ファクタリングとは、売掛負債を売却して現金化する資金調達方法のことです。ここではファクタリングの歴史やほかの資金調達方法との違い、ファクタリングの仕組みなどについて解説します。
1.ファクタリングとは?
ファクタリングとは、売掛負債を買い取るサービスのこと。もともとイギリスにて始まった仕組みで、必要な資金を短時間で調達できる面から、国内でも注目を集めるようになりました。
資金調達方法のひとつ
「ファクタリング」は借入や融資と同じく、資金調達方法の1つです。売掛負債を第三者に譲渡、売却して資金を調達します。
売掛負債とは「掛取引(信用取引)」で発生した売掛金や受取手形のこと。通常、掛取引の代金が入金されるのは取引の1~3か月後です。
しかし入金前のタイミングでファクタリング会社に売掛債権を売却すると、早期に現金化できます。これがファクタリングの基本的な手法です。
掛取引とは?
「掛取引」とは、期間内の取引金額をまとめて後払いで精算する取引方法のこと。商品やサービスの提供時は代金を支払わず、後日定められた期日までに代金を精算するのです。
企業同士では基本、商品の販売や仕入れを行う際、現金を用いずに「信用」で取引します。代金を後日支払うこの仕組みはお互いの「信用」がなければ成り立ちません。そのため「信用取引」と呼ばれる場合もあります。
ファクタリングの歴史
ファクタリングの誕生には諸説あり、14世紀もしくは16世紀に誕生したとする説が有力です。当時のイギリスには売掛債権を買い取る「ファクター」という組織があったといいます。彼らは交易人を対象に現金の前貸しを行っていました。
この仕組みがアメリカ大陸の植民地と交易をするために発展。日本に伝来したのは1970年頃といわれています。
ファクタリングが注目される背景
中小企業の多くは、必要な運転資金を金融機関からの借り入れだけでまかない切れていません。経営者個人の拠出や借り入れなど、融資以外の手立てを必要としています。なぜなら中小企業の借り入れ金額が少額かつ短期なためです。
融資する金融機関はコストや労力をかけているにもかかわらず、得られる金利が少なくなります。さらに新型コロナウイルス拡大にともなう売り上げの急減もあり、ファクタリングへの注目は高まる一方です。
2.ファクタリングとほか資金調達方法との違い
資金調達方法は以下の3つに分かれます。それぞれとファクタリングとの違いについて説明しましょう。
- 借入や融資
- 手形割引
- ABL(売掛債権担保融資)
①借入や融資との違い
まずは金融機関や公的機関から借入、融資を受ける方法です。資金調達で真っ先に相談する窓口は銀行だという人も多いでしょう。
銀行では融資以外にもさまざまなローンを取り扱っており、法人や個人を問わず利用できるため、調達先の選択肢が多いです。またファクタリングと違い、銀行融資では融資金から手数料が差し引かれないという強みもあります。
②手形割引との違い
「手形割引」とは、満期を迎える前の手形を第三者に譲渡して現金化すること。手形割引の場合、受取人は取引銀行もしくは手形割引業者に手形割引を依頼します。
依頼を審査し、とおれば割引人(手形割引を行う人)から、割引依頼人(受取人)に利息や手数料を除いた金額が支払われるのです。手形割引には利息や手数料が発生するため、満期に比べて金額は減るものの、現金を即時に受け取れます。
ファクタリングとの違いは、債券不履行になった場合の責任です。ファクタリングには債権を譲渡するための返済義務はありませんが、手形割引には買取請求できる権利があります。
手形とは?
「手形」とは、代金の支払いを約束する証明書のこと。一定期間を空けてから支払いをしたり手元に現金がなかったりする際、支払いを約束する証明書として「手形」を発行します。買い手は代金の支払いを先送りにし、手元の資金を温存できる方法です。
支払期限が来ていない手形を金融機関などの第3者に買い取ってもらい、現金化する仕組みが「手形割引」となります。
手形取引は減少
ファクタリングの浸透にともない、手形取引は減少傾向にあるのです。手形取引高のピークは1990年の約4,797兆円。バブルの崩壊にともなって1991年以降は減少が続いており、2017年には約374兆円と、ピーク時から比べて7%程度に落ち込んでいます。
手形取引が減少した理由は「手形取引にかかるコスト」と「流動性の低下」といわれているのです。
③ABL(売掛債権担保融資)との違い
「ABL(Asset BasedLending アセットベーストレンディング)」とは売掛金が存在する際にそれを「担保」として提供し、金融機関から融資を受ける仕組みのこと。
ファクタリングは売掛債権を「売却」して資金を調達する仕組みですが、ABLは売掛を担保に「融資」を受ける行為です。
ABLとは?
