フィルターバブルとは、インターネット上で自分の見たい情報しか見えなくなる現象のことです。ここではフィルターバブルの問題点や発生する仕組み、エコーチェンバーとの違いについて解説します。
目次
1.フィルターバブルとは?
フィルターバブルとは、アルゴリズムがインターネット利用者の検索履歴やクリック履歴などを分析して、利用者の思想や行動特性に合わせた情報を作為的に表示する現象のこと。
現代のインターネット体験はパーソナライズされたもので、利用者ごとに最適化されたコンテンツが表示されます。おのずと似た情報や同じ視点に囲まれてしまうため、異なる意見が目に入りにくくなるのです。
提唱者
2011年、アップワージー社のCEOをつとめるイーライ・パリサー氏によってフィルターバブルは提唱されました。
自分が見ているインターネットの世界が、ほかの人にも同じように見えているわけではありません。「パーソナライゼーション機能」「フィルタリング機能」によって利用者の思考に近い情報が優先的に表示され、望まない情報からは遠ざけられています。
この状態を、利用者が「情報の泡」に包まれていると表現したのがフィルターバブルの概念です。
2.フィルターバブル現象の事例
フィルターバブル現象はさまざまなシーンで見てとれます。代表的なのが2016年の「米国大統領選挙」や「SNSのタイムライン」です。
2016年の米国大統領選挙
2016年に行われた米国大統領選挙は、フィルターバブルの概念を一躍有名にした事例です。
選挙期間中のFacebookにて、共和党のドナルド・トランプ氏を支持する人にはトランプ氏支持の投稿のみが、民主党のヒラリー・クリントン氏を支持する人にはクリントン氏支持の投稿のみが表示されました。
指示しない党の情報は表示されず、誰もが自分が支持する党を応援していると錯覚してしまったのです。
2021年の米国連邦議会乱入事件
2021年に起きた米国連邦議会乱入事件にもフィルターバブルが作用していたと考えられています。一説によれば、暴挙を起こした集団のなかには「陰謀論」に立ち向かおうとする独善的な正義感を持った人々が混じっていたとみられているのです。
彼らは「フィルターパズル現象」により、自分たちの見たい情報だけを見て、それが世界すべての共通意見であるかのように錯覚してしまいました。
視野が狭くなり、第三者からの指摘や反対意見が入ってこなくなった結果、信念が増強され、本事件を引き起こすにいたったのです。
新型コロナウイルスワクチン
フィルターバブルの概念は新型コロナウイルスワクチンについても作用していたと考えられています。フィルターバブルには間違った情報や過激な行動、フェイクニュースなどが拡散しやすいという問題があるのです。
もちろんワクチンを打つか打たないかは一人ひとりの考えにもとづきますし、その意見は尊重されるべきもの。よって他者が強要するものではありません。
ところが「ワクチンを打った女性は不妊になる」「ワクチンによって本来持っていた免疫が破壊される」などのデマがフィルターバブルによって拡大され、一部ではあたかもそれが世界の真実であるかのように錯覚してしまったのです。
弁護士懲戒請求
2017年にはインターネット上のあおり行為に乗せられて大量の弁護士懲戒請求が起きたものの、弁護士の猛反撃により反対に請求者が損害賠償を支払うという事件がありました。ことの発端は在日朝鮮人にかかわる弁護活動を外患誘致罪だと攻撃したブログです。
フィルターバブルの効果により反対意見は遮られ「日本人学校が虐げられている」という意見のみがいくつも表示されてしまいました。ネット世界には反論や嫌な顔もかえってきません。強硬な意見に引きずられた結果、極端な行動に出てしまったという事例です。
SNSのタイムライン
TwitterやInstagram、FacebookなどSNSのタイムラインはフィルターバブルのわかりやすい事例です。
それぞれのタイムラインには自分が好きな情報、おもしろいと思ってフォローした人の情報だけが流れてきます。そしてこのタイムラインはユーザーの数だけ存在するのです。
