副業禁止は違法になるのか?【なぜ企業は禁止したい?】

働き方改革の一環として、政府は副業を認める姿勢を見せました。しかしいまだに多くの企業が解禁に踏み切れていません。それはなぜなのでしょうか。副業禁止の違法性、企業が副業を禁止したい理由、副業を解禁した企業の成功事例などとともに解説します。

1.副業は法律では禁止されていない

日本国憲法22条では「職業選択の自由」を保障しており、副業を禁止する法律はありません。そのため基本的に本業の就業時間外なら、誰でも自由に副業を行えます。

しかし多くの企業が、「競業避止義務」「秘密保持義務」「職務専念義務」などを理由に、従業員の副業を禁じる就業規則を設けているのです。

競合他社で副業されれば自社の利益が損なわれるかもしれませんし、機密情報が漏えいするリスクも高まります。また勤務時間内に副業する従業員は、自社の職務に専念していないことを意味するでしょう。

そのためこのような就業規則があるにもかかわらず副業をした従業員は、懲戒処分が科せられる可能性も高いです。

公務員の副業は禁止されている

公務員の副業も禁止されていないものの、「国家公務員法」および「地方公務員法」で活動の範囲が制限されています。国家公務員は公務員の制限は次のとおりです。

  • 報酬の有無にかかわらず、営利目的企業の役員などへ就任することを禁止(罰則あり)
  • 1以外の副業については、内閣総理大臣と所轄庁の長(都道府県知事)の許可が必要

地方公務員に対しても原則、上記1と2の制限が適用されます。ただし任命権者(都道府県知事など)の許可があれば、いずれも認められる可能性があるのです。

なお国家公務員法および地方公務員法では、公務員に「三原則」を設けており、実際には副業を厳しく制限しています。三原則の内容は次の3つです。

  1. 信用失墜行為の禁止
  2. 守秘義務
  3. 職務専念の義務

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2.副業禁止は違法になるのか?

個々の企業が就業規則に「副業禁止」の条文を設けることは、違法ではありません。就業規則はそれぞれの企業が独自に定めた社内のルールであり、法律ではないからです。また法律では「就業規則で副業を禁じてはならない」とも定めていません。

そのため従業員の副業を禁止している企業や、就業規則に違反して副業を行った従業員は法律違反とみなされないのです。とはいえ、就業規則を守らずに副業を行った従業員は、社内で定めている罰則を受ける可能性が高いでしょう。

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3.企業はなぜ副業を禁止するのか?

先ほど競業避止義務うあ秘密保持義務、職務専念義務などの理由で、副業を禁止する企業が多いと解説しました。実はこれらのほかにも禁止する理由があるのです。

  1. 長時間労働の助長
  2. 利益相反リスク
  3. 人材流出の防止

①長時間労働の助長

副業をすると長時間労働や過重労働が生じやすくなり、従業員が疲労のため事故を起こしたり、健康を損ねたりしやすいからです。企業には「安全配慮義務」(労働基準法第5条)があり、従業員の安全や健康を守らなければなりません。

しかし本業での管理はできても、就業時間外に行う副業の状況を把握して配慮するのは困難です。そのためどのような副業であっても一律的に禁止する企業も多く見られます。

②利益相反リスク

従業員の副業が自社に不利益をもたらすリスクが高まるからです。副業先が同業他社の場合、従業員の活躍によって「人的リソースが奪われる」「顧客やシェアを奪われる」など「利益相反」が生じる恐れもあります。

そのためまったく別の業界や業種であれば、副業を認める場合もあるのです。

③人材流出の防止

副業を積極的に行う従業員のなかには、他社で経験を積んで転職や独立を目指している人もいます。副業が軌道に乗ったらそちらを本業にして、自社を退職しようと考えているかもしれません。

せっかく育成した人材が流出すると企業にとって大きな痛手となるため、流出のきっかけとなりえる副業を禁止するのです。

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4.副業を禁止するメリット

副業を解禁すると、企業はさまざまなリスクを抱えます。そのため副業を禁止すれば、余計なリスクを減らせるのです。ここでは副業を禁止すると得られるメリットを3つ解説しましょう。

