げています。あまりの進化の速さによって、ビジネスシーンでは難解なITの技術的話題や進歩の過程を交渉相手にわかりやすく伝える必要性が求められるようになってきました。
エバンジェリストは、ITの技術的な内容を的確に分かりやすく説明し、理解してもらうことをミッションとしています。
エバンジェリストの活動は、難解なテーマを解読し説明することで、新しいビジネスチャンスを生み出す原動力になっているのです。
営業との違い
エバンジェリストと営業との違い、対象となるユーザーやそのの接し方といった面から考えてみましょう。
ユーザー対象
一般的に営業は、自社のサービスや商品に関係のある、もしくは興味を持ってくれている「お客様」に対してセールス活動を行います。
一方、エバンジェリストのターゲットは、いわゆる不特定多数の人々です。セミナーやソーシャルメディア、競合他社とのパネルディスカッションといった場面で活動を行っている点が、営業との相違点です
ユーザーとの接し方
ユーザーとの接し方でも両者には違いが見られます。
営業は、「お客様」から受注するまで付きっきりでフォローにあたります。一人の営業が 担当する数は、エバンジェリストに比べると少ないといえます。
一方、エバンジェリストは不特定多数の人がターゲットになるので、大変多くのお客様と接します。技術的話題を欲している場所に行って1回から数回のセミナーの開催を繰り返すことで、業界全体の話題や課題などを多くの人たちから集められるといった特徴もあります。
2.エバンジェリストの仕事・具体的な活動内容
エバンジェリストは、技術の話や一般的には難しい話題を、専門外の人たちに広く分かりやすく説明することをミッションとしています。ここでは、エバンジェリストの具体的な活動や仕事の内容について見てみましょう。
①イベント等でのプレゼンテーション
イベント等でのプレゼンテーションは、エバンジェリストの仕事の根幹ともいえる、非常に重要な活動とされています。エバンジェリストは、自社の製品やサービス、技術などについて、大勢の人を前にプレゼンテーションを行います。
ここで注意したいのは、プレゼンテーションとは「相手に伝え、相手を動かすこと」を目的としている点です。エバンジェリストは自分の話を聞いた相手が何らかのリアクションを起こすように促さなければなりません。
プレゼンテーションによって価値を理解してもらい、新製品を購入してもらったりサービスの申し込みをしてもらったりと、相手を動かして結果を出すことまでがエバンジェリストの役割となっています。
②プリセールスエンジニア:個別デモンストレーション
エバンジェリストは、実際に新製品やサービスを導入している、もしくは導入しようとしているユーザー企業に対して個別にデモンストレーションを展開することも役割の一つです。
通常のエバンジェリストに求められる「相手に伝え、相手を動かす」が実現できるプレゼンテーションのほか、ユーザー企業の内情に合わせたオリジナルの提案や啓蒙内容の提供が求められます。ほかにも、代理店やパートナー企業への説明や提案なども含まれます。
③インナーマーケティング
インナーマーケティングとは、自社の社員に対して新製品やブランドイメージ、製品開発やサービスの向上について、さらに顧客対応など企業文化や技術を理解してもらうために行う啓蒙活動やプレゼンテーションのことです。啓蒙した内容が社員に定着すると、意識向上や業務クオリティの向上も期待できます。
エバンジェリストによるユーザー企業へのマーケティング活動はもちろんですが、企業マーケティング戦略や顧客満足度向上の取り組みの一環として、インナーマーケティングも重要な活動です。
④その他の付随する業務
エバンジェリストの仕事は、プレゼンテーションやマーケティングのほかに製品やサービスの研究や資料作成などがあります。
トレンドに関する情報収集も、エバンジェリストの重要な仕事となっています。研究した内容や作成した資料、収集した情報は、エバンジェリスト自身が行うセミナーやマーケティング活動で活用していきます。
3.エバンジェリストになるには? 必要な能力・条件
エバンジェリストは、プレゼンテーションやマーケティング、情報収集や資料作成など、さまざまなジャンルの活動をする必要があります。
プレゼンテーションもユーザー企業から代理店、パートナー企業、自社の社員までと非常に多くの人に向けて行います。このような状況から、エバンジェリストには多様な能力が求められます。
ここではいくつかの必要な能力や条件についてみていきます。
参考 『エバンジェリストの仕事術』Amazon.co.jpエバンジェリストに必要な能力
