「ガラスの天井」とは、キャリアアップを目指す女性の前に立ちはだかる障壁を意味する比喩的表現のことです。ここでは「ガラスの天井」の現状と解決方法、「壊れたはしご」や「マミートラック」などについて解説します。
目次
1.ガラスの天井とは?
ガラスの天井とは、資質や成果に関係なく女性や少数派の推進を妨げる見えない障壁のこと。政治の世界や海外企業でも見られる言葉です。女性の社会進出が本格的に始まった1980年代から使われはじめました。
2.日本と欧米におけるガラスの天井の現状
「女のくせに」「男性のチャンスを奪うな」といった見えない壁を意味する「ガラスの天井」という比喩表現は、日本企業だけでなく欧米各国でも使われています。日本と欧米におけるガラスの天井の現状について説明しましょう。
欧米におけるガラスの天井の現状
女性の社会進出を支援する「LeanIn.Org」とマッキンゼー・アンド・カンパニーからは、職場における女性に関するレポートが報告されています。
「Women in the Workplace2019」では、男性100人に対してファーストレベルの管理職に就く女性は72人、管理職レベルの役職に占める女性の割合はわずか38%だと報告されました。
またNotion Capitalのレポートによると、アメリカとヨーロッパのB2Bユニコーン企業における女性リーダーの比率は、21%にとどまるとわかっています。
日本におけるガラスの天井の状況
日本の組織ではさらに顕著な報告が挙げられています。
2019年にILO(国際労働機関)が発表したレポートによると、G7役員に占める女性の割合はフランスがトップで37%。それに対して日本は、平均23%にも届かない3.4%。G7最下位の割合でした。
また男女共同参画局の報告によれば常用労働者100人以上を雇用する企業のうち、女性の割合は係長級が18.3%、課長級は11.2%、部長級6.6%。上位の役職ほど女性の割合が低いと報告されているのです。
近年、割合は伸びつつあるものの、諸外国と比べるとまだまだ低い水準だとわかります。
3.ガラスの天井指数(GCI:Glass Ceiling Index)とは?
OECD加盟国の先進29か国において、女性が男性と比べてどれだけ平等に扱われているのかを表現した指数のこと。女性の労働参加率や高位職進出比率、男女の賃金差や高等教育を受けた男女の数字などの指標をもとに算出した数値です。
ここではガラスの天井指数が意味するものや評価項目、日本の立ち位置などについて説明します。
ガラスの天井指数が意味するもの
ガラスの天井指数が低いほど職場内での女性差別が激しく、反対に高いほど職場内での女性と男性の処遇差別は少ないという意味になります。
ガラスの天井指数の評価項目
英国エコノミスト誌では、毎年「国際女性デー」を迎える3月8日に以下10項目の要素を総合的に評価した「ガラスの天井指数(GCI)」をつけています。
- 高等教育
- 賃金格差
- 国会議員
- 役員
- 管理職
- GMAT(経営大学院)受験者数
- 労働参画率
- 育児費用
- 女性の育児休暇
- 男性の育児休暇
ガラスの天井指数2020の結果
OECD各国で働く女性が、男性と比較してどれだけ平等な機会が得られているかを示す「ガラスの天井指数」。2021年の世界ランキングは以下のような結果となりました。
- スウェーデン
- アイスランド
- フィンランド
- ノルウェー
- フランス
- (中略)
- 日本
- 韓国
全29か国のうち上位を北欧諸国が占めるなか、日本はワースト2位。Citi Groupのトップに女性が就任したことでも話題となったアメリカもOECDの平均を下回る18位でした。
ガラスの天井指数2021首位「アイスランド」の現状
近年、北欧諸国が上位を占めています。首位を飾ったアイスランドは、女性に対する教育が優れているという特徴を持ちます。全女性国民の半数以上が学士以上を保有しているといわれているのです。
また2013年には企業の取締役の40%が女性でなければならないという新たな規定が成立。これにより女性取締役は全体の45.9%となり、調査国中トップの割合となりました。
ガラスの天井指数2021における日本の立ち位置
対する日本はOECD29か国中28位。2年連続でこの順位に甘んじています。先に述べた「ガラスの天井指数」を評価する10の評価項目のうち、GMAT受験者数と国会議員数は最下位、役員数も最下位から2番目の8.4%でした。
なかでも女性労働参加率と女性の高位職進出比率に、世界との格差が目立ちます。このことから、「出産や育児を経ても働き続けられる環境の整備」「能力のある女性が昇進できる仕組みづくり」が必要だとわかるでしょう。
4.壊れたはしごとは?
