女性活躍推進法は、働く女性の活躍を後押しする法律として2015年(平成27年)8月28日に国会で成立しました。2019年(令和元年)5月29日に改正法が成立し、同年6月9日に公布され、2022年4月1日より全面施行となりました。
改正によってどのような点が変わったのでしょうか。女性活躍推進法成立の背景や改正までの流れ、事業者に課せられる義務などについて詳しく紹介します。
目次
1.女性活躍推進法とは?
女性活躍推進法とは、仕事で活躍したいと希望するすべての女性が、個性や能力を存分に発揮できる社会の実現を目指して、2015年8月に成立した法律です。
正式名称を「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」といい、国や自治体、企業などの事業主に対して、女性の活躍状況の把握や課題分析、数値目標の設定、行動計画の策定・公表などが求められます。
当初、300人以下の事業主では努力義務とされていましたが、法改正によって2022年4月から義務化の対象が101人以上の事業主に拡大されました。なお100人以下の事業主は努力義務となります。
女性活躍推進法の条文
「自らの意思によって職業生活を営み、又は営もうとする女性の個性と能力が十分に発揮されることが一層重要。このため、以下を基本原則として、女性の職業生活における活躍を推進し、豊かで活力ある社会の実現を図る。」(内閣府資料より引用)
参考 女性の職業生活における活躍の推進に関する法律の概要厚生労働省施行日と改正日
施行日は2016年(平成28年)4月1日。改正法成立日は2019年(令和元年)5月29日で、同年6月9日に公布され、2022年(令和4年)4月1日から全面施行となりました。なお女性活躍推進法は10年間の時限立法です。
2.女性活躍推進法を推進する背景
女性活躍推進法が成立した背景は、以下の通りです。
- 現在および将来の人手不足、労働力不足を解消するため
- 就業を希望しているものの、育児や介護を理由に働けていない女性が約300万人にも上るため
- 出産・育児による離職を経て再就職する際に非正規雇用者となる場合が多く、能力の発揮を阻む一因となっているため
- グローバル化やダイバーシティ(人材の多様化)に対応するため
- 各種ハラスメントに対処するため
政府は、女性が十分に活躍できていない現状を鑑みて女性活躍推進法を成立させ、女性が働きやすくかつ長期的にキャリアを形成していけるように、国、地方公共団体、一般事業主に対して改革を求めたのです。
政府が求める女性活躍の視点
政府が求める女性活躍の視点としては、次のようなものが挙げられます。
仕事と家庭を両立しながら能力を発揮できる
会社での長時間労働を前提とした働き方では、女性に仕事か家庭生活かの二者択一を迫ることになります。
女性に仕事と家庭を両立した上で十分に能力を発揮してもらうには、長時間労働を改める、多様な働き方を認めるなど、抜本的な労働環境の見直しが必要になるのです。
女性はもちろん男性も含めて、育児や介護などで時間に制約のある労働者が増えてきている現状に合わせて、働き方改革を行い、誰もが働きやすい職場を実現することが重要でしょう。
男性が家庭生活に参画するのは当たり前
少子高齢化や共働き世帯の増加によって、男性が家事・育児・介護などの家庭生活に参加する場面は着実に増えてきています。男性が積極的に家庭生活を支えれば、女性の負担も減り、職場での活躍も進むでしょう。
そのため女性だけでなく、男性も家庭生活に気兼ねなく参画することを強力に推進し、仕事と家庭生活を両立させることが当たり前となるような社会や、働きやすい職場環境を整えていくことが求められるのです。
女性のキャリアアップを邪魔しない
女性のキャリアアップを阻むものにマミートラックがあります。
マミートラックとは、出産を終えて職場に戻っても、育児のために残業ができなかったり早退や休むことが多かったりするため、簡単な仕事しか与えられなくなり、出世コースとは異なるコースに乗ってしまうこと。
このような状況を改善するには、仕事と家庭を両立できる支援制度や、家庭生活に参画しながらキャリアを形成していけるような仕組みの構築が重要です。
