ジェロントロジーとは、高齢社会におけるさまざまな課題の解決を目的とした学問のことです。ここではジェロントロジーの歴史や学ぶメリット、関連本などについて解説します。
1.ジェロントロジーとは?
「ジェロントロジー(Gerontology)」とは、年齢を重ねて生じる変化や社会づくりを、医学や心理学、経済学や社会学など幅広い分野から研究する学問のこと。
ギリシャ語で「老人」を意味するgerontに「学」を表すologyが付いた造語です。日本語では「老年学」や「高齢学」、「高齢社会総合研究学」などと訳されます。
2.ジェロントロジーの歴史
ジェロントロジーの研究は、第二次世界大戦以降に高齢化社会が進行した欧米先進諸国を中心に行われてきました。
当時は「なぜ人は老化するのか」「人間の寿命はどこまで伸ばせるか」など、老年医学や老年社会学の課題を解決するための学問として研究されていたのです。
その後1980年代後半、「クオリティオブライフ(生活の質)」の観点から長寿時代の豊かな社会を研究する学問として発展し、現代に至ります。
日本のジェロントロジー研究
欧米先進国に比べ、高齢化社会の到来が遅かった日本。ジェロントロジーの研究が本格化したのは2000年代に入ってからです。
2006年には現在の「高齢社会総合研究機構」の前身となる「総括プロジェクト機構ジェロントロジー寄付研究部門」が東京大学に設置されました。しかし欧米では多くの大学で研究が進んでいるのに対し、日本の大学ではまだまだ広がっていません。
3.ジェロントロジーを学ぶメリット
そもそも、なぜジェロントロジーを学ぶ必要があるのでしょう。ジェロントロジーを学ぶメリットは「高齢者および高齢社会について正しく知ること」。
人生100年時代と呼ばれる現代、高齢期の生活を具体的に描ける人はどれだけいるでしょうか。「高齢者はきっとこう考えるはず」「こういうサービスを必要とするはず」と憶測で開発、立案を行っても、ニーズにこたえられない可能性があります。
年を重ねると具体的にどうなるのか、どのような社会体制が必要なのかを考える際にジェロントロジーが重要となるのです。
シニア人材に対するマネジメントに活用
ジェロントロジーはシニア人材の活用にも有効です。人材不足の悩みを抱える企業が多い近年、さまざまな企業がシニア人材のマネジメントを課題としています。
ジェロントロジーで健康に配慮した労務管理を進められれば、シニア人材を十分な戦力として生かせるでしょう。ジェロントロジーの研究は、経験に裏打ちされた対応力や説明力など、高齢化のマイナス部分だけでなくプラスの面に注目するためにも必要なのです。
4.ジェロントロジーの資格
「人生100年時代の基礎知識」とも呼ばれるジェロントロジー。長寿時代の新たな生き方、超高齢化社会のあり方が注目されるなか、ジェロントロジーへの関心は日に日に高まっています。ここではジェロントロジーに関する資格について説明しましょう。
ジェロントロジー検定試験の特徴
高齢社会の最前線を走っている日本にて、自分の生き方や暮らし方を選ぶため、そして人の役に立ち社会活性化に必要な知識を身につけるために誕生したのが「ジェロントロジー検定試験」。
検定試験を通して実用的な知識を習得できます。ジェロントロジーを正しく身につけ、シニア層のサポートをしたい人におすすめの検定試験です。
資格取得によるメリット
ジェロントロジー検定試験では自分のため、そして人のために役立つ実用的な知識を身につけられます。
「家庭内で介護に直面している」「高齢者支援に従事する」「高齢期の過ごし方を考える」さまざまな人が、心と体、生活に必要な知恵と方策を要領よく学べるのです。実用的な知識を習得できれば、シニアが持つ成熟したパワーの使い方も見つかるでしょう。
合格後に与えられる資格
ジェロントロジーの検定試験に合格すると、次の資格が与えられます。
- 高齢社会に貢献できる人材であると認められた「ジェロントロジー・コンシェルジュ」
- ジェロントロジー・コンシェルジュの知識を上乗せした「ジェロントロジー・マイスター」
①高齢社会に貢献できる人材であると認められたジェロントロジー・コンシェルジュ