女性の社会進出を阻む概念には「壊れたはしご」もあります。米国コンサルタント会社の調査によって、女性の役員比率が低い理由はこの壊れたはしごにあるとわかりました。ここでは壊れたはしごの意味とガラスの天井との関連性について説明します。
壊れたはしごの意味
女性が昇進に向かって上る階段(はしご)は最初から壊れており、本人の能力にかかわらず一段目から差がついてしまう、という意味が込められています。入社後は一般的に、おおむね数年以内にグループ長や係長、主任などの地位に就くもの。
しかし壊れたはしごの提唱によって、この最初のステップで男女差が生じているとわかったのです。上に行けば行くほど女性役員の割合が少なくなるのは当然でしょう。
ガラスの天井と壊れたはしご
壊れたはしごが提唱されるまで、男女差の原因は目に見えないガラスの壁が天井の先を阻むガラスの天井にあると考えられてきました。とはいえ女性の社会進出を阻むという意味ではガラスの天井も壊れたはしごも同じです。
しかし「壊れたはしご」の提唱により、「女性昇進の階段(はしご)はそもそも壊れている」「最初の一段目から足を踏み外し、なかなか上へ昇れない」ことが叫ばれるようになりました。
マッキンゼーアンドカンパニーと女性の社会進出を支援するLeanIn.Orgが報告したレポートでも、壊れたはしごを生み出している格差を縮めなければ、男女の格差は解消されないとされています。
5.マミートラックとは?
女性の社会進出を阻む概念にはマミートラック(子どもを持って働く女性、ワーキングマザーが育児のため出世コースから退くこと)ともあります。仕事と子育ての両立はできるものの、昇進昇格とは程遠いキャリアコースを意味しているのです。
仕事と育児を両立しようとするワーキングマザーは、どうしても補助的な職種や時短勤務を選ばざるを得ません。不本意のうちに出世コースから外れ、マミートラックに乗ってしまうことは決して珍しくないのです。
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マミートラックのデメリット
ワーキングマザーの進出を阻むマミートラックには、モチベーションの低下や昇進から遠のいてしまうなど女性にとってさまざまなデメリットがあります。ここではマミートラックに潜む5つのデメリットについて説明しましょう。
- 労働時間が短縮される
- やりがいを感じられなくなりモチベーションが下がる
- 責任ある仕事に就けず、待遇も低下する
- 劣等感を覚え、職場に居づらくなる
- 育児期間終了後に時間をもてあます
①労働時間が短縮される
育児と仕事を両立するには、どうしても勤務時間を短縮せざるを得ません。勤務時間が短縮されれば、当然仕事にかける時間も短くなり、フルタイム勤務のときに比べて十分な成果が生み出せなくなるでしょう。
結果会社からの評価が下がったり、責任の大きな仕事を任せてもらえなくなったりします。
②やりがいを感じられなくなりモチベーションが下がる
マミートラックに乗ってしまうと、それまでの仕事内容と比べて単調な仕事しか与えられなくなる場合ともあります。
「本当はもっと責任のある仕事がしたいのに」「単調な業務ばかりでやりがいが感じられない」という思いを抱え、モチベーションが低下するワーキングマザーは少なくありません。
単調な仕事で今後の昇進や昇給が見込めず、結果、仕事に対するモチベーションが下がってしまう点は大きなデメリットです。
③責任ある仕事に就けず、待遇も低下する
単調な業務の割合が増えると、どうしても責任のある仕事からは離れてしまいます。責任のある仕事は、プレッシャーと同時に達成感や充実感を得られるもの。
働いていても責任感が持てない、待遇も上がらないからやる気も出ない、そんな負のスパイラルに陥る可能性もあります。
④劣等感を覚え、職場に居づらくなる
当人がマミートラックに乗っても、これまで一緒に仕事をしてきた女性社員や同僚は昇進や昇給を繰り返していきます。
