ファブレス経営とは? メリット、弱点などをわかりやすく解説

ファブレス経営は有名企業で広く普及したビジネスモデルです。しかし、ファブレス経営の導入においては、概要や効果だけでなくメリット、デメリットまで理解しなくてはなりません。

一体、ファブレス経営とは何でしょう。

1.ファブレス経営(の意味)とは?

ファブレス経営とは自社で生産設備を持たない経営方式のこと。製品の生産はすべて他社に委託します。

メーカー、製造業という言葉は作り出す人、または企業という意味です。しかしそれは物理的に作ることだけを指す言葉ではありません。

半導体工場=「ファブ」

ファブレスとは工場(Fab)がない(Less)という意味です。ファブレスメーカー自体は、開発や設計、マーケティングを主な業務とします。

通常のメーカーは、生産設備に資金を投入して製造を行いますが、ファブレスにすることで競争力の源泉となる研究開発に資金を集中でき、市場変化にも対応しやすくなるのです。

ファブレスメーカーとは?

ファブレスメーカーは工場がない点以外では、製造業としての性質を保っています。独自性のある商品やサービスを生む・作るという機能を持つからです。ファブレスメーカーは現代における成功する製造業の在り方の一つといえるでしょう。

具体例①アップル(米国)

アメリカのアップルはファブレスメーカーの中でも特に有名な企業です。スティーブ・ジョブズは自社製品iPhoneを革新的製品と表現しましたが、それは製品そのものというよりもiPhoneがもたらす付加価値を示します。

iPhoneのデザインや操作性といったハード面だけでなく、ゲームや音楽などのソフトを充実させて顧客にとっての価値を創造したのです。アップルは基本、自社で工程をコントロールしながら、部分的に韓国や台湾のEMS企業に委託しています。これにより品質維持とコストダウンを成功させたのです。

具体例②キーエンス(日本)

ファブレス経営で大きな成功をおさめた日本企業がキーエンス。一貫生産ではなく、製造は国内外の協力会社にアウトソースしたことで、最適な技術や生産ラインを持つ工場を柔軟に選択できるようになりました。

新製品を開発するたびに最適な生産ラインや工場をつくるとコストがかかります。人材を配置しなければならないでしょう。キーエンスは工場を持たない選択により、最先端を走り続けているのです。

具体例③無印良品(日本)

私たちの身近にあるファブレスメーカーといえば無印良品でしょう。良品計画は「ブランドではないブランド」というコンセプトで無印良品を立ち上げました。無印良品の製品はこの一貫したブランドコンセプトの下、製造や流通、販売がコントロールされています。

無印良品は工場直発注で生産調達していますが、無印良品のためにデザインされたもの以外は扱わず、さらに無印良品のためにデザインされたものは他ブランドで販売することはありません。

無印良品はブランド力を武器に独自性を保つことで他の企業にはない立ち位置を確立したのです。

具体例④任天堂(日本)

次々に新しい発想のゲームを発表する任天堂もファブレスメーカーでしょう。生産委託先の協力企業で生産しており、現在は中国での生産が中心です。

ゲームなどのデジタル機器は製品サイクルが短いですし、同製品をずっとつくり続けるのなら、自社工場を構えたほうがメリットは大きいでしょう。しかし、ファブレス化することで、製品が失敗したとしても最小限のコストで撤退が可能です。

ファブレス経営の誕生と歴史

ファブレスメーカーは、大規模な工場や施設を必要しません。資金を必要とせずに、アイデアや開発力を武器に事業を始められるシステムです。

ファブレスメーカーというビジネスモデルが生まれたのは1980年代だといわれています。この時代はちょうどパソコンの黎明期。

チップス・アンド・テクノロジーズという企業をご存じですか?1985年に創設された企業で、ファブレスメーカーでした。今から30年以上前に生まれたファブレスメーカーの先駆けです。

ファウンドリとは?

ファブレスメーカーが一般的になる最中、もう一つビジネスモデルが生まれました。それが設計は行わず受託製造のみを行うファウンドリというビジネスモデルです。

お分かりでしょうか?ファブレスメーカーとファウンドリメーカーは共存関係にあり、互いに垂直分業しながら発展していくのです。

ファブレスメーカーが初期投資を必要としない一方、ファウンドリメーカーは製造ラインが必要になります。そこで開発段階からファブレスメーカーと連携してシナジー効果を生み出すビジネスモデルに発展しました。

ファブレスメーカーとファウンドリメーカーの関係・メリット

ファブレスメーカーとファウンドリメーカーは共存関係にあるため、共同開発などを行うことも。

ファブレスメーカーはファウンドリメーカーと仕事することで工場への投資をせずに済み、コストや時間を開発設計に集中できます。そのためファブレスメーカーはベンチャー企業が多いアメリカで発展しました。

一方でファウンドリメーカーはファブレスメーカーと共同開発を行うことでノウハウや技術が供与されるのです。ファウンドリメーカーは生産コストを抑えられる台湾などのアジアを中心に発展を続けています。

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2.ファブレスできる・しやすい業界・業種例(形態・方式の特徴)

既存のメーカーもファブレスに移行することで、コストや時間面でのメリットを享受できます。しかしファブレスしやすい業種とそうでない業種があるのです。ファブレスしやすい企業の条件とはどういったものなのでしょう。

半導体メーカー

ファブレスメーカーはもともとアメリカのシリコンバレーで生まれたビジネスモデルです。半導体業界は製品のサイクルが短く、半年もすれば新製品が次々に投入されるような業界。常に最先端の製造設備を用意しようとすれば膨大な費用がかかるでしょう。

そこで生まれたのが半導体のファブレスメーカー。設備投資の減少とスピーディーな市場の変化への対応を可能としたビジネスモデルです。ファブレスメーカーは、半導体という製品の性質にマッチしました。

