業務委託契約書とは、発注者が受託者に業務を委託する契約書です。ここでは、業務委託契約書について解説します。
目次
1.業務委託契約書とは?
業務委託契約書とは、「業務を発注者が受託者に委託する」「受託者が承諾し、その裁量と責任のもとで委託業務を実施する」ために締結する契約書のことです。
業務委託契約とは? 請負契約や雇用契約との違い、締結の流れ
業務委託契約とは、業務の一部を企業や個人に委託する場合に締結する契約形態です。一般的な雇用契約とは異なる点も多く、業務委託契約には別途専用の契約書が必要となります。
今回は業務委託契約について、契約の...
2.業務委託契約書を作成する目的
業務委託契約書の目的は、口頭による契約だけで起こる「言った・言っていない」というトラブルを防ぐこと。
口約束によって生じるトラブルを避けるためにも、事前に契約内容を発注者と受注者でよく詰めます。そして両者で合意した契約内容を業務委託契約書として作成するのです。
3.業務委託契約と雇用契約との違い
雇用契約とは、労働と引き換えに報酬を与えると約束する契約のこと。業務委託契約と雇用契約の違いは、下記のとおりです。
- 業務委託契約:処理が完了した仕事と引き換えに報酬を支払うと、独立した事業者同士で約束する契約
- 雇用契約:使用者と労働者の関係で、労働の対価として報酬を与えるための契約
4.業務委託契約に関する法律
業務委託契約の名がついている法律や業務委託契約に特化している法律はありません。つまり業務委託契約書も、法律で定められていないのです。
しかし業務委託契約に関しては一般的に、「請負契約」(民法第632条)と「委任契約」(民法第643条)が法的根拠となります。
請負契約
請負契約とは、「業務を受注した側が、委託された業務の完成を約束する」「業務を発注する側は、完成した仕事の結果に対して報酬を支払う」という契約のこと。業務委託契約における法的根拠の1つとなっています。
完成した仕事に対するミスや欠陥といった結果責任は、業務を受注した側に発生するのです。場合によっては、損害賠償を支払います。
請負契約とは? 業務委託や準委任契約との違いをわかりやすく
業務を外部に委託する際には、業務内容に応じて、「請負契約」と「委任契約」のどちらかを結ぶ必要があります。よく似ている二つの契約であるものの、これらの違いを理解して適切な契約形態を選択することが重要です...
委任契約
委任契約とは、業務を受注した側は行為の遂行だけを求められ、完成した仕事に対する責任を負わない契約のこと。目的は業務の遂行です。そのため委任契約の受注者は、「発注側と対等の関係となる」「自らの判断で委託業務を遂行する」ことになります。
5.業務委託契約書を作成するメリット
業務委託契約書にはどんなメリットがあるのでしょうか。4つ解説します。
- トラブルを回避できる
- 契約交渉の材料になる
- 裁判での証拠になる
- 税務処理に必要
①トラブルを回避できる
口約束で契約すると、「あのときこう言った・そんなことは言っていない」といったトラブルが起こりやすくなります。不要なトラブルを避けるためにも、口頭で契約を行うのではなく、業務委託契約書という書面を残して契約するのは重要です。
②契約交渉の材料になる
業務委託に関する契約書を作成しておけば、ビジネスの相手と交渉をする際に検討材料として活用できます。交渉のテーブルで権利や義務、役割分担などについて、作成した契約書をもとに具体的に検討できるのです。
③裁判での証拠になる
業務委託契約をしたあと、何らかのトラブルになった場合、業務委託契約書があればそれが証拠になります。
裁判になっても裁判所に業務委託契約書を提出すれば、有利に裁判を展開できる可能性が高まるのです。口頭による契約では、手元に何の証拠もなく不利になってしまうでしょう。
④税務処理に必要
「支払い処理を行う際、支払い条件などを契約書により確認できる」「業務によっては、委託契約が税制上の優遇を受けられる場合もある」などの場面では、契約書は必須です。こうした書面を経理部門が必要とするケースがあります。
6.業務委託契約書の種類
業務委託契約書には、さまざまな種類があります。ここでは報酬の支払い方法に着目して、業務委託契約書の種類を3つ解説しましょう。
- 毎月定額型
- 成果報酬型
- 単発業務型
①毎月定額型
毎月定額型とは、毎月一定額の金額を支払う業務委託に用いる契約書のことで、保守・清掃・コンサルティングなどの分野で多く利用されています。
一定額が毎月支払われるタイプです。そのため委託者にとって「1度契約してしまうと、サービスレベルが上がりにくい」「業務に慣れが生じるといった委託業務の質を確保しにくい」などの問題点が生じます。
②成果報酬型
成果報酬型とは、業務の成果によって報酬を変動させる業務委託に用いる契約書のこと。「受注獲得件数により報酬を決定する営業代行」「店舗運営であげた売上金額や利益に応じて報酬を決定する店舗運営」などで活用されているのです。