ジェロントロジー検定試験に合格すると、日本応用老年学会より「ジェロントロジー・コンシェルジュ」として認定されます。これはジェロントロジーの学習を通して習得した知識を人々に提供し、高齢社会に貢献できる人材であると認められた資格です。
企業や高齢者支援組織などで活動している人にとっては、ジェロントロジーに関する幅広い知識を持った人材であるという証明になります。
②ジェロントロジー・コンシェルジュの知識を上乗せしたジェロントロジー・マイスター
以下2つを満たしてジェロントロジーに関する知識を上乗せした場合「ジェロントロジー・マイスター」として認定、登録されます。
- 高齢社会に有用な各種国家資格や認定対象となる民間資格、学術分野の専門知識をすでに持っている
- ジェロントロジー検定試験に合格し、ジェロントロジー・コンシェルジュとして認定されている
ジェロントロジー・マイスターの認定対象となる民間資格や検定試験
ジェロントロジー・マイスターの認定対象となる民間資格や検定試験は以下のとおりです。
- 福祉住環境コーディネーター検定試験®
- ビジネス実務法務検定試験®
- シニアライフコーディネーター®養成講座
- ファイナンシャルプランニング®(F.P)技能検定
- 環境社会検定試験®(eco検定®)
- メンタルヘルスマネジメント®検定試験
- 消費生活アドバイザー®試験
5.産業ジェロントロジー
同じジェロントロジーでも産業分野に特化したジェロントロジーを「産業ジェロントロジー」といいます。ここでは産業ジェロントロジーが注目されるようになった背景や期待される効果、産業ジェロントロジーの資格について説明しましょう。
産業ジェロントロジーの概要
加齢による人間の変化を心理や教育、経済や労働などさまざまな分野から学際的に研究し、産業の分野に特化させたものを「産業ジェロントロジー」といいます。
産業ジェロントロジーが目指すのは、企業の従業員すべてが定年や年齢による差別に脅かされることなく心身ともに健康で楽しく働き続けること。従来のシニア世代を中心としたジェロントロジーではなく、すべての世代で取り組む点に注力しているのです。
産業ジェロントロジーが注目される背景
なぜ産業ジェロントロジーという分野が注目されるようになったのでしょう。これまでのジェロントロジー研究は介護予防やボランティア、生きがいなど医療や福祉の分野が大半を占めていました。しかし実践力に乏しく、産業に関する分野が抜けていたのです。
この不足を補うべく、職場内教育や労災防止、シニアに向いた仕事などに注目して活動を開始しました。これが産業ジェロントロジーが注目されるようになった背景です。
産業ジェロントロジーに期待されるもの
労働政策研究・研修機構(JILPT)による「高年齢者の継続雇用等、就業実態に関する調査」によると、60歳から64歳の層のうち9割近くが「65歳以降の労働」を希望しています。
高齢者の雇用に対して国は、仕事以外の生き方を大切にしながら納得して働ける環境の整備が求められているのです。
産業ジェロントロジーの資格
2018年、産業ジェロントロジー協会はシニア活用のスペシャリストとして3つの認定資格を設けました。いずれもシニアに向く仕事、向かない仕事を知り、シニアが活躍できる働き方や仕組みづくりを手伝う資格です。
- 産業ジェロントロジーアドバイザー
- 産業ジェロントロジーシニアアドバイザー
- 産業ジェロントロジーインストラクター
①産業ジェロントロジーアドバイザー
「産業ジェロントロジーアドバイザー」とは「歳を取るとはどういうことか」を正しく理解したうえで、あらゆる世代の人たちが腹きやすい職場づくりを支援する人のこと。
e-ラーニングで気軽に挑戦できるため、初めて産業ジェロントロジーを学ぶ人に適しています。
②産業ジェロントロジーシニアアドバイザー
シニア世代が働きやすい職場をつくるため、企業内教育や仕組みづくりを担うのが「産業ジェロントロジーシニアアドバイザー」で、産業ジェロントロジー資格の中級レベルに位置します。
2日間の通学でシニア世代のワークライフバランスや労務管理の仕組みづくりについて学ぶのです。
