転勤の話題では、「来月から本社へ赴任する」「単身赴任することになった」など、「赴任」という言葉をよく耳にします。「赴任」「転勤」「出向」は、それぞれどのような意味を持つのでしょうか。ここでは赴任について詳しく解説します。
目次
1.赴任とは?
赴任(ふにん)とは、会社から転勤を命じられた社員が新しい勤務先に赴くこと。辞書などでも「任地におもむくこと」としており、勤務先に「行く」行為に焦点が当たるイメージです。
同じ会社内で勤務先が変わる「転勤」とは少しニュアンスが異なります。しかし意味や使い方にほとんど違いはありません。
赴任はどのような場面で使う?
赴任はビジネスシーンでよく使われます。主に使われる場面は、下記のとおりです。
- 赴任する:新しい勤務地に行くときに使う
- 赴任地:新しい勤務地の所在地を指す。たとえば、東京本社への転勤では、赴任地は本社ではなく東京になる
- 海外赴任:新しい勤務地が海外の場合に、相当期間を現地で暮らしながら働くこと。海外出張との違いは、「とどまる期間が長く現地で生活をする」「海外に事業所がある」点。出張の場合はかならずしも赴く先が自社の事業所ではなく、海外赴任する人は、海外赴任者・駐在員とも呼ばれる
- 単身赴任:家族と離れて単身で住所を移し、相当期間を現地で暮らしながら働くことを指す
2.赴任と転勤・出向の違い
「赴任」「転勤」「出向」いずれも勤務地が変わるときに使用します。しかしそれぞれの違いとなると、分からない部分もあるでしょう。ここでは、転勤と出向の詳細について解説します。
転勤とは?
転勤とは、会社の人事異動で勤務地が変わること。多くは引っ越しを伴うような、現在の勤務地から距離のある勤務地への異動を指します。転居が必要ない場合や、同じ建物内の部署変更で勤務地が変わらない場合は、単に「異動」と呼ぶのです。
日本の転勤制度は終身雇用制と共に定着してきました。終身雇用制では社員をかんたんに解雇できないため、労働力のバランスが崩れた際、余裕のあるチームから不足しているところへ社員を異動させて調整する意味もあったようです。
出向とは?
出向とは、所属する会社との雇用関係を保ったまま、子会社や関連会社などの別企業へ異動すること。雇用契約は変わらないため、出向者の籍と給与支払い義務は出向元企業にありますが、業務を遂行するうえでの指揮命令権は出向先企業が持ちます。
出向先企業への経営指導や技術指導、若手・中堅社員の能力開発や経験蓄積のため、出向を行うケースも多いです。なお出向元との雇用関係を解消して出向先と雇用契約を結ぶ場合は転籍となります。
3.赴任と似ている言葉は?
赴任と似た使い方をされる言葉に、「帰任」「就任」「駐在」「配属」「転属」があります。何気なく使ったり聞いたりしていますが、違いをうまく答えられない人も多いでしょう。ここでは5つの単語について、意味や適切な使い方を解説します。
- 帰任
- 就任
- 駐在
- 配属
- 転属
①帰任
帰任は、以前の職場や業務に戻ること。違う勤務地に行く赴任とは逆の意味を持ち、出向や転勤を終えて元の勤務地や仕事に復帰することを表します。
「任期満了のため海外支社から日本本社に帰任する」や「出向が終わって帰任する」などのように、元いた勤務地に帰るときに使う状況が多いでしょう。
②就任
就任とは、ある役職に就くこと。しかし実際は、社長や取締役など、高い地位や役職を新しく務める際に使います。組織のなかで比較的下位の役職である主任や係長になる場合は、就任よりも昇進や昇格を使用するほうが自然でしょう。
赴任との大きな違いは勤務地と役職。赴任は勤務地の変更が前提で必ずしも役職の変化はありません。一方就任は、勤務地の変更には触れず、責任ある役職に任じられます。
③駐在
駐在とは、ある一定の場所に長期間とどまること。ビジネスで「駐在」を使うときは、与えられた任務のため派遣された場所に長く滞在することを意味し、「海外に駐在する」「駐在大使」といった使い方をします。
赴任は新しい勤務地に行くという行為を指すので、「赴任先で駐在する」という流れになるでしょう。
④配属
配属とは、割り当てて所属を決めること。ビジネスでは、企業内で社員をそれぞれの部署に配置することを表すのです。