エバンジェリストには以下の4つの能力が必要であると考えられています。
- プレゼン能力
- 対話能力
- テクノロジーに関する専門性
- 学び続ける力
①プレゼン能力
一般のエンジニアなどは、技術にだけ向き合っていれば仕事が完結するケースが多いのですが、エバンジェリストの場合はそうはいきません。
ユーザー企業などを相手にプレゼンテーションを展開する機会も多くあるので、相手を引き付けるプレゼン能力は必須といえるでしょう。
②対話能力
相手が理解しているかを常に対話の中で探りながら話しを進める必要があります。対話能力も、エバンジェリストに不可欠な要素です。
③テクノロジーに関する専門性
正確な情報を伝え、説得力のあるプレゼンテーションを行うためには、テクノロジーに関する専門性を持つことが重要です。
④学び続ける力
最新、最先端のテクノロジーに関する情報収集も欠かせません。広域にアンテナをはって学び続けるということは、欠かせない力です。
エバンジェリストへキャリアチェンジがしやすい職種
エバンジェリストの活動がクローズアップされるに従い、キャリアチェンジがしやすい職種があることが分かってきました。その職種とは、エンジニアとITコンサルタントです。
それぞれの特徴を見ていくことにしましょう。
エンジニア
エンジニアが持つスキルでエバンジェリストと同程度に求められるものは、開発能力やシステム運用能力といったシステム開発に関するものです。また、コミュニケーション能力を伴った最新技術に関する知識、業務をスピーディーにこなす能力といったものもエバンジェリストと同程度に求められます。
一方、エバンジェリストほどに求められない能力は、設計能力や危機回避能力、プレゼン能力、対話能力、情報発信能力などのコミュニケーション能力です。
ITコンサルタント
エバンジェリストと同程度に求められる能力は、設計能力などのシステム開発能力や、ヒアリング能力、プレゼン能力、対話能力、危機回避能力といったコミュニケーション能力です。最新技術の知識といった高い専門性も、エバンジェリストと同様に保持することが求められます。
一方、エバンジェリストに求められる、一つの製品やサービスにこだわりを持つことは、ITコンサルタントにはそれほど求められません。キャリアチェンジしやすい職種といっても、求められる能力が違いますので、個人の資質に合ったキャリアを創造していくとよいでしょう
4.企業事例と日本の著名なエバンジェリスト
エバンジェリストを上手に活用している企業事例とともに、日本の著名なエバンジェリストを具体的にご紹介しましょう。どちらも、確固たる信念を持って活動を続けており、日本のエバンジェリストの歴史に名を残す人物といえる存在感があります。
日本マイクロソフト:西脇資哲氏
日本マイクロソフトの西脇資哲氏は、日本のエバンジェリストを代表する一人といわれています。「顧客の視点を持つ」「製品に愛着と自信を持つ」ことをモットーにして、「相手を動かす」プレゼンテーションを日々展開しています。
西脇氏はさまざまな製品やサービスがしのぎを削る中、「観衆との一体感を高めるプレゼンテーション」を通して顧客の問題解決をサポートするために、製品やノウハウを分かりやすく説明し続けています。「相手を動かす」ことが究極の目的であり、西脇氏は多様なプレゼン技術を精力的に編み出し、視点誘導を行っています。
元アマゾンデータサービスジャパン:玉川憲氏
元アマゾンデータサービスジャパンの玉川憲氏も、エバンジェリストの代表格です。
技術畑一筋できた玉川氏が一念発起したきっかけは、「世の中の流れ」を痛感したときでした。玉川氏は、エバンジェリストの役割を「いいものをいいと言うこと」という本質を見抜く目だと指摘しています。本心からお客様に喜んでもらえると確信を持ったプレゼンテーションに、多くの人は引きつけられるということです。
「テクノロジーイノベーションは世界を変えられる」という自信を持って、セレンディピティをつかまえにいきたいという玉川氏は、エバンジェリストの経験をもとに、活動の場を広げています。
まとめ
エバンジェリストは、システム開発の能力だけでなく、コミュニケーション能力やその資質が必要な職種です。保有している能力によっては、ITコンサルタントやエンジニアからのキャリアチェンジも可能でしょう。日本企業でも、エバンジェリストの活動は広く認知されつつあります。
今回の記事を参考に、社内にプレゼンテーションやマーケティングの舞台で活躍できるエバンジェリストのポストを設置するきっかけにしてみてはいかがでしょうか。