つまり自分が見ているタイムラインは自分の嗜好が反映されたもので、すべてのユーザーが同じタイムラインを見ているわけではありません。特定の情報が強調されていても、それはSNSのタイムラインという閉鎖的な空間内での話にすぎないのです。
3.フィルターバブルの問題点
総務省による「情報通信白書」ではフィルターバブルの問題点について、「一人ひとりが孤立する」「フィルターバブルは目に見えない」「ユーザー自身が選んでフィルターバブルの内側にいるわけではない」の3つを挙げています。
フィルターバブルでは知らず知らずのうちにパーソナライズ化された情報に囲まれます。たとえ同じ意見、嗜好を持った人でも同じ検索結果に行きつくとは限らないのです。
ここではフィルターバブルの問題点について、解説します。
- 思考の偏り
- 孤立
- 情報漏えい
- 新規顧客を獲得する機会の減少
①思考の偏り
フィルターバブルの問題点として第一に挙げられるのが、情報および思考の「偏り」。情報が偏ると、自分の考えや思考に近い意見が正義であり、それを肯定的に捉える反面、ほかの意見や思考を理解しにくくなります。
物事はつねに今見えている一面だけが真実ではありません。なかには本人にとって受け入れがたい情報が真実となる場合もあるのです。
②孤立
テレビを見る際、自分が何を見るかを選択している限り、その番組が選ばれたことに疑問を抱くことはありません。しかしパーソナライズされた情報がどのような仕組みで表示されたのか、その根拠は明確にできないのです。
インターネットにおけるフィルターバブルのなかには自分しかいません。フィルターバブルの内側から、今見ている情報がどれだけ偏っているのか、またその情報がはたして本当に客観的に見ても真実なのかを判断するのは不可能です。
情報の共有が体験の共有を生む現代で、孤立を助長させる恐れがあります。
③情報漏えい
検索エンジンやSNSがユーザーの検索履歴や行動パターンを学習して、ユーザーそれぞれの好みにあわせた情報を作為的に表示します。つまり知らないうちにユーザーの情報がどこかで利用されているのです。
先に触れた2016年の米国大統領選挙でも、この情報漏えいに関するニュースが注目を集めました。最近ではオンライン会議ツール「Zoom」や動画配信アプリ「TikTok」などでも個人情報の取扱いに関するリスクが指摘されています。
④新規顧客を獲得する機会の減少
フィルターバブルの問題は、企業にとっての新規顧客獲得問題にも立ちはだかります。フィルターバブルが登場する以前、違う趣味を持つ周囲の人から影響を受けて新しい分野に引き込まれる機会もあったものの、現代でその機会は確実に減少しています。
企業の成長にとって、新規顧客の獲得は欠かせません。しかしフィルターバブルの作用を活用し、競合他社はますます守りを固めてきます。新規顧客の獲得に向けて、企業は今まで以上に積極的な対策を取る必要があるのです。
4.フィルターバブルのメリット
フィルターバブルには孤立や思考の偏りなどの問題が指摘されている一方、メリットも存在します。フィルターバブルが持つメリットについて説明しましょう。
利便性
SNSや動画視聴などで一度検索したり、お気に入り登録をしたりすれば類似したトピックが流れてくるため、その都度検索する必要がありません。
膨大なインターネッコンテンツのなかから自分の好みに合ったものを探すには、時間も手間もかかるもの。システムで自動的に表示してくれるフィルターバブルのなかにいれば、それらの情報をかんたんに見つけられます。
売上向上
フィルターバブルはコンテンツや商品の売上向上にも寄与しています。インターネットの閲覧履歴や購入履歴などをもとにオススメのコンテンツやアイテムを表示する「レコメンドシステム」も、フィルターバブルのひとつです。
過去にはAmazonの売上35%が、またNetflixでユーザーが見た75%の作品が推薦システム、いわゆるレコメンドシステムによるものと報告されています。
5.フィルターバブルが発生する仕組み
フィルターバブルはどのようなシステムのもとで発生するのでしょうか。理由のひとつに個人に向けたウェブサイトの最適化が挙げられます。
- トラッキング
- フィルタリング
