HACCP(ハサップ)とは? 義務化、7原則、認証について簡単に

HACCPは食品を扱う企業にとって重要な仕組みです。本記事ではHACCPの概要や7原則、企業が取り組む流れを解説します。

1.HACCPとは?

HACCP(ハサップ)とは、食品の安全を確保するための国際的な食品衛生管理規格です。なお、名称は以下5つの単語の頭文字を取ったものです。

  1. Hazard(危害)
  2. Analysis(分析)
  3. Critical(重要)
  4. Control(管理)
  5. Point(点)

HACCPはWHO(世界保健機関)と FAO(国際連合食糧農業機関)の合同機関である Codex委員会が発表したものです。食品の各製造工程における危険を分析し、危険を防ぐための衛生管理計画を策定、そして実行・記録して食品の安全性を管理していく衛生管理手法です。

なお、管理については「HA(Hazard Analysis)」と「CCP(Critical Control Point)」から構成されています。ここではHAとCCPについて解説します。

HA(Hazard Analysis)

HA(Hazard Analysis)とは、危害要因分析のことです。危害要因の例としては以下が挙げられます。

  • 病原微生物
  • 細菌
  • 金属片
  • 毛髪
  • 残留農薬

HAでは、主に食中毒や身体への悪影響となる生物的要因や化学的要因、物理的要因を予測します。具体的には「食品の各製造構成において発生する恐れのある危害要因」を、人体への影響度や発生頻度などから多角的に分析し、管理を行うのです。

CCP(Critical Control Point)

CCP(Critical Control Point)とは、重要管理点のことです。HAで明らかにした危害要因を排除・低減するための工程を指します。原料の入荷から出荷までの工程において、危害要因を排除・低減できる工程と、その基準を定めて製品の安全性を確保することが求められます。

たとえば、肉加工においては以下のようなCCPを定めて管理を行います。

  • 加熱:細菌の殺滅
  • 包装:混入した異物の除去

CCPは、HAで明らかにした要因を元に、細かな工程において対策を講じるのが基本の流れです。

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2.HACCP導入のメリット

HACCPの導入は企業にとってメリットが多くあります。

農林水産省が発表する「令和3年度食品製造業におけるHACCPに沿った衛生管理の導入状況実態調査結果」によると、HACCPに沿った衛生管理の導入による効果(又は期待する効果)として、以下のような回答が得られています。

品質・安全性の向上 事故対策コストの削減 製品ロスの削減 取引の増加 製品の輸出が可能(有利) 製品価格の上昇 製品イメージの向上
効果 78.5 29.5 15.6 15.3 7.9 6.5 32.5

この調査結果からもわかるように、HACCPを導入した企業はさまざまなメリットを享受しているのです。

品質・安全性の向上

HACCPの目的は食品の安全性の向上にあります。衛生管理計画をもとに各製造工程で徹底した衛生管理ができるため、発生し得る危害要因を消費者の手に渡る前に排除・低減できます。

また、徹底した管理のもとで安全・安心の食品が製造できるため、製品イメージも向上します。製品イメージが向上すると消費者からの支持を獲得でき、売上や顧客満足度の向上にもつながるのです。

製品イメージの向上

現代は消費者がより安全な食品を求める傾向が強まっています。そのため、HACCPで得られる製品イメージの向上は大きなメリットとして反映されます。

HACCPを導入して生産された食品は安全性が確保されていることが証明可能です。顧客からの信頼度や企業イメージの向上にもつながり、競争力も強化できます。

事故対策コストの削減

HACCPを導入することで、あらかじめ危害要因を分析して排除・低減に取り組めるため、未然に事故を防げるメリットもあります。日々記録を取って管理するため、事故につながる可能性のある小さな変化にも気づけるようになるのです。

事故が起こってから原因を調査する場合、製造場所の点検や製品の回収などに膨大なコストを要します。また、万が一健康被害が出た場合は、賠償金などが発生することも考えられます。

HACCPを導入すると、日々徹底した管理を継続することが可能です。持続的な管理は大きな事故やそれに伴うコストの発生を防ぎ、結果的に高いコストパフォーマンスを発揮するのです。

製品ロスの削減

HACCPにより業務フローが改善され、各工程で危険を排除・低減できる点もメリットです。例えば、これまでは出荷前の最終工程でチェックしていた場合、商品が出来上がった状態で「危険」と判断されると対象商品は廃棄になっていました。

しかし、HACCPなら最終工程に到達する前に危険を発見できるため、廃棄によるロスとコストの削減が可能です。

取引の増加

HACCPの導入は新たなビジネスチャンスのきっかけになり得ます。HACCPを導入していることは自社製品の安全性が高いことへのアピールにつながるためです。

食品の輸入・販売を行う事業者は取引先を選定する際に、HACCPを導入しているかを重視する傾向にあります。そのため、HACCPを導入することで、HACCP対応を求める企業との取引が増加し、国内外への販路拡大にもつながる可能性があります。

