フリーアドレスは、業務内容に合わせて就労場所を選択できるシステムのこと。IT企業やベンチャー企業など比較的自由度の高いクリエイティブな企業を中心として導入が進んでいるのです。
- フリーアドレスが注目されるようになった背景
- フリーアドレスの目的
- フリーアドレスのメリットとデメリット
- フリーアドレスの導入手順やABWとの違い
などについて説明します。
目次
1.フリーアドレスとは?
フリーアドレスとは、従業員は固定された自分の座席を持たず、業務内容に合わせて就労場所を選択できる形式のことです。
フリーアドレスという言葉は、1987年3月、清水建設の技術研究所にて世界で初めて実現しました。
- 大きなテーブルにいくつかの椅子が並んでいるカフェスタイルの部屋
- 従業員が空いている座席を選んで無線IP電話、無線LAN、携帯電話、ノートパソコンといったモバイルで仕事を行う
- 書類や文房具などは部署内の個人用キャビネット、もしくは部内共有のキャビネットに収納
- 従業員個人のみが使用する空間を設定しない
といった職場環境をイメージすると、分かりやすいのではないでしょうか。
フリーアドレスを導入する企業の目的は、
- 従業員一人ひとりが占有するオフィス面積の削減
- 1人当たりのオフィス使用面積を増やす
- オフィス賃料の削減
- オフィス以外での就労を進める働き方改革を推進する
2.フリーアドレスが注目される理由
かつて困難と考えられていたフリーアドレス。なぜ今、多くの企業から注目を集めているのでしょう?その理由について説明します。
働き方改革の影響
まず働き方改革の影響があります。働き方改革ではオフィスを離れても就労できるテレワークを推進しており、実際、多くの企業がテレワークの導入に強い関心を持っているのです。
テレワークが実現すれば、オフィスに求められる機能も様変わりするでしょう。さらに、チームや組織全員が同一の場所で仕事をする意味を考え直すきっかけにもなりえます。
フリーアドレスは、
- チームや組織を超えた他部門や社外の視点を生かした自由な発想
- 自由闊達な雰囲気を持つオフィスから生まれる高いモチベーション
といった企業の期待の受け皿となるもの。そして上司や同僚がいる、仕事に関する道具や資料があるなど、従来のオフィスの存在意義とは別の次元でオフィスを捉えるのです。
それにより、イノベーションの創造や社内の枠を超えたコラボレーションの誕生、従業員の高いモチベーションによる自己実現を具現化するシステムとして期待されています。
ペーパーレス化、クラウド化の影響
フリーアドレスが注目を集めている背景に、ペーパーレス化やクラウド化があります。従来のフリーアドレス1.0と、新しいフリーアドレス2.0の決定的な違いは、情報通信技術(ICT)の進化。
1980年~1990年における1.0の時代の象徴は、固定電話や箱型コンピューター、紙文書や保管文書の詰まったキャビネットでしたが、2.0の時代でその様相が一変します。
フリーアドレスの物理的な障害であった1.0時代の象徴を、モバイルフォンの普及やドキュメントのデジタル化という2つのテクノロジーの進化で一掃した結果、フリーアドレスの世界は一気に現実のものとなったのです。
3.フリーアドレス導入のメリット
フリーアドレス導入には、目的やメリットがあります。
- 社内コミュニケーションの活性化
- アイデア創造の促進
- 従業員の主体的行動力の向上
- スペースコストの削減
- クリーンデスク意識の向上
①社内コミュニケーションの活性化
フリーアドレスの下では、他部署所属の人物と交わる機会が増加します。組織内の情報交換だけでなく、全く関係のない部署所属とのやりとりの中で、自由闊達な意見交換が実現するのです。
そして組織の縦の障壁が取り払われ、これにより、全社的にコミュニケーションの活発化が期待できるようになるのです。
フリーアドレスは、コミュニケーションの世界を社外にも広める可能性を秘めたもの。さまざまなつながりを生み出すフリーアドレスは、導入する価値があるものといえるでしょう。