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3.女性活躍推進法で義務化された取り組み
女性活躍推進法では、101人以上の事業主に対して、次の3つの取り組みを義務化しています。
- 自社の女性の活躍状況を把握し、改善点や課題を分析する
- 数値目標を設定し、行動計画を策定・公表する
- 自社の女性の活躍状況(採用比率・管理職比率等)を公表する
当初は300人以下の企業については努力義務とされていました。しかし、2019年5月の改正法成立により、2022年4月から101人以上の事業主に対象が拡大されたのです。
また改正によって、301人以上の企業に対して情報公表の内容が強化されたり特例認定制度が創設されたりしています。
4.女性活躍推進法で義務化された内容の取り組み方
女性活躍推進法で事業主が求められている義務について、詳しく見ていきましょう。
自社の女性の活躍状況を把握、改善点や課題を分析
事業主は、女性の活躍状況について次の基礎4項目を必ず把握し、課題分析を行う必要があります。
- 採用者に占める女性比率(男性が優位になっていないか)
- 勤続年数の男女差(勤続年数に女性比率が反比例していないか)
- 労働時間の状況(必要以上に長時間労働が行われていないか)
- 管理職に占める女性比率(女性管理職が圧倒的に少なくなっていないか)
分析には、厚生労働省のホームページで公表されている、「女性の活躍状況の把握や課題分析のための支援ツール」を活用できます。改善すべき点が明らかになったら、解決策を検討しましょう。
数値目標を設定と行動計画を策定
事業主は、分析と調査結果を踏まえて、女性の活躍を推進するための一般事業主行動計画を策定しなければなりません。この行動計画には、「計画期間」「数値目標」「取組内容」「取組の実施期間」を盛り込む必要があります。
特に重視すべき点は、女性の活躍状況が改善されているかどうかを定量的に測ること。数値目標を掲げ定量的に管理することで、達成すべき目標が明確になると同時に、自社内や外部に公表した際、誰が見ても一目で分かりやすくなるのです。
行動計画の周知と公表
策定した一般事業主行動計画は、以下の通り周知・公表・届出を行います。
労働者への周知
労働者には正社員だけでなく、期間の定めなく雇用されている者や、1年以上継続的に雇用されている(1年以上の雇用が見込まれる)パートや契約社員、アルバイトなども含まれます。
外部への公表
公表先は、厚生労働省「女性の活躍・両立支援総合サイト」内の「女性の活躍推進企業データベース」などとなっています。
都道府県労働局への届出
行動計画を策定した旨を届け出ます。
自社の女性の活躍状況の公表とPDCAサイクルの実施
自社の女性の活躍に関する情報を公表し、PDCAサイクルを回します。
情報公表
情報公表は、行動計画と同じように厚生労働省「女性の活躍・両立支援総合サイト」内の「女性の活躍推進企業データベース」などで実施します。
公表する項目は、「職業生活に関する機会の提供に関する実績」「職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備に関する実績」の各区分から、事業主にとって適切なものを1項目以上選ぶことになっています。
女性の活躍状況が公表されることで、優秀な人材を確保できたり、企業の競争力向上につなげたりすることが可能です。
PDCAサイクルの確立
目標設定や情報公表をして終わりではなく、定期的に現状を点検・評価して目標を見直し、行動計画をブラッシュアップしていくことが重要です。
5.女性活躍推進法の改正、見直しのポイント
女性活躍推進法は2019年5月に法改正が成立、6月に公布され、2022年4月より全面施行となりました。このとき見直された内容について紹介します。
101人以上の労働者を抱える事業主が対象に
101人以上の労働者(パート、契約社員等も含む)を抱える事業主は、「一般事業主行動計画の策定」「都道府県労働局への届出」「自社の女性活躍に関する情報の公表」が義務化されています。
