外国人労働者とは、自国以外の国で仕事に就く人のこと。日本でも受け入れが拡大されている外国人労働者について詳しく解説します。
目次
1.外国人労働者とは?
外国人労働者とは、自国ではなくほかの国で就労する労働者のこと。移住労働者や移民労働者と呼ばれる場合もあります。しかし外国人労働者が必ずしも移住のような長期滞在者とは限りません。
外国人労働者は、合法就労者と不法就労者の2種類にわかれており、その違いは下記のとおりです。
- 合法就労者:在留資格を取得している外国人労働者。労働者の身分や滞在目的に問題がなく、他国で一定範囲内の労働が認められている
- 不法就労者:在留資格を持っていないため、雇用した企業は入管法(出入国管理および難民認定法)違反と見なされて罰則を受けてしまう
日本では合法就労者を以下の区分にわけています。
- 身分にもとづく在留資格:永住者や日本人の配偶者、日系人などが該当
- 専門的・技術的分野:大学教授や医師、機械工学やIT技術者など専門性の高いスキルを持つ者が該当
- 技能実習:途上国の労働者が農業や製造、建設などの技術習得を目的とした研修生が該当
- 資格外活動:勉強を妨げない程度のアルバイトを行う留学生が該当
2.外国人労働者受け入れの現状
厚生労働省の調査によると、2019年10月に届出が確認されている外国人労働者は約166万人。2007年に届出の提出が義務化されてから、外国人労働者の数は2012年から増加し続けています。
増加の要因
外国人労働者が増加した要因として挙げられるのは、以下の3点です。
- 政府の受け入れが進められている
- 身分にもとづく在留資格を持つ人の就労が増えている
- 技能実習の受け入れが増えている
政府は少子高齢化対策や中小企業の人手不足対策として、外国人労働者の受け入れおよび就労の拡大を推奨しています。
「経済財政運営と改革の基本方針2018」で、出入国管理や難民認定法の改正や、求める技能水準の策定、受け入れ企業や支援機関による外国人労働者へのサポートなどを閣議決定しました。
結果、受け入れ態勢が整備され始め、永住者や技能実習生などの就労が増加していると考えられるでしょう。
国籍別の傾向
2019年の10月末の厚生労働省が公表した「外国人雇用状況」の届出状況まとめから、日本で就労する外国人労働者の国籍の内訳を見てみましょう。
- 香港を含む中国:25.2%(約165万人のうち約41万人)
- ベトナム:24.2%(約165万人のうち約40万人)
- フィリピン:10.8%(約165万人のうち約18万人)
前年同期間との増加率では、ベトナムが26.7%増、インドネシアが23.4%増、ネパールが12.5%増となっています。
都道府県別の傾向
2019年の10月末の厚生労働省が公表した「外国人雇用状況」の届出状況まとめにて、都道府県別外国人労働者数も記載されています。上位の都道府県を見てみましょう。
- 東京都:約48万人(外国人労働者全体の30%)
- 愛知:約17万人(外国人労働者全体の10.6%)
- 大阪府:約10万人(外国人労働者全体の6.4%)
前年同期と比べて増加率が高かったのは、奈良県(35.2%増)と沖縄県(26.7%増)、青森県(24.4%増)。産業や観光が盛んな地域は就労者の需要が高く、外国人労働者の雇用が進んでいるとわかります。
産業別の傾向
2019年の10月末の厚生労働省が公表した「外国人雇用状況」の届出状況まとめにおいて、産業別の集計もなされています。まずは外国人労働者総数のうち、占める割合が多い業種は以下のとおりです。
- 製造業:20.4%
- 卸売業や小売業:17.4%
- 宿泊業や飲食サービス業:14.2%
また建設と農林水産、福祉・医療の業種では近年、外国人労働者の受け入れがとくに増加しています。この3つの業種について傾向を見てみましょう。
建設分野
建設分野における外国人労働者の就労割合は、前年同期に比べて1.3%増加。背景にあるのは、熟練した技術者の高齢化によって若い世代の人材が大きく不足している点です。そこで即戦力となる技能実習修了者を含めて、外国人労働者を積極的に採用しています。
農林水産業