ABLでは売掛債権や商品の集まりなどを「担保」として金融機関に提供します。そこで浮かんでくるのが「商品の在庫を担保として提供しては営業ができなくなるのでは」という疑問です。
ABLでは所有権を債権者に譲渡したうえで担保物を取り扱える「譲渡担保」を設定します。これにより、事業者は担保として提供した在庫も販売できるのです。
自社が抱える債権や在庫などを担保として融資が受けられるABLは、担保に乏しいスタートアップ企業にとって利用しやすい制度といわれています。
3.ファクタリングの仕組み
ひとことで「ファクタリング」といってもさまざまな種類のサービスが存在します。ファクタリングの仕組みを見る際は「債権を保証するのか、買い取るのか」に注目しましょう。
2社間ファクタリング
「2社間ファクタリング」とは、「利用者」と「ファクタリング会社」の2社間で行われる取引のこと。「売掛先に債権譲渡の事実通知や承諾が不要・債権譲渡登記も不要」という点から、取引先に信用不安を与えずに資金調達が行えます。
手続きがシンプルな2社間ファクタリングは最短即日から数日と、資金調達のスビードも速いです。ただし手数料が2~20%とやや高めに設定されている点はデメリットでしょう。
3社間ファクタリング
「3社間ファクタリング」は、3社間の契約にもとづいて行われる資金調達取引のこと。
- ファクタリング会社(ファクター)
- ファクタリングを利用する会社(納入企業)
- 支払企業やクライアント(売掛先)
3社間ファクタリングには売掛先に債権譲渡の通知、承諾が必須という条件があります。そのため2社間ファクタリングに比べて入金までの時間はかかるものの、手数料は1~5%と低めに設定されているのです。
4.ファクタリングのメリット
機動的な資金調達を可能にするファクタリング。そのメリットは大きく分けて次の3つです。ここではファクタリングのメリット3つについて説明します。
- 財務状況にかかわらず資金調達が可能
- 企業の信用情報や決算書に影響しない
- 独自基準による審査のとおりやすさ
①財務状況にかかわらず資金調達が可能
ファクタリングでは売掛先の与信を重視します。これはファクタリング会社にとってのリスクが売掛金の支払いに左右されるためです。
反対に債権の売却を申し込んだ企業の経営状況は大きく影響しません。仮に自社では赤字が続いていても、売掛先の信用力が高ければファクタリングを利用できる可能性が高いのです。
②企業の信用情報や決算書に影響しない
ファクタリングは融資と違い、売掛債権の売買となります。融資やビジネスローンの利用では会計上の負債が増えるものの、ファクタリングでは売掛金が解消されるだけで負債には影響しません。
つまり利用しても自社の信用情報として記録に残らないのです。信用情報を守りたい中小企業や個人事業主にとって大きなメリットになるでしょう。
③独自基準による審査のとおりやすさ
ファクタリングで審査するのは主に次の点です。
- 本当に存在する売掛金なのか
- 期日は長過ぎていないか
- 定期的に発生しているか
売掛債権の売買となるファクタリングには保証人や担保も必要ないため、資金調達のスピードが速いのです。
5.ファクタリングのデメリット
自社の財務状況にかかわらず資金調達できたり、最短即日で資金調達ができたりといくつかのメリットを持つファクタリングですが、同時にデメリットも存在します。ここではファクタリングのデメリットを3つ説明します。
- 手数料が高い傾向にある
- 3社間ファクタリングは売掛先に知られてしまう
- 全額回収できるとは限らない
①手数料が高い傾向にある
融資や借入に比べ、ファクタリングは手数料が高い傾向にあります。銀行融資の場合は低ければ1%台、高くても10数%です。しかし3社間ファクタリングの場合は売掛金額の1~9%、2社間ファクタリングの場合は15~30%もの手数料が発生します。
ファクタリング会社が貸倒リスクを負うため、手数料が生じるのです。無計画な利用はキャッシュフローの悪化を招く恐れがあるため注意しましょう。
②3社間ファクタリングは売掛先に知られてしまう
2社間ファクタリングではファクタリング利用者とファクタリング会社だけで取引が行われるため基本、ファクタリングの利用を売掛先企業に知られることはありません。
しかし3社間ファクタリングでは売掛先企業も交えて取引を行うため、契約の内容によっては資金繰りが悪いのではと疑われる可能性があります。売掛先企業からの信用が落ち、関係が悪化する恐れもあるのです。
③全額回収できるとは限らない
ファクタリングなら売掛債権の全額買取ができると考えている人もいるでしょう。残念ながらファクタリングにも「掛目(担保評価をする際、時価よりも低く評価する割合)」が存在するのです。
もちろんこの掛目を100%で買取を行うファクタリング会社もあります。なかには審査結果によって掛目を設定するファクタリング会社も存在するため、利用の際は見極めが必要です。
6.ファクタリングの種類
先に少し触れましたが、ひとことでファクタリングといってもさまざまな種類が存在します。サービスの種類によってターゲットや用途が異なるため、利用の際は注意が必要です。ここでは代表的なファクタリングサービスをいくつか説明します。
- 買取ファクタリング
- 保証ファクタリング
- 商品在庫ファクタリング
- 不動産ファクタリング
- 医療報酬ファクタリング
- 国際ファクタリング
①買取ファクタリング
「買取ファクタリング」とは、お金が請求できる権利を売れるサービスのこと。企業取引の売上になる売掛債権を数%の手数料を差し引いた額で買い取り、売掛金の回収を行うサービスです。
②保証ファクタリング
「保証ファクタリング」はいわゆる保険のようなサービスで、取引先の「与信(支払い能力)」を管理します。
取引先が倒産や会社更生手続などにより支払えなくなった場合、保証ファクタリングによってファクタリング会社に一部の費用あるいは全額を保証してもらえます。
料金をしっかり支払ってもらえるか心配な場合、万が一支払われなかったときを想定して加入しておく保険のような制度、と考えると分かりやすいでしょう。
与信調査とは?