②アイデア創造の促進
自分一人で考えていたプランや一定の組織内部で話し合っていたときと違って、フリーアドレスでは多様な価値観を持った人材と意見交換ができるのです。
活発な意見交換は、イノベーションの創造やコラボレーションの誕生といったオリジナリティに溢れたアイデア創造を促進します。今まで分からなかった価値に気付いたり、新しい価値を創造できたりすれば、企業の存在価値そのものも大きく底上げされるでしょう。
フリーアドレスはそんな大きな力も持っています。
③社員の主体的行動力の向上
毎朝出社して同じ席に座り、ルーティーンの業務を繰り返していると、今、自分が本当にやりたい仕事は何か、自分に求められている仕事は何かなどに考えをめぐらす機会を逸してしまいます。
しかしフリーアドレスでは、どこの席に座るか、選んだ席に座って何をするか、選んだ席の周りの人とどのように自分がかかわっていくかについて、自ら考えていかなければなりません。
座席の選択一つですが、それが自分で考え行動に移す主体的行動力を向上させてくれるのです。
④スペースコストの削減
フリーアドレスの下では、企業は全社員分の座席を用意する必要がありません。在籍率の実態を把握し、その数を目安に総座席数を算出するため、固定の座席で業務を行っていたときよりスペースコストを削減できるのです。
空いたスペースは業務を行う以外の場所、たとえばコミュニケーションエリアなどに活用すれば、より豊かな発想を生み出す空間の創造が可能になります。省スペースの実現だけでなく、空間的余力を他分野に振り分けることができるのです。
⑤クリーンデスク意識の向上
固定された自席で仕事をしている人は、自分の机の上や周りを見回してください。使わない資料が積み重なっている、文房具が出しっぱなしになっているといったことはありませんか?
フリーアドレスを導入した場合、業務終了と同時に、共有書類はファイリングして収納
、自分の書類は個人用ロッカーに収納、文具は文具コーナーにしまうなど使っていた机の上や周辺を片付けるため、常に整頓された状態になります。
また、オフィスのペーパーレスや資料の電子化、共有備品の在庫管理を意識的に実践できるので、印刷や備品購入のコスト削減の機会が増えるのです。
総務省行政管理局で実際にオフィスの改修を行った際も、
- 個人席周辺の文書量が約8割減
- 職員の約7割が業務がやりやすくなったと回答
- カラープリントやコピー数の半減
などの効果があったと報告されています。
4.フリーアドレス導入のデメリット
フリーアドレスの導入によるデメリットも知っておきましょう。
- 誰がどこにいるのか分からない
- 導入コストがかかる
- ストレスや集中の妨げにも
- セキュリティ上の課題
①誰がどこにいるのか分からない
自席が固定されていれば、座席表をもとに尋ねることで本人と話ができます。不在であれば、メモを置くなどしても何の問題もありません。
しかしフリーアドレスの場合、誰がどこにいるのかが決まっていないため、対象人物に直接会いたい場合、探し歩くことになるのです。
メールやチャットで済む用件ならばどこにいても支障はありません。しかし直接コミュニケーションを取りたい際、相手がどこにいるのか分からない状況は少しやっかいです。
②導入コストがかかる
フリーアドレスによって省スペースを実現でき、空間的にコストカットできます。
しかし、
- ネットワークLANの無線化
- オフィスレイアウトの変更に伴う工事
- 個人用キャビネットといった設備の導入
- 携帯やパソコンといった電子機器の整備
- 出退勤などの勤怠管理方法の確立
などは避けられません。
フリーアドレスで居心地のよいオフィス空間をつくり出すには、それなりのコストがかかります。フリーアドレス導入を検討の際は、導入目的に合った規模の確認、綿密な導入計画の立案、整備の準備といったコストを意識しましょう。
③ストレスや集中の妨げにも
フリーアドレスは、仕組み上、執務環境や周辺メンバーが毎日変わります。