受注側は成果を生み出せば報酬もアップするため、やりがいがあります。一方、実績の水増しといった不正も起こりやすいといわれているのです。
③単発業務型
単発業務型とは、「原則1回きり・報酬額は最初から決定している」業務委託に用いる契約書のこと。「建築設計監理業務・デザイン業務・研修業務」などで活用されています。課題は、受注者のモチベーションをいかに高められるかどうかです。
7.業務委託契約書の記載事項
業務委託契約書に記載すべき事項があります。ここではどんな契約書でも必ず記載が求められる、4項目とテンプレートについて解説しましょう。
- 業務内容
- 契約期間
- 成果物について
- 報酬や支払いの時期
①業務内容
どのような業務を委託するのかを、具体的・詳細に明記します。たとえば庶務といっても庶務事務や広報、人事事務などがあるでしょう。
庶務事務はさらに「文書の発受」「文書管理」「郵便物の受付・確認・発送」などに分類できます。このように、業務内容はより詳細に記載するのです。
②契約期間
契約期間については、「契約期間は、〇年〇月〇日から〇年〇月〇日までとする」と詳細を記載します。
契約期間を明確にしておけば、「委託した側が、いつまでも成果物を受け取れない」「受託した側も、業務スケジュールを立てられない」といったトラブルを防げるのです。
③成果物について
業務委託契約の履行によって生まれる成果物について、「いつの時点で・誰に帰属するのか」を事前に定めておきます。取り決めがあれば、成果物ができあがる過程や完成した成果物の所有権をめぐって生じるトラブルを防げるのです。
④報酬や支払いの時期
報酬については、
- 一括して「報酬 ○○円」として、その内訳を追記する
- 1枚:○○円、一人あたり:○○円/時給
といった表記をします。どちらの場合でも、報酬の算定根拠を併記するのです。報酬の支払い時期や支払い方法についても記載します。
契約書のテンプレートを利用
テンプレートを利用すると、業務委託契約書をかんたんに作成できます。テンプレートには、契約書を作成するうえで必ず記載しなければならない事項も網羅されているため、記載漏れといった心配がありません。
ゼロベースから契約書を作成するより確認の手間も省けるため、便利です。ネットなどで検索し、使い勝手のよい契約書を見つけてみましょう。
8.業務委託契約書に関する注意点
業務委託契約書はどういった点に注意すればよいのでしょう。3つから解説します。
- 内容を再度確認する
- 不明確な条項が含まれていないか確認する
- 法改正に注意する
①内容を再度確認する
業務委託契約書を作成する際は、契約締結前に再度、内容を確認しましょう。契約書は、トラブルがおき裁判になった際、有力な証拠になる重要な書類。記入漏れや記載ミスなどがないよう、契約締結前の入念なチェックは欠かせません。
②不明確な条項が含まれていないか確認する
契約書の文面に、不明確・不明瞭な文面があると解釈トラブルに発展しやすくなります。「異なる解釈ができるような文面になっていないか・範囲をしっかりと定めた明確な文面になっているか」確認しましょう。
③法改正に注意する
業務委託に関しては法律の定めはないものの、法的根拠となる民法があります。また労働契約法など、業務委託契約に関連する可能性の高い法律もあるのです。法改正に注意を払い、業務委託契約に関係する法改正があれば、契約書に盛り込みましょう。
9.業務委託契約書のQ&A
業務委託契約書を作成する際、さまざまな疑問が発生する場合もあるでしょう。最後に、業務委託契約書に関する疑問に回答します。
- 業務委託契約書に収入印紙は必要?
- 割印や契印は必要?
- 締結後に内容を変更・修正したい場合は?
①業務委託契約書に収入印紙は必要?
業務委託契約書に収入印紙が必要なのは、請負契約に関する業務委託契約に契約金額が記載されている場合です。
第2号文書と呼ばれる請負契約に関する業務委託契約書では、一部例外を除き、契約金額に応じて200円~60万円の印紙税が必要となります。継続的な業務委託契約書である第7号文書では、印紙税は4,000円です。
②割印や契印は必要?
業務委託契約書には、内容の改ざん防止を目的に割印や契印が必要になります。
通常、契約書は2部以上作成するもの。割印や契印によって、「それぞれの内容が同じかどうか・それぞれの内容に関連性があるか」確認できます。契約締結後の改ざんを防止するためにも、割印や契印が欠かせません。
③締結後に内容を変更・修正したい場合は?
締結後に業務委託契約書の内容を変更・修正したい場合は、締結後に覚え書きを作成します。記載項目の追加や記載内容の修正が発生した場合、一般的には変更点について記載した覚え書きを作成して、取り交わすのです。
覚え書きは、「変更契約書」「変更合意書」「変更確認書」などと呼ばれる場合もあります。