③産業ジェロントロジーインストラクター
「産業ジェロントロジーアドバイザー」の講師を育成する「産業ジェロントロジーインストラクター」という資格もあります。2日間の通学と試験に合格すると、協会のサポートを受けてインストラクター養成講座を開催できるのです。
6.金融ジェロントロジー
産業分野に特化したジェロントロジーを「産業ジェロントロジー」と呼ぶように、金融分野に特化したジェロントロジーもあります。「金融ジェロントロジー」では高齢者の経済活動に関連する諸問題の解決を目指しているのです。
金融ジェロントロジーの概要
「金融ジェロントロジー」とは、高齢者が抱える問題を金融の分野に絞って解決しようとする学問のこと。高齢者の経済活動や資産選択など、加齢によって発生する経済課題を分析研究し、解決策を見つけ出します。
金融ジェロントロジーでは、「高齢化による認知能力の変化によって投資スタイルや行動に生じる影響の分析」「平均寿命と資産寿命の差を縮める」などを目指しているのです。
金融ジェロントロジーが注目される背景
高齢化にともなう認知能力の低下によって、円滑な金融取引は難しくなると考えられています。金融サービスを提供する企業は、高齢期にある顧客の認知能力が衰えても、可能な限り以前と同じような金融サービスが受けられる環境を整備しなくてはなりません。
つまり金融ジェロントロジーは環境を作る手段の一環として注目されているのです。
金融ジェロントロジーに期待されるもの
金融ジェロントロジーに期待する効果は以下の4つです。
- 認知機能が低い人における日々の金融資産管理(日々の取引記録や通帳、パスワードの管理など)
- 認知機能が低い人における資産運用(認知機能に課題が発生する前から信用できる金融機関やアドバイザーを選んで自分の意思を伝えておく)
- 認知機能が維持できている高齢者における、日々の金融資産管理(1.に準じた高齢者向け支援サービス)
- 正常加齢範囲の資産運用(投資一任サービスの利用や資産運用アドバイスなど)
金融ジェロントロジーの資格
一般社団法人金融財政事情研究会は、ジェロントロジーの基礎理解をベースに「高齢顧客の支援や財産管理」を行う認定資格を設けました。本資格では金融取引の各場面で求められる注意義務や、契約不備を避けるための留意事項などについて学べます。
銀行ジェロントロジスト
「銀行ジェロントロジスト認定試験」は、高齢者に起こりうる認知機能の低下を理解し、高齢者との金融取引のなかでジェロントロジーを実践できる金融機関職員の養成を目的とした認定試験です。
受験資格はなく、金融機関の窓口担当者や外部交渉担当者、シニア層向けビジネス関係者などさまざまな層が受験しています。試験に合格すると「銀行ジェロントロジスト」の認定を受けられるのです。
7.ジェロントロジーに関する本
高齢化と長寿化が進行する現代、あらゆる企業や業界でジェロントロジーに関する知識が必要となってきます。ここではジェロントロジーに関する書籍について説明しましょう。
『東大がつくった高齢社会の教科書』
東京大学高齢社会総合研究機構による『東大がつくった高齢社会の教科書』では高齢社会に生きるすべての人が持つべき基礎知識をまとめています。ビジネスシーンではもちろん、日常生活や行政、NPO活動の中で活用されることを想定した一冊です。
『ジェロントロジー宣言 「知の再武装」で100人生を生き抜く』
『ジェロントロジー宣言「知の再武装」で100歳人生を生き抜く』では、主にジェロントロジーを活用した高齢者参加型プラットフォームの構築について提案しています。
本書では「人間は高齢化によって劣化する」という見方をしません。高齢化社会を生きるための「知の再武装」について論じています。
『ジェロントロジー 未来の自分はいまの自分からつくられる』
「生きるほどに美しく」の実現方法を提言しているのが『ジェロントロジー ― 未来の自分はいまの自分からつくられる』です。
著者は、美容とジェロントロジーが融合した美容福祉を推進する山野学苑総長山野正義氏。美容福祉が担う地方創生や高齢者のクオリティオブライフについて学べます。