新しい社員の入社後、今後働く部署を定める際に使われます。その際は「社員を配属する」「経理部に配属される」といった使い方になるでしょう。「赴任」はそれまでとは異なる勤務地に行くことなので、単なる部署配置である「配属」とは違う意味になります。
⑤転属
転属とは、部署が変わること。昇格や降格に合わせて行われる場合もありますが、言葉としての転属に立場を上下する意味は含まれません。
多くの場合、同じ勤務地で所属する部署が変わるので、新しい勤務地へ赴く「赴任」とは意味が異なるのです。すでに部署へ所属している状況が前提となるため、「総務部から経理部に転属になる」といった言い方をします。
4.日本で単身赴任が消えないわけ
転勤は本人だけでなく、その家族にも多大な影響が及びます。日本の転勤制度は非常に特殊で、多くの場合は就業規則で定められているため、原則として断れません。
転勤を命じられた人が置かれている状況・家族の意向によっては、単身赴任を選ばざるを得ないケースも多々。転勤は精神的・金銭的な負担を強いられるにもかかわらず、業務命令で拒否できない点が、単身赴任がなくならない主な原因のひとつとされています。
日本の転勤制度は世界の中でも特別
日本の転勤制度のような、会社命令で本人やその家族の意向とは無関係に勤務地を大きく変える企業文化は、世界的に見てもまれだそうです。海外にも転勤の概念はありますが、基本的には希望を募り、社員が自主的に赴く場合がほとんど。
日本の転勤制度には、社員の成長や適材適所への配置転換という意図もあるでしょう。しかし会社全体のバランスを考慮して、人員を柔軟に移動させて調整するという会社都合の側面がある点は否めません。
会社からの転勤命令は従わなければならない?
原則、会社からの転勤命令には従う必要があります。
なぜなら転勤が予想される会社では、就業規則に「会社は社員に転勤を命じる場合がある」と人事異動に関する規定を記している場合が多く、かつ雇用契約を結ぶ際にこの点について双方で了承しているからです。
相当な理由がないまま拒否を続けると、降格や減給、解雇処分になる可能性も高いでしょう。
ただし「社員に転勤を拒否する正当な事情がある」「転勤が嫌がらせや差別によるもの」といった状況ですと、転勤拒否の希望が通る場合もあるのです。もちろん雇用契約で勤務地が限定されている場合は当然、転勤を断れます。
転勤が消えない最大の理由
転勤は公務員の出世コースといわれます。公務員をひんぱんに転勤させる理由は、「同じ場所にとどまったために生じる人間関係の固定化」「横領や癒着などの発生リスクを回避」です。
実際公務員に転勤族が多いのは事実で、転勤を繰り返しながらキャリアを積み赴任先で出世していくのが一連の流れとして存在しています。こうした状況が存在する近代の日本で転勤がエリートの象徴とされたのは、仕方のないことかもしれません。
日本人のなかで「転勤は出世のために受け入れるべきもの」という価値観はいまだ根強く残っています。また「家族と離れて単身赴任をするのも、会社のためや自身のキャリアのために当たり前」と捉えている人も少なからずいるようです。
5.海外赴任するときはどうする?
海外赴任する際は、国内での異動よりも多くの手続きや情報収集をしなければなりません。労働ビザの取得や厚生年金の解約、海外赴任者が対象の各種保険加入など、会社に依頼するものもあるため注意が必要です。
子どもを同伴する場合、赴任先での教育環境についてもよく検討しましょう。ここでは海外赴任が決まった時に行うべき準備について解説します。
- 赴任国や赴任地域の情報収集:「スーパー・病院・役所・銀行など日常生活で必要になる場所」「法令・条例・主な規則」「治安・政治情勢」「風習や宗教などの文化的特徴」
- 赴任国の使用通貨の両替、国際クレジットカードの用意などお金の整理
- 健康診断・虫歯治療・各種予防接種など、健康関係の対策
- 国内業務の引き継ぎ、労働ビザ取得など、会社との協力が必要な手続き
- 生活関連のサービスの解約・海外転出にかかわる申請
- 自動車を所有している場合、駐車場解約・自動車の処分ならびに売却、国際免許証取得
- 子どもが同伴する場合、学校の手続きや塾・習いごとの解約