- パーソナライズ
①トラッキング
サイトに訪れたユーザーを追跡すること。「どの項目をどの程度の時間閲覧したか」「どの情報がコンパージョンにつながりやすかったか」「どこを経由してサイトを訪れたか」などを分析します。
検索エンジンはこれらの情報を収集、分析してユーザーの好みや動向を把握し、ウェブ広告などの効果測定に利用するのです。
②フィルタリング
トラッキングで分析したユーザーの好みや傾向に合わせて検索結果を表示させる機能のこと。ユーザーの好みや傾向に合致した情報を表示すると同時に、ユーザーが好まない情報は表示しません。
代表的なのが、未成年のユーザーに違法や有害なウェブサイトへのアクセスを制限して、安心にインターネットを使えるようにするフィルタリングサービスです。
③パーソナライズ
トラッキングやフィルタリングを最適化して、つねにユーザーが好む情報だけを表示させる機能のこと。
パーソナライズの精度とユーザーの利便性が高まるのと同時に、ユーザーが求めていない情報にはアクセスしにくくなります。その結果情報の偏りや客観的視野の欠如につながり、フィルターバブルを起こしてしまうのです。
6.フィルターバブル対策
フィルターバブルによって似た情報や同じ視点に囲まれないためには、パーソナライズ情報の送受信を避けること、またさまざまなチャンネルから情報を入手することが重要になります。
- プライベートブラウズ
- アルゴリズムの解除
- インターネット以外の情報
①プライベートブラウズ
フィルターバブル対策に有効なのが「プライベートブラウズ」の活用です。これは過去の閲覧履歴やログイン時のデータを残さない機能のこと。ブラウザを閉じると同時にこれら情報が削除されるため、過去の検索結果や動きに左右されない検索結果を閲覧できます。
Google Chromeにおける「シークレットモード」、Safariにおける「プライベートブラウズモード」などが代表的なプライベートブラウズ名です。
②アルゴリズムの解除
SNSや検索ツールのアルゴリズムによるコンテンツ選別は、自分でかんたんにはずせます。
たとえばFacebookの場合、「ニュースフィード」の設定が「ハイライト」になっているとユーザーに人気のコンテンツが表示されるのです。しかしこれを「最新情報」に切り替えればすべての情報が時系列に表示されます。
Twitterも同様です。タイムラインに関する設定で「重要な新着ツイートをトップに表示」のチェックを外せば時系列にコンテンツが表示され、人気コンテンツが上位に表示されるアルゴリズムは機能しなくなります。
③インターネット以外の情報
匿名性の高さから、ネット上には悪質なデマや真実の裏付けが十分にとれていない情報があふれています。しかし情報検索はインターネットでなくても可能です。
あえてネット環境から離れ、テレビやラジオ、雑誌や新聞などから情報を集めれば、フィルターバブルに影響される可能性は低くなるでしょう。
オールドメディアからの情報収集はインターネットに比べれば情報が集まりにくく、不便な面は残ります。しかし視野を広げるという意味では有力な選択肢となるのです。
7.フィルターバブルとエコーチェンバー・サイバーカスケードの違い
「エコーチェンバー(Echo Chamber)」はもともと「共鳴室」を意味する言葉で、音が響き渡るよう閉鎖的に設計された部屋を指しています。フィルターバブルとの違いは下記のとおりです。
- フィルターバブル:システムによって作られた閉鎖的な空間
- エコーチェンバー:自ら心地よい環境を求めた結果作られた閉鎖的な空間
いずれも今見ている情報は偏ったものであり、違う視点や立場も存在すると自覚することが大切です。
サイバーカスケードとの違い
同じ考えや思想を持った人々が結び付いた結果、異なる意見を排除して閉鎖的かつ過激なコミュニティを形成する現象のこと。「ネット上の集団極性化現象」とも訳されるように、異なる意見を一切排除した閉鎖的なコミュニティを形成します。
最近の「ネット炎上現象」や「道徳の暴走」、「コロナ禍での自粛警察行動」などの背景にもサイバーカスケードの存在があるといわれているのです。