福利厚生費とは、会社が従業員の慰安などのために支出する費用のこと。ここでは、福利厚生費として扱われるものや法定福利費の見積書、福利厚生の現状について解説します。
目次
1.福利厚生費とは?
福利厚生費とは、従業員の慰安や医療、衛生などを目的として事業主が支出した費用のこと。たとえば事業主が負担する従業員の健康保険、厚生年金などの保険料や掛金などです。まず福利厚生費と交際費等の違いについて見ていきましょう。
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福利厚生費と交際費等の違い
交際費等とは、法人税法で得意先や仕入先そのほか事業に関係のある者に対する接待や供応、慰安や贈答といった行為のために支出する費用のこと。「得意先や仕入れ先そのほか事業に関係のある者」には、会社の役員や従業員なども含まれます。
2.福利厚生費の内訳を紹介
福利厚生費は大きく分けて、法定福利費と法定外福利費の2種類に分かれます。それぞれについて解説しましょう。
- 法定福利費は法律上必要となる保険料などの費用
- 法定外福利費は法定福利費以外の費用
①法定福利費は法律上必要となる保険料などの費用
法定福利費とは、保険料など法律上必要となる費用のこと。たとえば「医療保険・労災保険・年金保険・雇用保険・介護保険」などです。
法人または5人以上の従業員がいる個人事業主は原則、社会保険制度に加入し、上記の社会保険料を負担すると義務づけられています。
現金給与総額に対する福利厚生費の割合は、日本経済団体連合会の2016年度(2016年4月~2017年3月)の調査によると19.8%。内訳は法定福利費が15.3%、法定外福利費が4.5%となっています。
②法定外福利費は法定福利費以外の費用
法定外福利費とは、法定福利費以外の費用のこと。たとえば下記のようなものです。
- 社宅の提供といった住宅関連
- 健康診断といった医療保険関連
- 給食といった生活援助関連
- 体育館の提供といったレクリエーション関連
上記のような法定外福利費は、企業によってさまざまです。しかしこのような支出は基本、福利厚生費として処理するものの、場合によっては福利厚生費に含まれないものもあります。
3.福利厚生費のうち法定福利費として扱われるもの
ここからは福利厚生費のうち法定福利費として扱われるものについて、解説します。
- 健康保険
- 雇用保険
- 厚生年金保険
- 子ども・子育て拠出金
- 介護保険
- 労災保険
①健康保険
健康保険とは、病気や怪我、それによる休業や死亡などに備える公的な医療保険制度のこと。被保険者である従業員と事業主が保険料を負担し合って運用されているのです。
日本では、国民のすべてが公的医療制度に加入しなければいけないという国民皆保険制度を導入しています。そのひとつ健康保険は、会社などに勤めている従業員や事業者を対象とした保険で、「組合けんぽ」と「共済けんぽ」の2種類があるのです。
なお「国民健康保険」は、自営業者といった健康保険に加入していない人を対象としています。
②雇用保険
雇用保険とは、従業員が失業した場合や雇用の継続が困難となる事由が発生した場合に必要な給付を行う制度のこと。企業の従業員が対象となっており、事業主(個人事業主を含む)は加入できません。雇用保険の目的は、下記の2つです。
- 失業したといった状況で必要な給付を行い、生活と雇用の安定を図る
- 従業員の再就職を支援・促進する
雇用保険の加入には条件があります。たとえば「31日以上の雇用継続が見込める」「1週間あたりの所定労働時間が20時間を超える」などです。
③厚生年金保険
厚生年金保険は、被保険者が高齢になったり障がいを負ったり亡くなったりした際に、年金や一時金の支給を行う制度のこと。日本の年金制度は、「3階建て」と呼ばれており、1階が国民年金、2階が厚生年金、そして3階が企業年金となっています。
厚生年金は、企業に勤める会社員や公務員を対象としており、国民年金に上乗せして支払われる年金です。個人事業主(飲食店などのサービス業は除く)でも、従業員が常時5人以上いる場合、厚生年金に強制加入となります。
④子ども・子育て拠出金