採用者に占める女性比率、勤続年数の男女差、労働時間の状況、管理職に占める女性比率などを把握し、課題分析を行って、定量的な目標を設定し行動計画を策定する必要があるのです。
また外部に対して、厚生労働省令で定める項目から1項目以上を選んで情報を公表することが求められます。
301人以上の労働者を抱える事業主は情報公表の枠が拡大
301人以上の労働者を抱える事業主には、情報公表の枠をさらに広げることが求められるのです。女性活躍に関する情報の公表を行う際、下記の各区分から1項目以上を選んで公表する必要があります。
- 職業生活に関する機会の提供に関する実績8項目:採用した労働者に占める女性労働者の割合、男女別の採用における競争倍率など
- 職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備に関する実績6項目:男女の平均継続勤務年数の差異、男女別の育児休業取得率など
プラチナえるぼし認定
女性の活躍を推進する優良企業に与えられる「えるぼし認定」よりもさらに水準の高い企業には、特例認定制度である「プラチナえるぼし認定」が付与されることになりました。認定を取得すると、行動計画の策定が免除されるといった特典が得られます。
また、えるぼし認定と同じように、厚生労働大臣が定める認定マークを名刺や商品、求人票、広告などに使用できるのです。この認定基準の詳細は、厚生労働省令によって示される予定となっています。
えるぼし認定とは?
えるぼし認定とは、女性活躍推進法(女性の職業生活における活躍の推進に関する法律)に基づいて、女性の活躍推進に関する状況や取り組みなどが優良な企業を認定する制度のこと。
認定されるには、主に「採用」「継続就業」「労働時間等の働き方」「管理職比率」「多様なキャリアコース」の5項目において一定基準をクリアしている必要があります。
えるぼし認定には3段階あり、5項目すべての基準を満たす場合は3段階目(最高位)、3~4項目で2段階目、1~2項目で1段階目の認定が得られるのです。
えるぼし認定制度とは?【認定基準】くるみん、申請方法
えるぼしとは、女性の活躍を後押しする企業を認定する制度のことです。ここではえるぼしの認定基準や申請方法、えるぼし認定を受けるメリットなどについて解説します。
1.えるぼしとは?
えるぼしとは、女性の...
6.女性活躍推進法の企業事例
一般企業における女性活躍推進法の企業事例を、以下に紹介します。
サイバード
サイバードでは、人の出入りが激しく優秀な人材の定着が難しい業界であることを鑑みて、正社員・契約社員の退職率を5%以上下げることを目標にしました。
そもそもサイバードは、一般事業主行動計画策定の対象ではなかったのです。それにもかかわらず取り組んだ理由とは何だったのでしょう。
そこには、会社の成長率を高めるために結婚・出産後も働き続けられる会社であることをアピールし、経験を積んだ社員に長く働いてもらいたいという狙いがあったのです。
そして在宅勤務制度の適用範囲の拡大、フレックスタイム制・裁量労働制の働き方を浸透させて、えるぼし認定を取得しました。
三州製菓
三州製菓では、7割以上が女性社員にもかかわらず管理職を目指す女性が少ないことが課題でした。そのため2018年6月までに管理職(課長級以上)に占める女性の割合を25%以上にすることを目標に設定したのです。
女性が管理職を目指さない一番の理由が残業の多さだと判明したため、働き方を見直して残業を減らす取り組みを続けました。その結果えるぼし認定を取得し、若い女性社員の中から管理職になりたいという人も現れたのです。
シーエスラボ
シーエスラボでも、女性の社員が多いにもかかわらず女性管理職が少ないことが課題でした。そこで、管理職に占める女性の割合を20%以上にすることを目標としたのです。
さらに、他社との差別化を図って優秀な人材を確保する、継続的に働ける環境を整えて離職率を下げて売上向上につなげることも目指しました。
そして、管理職手前の女性社員にリーダー育成研修を実施、ライフイベントに合わせて多様な働き方ができるように制度を導入するなどの取り組みを行った結果、目標を達成し、えるぼし認定を取得できました。