近年、「成功者の共通点にグリットが見られる」という理論が展開されて話題を呼びました。グリットは、才能や生まれながら備わった能力ではなく、「やり抜く力」と定義されており、アメリカの心理学者たちの間でも見直されているものです。
グリットは、苦労して頑張ることが美徳だとされている日本人に相性が良く、ビジネスシーンでもその概念は浸透しつつあります。
目次
1.グリットとは?
グリット(grit)とは、「やり抜く力」または「粘る力」だと定義されている言葉のこと。困難に遭ってもくじけない闘志、気概や気骨などの意味を表す英語で、社会的に成功している方たちが共通して持つ心理特性として、近年注目を集めています。
心理学者でペンシルバニア大学教授のアンジェラ・リー・ダックワース氏は、「才能やIQ(知能指数)や学歴ではなく、個人のやり抜く力こそが、社会的に成功を収める最も重要な要素である」として、「グリット」理論を提唱しました。
現在、教育界や産業界をはじめ、さまざまな分野で反響を呼んでいます。
グリットの提唱者アンジェラ・リー・ダックワース氏
グリットを提唱したペンシルバニア大学教授のアンジェラ・リー・ダックワース氏が、シカゴの学校で調査したところ、グリットを持つ学生は退学せずに、きちんと卒業していく確率が高いと分かったのです。
教育現場では知的能力を測る最適な方法としてIQが用いられていますが、学校で高い成績を収める秘訣は、IQや能力の高さではなく、時間をかけてじっくり取り組んで習得しようとする情熱こそが大切だとされています。
グリットとは、
- 生まれ持った才能・知能は関係がない
- 失敗を恐れず挑戦することが重要
- 長期間、継続的に粘り強い努力を要する
という考え方。後天性のもので努力を重ねることで、物事をやり抜く力のことをいうのです。
グリットを構成する4つの要素
グリットは生まれ持った能力ではなく、今からでも身に付けることができるもの。また知識や才能がなくても、グリットを強く意識して実践に生かすことができれば、物事を成功に導くことができます。
グリットは、以下の4つの要素が必要だとされており、それぞれの頭文字を取ってGRIT(グリット)と呼んでいるのです。
- Guts(度胸):困難なことに立ち向かう
- Resilience(復元力):失敗しても諦めずに続ける
- Initiative(自発性):自分で目標を見据える
- Tenacity(執念):最後までやり遂げる
近年は、才能・知性・能力に加えて、成功者に共通するものとして、この4つの要素、いわば気持ちの入れ方、モチベーションをどう維持していくのかが注目を集めています。
有名人も使うグリット
グリットの活用によって成功した有名人は多いです。
- FacebookのCEOマーク・ザッカーバーグ:成功の鍵の一つとして「グリット」を挙げている
- 女優メリル・ストリープ:ヒラリー・クリントン大統領候補に向けて「グリットを持つからだ」と褒めたたえた
2.グリットの種類
グリットには種類があります。良いグリット、悪いグリットからその種類を見ていきましょう。
良いグリット
良いグリットを構成する要素として挙げられるのは下記の8つです。
- 情熱
- 幸福感
- 目標設定
- 自制心
- リスク・テイキング
- 謙虚さ
- 粘り強さ
- 忍耐
良いグリットを発揮できると、周囲の人に畏敬の念を抱かせるだけではなく、彼らの中に大きな可能性が眠っていることを気付かせ、さらに成長したいという気持ちを呼び起こします。
悪いグリット
悪いグリットは、上記の8つの要素のどれかが大きく欠けているもので、偽りの成功へと人を駆り立て、自己陶酔や嫉妬、傲慢の原因になります。
あまりに頑強で忍耐強くなりすぎると「強情グリット」という状態になり、いくら道を進んでも成果につながらない、ピボット(方向転換)ができない、アドバイスに耳を傾けない、間違った方向に突っ走ってしまうなど悪循環に陥ってしまうのです。
3.グリットを伸ばす、育てる6つの方法
米国のパフォーマンス・コーチであるアンジェラ・リー・ダックワース氏は、科学的研究の見地からグリットの有効性を訴えています。グリットを伸ばし、育てる6つの方法を見ていきましょう
- 今より少し難しいことに挑戦する
- 成功体験を積み上げる
- 挑戦する事柄は変えてもよいとする
- グリットを持つ、持ちたい人と行動を共にする
- グリットを持つ人をトップがたたえる
- 短期だけでなく長期目標を視野に入れる
①今より少し難しいことに挑戦する
自分が興味を持てないことに粘り強く取り組むのは難易度の高いことですが今よりも少し難しいことに挑戦していくことで、グリットの能力は飛躍します。
- 普段できることを続けていても、グリットを育てることにつながらない