プロジェクト内容や個々のパーソナリティによっては、周りの会話や電話の声、自分の空間がないオープンスペース構造、周囲との近すぎる距離感が、かえってストレスになったり生産性の低下を招いてしまったりするのです。
- オフィスのレイアウトの工夫
- 電話や会話などのルール設定
- オープンスペースとプライベートスペースの両方の設定
などに取り組みましょう。これにより労働生産性を維持できます。
④セキュリティ上の課題
規模が小さい企業では、社内の人間と社外の人間の区別は容易でしょう。
しかし、採用と退職の頻度が多い企業や規模の大きい企業は、社内外の人間の識別に困難を極めるため、セキュリティ上の課題が生じることも大いに考えられるのです。
入退室を管理するシステムの導入や社内での身分証明書の携帯、セキュリティ教育の実施
などの対策を実施しましょう。
5.フリーアドレスが成功する企業と失敗する企業の違い
フリーアドレスの導入に成功する企業と失敗する企業があります。成功と失敗、それぞれに見られる特徴について説明しましょう。
フリーアドレスを推進しやすい会社の特徴
フリーアドレスを推進しやすい会社の特徴は、モバイルワークを中心とした企業、自由なワークスタイルを持つ企業。
場所にこだわらず就業するには、モバイルを使いこなす必要があるでしょう。また、新しい文化を積極的に取り入れ、自由な発想で事業展開している企業は、フリーアドレスの文化もすぐに受容できます。
フリーアドレス導入に向かない会社の特徴
一方、フリーアドレス導入に向かない企業は紙ベースで業務管理している企業、部署と従業員が固定されている人事異動の少ない企業、経営体質が古い企業、公共性の高いデータや個人情報のデータを扱っている企業など。
フリーアドレスの文化が受け入れ難い風土だったり、セキュリティの課題がつきまとったりする企業は、フリーアドレスの導入は難しいです。
6.フリーアドレス導入の手順
フリーアドレス導入の手順を4ステップから説明します。
①導入イメージやゴール・KPIの具体化
ファーストステップは、導入イメージやゴール、KPIの具体化。
- どのような働き方を目指したものなのか
- どんな運用スタイルのフリーアドレスにするのか
- フリーアドレス適用の範囲
などについて議論を行います。導入イメージやゴールについては、日常のシーンレベルまで具体的にイメージしましょう。それにより、フリーアドレスに求める役割やフリーアドレスの運用形態が見えてきます。
適用範囲については、全社規模、特定部門のみ、特定職種のみといった検討をしてください。
また、フリーアドレス導入の成果を検証するためにも、
- KPI(Key Performance Indicators)と呼ばれる重要業績評価指標の設定
- 社員の満足度、受容度を測定する意識調査
といった評価システムの策定も進めます。
②試験導入
セカンドステップは、トライアル、すなわち試験導入。
- 事前に仮説を立て、仮説を実証しながら進める
- 特定部署をパイロット部門に選んでトライアルを行う
という方法がお勧めです。
トライアルですから、さまざまな問題や課題が噴出してくることは予想の範囲内といえます。しかし、トラブル続きでトライアル自体が続行不可能になることは避けたいもの。
トライアルとはいえ、フリーアドレスの成功にたどり着けるようにするためにも、成功が予測できる範囲内で小規模なトライアルから実施していくとよいでしょう。
③ルール決め
サードステップは、ルール決め。
課題や問題への対応策を盛り込んだ最終的なルールづくりに取り組むのです。些細な障壁も、運用によっては心理的抵抗感につながります。
たとえば「ペットボトルについた水滴が落ちて濡れたままの机を使いたくない」などちょっとした課題があった場合は、「机を使用後はウエットティッシュでひと拭きして離席する」というルールを盛り込みましょう。
また、施設設備と運用ルールがマッチングしなければ、問題が多発します。
- ICTのインフラやサービス関連の利用方法
- セキュリティ
- 私物の扱い方
についても細かくルールをつくりましょう。
