近年、世界中で広まりを見せているギグエコノミー。「副業」と混同される場合もありますが、2つは別のものです。ギグエコノミーについて解説しましょう。
1.ギグエコノミーとは?
「ギグエコノミー」とは、インターネットやスマートフォンアプリをとおして単発の仕事を受注する働き方のこと。ギグエコノミーに従事する労働者は企業に雇用されず、「ギグワーカー」と呼ばれています。
シェアリングエコノミーとの違い
「シェアリングエコノミー」とは物品やサービスなどを複数人でシェアする考え方のこと。企業によっては「ギグエコノミー」も「人」をシェアするもの、と考える場合もあるため、これらは混同されがちです。
一般的に「ギグエコノミー」はインターネットを活用して「人」を共有します。対して「シェアリングエコノミー」は人や物品、場所など、より広範囲を共有するものとして区別されます。
クラウドソーシングとの違い
「クラウドソーシング」とは、インターネット上で不特定多数の労働者に仕事を発注する手法のこと。「仕事」をシェアする手法として「ギグエコノミー」のひとつと考えられるでしょう。
しかしクラウドソーシングは主に仕事を依頼する側の目線に立ちます。対するギグエコノミーは労働者、あるいは経済形態を俯瞰しているのです。
ギグエコノミーの歴史
「ギグ(Gig)」は、もともとライブハウスでほかグループからメンバーを借り、一時的なセッションを行う言葉として使われていました。その後インターネットは爆発的に普及し、1995年に掲示板サイトの元祖ともいわれるサイトが誕生。
2004年には単発の求人情報を掲載するページがつくられました。これが今でいう「ギグワーク」の先駆けといわれています。
2.ギグエコノミーが拡大している背景
ギグエコノミーが拡大した背景として、次の3つが挙げられます。
- 働き方の多様化
- 労働力不足の解消
- 地方における深刻な人材不足問題
インターネット上で仕事の機会を提供する企業が増えているのも、要因のひとつです。
①働き方の多様化
2019年4月に働き方改革関連法が施行。副業や兼業を解禁する流れが活発化し、社会全体でフレキシブルな働き方が認められるようになりました。
さらに2020年からの世界的な新型コロナウイルス感染拡大によってオフィスの必要性が薄れた点も、ギグエコノミーの普及を後押ししています。
②労働力不足の解消
多くの企業が少子高齢化にともなう労働力不足の課題に面しています。ギグエコノミーの拡大は、人員不足解消の手段としても注目されているのです。
スキルのある労働者を雇うのではなく、AIやコンピューター、ギグエコノミーなどをあえて単発で使い、リスクや固定費を抑えようとする考え方となります。事実、ギグエコノミーの発想を用いて外部人材の活用に積極的に取り組む企業は増加しているのです。
③地方における深刻な人材不足問題
地方における人材不足は深刻な状況が続いています。首都圏の大企業管理職を対象にした就業意識調査では、3割もの回答者が「コロナ禍によって他方で働くことへの関心が高まった」と回答。
多くの人材が地方での仕事に興味を持つようになったとわかりました。こうした影響を受け、地方銀行と連携してギグワーカーを効率的に送り込む動きも増えています。
3.国内外のギグエコノミー
コロナウイルスの蔓延、また地震や大雪などさまざまな災害によって、国内企業のデジタル化に関する取り組みには大きな差があるとわかりました。ここではギグエコノミーの働き方が実現できるプラットフォームを、海外の例から説明します。
海外はプラットフォームが増加
よくも悪くも実際に相手と向き合いコミュニケーションを取りながら、紙の書類と印鑑を使ってビジネスを進める日本企業に対して、海外ではギグエコノミーに適したプラットフォームが増加しています。
「ギグエコノミーで働いてみたい」と考えた際、どのようなプラットフォームでギグワーカーとして働けるのでしょうか。
Uber(ウーバー)
ギグエコノミーの代名詞ともいわれているのが、アメリカ発のライドシェアサービスUber(ウーバー)。アプリに登録すれば誰でも乗車できるほか、自分の予定にあわせて「ギグワーカー」として働けるのです。
日本でもユーザーの呼び出しに応えられる配送者が、ユーザーの希望する地点まで食事を届ける「Uber Eats(ウーバーイーツ)」が拡大しています。
Lancers(ランサーズ)
「Lancers(ランサーズ)」はWebサイト制作やライティングなどの業務を請け負うクリエイターと、業務を発注したい企業をマッチングさせるプラットフォーム。
2008年のサービスリリース以来、国内最大級のクラウドソーシングサービスとして200万件を超える依頼数を誇ります。一定の基準をクリアしたユーザーに与えられる認定制度や各種スキルアップ講座、法律相談などサポートも充実しているのです。
Airbnb(エアビーアンドビー)
「Airbnb(エアービーアンドビー)」は、空き部屋を貸したい人と、部屋を借りたい旅行者とをつなぐサービス。2008年の設立以降10万以上の都市に範囲を広げ、世界最大の個人宅宿泊仲介サービスとして利用されているのです。
カリフォルニア州に住むホストの一人によれば、物件を借りたい人の20%が1か月以上の長期滞在を希望しているといいます。旅行者以外にもさまざまな人が利用するギグエコノミーとして注目されているのです。
日本は法整備が進んでいない
「働き方改革」により、日本でも働き方の実態把握と保護の必要性が叫ばれ続けています。しかし現状、ギグエコノミーにあわせた法整備は進んでいません。
日本では今も働き手が「労働者」なら保護を与え、「自営業者」なら保護を与えないという従来の法制度を採用しています。ひとたび「労働者」ではないと判断されてしまえば、労働法上の保護を受けられないのです。