- まずは「無理」という先入観を持たず、「もしかしたら、できるんじゃないか」「どうやったらできるだろうか」と、物事を前向きに捉えるクセをつけていく
グリットの高い人は、実は数え切れないほどの失敗を経ています。失敗したとしても、めげずに果敢に挑戦し続けることが重要です。
②成功体験を積み上げる
急に大きなことに挑戦すると、やり抜く前に心が折れてしまうことも。そうならないために小さいことでよいので成功体験を積み上げ、自己肯定感・自己効力感を高める必要があります。
グリットが高い人は自分に自信を持ち、「自分ならやれる」という信念を持っていますが、それは過去の成功体験が背景にあるからです。まずは自分でもできそうなところから始めて、徐々に自分のスキルより少し上の目標を設定していくとよいでしょう。
それにより、下記のようなことにつながります。
- 目標に向かって情熱をかけることで、「途中で諦めよう」という衝動を抑えられる
- 大事な目的を成し遂げようとひたむきに挑戦して成功体験を積むことで、周囲の人の信頼も勝ち得る
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③挑戦する事柄は変えてもよいとする
設定を決めて挑戦し始めたものの続かないことがあります。しかし粘り過ぎては悪いグリットになりやすいですし、かといってすぐやめてしまっては粘る力を伸ばすことができません。
一定期間まで続けたものの自分の中でしっくりといかない、手応えが感じられないといった場合は、柔軟に挑戦を変えていくことも必要です。
ただし、「区切りのいい時期までは続ける」という条件をつけなければなりません。年度末など、区切りのいいところまでは続けることで「やり抜く力」が高まるからです。
- 区切りを決めた期限までやり抜いたことは、きちんと評価して次の挑戦につなげる
- 次のことに挑戦するに当たって、今まで何が要因で続かなかったのか、自分に何が足りなかったのかを見極める
などの意識は大切なポイントになります。
④グリットを持つ、持ちたい人と行動を共にする
人は周囲や環境に依存してしまう状況は多いでしょう。それを利用し同じようにグリットを持つ、もしくはグリットを備えたいと思う人と行動を共にして、自分や周りのグリットをより高めるのです。
- 職場の同僚と一緒になって、ハードなことに挑戦してグリットを高める
- 職場以外でもグリットの高い人が集まる環境を探して、その場に飛び込む
などは効果的といえます。
企業は、
- 従業員たちのグリットを高めるために、グリットの高い人材をメンターとして呼ぶ
- 新卒または中途採用において、グリットが高い人材を採用する
などをグリットに関する中長期的なプランとして、社内に組み込んでいくことが必要でしょう。
⑤グリットを持つ人をトップがたたえる
良いグリットの1つに「謙虚さ」がありますが、その「謙虚さ」ゆえにグリットを持つ当人がそれをアピールしない場合こともあるのです。特に「謙虚さ」が美徳とされている日本では、なかなかグリット自体が浸透していません。
そこで、
- グリットを持つ人をトップがたたえて評価することで、グリットを根付かせる
- グリットを持つ人をトップに据え、グリットの試みを従業員たちにアピールして、良いグリットを広める
などが重要となるのです。自分の意識や習慣を変えるのは難しいことも多いでしょう。しかしトップがグリットに理解を示し、推奨することで、組織全体におけるグリットへの意識が高まるのです。
⑥短期だけでなく長期目標を視野に入れる
ビジネスシーンでは、業績向上のため直近の目標に向かうことが多々あります。しかし短期的な目標だけにやる気を出し続けていては、いつか疲弊してしまうでしょう。
そこで長期的な目標を設けて、従業員の視野に入るようトップから働きかけ、「今やっていることをやり抜く」ようにマネジメントするのです。
- 意義を感じることで、粘り強く続けることができていく
- 長期的な目標には目先の利益ではなく、仕事に意義が感じられる事柄を設定する
などを意識するようにします。人は一生を通じて成長する生き物といわれています。長期的な目標はグリットを身に付けるだけでなく、これからの人格形成にも良い影響を与えるでしょう。
4.グリットを測るには?
提唱者アンジェラ・リー・ダックワース氏が作成した「グリットスケール」を用いることで、自身の現在のグリットを測定できます。「グリットスケール」に設けられているのは、以下の項目です。
- 新しいアイデアやプロジェクトに気をとられてしまう
- 簡単に諦めない
- 興味の対象が変わりやすい
- 一生懸命働くことができる
これら項目に対して自分がどう思うのかを5段階で答えていくシステムとなっています。