デジタル機器メーカー

製品サイクルが短い点ではデジタル機器メーカーも同様でしょう。デジタル機器も半年程度で続々と新製品が投入されます。

またデジタル機器はさまざまな部品をつなげて動かすシステム。それぞれの部品を外注することで安価に効率よく新製品を世に出すことが可能です。消費者も実用性重視の消費志向に変わってきており、ローコストでありながら基本的な機能を備えた製品は受け入れられやすいでしょう。

飲料メーカー

ファブレス経営は飲料メーカーでも採用されています。高度成長期、自動販売機の普及促進に尽力したダイドードリンコは実は創業以来ファブレス経営を行っている企業です。

地域に密着して営業したことで配送コストを軽減。さらに自動販売機自体がブランドの知名度向上に寄与しました。ファブレス経営によって同業他社にない商品開発に力を注ぐことができたことも勝因といえるでしょう。

インテリアメーカー

  1. 創造的デザイン
  2. 信頼される品質
  3. 適正な市場価格

これらを三則とするインテリアメーカーサンゲツもファブレス経営を選択した企業です。

三則で生み出された製品はジャストインタイムで届けられます。自社で企画やデザインを行うとともに、全国の物流ネットワークを駆使し、堅調な売り上げをキープ。商品ごとに最適のメーカーと提携できることから品質とコスト面で優れた製品を生み出すことに成功しているのです。

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3.企業がファブレス化を進める理由〜ファブレス経営のメリット〜

ファブレス経営の選択が意味することは経営や事業の見直し。これは企業にとって大きな決断になるでしょう。メーカーといえば物を作るところ。このようなうイメージも根強い中、あえて工場を持たないファブレス経営を選択することにどのようなメリットがあるのでしょう。

以下の順に説明します。

  1. 初期投資をミニマムに抑えられる
  2. 経営資源を開発投資に集中できる
  3. 製造費を下げられる
  4. 市場の変化に柔軟に対応できる

①初期投資をミニマムに抑えられる

ファブレス経営は半導体に限らず、さまざまな業種で採用されています。ファブレス企業の共通点は、

  • 工場を持たない
  • 高収益企業
  • 高い利益率を保持している

などが挙げられるでしょう。この要因は、ファブレス化によってコストを抑えていることと考えられます。需要の変動や市場の変化に合わせて生産を行うには高額な設備投資が必要です。

しかし、製造を委託すれば初期投資も少なく、設備投資の償却コストを軽減できるでしょう。そのコストが減った分だけ、損益分岐点を大幅に引き下げることができるのです。事業が軌道に乗らず撤退、というケースでもファブレス経営を選択していれば撤退時のコストは最小限になるでしょう。

②経営資源を開発投資に集中できる

ファブレス経営を行うと、資金や人材を最小限に抑えられます。結果、生産設備に投入する資金や人材を研究開発に集中できるのです。

研究開発は企業の競争力の原点であり、差別化を図るための重要な要素。ファブレス企業が行っているのは、モノづくりにとどまりません。

  • 企業のブランド力
  • コンセプト
  • 開発力

といった高い付加価値を付与するコトづくりなのです。

③製造費を下げられる

ファブレス経営で製造を他社に委託すると製造費が削減できます。製造能力や生産機動力に優れたファウンドリメーカーを選択すれば、スケールメリットを享受し、コストダウンを図れるでしょう。加えて外注先を複数に分散すれば、

  • 納期の短縮
  • 製造量の調整が可能

といったメリットも生まれるのです。

④市場の変化に柔軟に対応できる

ファブレス経営は特に企画設計や開発力に強みがある企業に向いた経営手法です。ファブレス経営にすることで資金が固定化しないため市場の変化にも柔軟に対応できます。事業におけるリスクの軽減にもつながるでしょう。

また初期投資が要らないため、ベンチャー企業など資金力がない企業でもファブレス経営であれば、資金に頼ることなく急成長を目指すことができるのです。

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4.課題・弱点もある?〜ファブレス経営のデメリット〜

ファブレス化による弊害はあるのでしょうか?ゼロではありません。自社で工場を持たないことでさまざまな問題が生じる可能性もあるのです。ファブレス経営の導入前にデメリットや、講じる対策についても考えておきましょう。

  1. 生産管理・品質管理をしづらい
  2. 機密漏洩リスクがある
  3. 生産過程でのノウハウを得られない

①生産管理・品質管理をしづらい

ファブレス経営では自社で製造をせず、他社に委託するかたちで自社製品を生み出します。つまりそれは目が届かない外注先の製造工程で作られるということ。品質を保つための施策は欠かせないでしょう。

特に大量の製品を製造する際には生産管理や品質管理のシステム化が必要です。こまめにチェックするだけでなく、信頼できるパートナーとなる製造先を選定することも企業の戦略でしょう。

②機密漏洩リスクがある

ファブレス経営は委託先に関するリスクも考えなくてはいけません。製品には自社のノウハウやテクノロジーが詰まっています。製造をを他社に委託することで、

  • 情報漏洩
  • 類似製品の製造

といったリスクが考えられるのです。外注先を選定する際にはリスクがないか、信頼できるところか、慎重に進めましょう。次いで、万一を考えて対処法や責任の追及に関する取り決めをすることも必要です。

②生産過程でのノウハウを得られない

ファブレス経営を行うことのデメリットは自社にもあります。

自社で製造をしないということはモノづくりから離れるということ。結果本来自社で得られたはずのノウハウが集積されないこともあるのです。生産過程で得られた技術が新製品の開発に役立つことは珍しくありません。

ファブレス経営の選択によって、新しく得られたはずの知見を捨ててしまう可能性もあるのです。