子ども・子育て拠出金とは、企業や個人事業主が納付すべき税金のことで、児童手当や子育て支援事業に充てられます。国や自治体が実施する子育て支援策に、企業や自治体が税金を納めて協力するのです。
これは従業員への報酬をもとに算出されますが、従業員負担はなく、雇用主が全額負担します。子ども・子育て拠出金は、内容や税率が頻繁に改定され、現在の拠出金率は、平成30年4月に改定された0.29%となっているのです。
⑤介護保険
介護保険とは、介護が必要な人に介護サービスにかかる費用を給付する保険のこと。40歳になると加入が義務づけられ、保険料を支払います。
40歳から64歳までの被保険者は健康保険料とともに徴収され、65歳以上の被保険者は基本、年金から天引きされて市区町村が徴収するのです。
介護サービスの対象者は原則、65歳以上の被保険者(第1号被保険者)。40歳から64歳までの被保険者(第2号被保険者)は、指定の16疾病により介護認定を受けた場合にのみサービスを受けられます。
⑥労災保険
労災保険とは、雇用されている人に対して仕事中もしくは通勤中に起きた出来事に起因した病気や怪我、障がいなどを負った場合に保険給付を行う制度のこと。正式名称を「労働者災害補償保険」といい、「労災」と略される場合も多いです。
対象者には正社員だけでなく、パートやアルバイトも含まれます。健康保険との違いは、労災保険はあくまでも仕事上もしくは通勤途上に起因したもののみが対象である点。また労災保険の対象になると、療養にかかる費用の自己負担もありません。
4.福利厚生費のうち主に法定外福利費として扱われるもの
福利厚生費のうち法定外福利費として扱われるものについて解説しましょう。
- 慶弔見舞金
- 法定外の健康診断
- 通勤手当
- 退職金
①慶弔見舞金
慶弔見舞金とは、従業員やその家族に慶事や不幸があった際に企業から支給されるお金のこと。たとえば「結婚祝い金・出産祝い金・傷病見舞金・災害見舞金・死亡見舞金」などです。
ほかにも企業で独自に、昇進祝い金や成人祝い金、開店祝い金や創立記念祝い金などを出している場合があります。
②法定外の健康診断
企業には、定期的に従業員へ健康診断を受けさせると義務づけられています。しかしそれ以外に人間ドックなど法定外の検診を受けるための費用を会社で負担する場合、法定外福利費として扱われるのです。
人間ドックといった法定外の検診を福利厚生費として計上するには、「すべての従業員が受診できる」「検診を受けたすべての従業員の費用を企業が負担する」といった条件があります。
③通勤手当
通勤手当とは、従業員の通勤の際にかかる電車代・ガソリン代のすべて、もしくは一部を企業が負担するもの。企業が負担する通勤手当も法定外福利費として扱われます。
労働基準法によって通勤手当の支給の定めはないため、完全に企業の裁量に任せられているものです。企業によって、支給しないケースや限度額を設定しているケースなどさまざまあります。
④退職金
退職金とは、従業員が退職する際に支払われるお金のこと。退職金は従業員の経済的な安定につながるため、法定外の福利厚生費として扱われます。とはいえ、法律上の規定などはないため、企業の意向や経営状態に合わせて自由に策定できるのです。
退職金制度を制定し実施すると、退職時や将来的な債務として企業に残っていきます。そのため企業によっては、ほかの福利厚生と別の位置づけにしているのです。
5.福利厚生費と現物給与について
現物給与とは、金銭以外で提供される給与のことです。一般的に給与は金銭で支払われますが、実はさまざまな形で現物給与がされています。たとえば下記のようなものです。
- 住宅手当や社宅の貸し出し
- 保養所といった休暇施設の無料利用制度
制服の貸与や支給は原則、非課税です。しかしいわゆるスーツのような制服としての機能が低いものを支給すると課税対象となります。
福利厚生費は原則、非課税扱いです。しかしなかには課税対象となるものもあります。ここでは課税対象となるものについて見ていきましょう。
研修旅行
研修旅行が会社の業務遂行のために直接必要な場合、費用は給与として課税対象になりません。しかし直接必要でない場合、研修旅行の費用は課税対象となります。たとえば下記のような研修旅行は、業務を行うために直接必要でないとされています。
- 同業者団体が主催する、観光を主な目的とした研修旅行