「どうして自分だけ評価が上がらないのか」「同期の独身女性はあんなに出世しているのに」と劣等感を覚えるのもマミートラックのデメリット。仕事内容や目標が変わるうちに話が合わなくなり、職場が居心地の悪い場所になってしまう可能性も考えられるでしょう。
⑤育児期間終了後に時間をもてあます
マミートラックは一度乗ってしまうと抜け出すのは困難です。しかし当人が劣等感を覚え、モチベーションが低下しているうちに子どもは大きくなるもの。
小さいときより手がかからなくなったため時短勤務後に時間を持て余す、育児にも仕事にも喪失感を覚えるなどのデメリットもあります。「育児が終わったあとにやることがない」「仕事にやりがいが持てない」そんな喪失感を覚えないような対策が必要です。
6.ガラスの天井・壊れたはしご・マミートラックの解決方法
女性の進出と活躍を阻むガラスの天井と壊れたはしごそしてマミートラックに飲み込まれないためには、どのような対策が必要なのでしょう。ここでは解決方法を5つ説明します。
- 女性を管理職に登用する
- 働き方を改善し、多様な働き方を用意する
- 産休や育休に理解を求める
- 福利厚生を充実させ、女性をサポートする
- 家庭での家事負担を軽減させる
①女性を管理職に登用する
少子高齢化と労働人口の低下が叫ばれるなか、女性の社会進出には労働人口の増加や所得と消費の増加、経済発展の促進などさまざまな効果が期待されています。そこで注目されているのが女性管理職の増加です。
国際労働機関(ILO)の調査によれば、日本の女性管理職の比率は11.1%。アメリカの42.7%やイギリスの34.2%と比べても、まだまだ低い比率であるとわかります。日本企業には有能な女性役員候補の育成に努めることも求められているのです。
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②働き方を改善し、多様な働き方を用意する
「ガラスの天井」や「壊れたはしご」を解決するためには、「1日8時間会社に行って仕事をしなければならない」といった従来の働き方を見直すのも効果的です。
近年、会社に正社員として雇用されながら、場所や時間の制約を受けずに働くテレワークや在宅勤務、定められた総労働時間の範囲内で就業時間を自由に決めるフレックスタイム制など、さまざまな働き方があります。
時間や場所の制約がなくなれば、育児をしながら働きたいと考える女性もより活躍できるようになるでしょう。
③産休や育休に理解を求める
福利厚生の一環として、多くの企業が育児休業や産前産後休業を設けています。しかし制度があっても活用できていないのが現実です。これは職場環境の整備不足や社員の理解不足が原因といえます。
近年、「人手不足による忙しさで育休を取りづらい」「経営者や上司の理解が足りず、不当な扱いを受ける」といったマタハラ(マタニティハラスメント)やジタハラ(時短ハラスメント)などのハラスメントが、社会問題となっています。
日本特有の同調圧力がいまだ残っており、働かずに会社に在籍するのをよしとしない企業も少なくありません。
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④福利厚生を充実させ、女性をサポートする
福利厚生を充実させて女性をサポートする方法も効果的です。特に子どもが小さいうちは、子どもの送り迎えが大きな負担となるもの。解決するために保育施設やベビーシッターに関する制度を導入するのもよいでしょう。
働きやすい職場環境を構築して女性をサポートできれば「ガラスの天井」や「壊れたはしご」に巻き込まれない可能性も高くなります。
⑤家庭での家事負担を軽減させる
企業努力だけでなく、家庭での理解や対策も欠かせません。また家事や育児を母親だけに任せてしまっては、やがて潰れてしまうでしょう。
「夫の協力を得る」「両親や兄弟など協力してくれる人を探しておく」など、家事や育児にかかる負担を軽減できれば、仕事にあてられる時間が増えます。男性が家事や育児を行うことでも「ガラスの天井」や「壊れたはしご」を回避できるのです。