業務標準化とは、明確な業務プロセスを確立・統一することです。標準化によって特定の担当者に依存する状況を解消でき、誰が担当しても一定の品質・成果が出せるようになります。
今回は業務標準化について、目的や標準化するメリット・デメリット、進め方や注意点を詳しくご紹介します。
目次
1.業務標準化とは?
業務標準化とは、どの従業員が行っても同じ成果が出せるように、業務の手順を最適化することです。もともと「標準化」とは、一定の品質や性能を確保するために、製品や資材などの種類や規格を統一することを指します。業務標準化がなされないと、急な人員変動によって業務停滞が起こったり、品質や性能に誤差が生じてしまったりする恐れもあります。
平準化との違い
標準化と平準化では、その目的が異なります。標準化の目的は品質の統一であるのに対し、平準化の目的は業務負担の均一化です。
標準化では品質統一のために業務プロセス・手順を統一し、平準化では特定の従業員に負担がかからないよう業務の偏りをなくします。
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効率化との違い
標準化と効率化では、重点を置くポイントが異なります。標準化は、業務を一定のルールに沿って行えるようにする「手段」に焦点を当てるものです。対して、効率化は業務プロセスの無駄を排除し、企業全体の生産性を高める「結果」に焦点を当てています。
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2.業務標準化が必要な理由
近年、ビジネスにおいて業務標準化の重要性が高まっています。ここでは、業務標準化が必要な2つの理由をみていきます。
品質の均一化
業務標準化することで全員が最適な手順で業務を行え、成果物の品質が均一化されます。標準化されていない状態では人によって業務手順が異なり、作業時間や品質にばらつきが生じます。
業務標準化にあたって、効率性や安全性などの観点から最適な手順を確立するため、これまでよりも品質の向上が期待できます。
属人化の防止
組織である以上、退職や配置転換などによって人員変動が生じます。この時、担当者が変わっても円滑に業務を進めるためには業務標準化が不可欠です。
標準化されていないとノウハウや進捗状況、作業方法を周囲の人が把握していないケースが多く、気づかないうちに業務が属人化してしまいます。
そうなると引き継ぎが困難になり、担当者が突然不在になると業務が滞る可能性があります。急な人員変動があっても業務停滞を引き起こさないためにも、業務標準化が必要です。
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3.業務標準化のメリット
業務標準化により、品質の均一化や属人化防止といった効果にくわえ、以下のようなメリットに期待できます。
業務効率化
業務標準化によって最適な業務プロセスが確立・統一されることで、生産性の向上や部署間連携が強化されることで、業務全体の効率が高まります。
生産性の向上
業務プロセスが確立されることで、従業員が業務を理解しやすくなります。また、業務プロセスを確立する過程で無駄な工程を削除するなど業務内容の最適化にも取り組むため、効率的に作業が行えるようになります。
さらに、業務標準化されていることで教育時間も短縮でき、急な人員変動が起こった際も生産性を維持させることが可能です。
部署間の連携強化
明確な業務プロセスのもと、いつ誰がどのような業務を担当しているか、その進捗状況などが可視化しやすくなり、部署間連携や引き継ぎがスムーズに行えます。
また、情報共有が習慣化されることで、迅速なトラブル対応や生産性向上に戦略的に取り組めるようになります。
人材育成の促進
業務プロセスが明確であることで新入社員へのレクチャーが容易になり、新人の早期戦力化が促進されます。結果、人材育成の工数やコストが削減され、生産性の向上にも有効です。
また、従業員が業務でわからないことがあった場合でも、マニュアルなどから不明点を自力で解消しやすくなります。それでも解決しなかった場合でも、不明点を明確にした上で問い合わせできるため、問い合わせの円滑化と回答の一貫性が確保されます。
多能工化
業務プロセスが明確だと理解も早く、早期に実務に落とし込めます。人手不足によって一人が複数の業務を担当しなければならなくなった場合でも、誰もが同じレベルで業務を行えるようになり、多能工化が促されます。