農林水産業もまた、後継者不足が深刻な問題となっている業種。2018年の厚生労働省による「外国人雇用状況」の届出状況まとめでは、農業や林業で就労する外国人労働者は約3万人、漁業は約3,000人でした。
人数が少ないように見えるものの2012年と比較すると、外国人労働者数は農業や林業では約2倍、漁業では約3倍に増加しているのです。
福祉・医療分野
2019年10月末の厚生労働省「外国人雇用状況」の届出状況表一覧によると、医療と福祉分野における外国人労働者数は約3万4,000人。外国人労働者全体の2.1%を占めています。
しかし詳細な内訳では医療業が0.7%、社会保険や社会福祉、介護事業が1.7%と大きな差が見られました。日本では少子高齢化が進んでおりその結果、介護分野にて慢性的な人手不足が生じていると考えられるでしょう。
3.外国人労働者が日本で働きたい理由
若い世代の人手不足に悩む日本は外国人労働者に頼るところが大きいといえます。また同時に日本で働きたいという外国人労働者も多いのです。
外国人労働者が日本での就労を希望する理由として挙げられるのは処遇のよさや日本文化への興味、技術の習得やキャリアアップ、治安のよさなど。自国と比べて人材の需要や給与水準が高いなら、多くの外国人は日本で仕事をしたいと考えるでしょう。
社会保険や各種手当などの福利厚生が充実している点も、日本で働きたいと思う理由のひとつとされています。ほかに見られるのは「日本のテクノロジー技術を習得したい」「日本で実務経験を積んで転職したい」という理由などです。
4.外国人労働者受け入れへの課題
外国人労働者の受け入れが増えているとはいえ、外国人の就労における課題がまったくないわけではありません。ここでは5つの課題について見ていきましょう。
- 差別問題
- 賃金
- 在留資格の悪用
- 労働条件の改善
- 企業の負担に対する支援
①差別問題
ビジネスでグローバル化が進んでいる昨今でも、外国人労働者に対する差別意識はまだ残っています。
職場で外国人労働者に対するいじめやパワハラ、差別などが発生し、なかにはパスポートを取り上げられ、恋愛や結婚、妊娠を禁じられたりするケースもあったようです。
このような差別的な扱いを受けた外国人労働者はメンタルヘルスを保てなくなり、うつ病やPTSD(心的外傷後ストレス障害)に陥りかねません。
②賃金
日本人と外国人労働者の間に、賃金の格差が生じている点も深刻な課題です。
2019年の厚生労働省による「賃金構造基本統計調査」では、平均33.4歳の外国人労働者の賃金は月額で約22万3,000円。同年代の一般労働者に比べて賃金が2割ほど低く、金額では5万円ほど下回っていました。
ただし専門・技術分野では、同年代の一般労働者と比べて外国人労働者のほうが1割ほど賃金の水準が高いと判明しています。
③在留資格の悪用
日本で就労したいがために、不正な手段で在留資格を取得する外国人も問題になっています。日本の在留資格は取得の難易度が高いため、正規の方法で在留資格が申請できない人は、日本人と偽装結婚や在留カードの偽装など不正を働く場合があるのです。
このような外国人が増えると、犯罪に巻き込まれる危険が高まり、国内の治安が悪化する要因にもなりかねません。
④労働条件の改善
業種や職種によっては、厳しい労働条件になっている点も課題です。とくに特定技能の分野は若い世代が確保しにくい職種も多く、一般労働者でも厳しいと感じる労働条件も珍しくありません。
このような分野で外国人労働者が働いたとしても、すぐに転職や退職してしまう恐れもあります。労働条件を改善していかなければ、外国人労働者による長期的な人材確保は難しいでしょう。
⑤企業の負担に対する支援
外国人労働者を受け入れる企業に負担がかかる点も、対策すべき課題です。外国人労働者を雇用した場合、日本語教育や通訳の手配、住まいの確保などは現状企業側が行っています。
企業にとって外国人労働者の受け入れには、金銭的負担だけでなく人的コストもかかってしまうのです。
そのため政府は受け入れ企業のサポートとして、人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備助成コース)の制定や、外国人雇用サービスセンターの開設などを行っています。
5.外国人労働者受け入れ制度