製品輸出における優位性の確保

HACCPは国際的な食品衛生管理規格です。そのため、製品を輸出する際に優位性を高められます。国外から輸入された食品は消費者もその安全性により敏感になる傾向にあります。

しかし、HACCP導入していることで国際的にも安全な食品であることが証明されるため、国際貿易においても優位性を確保できるのです。

製品価格の上昇

HACCPの導入は製造コストが高くなるため、製品価格が上昇します。企業活動において製品価格の上昇はデメリットと思われる一方で、HACCPの導入によって取引先や販路が拡大するメリットを享受し、売上増加も目指せます。

また、消費者目線では「少し高くとも安全性が確保された食品を購入したい」という声に答えられるため、結果として製品価格の上昇が売上増加につながるのです。

従業員の衛生意識の向上

HACCPでは、衛生計画という明確な基準のもとで衛生管理を行います。毎日多くの食品管理に向き合っていると、製造者は良くも悪くも無意識で管理してしまったり、「少しくらい手を抜いてもいいか」と意識の低下が起こったりするものです。

しかし、HACCPによる明確な衛生管理手法があることで、食品の安全性を確保するための基準やすべきことが明確になります。そして、従業員の一人ひとりの意識を高めて衛生管理を行えるようになるのです。結果として、自社製品の品質・安全性の向上につながります。

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3.HACCPの義務化とは?

2018年の食品衛生法の改正法案の可決により、HACCPの導入が義務化されました。2020年6月より義務化が開始され、1年間は猶予期間とし、2021年6月より完全義務化しています。

なお、HACCP義務化の対象となるのは、食品を扱う全事業者で、学校や病院などの集団給食施設も対象になります。一方で、対象外となるのは、農業及び水産業における食品の採取業、食品の輸入業や運搬業など公衆衛生に与える影響が少ない分野です。

義務化前との違い

対象事業者は一般的な衛生管理とあわせて、HACCPに沿った衛生管理に関する基準にもとづいて衛生管理計画を作成し、従業員への周知徹底を図ることが求められます。義務化前は一般的な衛生管理のみでした。

大きな違いとしては「衛生管理計画の作成」「衛生管理の実施状況の記録・保存」が必要になった点が挙げられます。

また、必要に応じて清掃・洗浄・消毒や食品の取扱いに関する具体的な方法を定めた手順書も作成することも必要です。これらの効果を定期的に検証し、必要に応じて内容を見直すことが、義務化後の企業に求められています。

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4.HACCPと従来の検査・管理の違い

HACCPとこれまでの一般的な検査・管理との大きな違いは、危害要因の検査工程にあります。従来の管理方法では、最終製品で安全性をチェックする方法が一般的でした。具体的には、製品の包装後、出荷前の抜取り検査で問題のある商品を見つけたら、出荷を停止する形です。

しかし、HACCP導入後の管理方法は、各工程で危害要因の発生を予測し、排除・低減できる工程(重要管理点)にて継続的に監視します。そのため、最終製品は安全性が証明された上で出荷されるのです。

従来の方法の場合、検査が一度で済むため、作業がスムーズに進められました。しかし、問題があれば一連の製品を廃棄するためのロスが発生するという課題があります。HACCPであれば、各工程で徹底して管理するため問題を未然に防げ、ロスも抑えられるのです。

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5.HACCPの導入手順:7原則12手順

HACCPは「7原則12手順」に従って導入します。この手順は1993年にCodex(国際食品規格)委員会が策定した手順のため、遵守しなければなりません。手順は原則1〜7を進めるための前段階となる手順1〜5、7原則を実行する手順6〜12があるため、順を追って確認します。

7原則の前準備

7原則の前段階となる手順1〜5は、危険要因分析のための準備工程です。ここでは5つの手順を詳しく解説します。

手順1:HACCPチームの編成

こちらは、HACCPの運用の中心となる推進チームを編成する工程です。メンバーは、原材料や製造方法、施設や設備の取り扱いなど、各工程の実務に精通した人を選出します。なお、食品衛生の知識に長けた人を参加させることも重要です。

もしも、社内でHACCPに関して知見のあるメンバーがいない場合には、外部の専門家を招くことでスムーズに進められるようになります。

手順2:製品説明書の作成

次に製品情報を整理するため、説明書を作成します。説明書に記載する内容は以下のとおりです。

  • 製品の名称及び種類
  • 原材料に関する事項
  • 添加物の名称とその使用量
  • 製品の規格(成分規格)
  • その他特性
  • 保存方法
  • 賞味期限または消費期限
  • 対象者

