風土とは? 構成要素、改革の進め方、改革の事例

風土とは、その地域独特の決まりやしきたりのこと。国や地域はもちろん、企業にも風土が存在するのです。この記事では企業における風土について、説明します。

1.風土とは?

風土とは、その土地や環境における地理的な特徴や性質のこと。土地に根付いた価値観や考え方、文化などを含める場合もあります。たとえば「四季の明確な違いがある」というのは、日本の風土のひとつです。

風土という言葉は企業や組織でも使われており、定着したルールや基準などの総称を「組織風土」や「企業風土」と表す場合があります。似た言葉の「社風」は、職場の雰囲気やイメージにフォーカスした語といえるでしょう。

企業(組織)風土とは?

組織内で共通認識とされている規則や価値観のこと。組織風土には2つの要素が大きく影響します。

  1. 組織に直接または間接的に関与している人が感じている価値観や考え方
  2. 組織内で明確化されているルール

そのため組織風土は従業員の考え方や行動に大きな影響をおよぼします。また企業にある組織風土が1つとは限りません。複数の部署があれば各部署独自の組織風土が作られると考えられるからです。

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2.組織の風土を構成する要素

組織風土は、価値観やルールなどいくつかの要素で構成されるとわかりました。組織風土の構成要素をより深く考える際は、「7S」モデルが有効です。

7Sとは?

企業の経営資源を7つの視点から分析する手法のことで、世界的なコンサルティングファームのマッキンゼー・アンド・カンパニーが開発したフレームワークです。7つの視点を表す英単語の頭文字がすべてSであるため7Sと呼ばれます。

7つのSは「ハードの3S」と、「ソフトの4S」に分けられ、ハードとソフトは相互関係にあります。

ハードの3S

7Sにおけるハードとは組織の戦略や組織構造、制度など明文化できるもの。比較的短期間で修正や変更がしやすいものです。

  1. 戦略(Strategy)
  2. 組織(Structure)
  3. 制度(System)

①戦略(Strategy)

事業の方向性のこと。事業の方向性は組織風土に影響を与えます。たとえば新進気鋭で急成長をしているベンチャー企業は、スピーディーな事業展開を戦略とする場合があります。

よってベンチャー企業には、意思決定や実行なども迅速に行われる組織風土が定着しやすくなるのです。一方、大企業にこのような組織風土は多くありません。

②組織(Structure)

組織形態や組織構造のことで、部署や役職、指示命令系統などが含まれるのです。

たとえば多くの企業では、トップダウン型のピラミッド型組織形態を採用しています。これは経営層や管理者などの上層から、もっとも多い一般の従業員へ指示が下される形態です。この形態では上層の意思が下層へ浸透しやすいでしょう。

なお近年、個人に意思決定権を持たせる「ティール組織」や、役職や階級などを作らない「ホラクラシー組織」なども導入されています。

③制度(System)

社内制度のこと。企業にはさまざまな独自の制度があり、組織風土に影響します。そのなかとりわけ大きな影響を与えるのが人事制度です。

昇進や昇格の評価にて、企業が求める人材であるかどうかは基準のひとつでしょう。「良い評価を得るには、企業が求める行動を取る必要がある」という共通認識が浸透しやすくなります。

ソフトの4S

ソフト面の4Sは、ソフト面は明文化や可視化がしにくいため、コントロールが難しい要素です。

  1. 価値観(Shared value)
  2. 人材(Staff)
  3. 経営方針(Style)
  4. 組織能力(Skill)

①価値観(Shared value)

企業の経営理念や未来に向けたビジョンや価値観のこと。これらは行動指針や経営戦略などの基盤となり、従業員共通の価値観となっていきます。

分析の際は、価値観自体はもちろん、それにともなって構築された職場環境や雰囲気、そして経営者と従業員の価値観に差がないかなども含まれるのです。

②人材(Staff)

職場の人材(Staff)もまた、組織風土に大きな影響を与える要素でしょう。とくに長く勤務している従業員が多い場合、それぞれの持つ意識や考え方などが部署や課、チームに根付いて風土になっていきます。

あとから入社した人材にとって、なじみやすくよい効果をもたらす風土であれば問題ないでしょう。しかし人材の育成や定着がしにくい風土なら、早急に改革が必要です。

③経営方針(Style)

経営理念やビジョンを実現するためにどの分野でどのような企業活動をしていくかを表すもの。企業の経営にて何を重視しているかを表すもので、組織風土そのものともいえます。

よって経営方針を大きく変更するのは難しいでしょう。なお経営方針の分析には、トップダウンやボトムアップといった経営方式や社風なども含まれます。

④組織能力(Skill)

企業や組織が持っている強みや弱み、能力のこと。組織の強みの部分や得意な能力は、その組織の競争優位性や経営戦略などに影響します。また組織能力は7Sのいずれとも連動するものです。

組織能力によって適した事業や確保すべき人材、整備すべき社内制度などが変わります。よって組織能力は組織風土に大きな影響をおよぼす要素といえるでしょう。

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3.風土改革が必要とされるケース

事業環境や社会の変化などが生じた結果、根付いていた組織風土を変えなければならない場合があります。風土改革が必要とされるケースを見てみましょう。

事業環境の変化

企業を取り巻く環境は目まぐるしく変化しており、たとえば昨今ではIT社会による技術改革が起こっています。

それにともないAmazonによるネット通販、Uberによるタクシーのネット配車や個人配達など、業界の常識を覆すような新しいサービスモデルも登場しました。このような変化に柔軟に対応するには、組織風土の改革が必要でしょう。