運用ルール作りの成果は、マニュアルやガイドライン、ユースモデルなどで可視化してください。
④全社導入
最後のステップは、全社への導入でオフィス空間とICTの設計及び構築に取り組みます。
最初に立てた導入目的を実現する観点から見て、最適な設計を選択してください。
設計では、
- 空間と運用との整合性
- 多様な活用シーンへの適応性
にも考慮します。導入時には考えつかなかった利用方法の出現やICTシステムの進化をある程度見込まなければ、運用後の変更コストがかさむからです。
オフィスデザイナーやエンジニアと検討を重ねて、時代を半歩先読みするような空間創造に取り組んでください。
7.社員の在席率の計測方法(在席率調査)
フリーアドレスを導入する際に知っておきたいのは、社員の在席率の計測方法です。
目的:フリーアドレス成功の判断基準
社員の在席率の計測、つまり在席率調査は、フリーアドレスが成功するか否かの判断基準になります。社員の在席率は、フリーアドレスに適しているか、適している場合座席を何割減らすことができるかなどの試算に活用できます。
具体例
社員の在籍率を算出する方法は次の通りです。
- 在席・離席・退席の3つの項目を設定
- 朝から晩まで、月曜日から金曜日まで調査を実施
- ミニマム・アベレージ・ピークそれぞれの在席・離席・退席をカウント
この手順で在席率を計算した場合、たとえば、事務スタッフの在席率は9割だが営業社員の在席率は4割にも満たない、座席数を3割減らしても、業務に支障を来さないといった具体的なプランが見えてきます。
8.フリーアドレスを超えるABWとは?
フリーアドレスを超える職場環境として、ABWが注目を集めているのをご存知でしょうか?ここでは、最新のABWをご紹介します。
アクティビティーベースドワーキング(ABW : Activity Based Working)とは?
ABWとは、仕事の内容に応じて最適な作業場所を選ぶ働き方のこと。アクティビティーベースドワーキング(Activity Based Working)の略称です。
- 集中して作業を行いたい場合には、静かな個室を
- 打ち合わせで自由なアイデアを生み出したいのなら、ソファーの上で
- 闊達な意見交換をしたいのなら、円卓テーブルとコーヒーメーカーのあるオープンスペースへ
- 上司と顧客のプレゼンテーションについての最終打ち合わせをするなら、スクリーンルームへ
など、自らの置かれている状況や抱えている仕事に最適な空間や時間をチョイスして働くことを指しているのです。
ABWの構成要素
ABWの視点から職場環境を選択する場合、3つの視点を用います。
- 物理的な環境
- テクノロジーといったIT環境
- 社員の行動
物理的な環境の整備はフリーアドレスでも準備が整えられています。ABWはそこに2つの要素を加えることで、自分の仕事をする空間や時間に関する環境セッティングを自らが選択して揃えていくのです。
ABWとフリーアドレスにおける働き方の違いとは?
フリーアドレスが物理的な場所にのみ特化しているのに対し、ABWはテクノロジーを選択して使用したり社員の行動そのものを変えたりすることによって、いつでもどこでも自らを就業状態に置けます。
フリーアドレスが自由な席を選べるのだとすれば、ABWでは自分の目的に応じて働く環境を選択する、と説明すると分かりやすいでしょうか。
たとえばフリーアドレスは空席を見つけて今日の自席にするイメージですが、ABWでは、
- 電話をかける専用のスペース
- 個人作業用にはソロスペース
- 立ち仕事では、スタンディングスペース
- プロジェクトチームの打ち合わせには、オープンスペース
など目的に応じて環境を選んで利用するのです。
ABW(アクティビティベースドワーキング)とは? 意味を簡単に
オランダの保険会社から始まった「ABW(Activity Based Working)」とは何でしょうか。
従来のように組織や階層、チームなどのフレームに基づいたワークプレイスで働くのではなく、個々の...