- 観光渡航の許可をもらい、海外で実施する研修旅行
従業員のレクリエーション旅行
レクリエーション旅行が下記のような場合、現物給与となる可能性があります。
- 旅行の期間が4泊5日以上である
- 参加人数が全従業員の半数に満たない
上記の条件を満たしていても、自己都合で参加しなかった従業員に対して金銭を支給する場合はどうなるのでしょう。この場合、参加した人と参加しなかった人全員が、参加しなかった人に対して支給する金額に相当する額の給与の支給があったものとされます。
食事の支給について
食事の支給については下記のような場合、現物支給に該当します。
- 支給を受けた者が、食事の価額の半分未満しか負担していない場合
- 企業が負担した食事の負担額が1カ月あたり3,500円(税抜)を超えている場合
- 残業や深夜に勤務する従業員に対して、食事を支給した場合
上記はいずれも社員食堂といった場所にて、食事が現物で提供されている場合です。食事手当として現金が支給されている場合、給与となり課税対象となります。
6.法定福利費の見積書について
2017年に国土交通省から「法定福利費を内訳明示した見積書の作成手順」が公表されました。これによって、法定福利費の内訳を明示するルールと記載する法定福利費の算出方法が打ち出されたのです。
ここからは、見積書における法定福利費について解説します。
法定福利費を内訳明示した見積書の作成手順
建設業では見積書を作成する際、法定福利費といった費用がまとめて記載されているため、内容の分かりにくい状況が続いていました。そこで2017年、国土交通省は新たなルールを打ち出したのです。
これにより法定福利費はまとめてではなく、「内訳をきちんと明示する」「算出方法」が決まりました。国はルールに則って、内訳などが分かりやすい見積書の作成を促しています。
法定福利費の計算方法
法定福利費は通常、「年間の賃金総額×各保険料の保険料率」にて算出されます。
見積額に計上した「労務費」を賃金と見なしてそれに各保険の保険料率を掛け、算出するのが一般的です。たとえば建設現場の場合、労務費は必要な人工数と平均日額賃金をもとに算出します。そして算出した労務費から、法定福利費を算定するのです。
内訳を明示する必要のある法定福利費の範囲
法定福利費の場合、「健康保険料(介護保険料含む)・厚生年金保険料(児童手当拠出金含む)・雇用保険料・労災保険料」といった社会保険料が含まれます。
見積書で内訳を明示する法定福利費は原則、上記のうち事業主負担分のみです。各社が個別でこれら以外を明示する分には問題ありませんが、「本人負担分も含む」などの記載が必要となります。
7.福利厚生を取り巻く現状
最後に、現在の日本の福利厚生制度を取り巻く現状について解説します。日本の福利厚生制度は、長期的な景気後退といった影響により、伝統的なあり方から変化の兆しが現れているのです。ではその動向や実施状況などについて見ていきましょう。
福利厚生費の動向
景気の回復とともに売上高が回復し、結果として付加価値や人件費総額が増加し、福利厚生費に対する配分原資が増えているのです。しかしながら付加価値や人件費内での福利厚生費における配分率は、減少しています。
この要因として考えられるのが、法定福利費の継続的な上昇に対する予防的措置や団塊の世代の退職に伴う費用負担です。
福利厚生の実施状況について
JILPTが行った「企業における福利厚生施策の実態に関する調査」では、福利厚生施策として下記のものが多く実施されています。
- 慶弔休暇制度(90.7%)
- 慶弔見舞金制度(86.5%)
- 病気休職制度(62.1%)
- 永年勤続表彰(49.5%)
- 人間ドック受診の補助(44.6%)
上記から、休暇制度や慶弔災害、健康管理に関するものが多いと分かります。
非正規の従業員に対する適用
同調査で非正規の従業員に対して適用している福利厚生施策は、下記のとおりです。
- 食堂(81.1%)
- 企業内保育施設や保育サービス(ベビーシッターなど)の情報提供(72.4%)
- メンタルヘルス相談(67.9%)
- 運動施設の設置(65.6%)
- 診療所や健康管理センターといった医療施設(65.4%)
上記から、食事や健康管理、休暇制度に関するものが多いと分かります。