  1. 生産性の維持や向上
  2. 情報漏えいリスクの低下
  3. 適切な従業員管理が可能

①生産性の維持や向上

副業を禁止すれば従業員は自社(本業)に集中しやすくなり、企業の生産性の維持や向上が期待できます。

副業を行う従業員は就業時間以外に働くため、長時間労働や過重労働に陥るリスクが増えてしまうのです。このような状況は睡眠不足や疲労を生みやすく、業務効率が悪化してしまうでしょう。

また副業の禁止はこれらのリスクを回避するだけでなく、優秀な人材の流出を防ぐため、組織の成長による生産性の維持向上にもつながります。

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②情報漏えいリスクの低下

副業を禁止すると、機密情報が漏えいするリスクを低下できます。自社の従業員が同業他社で副業をすれば、その業務で自社独自の技術やノウハウを使う可能性もあるからです。

たとえ従業員に故意がなくても、機密情報が競合相手に知られてしまうリスクは避けられません。競争優位性の低下のように自社にとって大きな損失となりえます。副業を禁止すれば、機密情報が外部へ流出する機会を減らせるのです。

③適切な従業員管理が可能

副業を禁止すると、従業員の勤務時間や雇用保険などの管理に余計な手間がかからなくなります。副業している従業員の勤務時間を決める際、副業先での就業時間も考慮しなければなりません。

また雇用保険は本業か副業のどちらかでしか加入できないため、もし従業員が副業先で雇用保険に加入する場合、本業の企業では雇用保険の被保険者資格喪失手続きを行わなくてはなりません。副業を禁止すれば、これらの管理がしやすくなるのです。

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5.副業を禁止するデメリット

副業の禁止には、事業拡大のチャンスや、従業員の成長機会を失うといった側面もあります。副業を禁止するデメリットについて、説明しましょう。

  1. 事業拡大の機会損失
  2. 昔気質な企業イメージの定着
  3. 知識やスキル獲得の機会損失

①事業拡大の機会損失

たとえば従業員の副業がきっかけとなって、副業先企業と新たに取引を開始するケースが挙げられます。また副業先から新たなアイディアを得た従業員が、事業計画の創造をもたらすかもしれません。

副業を認めると従業員が「自社と副業先の橋わたし」を担うため、事業拡大のチャンスを増やせます。

②昔気質な企業イメージの定着

副業を禁止する企業には、「昔気質」や「考え方が古い」といったイメージが定着する恐れもあります。政府が副業を促進しはじめ、多くの企業が副業を解禁する動きを見せているからです。

副業を禁止する企業は、副業をしながら自分キャリアやスキルを高めたいと考える積極的な人材から敬遠されてしまうかもしれません。副業禁止は、優秀な人材を確保する機会を減らしてしまいかねないのです。

③知識やスキル獲得の機会損失

副業を禁止すると、新しい知識やスキルを得る機会が失われるかもしれません。従業員が別の環境で働くと、新たな気づきや、本業では得られない知識やスキルを得るチャンスが訪れるからです。

また従業員が副業先で習得したことを本業で生かせば、企業は新しいノウハウを獲得できます。副業を禁止した企業は、従業員が成長する機会、さらに事業の成長や改革につながる機会を逃がすかもしれないのです。

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6.副業を許可する際の注意点

従業員の副業には、情報漏洩や長時間労働など、さまざまなリスクが生じます。副業を認める場合は、これらのリスクに対応できる環境づくりが必要でしょう。企業が副業を解禁する際の注意点を3つ解説します。

  1. 就業規則の整備
  2. 健康状態の管理
  3. 労働時間の把握

①就業規則の整備

副業解禁による企業のリスクを防ぐには、就業規則に新たな条文を設けて、ルールを明確化する必要があります。定める項目は次のようなものです。

  • 副業を行う場合の申請先および申請方法
  • 副業を認めない時間帯や条件
  • 副業先の情報(勤務地や業務内容、労働時間や賃金など)
  • 規則に違反した場合の罰則や懲戒内容

ルールを明確にすれば、企業は副業をする従業員を管理しやすくなります。従業員側も許可される範囲がわかれば、安心して副業を始められるでしょう。

②健康状態の管理

従業員の健康状態を把握し、適切に管理する必要があります。副業がきっかけで体調を崩し、本業の生産効率を低下させるかもしれないからです。

労働安全衛生法では、「企業は従業員が副業しているかどうかにかかわらず、健康診断等を実施しなければならない」と定めています。

定期的な健康診断のほかにも、長時間労働や過重労働による体調不良、それにともなうストレスなど、従業員の心身状態をチェックする体制を整備しましょう。

③労働時間の把握

本業でも副業でも、兼業している従業員の労働時間を正確に把握しておく必要があります。本業の就業時間外で副業を行うと、時間外労働となるからです。

2020年4月からすべての企業に、時間外労働の上限規制が適用されました。そのため各従業員の時間外労働時間数を、ひと月100時間未満、年間720時間以内、複数月の平均を80時間以内に抑えなければなりません。