労働環境の変化

労働環境の変化に対応していくためにも、組織風土の改革が必要です。今までの年功序列や終身雇用制度といった日本的な雇用の慣行は、優秀な人材の確保や活用の妨げにもなっています。

このような古い雇用慣行が残っている場合、新しい働き方や多様なキャリア形成などを取り入れ、組織風土を刷新していく必要があるでしょう。

社会の変化

社会の変化には、昨今の働き方改革やコロナ禍によるリモートワークの奨励などが挙げられます。これらによりビジネスにおける社会の環境は、今までと大きく変わりました。変化に対応するには、制度や組織構造などで風土改革を推し進める必要があります。

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4.風土改革を行うメリット

風土改革を行うとさまざまなメリットがあります。それぞれについて解説しましょう。

  1. 生産性が向上する
  2. 優秀な人材を確保できる
  3. 企業のイメージアップにつながる

①生産性が向上する

人材育成や組織体制、各種制度の見直しによる風土改革を行うと、生産性の向上が期待できます。たとえば長時間労働や残業が横行している組織風土を改革する場合、同じ業務量を短い時間でこなさなければなりません。

人員の補充や組織形態の変更、制度や既定の整備などで業務を効率化できれば、すなわち生産性の向上も実現できるのです。

②優秀な人材を確保できる

古くからの雇用体制を疑問視し、現代の働き方に合った雇用の方法に切り替える風土改革は、優秀な人材の確保にもつながります。さまざまな働き方に対応し、多様なスキルや経験のある人材を受け入れていけば、より優秀な人材を確保していけるでしょう。

外部からの募集だけでなく、社内で優秀な人材を発掘し、育成していける制度の導入も効果的です。

③企業のイメージアップにつながる

それまでの組織風土を改革すると、今の時代に合った風土を組織に根付かせられます。これは組織の価値向上やイメージアップにつながるでしょう。

近年、従業員の満足度向上が重視されています。また従業員の健康に配慮する「健康経営」や、多様な人材を受け入れる「ダイバーシティ」などに取り組むのもひとつの方法です。

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5.風土改革の進め方

実際に風土改革を行っていくためには、何から始めればいいのでしょうか。風土改革の進め方を見てみましょう。

STEP.1
企業ビジョン・行動指針を策定する
既存のビジョンや行動指針を改めて考え直しましょう。7Sで説明したとおり経営理念や将来のビジョン、行動指針などは組織風土に大きく影響するからです。

また経営理念やビジョン、行動指針などを見直すと、沿って策定される経営戦略も変わります。よって制度や規則、求める人材などもすべて再考する必要があるでしょう。

STEP.2
風土改革の目的や理由を伝える
風土改革を行う前に、その目的や理由を従業員にしっかりと説明し、理解を得る必要があります。実際に現場で風土を作っていくのは、その組織の従業員だからです。

その従業員が風土改革を行う目的や理由を知らないままでは、上層からの命令で仕方なく取り組む形になってしまい、十分な改革につながりません。ポイントは、管理職やベテラン従業員の理解を得ることです。

STEP.3
経営者側が手本を示す
「経営者として風土改革を行っていく」という意思や姿勢を示しましょう。経営者が率先して風土改革に取り組めば、従業員に風土改革の必要性が伝わりやすくなるからです。

経営者が風土改革に乗り出せば、評価や承認なども新しい風土に準じていきます。経営者はもちろん、管理者やリーダーなどの役職者も同様でしょう。

STEP.4
組織風土を仕組み化する
風土改革にはハードの変更、つまり制度や仕組みの整備も必要です。新しい風土に即した行動を取った従業員が適正な評価を得られるよう、人事制度や評価制度、報酬制度などを変更しておきましょう。

人材の育成や確保には、研修や教育制度などの刷新が必要になるかもしれません。従業員が自主的に風土改革へ取り組むためにも、新しい組織風土に沿った仕組みづくりは必要不可欠です。

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6.風土改革の企業事例

さまざまな企業が風土改革を実施しており、大手企業の成功事例も多数あります。ここでは風土改革を行った3社の事例を見てみましょう。

日本ハム

食品加工メーカーの日本ハムは、子会社の牛肉偽装事件が明るみに出たことをきっかけに、「日本一誠実な会社」を目指して風土改革に取り組みを開始しました。

それまでの企業風土であった業績至上主義的と、法令順守に対する意識の低さ、管理体制や人事体制を正すべく、従業員の意識改革や業績とコンプライアンスの3つを両立させる仕組みを構築したのです。

トヨタファイナンス

自動車販売金融などの金融事業を営むトヨタファイナンスは、2010年から「企業文化変革活動」という取り組みを開始。この取り組みでは「人(働き方)」と「マネジメント」、そして「職場風土」の3つを同時に変革しようとしています。

目的は、組織内の信頼関係を築いて一人ひとりの従業員がいきいきと働ける環境を作ること。施策には、自分や職場を振り返るワークショップの実施が挙げられます。

佐竹食品

スーパーマーケットを展開している佐竹食品は、店舗を拡大していくうちに会社が大切していた理念が薄まっているとわかり、風土改革に取り組みました。

会社の理念を全従業員に伝えるため、店舗を1日休みにして総会を開催。従業員の行動に変化が現れ、総会を開いた月は過去最高の利益を出しました。

また人事や総務、経理には「現場が商売に専念できる状態を作る」というビジョンを設定。風土改革をした結果、それぞれの部署でやるべきことが明確になったのです。