4.ギグエコノミーのメリット
従来の雇用や働き方と比較して、ギグエコノミーにはどのようなメリットがあるのでしょうか。ギグエコノミーには企業側、労働者側どちらにもメリットがあります。まずは企業側から見たギグエコノミーのメリット3つについて解説しましょう。
- 業務に合わせて柔軟な人材配置ができる
- 即戦力の人材を得られる
- 固定費を削減できる
①業務に合わせて柔軟な人材配置ができる
ギグエコノミーがもたらすメリットとして考えられるのが「業務に合わせた柔軟な人材配置の実現」。
何らかの事情で長期雇用が難しい場合、ギグエコノミーにて「必要スキルがある人材をプロジェクト期間のみアサインする」「人手不足のとき単発で仕事を依頼する」といった人材配置が実現できます。
②即戦力の人材を得られる
スキルや能力を持っていても生かせる場所がなければ、意味がありませんでした。せっかく業務上必要なスキル保持者を採用したにもっかわらず、その実力を生かせる場面が極端に少ない組織もあるのではないでしょうか。
ギグエコノミーではインターネットを通じて単発的に仕事を依頼・受注できます。企業で人材育成をしなくても、必要なときに必要なスキルがある人材を確保できるのです。
③固定費を削減できる
従来の雇用形態では仕事利用や成果にかかわらず、すべての社員に一定の給与を支払わなくてはなりません。
一方。ギグエコノミーは企業と労働者が案件ごとの関係性で成り立っているため、案件が終了すれば給与を支払う必要がなくなります。社会保障や福利厚生、年次有給休暇制度などにかかる固定費を削減できるのです。
5.ギグエコノミーのデメリット
柔軟な人材配置を実現させ、即戦力の人材を得られるギグエコノミーにも、デメリットはあります。ギグエコノミーの主なデメリットとして挙げられるのが次の4つです。
- 契約内容があいまいになりやすい
- 品質を保つのが難しくなる
- 信頼性に乏しい
- 知識や技術の蓄積が難しい
①契約内容があいまいになりやすい
特に議題として挙げられるのが「Uber Eats配達員は労働者になるのか、それとも個人事業主になるのか」という問題です。
配達員が労働基準法における労働者に適応されるかは、一定の基準に従って定められます。しかしこの法的根拠の基準があいまいであるため、明確に判断できないのです。
契約内容があいまいなままでは、万が一配達員にトラブルがあった場合、責任の所在を明確にするのは難しくなるでしょう。
②品質を保つのが難しくなる
サービス提供者の個人情報確認やサービス品質の保持が難しい点も、ギグエコノミーのデメリットです。欧州では単なる名義貸しで登録し、「実際に作業したのは別の人だった」「不法滞在の外国人を低賃金で働かせていた」という問題が報告されています。
クラウドソーシングでは「私ならもっと安く受注できますよ」という逆オークションの原理が働きやすくなるため単価と品質が下がる恐れもあるのです。
③信頼性に乏しい
インターネットを介している以上、ギグエコノミーにはセキュリティ上の懸念や信頼性のリスクがあります。会社員に対してセキュリティに関する研修を実施できても、社外の労働者にまでその指導を徹底するのは現実的に困難です。
ギグエコノミーでは、発注者と受注者が直接顔をあわせないまま仕事が完了するのも珍しくありません。セキュリティや信頼性を保証するため、発注者と受注者ともに何らかの対策を講じる必要があります。
④知識や技術の蓄積が難しい
企業が競争優位に立つためには、技術や知識の積み重ねによる強みが必要です。しかしたとえ優秀なギグワーカーと仕事ができても、相手は自社の社員でないため知識や技術をそのまま自社に蓄積できません。
社員の能力やノウハウが高まらない限り、いつまでも技術や知識は蓄積されず、ギグワーカーに依存するかたちになります。
6.ギグエコノミーの導入に必要な準備
今後ギグエコノミーに関する企業や法整備は、ますます進むと考えられています。ギグエコノミーの普及は潜在的な能力の拡大、労働生産性の向上につながるでしょう。では企業がギグエコノミーを導入するためには、どのような準備が必要なのでしょうか。
- ICT化
- タレントマネジメント
- 業務の細分化
- 労働法の把握
①ICT化
世界規模で急速なデジタル化が進むなか、スピード感の欠如や旧態依然な危機管理体制のままでは、日本経済における生産性向上の妨げとなります。
デジタル化が進んでいれば、先の自然災害やコロナ禍においてもより有為な機能が期待できたでしょう。ネットワーク通信技術を活用したコミュニケーション、ICT化は国内企業における喫緊の課題です。
②タレントマネジメント
タレントマネジメントとは社員のノウハウやスキルを一元に管理し、それぞれの仕事を誰にまかせるのが一番効率的なのかを判断・管理する手法のこと。
社員一人ひとりの適性やスキルを可視化できれば、おのずと自社に不足している部分がわかります。そこにギグエコノミーを活用すると、より効果的に業務をこなせるのです。
③業務の細分化
ヨーロッパのある企業では大規模な目標を詳細なタスクに分解しました。この業務細分化によってどの業務を自社内で行うか、どの部分をギグワーカーにまかせるかを明確に区別します。
限られた資源を最大限に活用し、パフォーマンスを最大限発揮するには業務の細分化が重要です。
④労働法の把握
ギグエコノミーの多くでは、発注者と労働者のあいだで個別の業務委託契約が締結されます。
各プラットフォームはギグワーカーと発注者をマッチングさせるシステムに過ぎません。そのため発注者は業務委託契約の条件となる業務内容や労働法について把握しておく必要があります。
ギグエコノミーに関連した法整備は今後ますます進むと考えられます。導入を検討する際は、最新の労働法を把握しておきましょう。