副業の労働時間(時間外労働)と自社での時間外労働を合算し、上限規制内に収まるよう労働時間をコントロールする必要があるのです。

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7.副業禁止にもかかわらず従業員の副業が発覚した場合

副業を禁止している企業で従業員の副業が発覚しても、法的に罰せられることはありません。副業を禁止する法律は存在しないからです。

ただし就業規則に罰則規定が設けられていれば、違反内容に相当した懲戒処分を受ける状況になります。なお懲戒処分でもっとも軽いのは「けん責」や「戒告」、もっとも重いのは「懲戒解雇」です。

就業規則に違反した場合の罰則が設定されていなければ、企業は副業を行っていた従業員に対してペナルティを課せられません。

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8.副業禁止規定における懲戒処分例

懲戒処分には、「けん責」「戒告」「減給」「出勤停止」「降格」「諭旨解雇」「懲戒解雇」などの段階があります。就業規定に違反して企業に多大な損害を与えた従業員には、もっとも重い懲戒解雇処分が科されるかもしれません。

ここでは副業で懲戒処分を受ける可能性がある事例をご紹介します。

  1. 本業に支障があるケース
  2. 企業の利益を害するケース
  3. 企業の信用に影響をおよぼすケース

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①本業に支障があるケース

副業によって「職務専念義務違反」、つまり自社の職務に専念していないと認められた場合、懲戒処分が科される可能性もあります。たとえば次のような行為です。

  • 副業による睡眠不足で、本業の業務時間中に居眠りをする
  • 副業による長時間労働や過重労働で、遅刻や欠勤を繰り返す
  • 上司に業務に必要な時間外労働を指示されても、副業を理由に拒否をする

②企業の利益を害するケース

副業によって「競業避止義務違反」、つまり本業の企業の利益を侵害したとみなされると懲戒処分の対象となる可能性があります。たとえば次のような行為です。

  • 同業他社で副業を行い、本業のクライアントに対して、競合する商品やサービスを提供する
  • 同業他社の副業先で、本業の機密事項を漏洩する
  • 副業で本業企業と競合する会社を設立する

③企業の信用に影響をおよぼすケース

副業によって自社の名誉や信用を傷つけたとみなされた場合も、懲戒処分の対象です。たとえば次のような行為になります。

  • 反社会的勢力がかかわる企業で副業を行なう
  • 副業で違法な業務を行ってトラブルを引き起こす

このようなケースでは、もっとも重い懲戒解雇処分もありえます。

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9.副業禁止を解禁した企業事例

すでに副業を解禁した企業では、新事業の展開や従業員の成長といった効果が見られています。ここでは副業を解禁した3社の事例を解説します。

  1. クラウドワークス
  2. ロート製薬
  3. サイバーエージェント

①クラウドワークス

クラウドワークスは、2016年に「副業」を、2019年には「フルフレックス」や「フルリモート」を解禁。現在エンジニアやデザイナーなど、全体のうち約3割の従業員が副業や兼業を行っています。

同社は副業で得たノウハウを生かし、2020年から企業向けに「副業導入プログラム」の提供を開始。副業導入のコンサルティングやセミナーなど、新しい事業を展開しました。

②ロート製薬

ロート製薬は、2016年にふたつの副業制度を導入しました。

  • 社外チャレンジワーク制度:入社3年以上の従業員を対象に、就業時間外と休日に副業を認める
  • 社内ダブルジョブ制度:現在の部署と別の部署の兼務を認める

副業制度の導入で本来の業務とは違う仕事に取り組む従業員が増え、新しいアイディアや事業の創出が促進されました。

③サイバーエージェント

サイバーエージェントは2015年に承認制で副業を解禁し、2019年に「Cycle(さいくる)」を導入しました。

Cycle(さいくる)は、エンジニアとクリエイターを対象に、グループ内での副業を推進する制度。この制度の導入は、社内リソースの効率化やスキルの向上、従業員のキャリアアップなどを促進しました。