全人格労働は、労働者の心身に大きなダメージを与える働き方です。一体どのような働き方なのでしょうか。ここでは、全人格労働についてさまざまな角度から解説します。
目次
1.全人格労働とは?
全人格労働とは、人生や人格といった人間の根幹となるものすべてを仕事に捧げてしまう働き方のこと。人生すべてを会社や仕事に支配される働き方のため、自分自身のすべてを会社や仕事に搾取、奪取されてしまうのです。
結果、全人格労働は労働者の心身に大きなダメージを与え、場合によっては破滅的な結果を招いてしまいます。
2.全人格労働という言葉が登場した書籍
全人格労働という言葉が初めて登場したのは、阿部眞雄氏の著書である『快適職場のつくり方―イジメ、ストレス、メンタル不全をただす』です。
書籍の中で、企業競争の激化、解雇の恐怖、仕事へのプレッシャーなどによって全人格労働が広がった結果、正常な判断ができなくなった労働者が増えている、と指摘されました。
3.全人格労働が引き起こす問題
全人格労働は、知らぬうちに労働者の心身にさまざまな問題を引き起こしてしまうのです。ここでは下記3つの視点から、全人格労働が労働者の心身に引き起こす問題点を簡単に解説します。
メンタルヘルスに不調をきたす
メンタルヘルスとは、精神的健康、心の健康、精神衛生のことで、全人格労働はメンタルヘルスを不調に追い込む原因になるのです。
不安感や疲労感といった軽度のものから、うつ病や不安障害、適応障害といった程度の重いものまでさまざまな症状を引き起こし、場合によっては、入院、休職、退職を余儀なくされる場合もあるでしょう。
健康に不調をきたす
血圧の変動、肩こり、頭痛、耳鳴り、動悸といった軽度のものから、手の震え、脳疾患や心臓疾患、睡眠障害などまでさまざまな症状を引き起こします。
労働者本人は自分の人生や人格のすべてを仕事にかけているため、上司に相談したり病院に行ったりすることもできません。気が付いたときにはさらに症状が進行してしまっている、というケースも少なくないのです。
能力の低下
メンタルヘルスや健康に不調が出てくると、下記のような状況が目立つようになります。
- 遅刻、早退が増える
- 無断欠勤をする
- 仕事に集中できず進捗が遅れる
- 会議を欠席する
- 提出書類が遅れる
- 業務上のミスが多くなる
このような状態では、判断力を失う、自分から物事について考えられなくなってしまうなど、その人が本来持っている能力そのものまで低下してしまうでしょう。
4.全人格労働の事例
全人格労働という言葉が広まったきっかけになった事例を紹介します。それは、2016年1月、東京の綾瀬駅付近で起きました。
綾瀬駅付近で電車が緊急停止したとき、ある一人の会社員が「会議があるので会社に遅刻できない」と、電車から線路に降りて歩き始めたのです。結果、電車は各区間で1時間程度の運転見合わせとなり、大きな混乱が生じました。
この事件は、一人の人間のすべてを仕事に捧げてしまう全人格労働が原因となって起こったことだとして、全人格労働という言葉とともに社会に広く知れ渡りました。
5.全人格労働の対応、対策、対処法
全人格行動になりかけている、全人格行動になってしまったといった場合でも対処法はあります。そのような状態に陥っても慌てないように、5つの具体的な対処法をご紹介しましょう。これらを参考にして、冷静に対応してみてください。
- 自分の軸をつくる
- 自分で考える癖をつける
- 休暇を取る
- 状況について相談する
- 転職や退職を考える
①自分の軸をつくる
- 最も大切にしたい事柄は何か
- 自分はどのような人生を送りたいと考えていたのか
- 自分が本当にやりたいことはどのようなことなのか
など、自分の中の価値観の軸を見つめ直す時間を持ってみましょう。
全人格労働に陥ってしまった場合、自分の軸が仕事や会社だけになっている可能性が否定できません。そこで、自分自身がどのようなことに価値を感じ、何を大切にして生きてきたのかを自問自答して、己の中の軸を再確認、再構築していくのです。
②自分で考える癖をつける
己の中に、価値観の軸や自分らしさが作られるほど、「今の自分の状況はおかしい」といった変化に気付きやすくなります。それを機に、自分が置かれている状況を冷静に分析し、自分が今できる対処法を探り、見つけるといった対処ができるでしょう。
そのためには、日頃から自分の頭で考える癖が必要です。指示されたまま、言われたままに動くことしかできなければ、いくら自分の軸があってもそこから先、自分が進むべき道を考えることはできません。
③休暇を取る
全人格労働に陥っている人が、「仕事に支障を来たすから休暇を取ってはいけない」と考えるケースがあります。休暇は、心身のリフレッシュに必要な時間ですが、全人格労働に陥っている場合、心身が疲弊している可能性は高いです。
- 積もり積もった疲労を回復させる
- 自分の身体と心に休息を与える
- 心身の英気を養う
ためにも、休暇を積極的に取得しましょう。
④状況について相談する
全人格労働に陥ると、その多くは誰にも相談しないまま、会社や仕事に支配された自分の価値観だけで凝り固まってしまいます。そのような状態が長く続けば仕事や会社への依存度が高くなっていき、後戻りできないところまで進んでしまうでしょう。
それを打開するには、自分以外の誰かに現状を話すことが必要です。上司や同僚、人事部や家族といった存在以外にも、外部の労働問題の相談窓口などを上手に活用して、自分の置かれている状況を客観的に判断してもらいましょう。
⑤転職や退職を考える
- 自分がどのようなものに価値を置くかといった己の軸
- 会社の中で自分が置かれている状況
両者の乖離が大きすぎる場合には、転職や退職といった道も考慮してみましょう。
慣れた今の会社から離れる、そこにはさまざまな不安があるかもしれません。しかし、人間の根幹のすべてを仕事に捧げてしまう全人格労働に陥っている以上、現状のままでは状況は悪化していくばかりです。
新天地で活躍の場を探すことも、選択肢に加えましょう。