外国人労働者の受け入れを拡大するため政府は2019年4月、新しい在留資格として「特定技能」を創設。特定技能は、国内において人材不足が認められている特定分野に就労するための在留資格です。この特定技能について詳しく見ていきましょう。
特定技能1号
特定分野において高度な訓練などを必要としない仕事に就くための在留資格で、多くの業種や職種が該当します。たとえば介護や外食業、農業や漁業、宿泊業や製造業など。特定技能1号を取得するルートは以下の2つです。
- 技能評価試験または技能検定3級のいずれかと、日本語試験の両方に合格する
- 技能実習2号または技能実習3号を一定以上の水準で修了する
特定技能2号
建設と造船・舶用工業分野で高度なスキルを必要とする仕事に就くための在留資格。
建設と造船・舶用工業は特定技能1号にも含まれていますが、特定技能2号は実務経験を積んで熟練したスキルを持つ外国人が対象となっています。特定技能2号を取得するルートは1つで、条件は以下のとおりです。
- 特定技能1号を所得している
- 班長として一定の実務経験を積んだ
- 上記の2つを満たしており、建設分野検定技能2号評価試験あるいは技能検定1級に合格した
日本での滞在可能な期間
特定技能1号と特定技能2号は、滞在可能な期限の上限が異なります。
- 特定技能1号は通算5年まで。期限が終了した外国人労働者は、本国へ帰国する
- 特定技能2号には滞在期間の制限がない
ただし今後も特定業種の人手不足が解消されない場合、法改正で滞在期間の上限が変更される可能性もあります。
特定技能と技能実習の違い
特定技能と技能実習の大きな違いは目的です。技能実習とは、開発途上国から外国人実習生を受け入れて実習を行う制度で、修了すると実習生は自国へ帰国します。
技能実習の目的は、外国人労働者が日本で習得した技術を自国へ広めてもらうこと。ひらたくいうと、技能実習の目的は国際貢献なのです。それに対して特定技能の目的は、特定業界の人手不足を解消することとなっています。
6.外国人労働者を受け入れるメリット
日本の企業が外国人労働者を受け入れるとさまざまなメリットを得られます。
- 人材不足の解消
- 海外進出やグローバル化
- 新しいアイデアや技術の創出
①人材不足の解消
少子高齢化に突入した日本では若い世代の労働人口が年々減少。その結果、専門的な知識や技術が求められる業種にて人材不足が深刻な問題となっています。
とくにIT業界の人材不足が顕著であるため、優秀なエンジニアを海外から採用するという企業が増加しているのです。高い能力やスキルをすでに母国で習得している外国人労働者を雇用できれば、即戦力として活躍するでしょう。
②海外進出やグローバル化
海外進出やグローバル化を目指す企業にとって、外国人労働者の受け入れは大きなメリットとなります。海外進出をする際、言語面や文化面など外国人リーダーや幹部の存在が大いに役立つからです。
なかには日本で、永続的在留資格を取得する外国人労働者も増えてきています。リーダーや幹部といった役職を任せられる人材も育成しやすくなるでしょう。
③新しいアイデアや技術の創出
外国人労働者を受け入れると人種や文化、言語など、多様な価値観に触れられるようになり、新しいアイデアや技術の創出にもつながります。
外国人が自国で経験してきた手法や制度、習得した技術などが、経営課題や業務課題の解決につながる可能性もあるでしょう。外国人労働者を受け入れると、新しい企業価値の創造や新事業の展開などが期待できるのです。
7.外国人労働者を受け入れるデメリット
外国人労働者を受け入れる際、デメリットも発生します。たとえばコミュニケーションの問題や習慣や文化の違いによるトラブルなどです。
コミュニケーションの問題
外国人労働者を雇用する際、コミュニケーションがうまく取れないという問題が起こりやすくなります。雇用する外国人労働者のなかには、日本語が堪能でない人やまったく喋れないという人も多いからです。
言語でのコミュニケーションが取れず、指示や連携がうまくいかない状況も少なくありません。外国人労働者と日本人労働者の双方へのフォローが必要です。まずは書面に外国語での翻訳をつけ、労働者への外国語教育を進めていきましょう。
習慣や文化の違いによるトラブル