与信調査とは、これから契約を結ぼうとする取引先が信用できる企業なのか、調査すること。
企業間の取引では、商品の受け渡し後に決済を行うケースも少なくありません。きちんと代金の回収が行える企業なのか、信用できる取引先なのかを調査するのが「与信調査」です。
③商品在庫ファクタリング
「商品在庫ファクタリング」とは、企業が持っている商品在庫をファクタリングすること。商品在庫をファクターに売却して資金化する、つまり基本的には在庫を売却すると同義になります。
商品在庫を抱える企業であれば基本、どの企業も実質的に審査なしで利用できます。買取ファクタリングと違い、手数料の相場は決まっていません。商品によって手数料の高いものもあれば低いものもあります。
④不動産ファクタリング
不動産業では「家賃収入」や「管理費」「仲介手数料」などをファクタリングの売掛債権と考えます。「入居者がいる=将来的に家賃収入が生じる=売掛金と同じ」というのが不動産業におけるファクタリングの基本原理です。
不動産業のファクタリングは基本的に「管理会社」が行っています。不動産経営にまつわる事務作業全般をコンサルティング業務として依頼している、という考えです。
⑤医療報酬ファクタリング
「医療報酬ファクタリング」とは、医療機関が社会保険や国民保険に対して請求する「医療報酬債権(医療費の7割)」を売却し、現金化するファクタリング契約のこと。
医療報酬債権の受け取りは、一般的に2か月ほどかかります。もちろんその間も医療機関は事業資金を捻出しなければなりません。医療報酬ファクタリングを利用すれば、最短即日でまとまった資金を調達できます。
診療報酬ファクタリング
「診療報酬ファクタリング」とは、介護報酬債権や調剤報酬債権などの診療報酬債権を譲渡して入金を早期化する資金調達方法のこと。
診療報酬ファクタリングも借入ではなく売掛金の売買という扱いになるため、負債にはなりません。本来ならおよそ2か月後に入金される診療報酬を早期に資金化できるようになります。調達した資金は設備資金や運転資金などに充てられるのです。
調剤報酬ファクタリング
高額な医薬品を取り扱う調剤薬局の大半は、資金力が決して大きくはない中小薬局です。急な資金調達に対応できる手段として、多くの薬局で実施しているのが「調剤報酬ファクタリング」です。
調剤報酬ファクタリングで現金化するのは、社会保険や国民保険に請求する調剤報酬。得意先に影響を与えず売掛金の売買を行えるものの、1~2年ほどの長期契約を必須としているというデメリットもあります。
介護報酬ファクタリング
「介護報酬ファクタリング」とは、介護報酬債権が資金化される前に介護報酬債権を現金化する方法のこと。「介護報酬債権を前倒しで現金化するため財務状況が改善される・銀行からの融資と比べて連帯保証人や担保が不要」といったメリットがあるのです。
一方、債権譲渡登記に関する契約時の内容証明や印紙代など、手数料以外の諸費用がかかります。また多くの場合、介護報酬ファクタリングの掛目は80%となっている点にも注意が必要です。
⑥国際ファクタリング
「国際ファクタリング」は貿易取引をする輸出企業が「輸出」を行う際、輸入企業から代金を確実に回収するため海外のファクタリング会社と契約する保証ファクタリングのこと。
貿易取引では商品の売買取引が円滑に進められるよう「信用状(L/C)」を利用するのが一般的です。しかし信用状(L/C)には「信用状開設の審査がとおらない・解説に時間がかかる」といった問題があります。
そこで海外のファクタリング会社と連携を取り、輸出債権の支払いを保証してもらう仕組みが「国際ファクタリング」です。