多能工化によって一人が複数の業務を担えるようになることで、業務の平準化や円滑な欠員補充が可能となります。
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4.業務標準化のデメリット
一方で、業務標準化には注意すべきデメリットも存在します。
特定業務の標準化が困難
すべての業務が標準化できるとは限らない点は要注意。高度な専門性や個人の経験・スキルに依存する業務は、標準化に適さない場合があります。医師や弁護士のような、専門性やスキルが大きく関係してくる業務が一例です。
また、すぐに形骸化する可能性のある小規模なプロジェクト単位の業務は、標準化によって得られる利益は少ないといえます。再現性や代替性、標準化による効果の大きさなどの関連から、標準化に適した業務を見極めることが必要です。
創造力の低下
過度な標準化は個々の裁量や創造性が制約され、従業員の創造力を低下させる恐れがあります。また、思うように業務を進められないことで、従業員のモチベーションが低下する可能性もあります。
標準化に縛られすぎず、従業員のアイデアを尊重し、役割や責任の中で成果を出す機会を設けることも大切です。
マニュアルに依存
すべてをマニュアル通りしてしまうと個人の思考を停止させ、マニュアルにないことに対する判断や対処ができなくなる可能性があります。
イレギュラーな対応ができないと業務停滞を引き起こし、業務標準化のメリットが失われてしまいます。そうならないためにも、マニュアルは要点のみを記載し、細部は従業員が判断できる余地を残すことがポイントです。
5.業務標準化の種類
業務標準化には主に2種類があり、並行して標準化を進めるべきといわれています。ここでは、2種類の業務標準化について詳しく解説します。
業務フローの標準化
業務フローの標準化とは、フローチャートなどを用いて既存の業務を洗い出し、業務全体の流れを整理した上で効率的なフローへ統一すること。
業務フローが標準化されることで、担当者は自分の業務を理解し、計画的かつ効率的に進められるようになります。また、他の従業員の進捗も把握しやすくなり、従業員・部門間の連携も強化されます。
タスクの標準化
タスクの標準化とは、業務フローに含まれる個々の作業を洗い出し、進め方や手順を整理してマニュアル化することです。業務手順や進行方向が統一され、担当者によって手順が異なる状態が解消されます。
また、マニュアルや手順書を整備することで業務の属人化防止や組織全体の効率的な業務実現が可能となります。
6.業務標準化の進め方
業務標準化の進め方は、大きく6ステップに分かれます。ステップごとに、業務標準化の進め方を詳しくみていきます。
- ステップ1:目的を設定
- ステップ2:業務の選定
- ステップ3:業務の細分化定量化
- ステップ4:業務フローの標準化
- ステップ5:マニュアル化
- ステップ6:運用と改善
①ステップ1:目的を設定
まずは目的と対象業務を決定します。業務の洗い出しを次のステップで行うため、この段階で対象範囲を絞り込みましょう。
優先的に改善すべき課題は、企業によって異なります。「教育コストを削減したい」「ナレッジを共有して属人化を解消したい」など、標準化で実現したい目的に合わせて業務の対象範囲を検討することがポイントです。
②ステップ2:業務の選定
次に、優先順位などを考慮し、標準化を進めるべき具体的な業務を選定します。属人化している業務や品質が均一化されていない業務など、放置するリスクが高い業務から優先して標準化することが重要です。
最終的にはすべての業務を標準化することが望ましいものの、通常業務と並行して効率的に行うには優先順位に沿って取り組むことが堅実です。
③ステップ3:業務の定量化
優先順位が高い業務について工数や頻度、作業順序などの項目を定量化します。定量化とは数値で表すことで、定量化しにくい業務もできる限り数値で表すことがポイントです。既に課題が見えている業務については、改善策を考え、代替手順を策定して定量化しましょう。
④ステップ4:業務フローの標準化
フローチャートで「いつ・誰が・どうやるか」を可視化します。可視化により、無駄な作業の削減や順序の整理が容易になります。フローを組み立てる際は不要な業務を省いたり、さらに効率的なフローを検討したりして最適化していくことがポイントです。
注意点