文化や風習の違いによってトラブルに発展するケースも少なくありません。たとえばネパール人は時間に無頓着な傾向があり、遅刻してもあまり気にしない人がいるようです。
日本では遅刻や欠勤を重要視する傾向にあるため、トラブルになる可能性もあるでしょう。またフィリピンでは「給与分の仕事以上はやらない」という考えを持つ人がいます。労働時間や賃金の交渉などでトラブルに発展してしまうかもしれません。
とはいえすべての外国人労働者をそうと決めつけるのも問題です。面接や試用期間で、「どういう人物なのか」「習慣や文化の違いはあるか、あるならどのようなものか」見極めましょう。
8.外国人労働者を受け入れる際の注意点
外国人労働者を受け入れる際、就労資格の有無を確認しなければなりません。そのためには労務管理の知識を身につける必要があります。
就労資格の有無を確認する
日本の企業で外国人労働者を受け入れる際、就労が認められた在留資格を持っているか、確認しなければなりません。在留資格によっては就労が認められていないものもあるので注意が必要です。
一般的な事業所で多く見られるのが、定められた範囲で就労が認められる在留資格です。以下の職種が該当します。
- コンピューター技師や自動車設計技師など
- 通訳や語学の指導、為替ディーラーやデザイナー
- 企業が海外の本店や支店から期間を決めて受け入れる労働者
- 中華料理やフランス料理のコックなどの技能を持つ者
なお文化活動や短期滞在、留学や研修、家族滞在で習得した在留資格の場合、就労は認められていません。
労務管理の知識を身につける
労務管理の知識を事前に身につけておくのも重要です。たとえば外国人労働者を10人以上雇用する場合、外国人労働者雇用管理責任者を専任しなければなりません。
また就労資格の有無を確認する際、さきほどの在留資格の種類や不法就労など、外国人を雇用する際の労務管理知識が必要となります。
就労資格がない労働者を雇用してしまった場合、入管法73条2項により、3年以下の懲役、また300万円以下の罰金に処せられますので注意が必要です。
9.外国人労働者を受け入れる手順
日本の企業で外国人労働者を受け入れる際、日本人を雇用する状況とは違った手順を踏みます。採用までの手順について説明しましょう。
ハローワークや外国人雇用サービスセンターといった公的機関を活用するのもおすすめです。
この際、雇用契約書や労働条件通知書などは必ず書面で契約し、外国人労働者本人へ配布しなければなりません。労働基準法で義務化されているため違反した場合、企業側が責任を問われます。
外国人労働者を雇用する場合、就労ビザ(就労できる在留資格)を持っていなければなりません。この申請は外国人本人が行うものの、企業側にも用意しなければならない書類があります。
採用した外国人労働者に配布した労働条件明示書
登記事項証明書
会社案内
直近の決算書の写し
- 外国人労働者の審査項目:学歴や職歴、素行
- 企業の審査項目は、企業規模や安定性、外国人労働者の雇用実績や外国人労働者が担当する業務内容
審査にかかる期間は外国人労働者と企業によって異なるものの、平均すると1カ月ほどといわれています。
10.外国人労働者への支援
企業が外国人労働者を採用する際、行政機関のサポートやサービスを活用しましょう。そのなかから外国人就労・定着支援研修と、外国人労働サポートセンターについて説明します。
外国人就労・定着支援研修
一般財団法人日本国際協力センター(JICE)では、日本に滞在している外国人労働者を対象として、外国人就労・定着支援研修を実施しています。目的は、外国人労働者が日本の企業で安定して働けるようなスキルや知識を習得すること。
研修では、職場におけるコミュニケーション能力の向上やビジネスマナー、雇用慣例や社会保険制度などの知識を身につけられます。
外国人労働サポートセンター
外国人労働サポートセンターとは、日本で働く外国人労働者への人権侵害や差別の撤廃を目的としたNPO法人。外国人労働者の労働相談への対応や、通訳や翻訳などのサポートを行っています。
近年、オーバーステイ(超過滞在)や、難民者の生活相談や生活支援なども実施しているのです。ただし外国人労働者の相談先であって、企業側の相談先ではありません。