業務フローの標準化は必要なタスクを全て書き出し、最も効率的な順に並べて実行することです。
一方、タスクの標準化では、効率的な従業員へのヒアリングやデータを活用して技術を定量的に把握し、作業の参考とします。業務フローの標準化とタスクの標準化では、方法が異なるため注意しましょう。
⑤ステップ5:マニュアル化
最適化されたフローを構成するタスクそれぞれのマニュアルを作成します。マニュアルは業務標準化の要であり、マニュアルがあることで誰もが同じプロセスで業務を行えるようになります。
最初から完璧なマニュアルを作るのは担当者の負担も大きいため、まずは簡単な流れを書き、徐々にブラッシュアップしていきましょう。
⑥ステップ6:運用と改善
マニュアル化まで完了したら、実際にマニュアルを使用して業務を進めていきます。その過程で問題点や改善点が見つかれば、都度マニュアルを更新しましょう。
PDCAを継続的に回して業務やマニュアルを改善し、効率的かつ実用的なフローを確立することが重要です。このとき、従業員がフィードバックを残せる仕組みを設け、マニュアルを更新しやすくすると効果的です。
7.業務標準化を成功させるためのポイント
業務標準化を成功させるため、以下のポイントを押さえましょう。
目的の共有
業務標準化を成功させるには、その目的を従業員全員に共有することが重要です。業務標準化は従業員の協力なくして成功しません。
目的が不明確ですと従業員が標準化に取り組む重要性を理解できず、形式的な取り組みとなってしまい効果に期待できなくなってしまいます。
業務標準化を進めるにあたって、定期的なミーティングや内部コミュニケーションツールを活用し、行動を促していきましょう。
一部の業務から運用
一斉にすべての業務フローを切り替えると、現場に混乱を招く恐れがあります。業務標準化の進め方にもあるように、まずは優先度の高い業務から段階的に運用していくなどの工夫が必要です。
運用している一部の業務で成果が出てから次の業務の標準化に着手し、徐々に全体の標準化に取り組むことがポイントです。
8.業務標準化を進める際の注意点
業務標準化を進めるにあたって、下記ポイントに注意しましょう。
手段と目的の混同
マニュアルや手順書にまとめる作業自体が目的化し、本来の目的を忘れないよう注意しましょう。マニュアルや手順書の作成といった手段が混同してしまうことで、必要以上に細部にこだわってしまい、投じた時間に対して同等の効果が得られない場合があります。
マニュアル化などの作業は、あくまで目的を実現するための手段であることを理解して取り組むことが重要です。
従業員の反発
自分の地位やポジションを守るため、属人化を維持しようと従業員が標準化を拒否する可能性があります。
とくに、専門性の高い業務は「自分にしかできない」といった自負が生まれやすいです。業務への評価の影響度を下げるなど、評価基準を変更したりすることで属人化を防ぐ工夫が必要です。
9.業務標準化で役立つツール
業務標準化をすべて人の手で行おうとすると、その作業量と負担はかなり大きいです。業務を標準化するまでに工数がかかってしまっては、なかなか目的は実現できません。ここでは、業務標準化で役立つツールをご紹介します。
BPMツール
「Business Process Management」、略称「BPM」とは業務プロセス管理及びそのツールを指す言葉です。このツールを活用することで、業務プロセスを可視化し、一元管理することができます。
モデリング機能で業務プロセスを図表化したり、モニタリング機能で状況を把握したりして、目標に対する成果が分析可能です。さらに、業務フロートタスクの紐付けも行えます。
マニュアル作成ツール
操作手順書や業務手順書、動画マニュアルの作成・保存・検索・共有などが行えるツールです。音声認識による自動生成機能や自動翻訳機能、テンプレート機能など、ツールによってさまざまな機能を搭載しています。
マニュアル作成ツールを使用することで作業が簡略化され、質の高いマニュアル作成が可能となります。
学習管理システム
業務標準化と並行して、従業員に必要な知識・スキルを身につけてもらうこともポイントです。学習管理システムとは、オンライン研修の内容や参加者をまとめて管理できるツールです。
ツールから配信できるほか、コンテンツや教材、個々の受講履歴や学習の進捗状況などを管理します。時間や場所を問わず研修を行えるため、教育の効率化に有効です。