説明書の作成は、成分規格や製造基準を見落とさないように製品情報を収集します。

手順3:用途、対象者の確認

次は、製品がどのような用途で、どのような消費者の手に渡っているかを確認します。食品の場合、製品によって加熱の有無や調理の有無は異なります。

また、ひとくちに消費者といっても、子どもから大人、妊婦や老人など属性が異なると求められる対応が変化するもの。用途、対象者によって特別な管理が必要になる場合もあるため、漏れなくチェックを行います。

手順4:製造工程図の作成

次は、食品の作り方がイメージできるよう、原材料の受け入れから出荷まで製造工程を図面化します。なお、図は「区域」と「工程」がわかるように作成します。

さらに、区域は「汚染区域」「清潔区域」に分類します。その他の要素としては、温度や時間、濃度や大きさなどでも区分が可能です。

手順5:製造工程図の現場確認

製造工程図が作成できたら、現場確認を行います。実際に従業員が作業しているところで確認できるとより正確に作業工程を確認できます。製造工程がそもそも誤っていると正しく危害要因を分析できなくなってしまうため、注意が必要です。

7原則

7原則は危害要因を分析し、HACCPプランを作成していく工程です。手順1〜5での準備をもとに、実際の運用について検討します。

【原則1】手順6:危害要因の分析

危害要因の分析は、手順4で作成した製造工程図をもとに、各工程で発生する可能性のある生物的・科学的・物理的な危害要因を明らかにする工程です。具体的には以下のポイントをふまえ、各工程の危害要因を分析します。

  • 該当工程で予想される危害要因
  • 危害要因の重大性の程度
  • 重大性を判断した根拠
  • 危害要因の管理手段

【原則2】手順7:重要管理点(CCP)の決定

重要管理点の決定では、手順6で明らかにした危害要因を排除・低減する工程を踏まえ、重要管理点(CCP)を決定します。危害要因を排除・低減する方法は製品によってさまざまですが、代表的なものとしては以下のとおりです。

  • 加熱殺菌
  • 炭酸ガスの圧力
  • 液温の適切な管理

なお、危害要因によっては複数工程を通して排除・低減していくこともあります。

【原則3】手順8:管理基準の設定

管理基準の設定は、重要管理点(CCP)で管理すべき基準値を設定する工程です。具体的な項目としては「温度」「速度」「時間」などが挙げられます。これらの基準を達成しないと危害要因を排除・低減できません。

なお、管理基準は科学的な根拠にもとづいた定量的なものでなければなりません。「炭酸ガスの圧力が22kPa以上」「液温5℃以下」など、数値を用いて基準を設けます。

【原則4】手順9:モニタリング方法の設定

こちらでは、手順8で設定した管理基準を満たしていることを確認するためのモニタリング方法を設定します。どの数値を「誰が」「いつ」「どれくらいの頻度」で監視するかを具体的に取り決めなければなりません。

【原則5】手順10:改善措置の設定

改善措置の設定では、設定した管理基準がモニタリングによって達成されていなかった場合における原因の特定方法や原因の排除方法、解決策などを設定します。なお、改善措置は1つとは限らず、複数の方法が当てはまる場合には全て明らかにする必要があります。

【原則6】手順11:検証方法の設定

手順10までが具体的なHACCPプランの作成工程でした。手順11では、作成されたHACCPプランが有効に機能しているかを判断するための検証方法を設定します。検証方法はさまざまですが、以下のような方法があります。

  • モニタリングの記録確認
  • 改善措置の有効性確認
  • 製品の最終的なハザード検査

各工程でチェックすべき重要ポイントを複数明らかにし、週次・月次・年次など適切な頻度で検証し、必要に応じてHACCPプランを見直さなければなりません。

【原則7】手順12:記録と保存方法の設定

HACCPではただモニタリングや検証を行うだけでなく、記録を正確に保存することも重要です。HACCPを実施したことの証明になると同時に、万が一出荷後に問題が発生した場合でも原因が究明しやすくなります。

記録内容や記録の保管場所、記録の作成や保存の責任者を明確にすると万が一の際に備えられます。

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6.HACCP認証取得の手順

HACCPを導入する際は「HACCP認証」を取得すると、適切にHACCPを運用していることを証明できます。認証取得は義務ではないものの、取得するとさまざまなメリットを享受できます。具体的なメリットとしては以下のとおりです。

  • 従業員の衛生管理の意識向上
  • 取引先や消費者からの信頼向上
  • HACCP認証の取得を条件とする企業との取引が可能

なお、HACCPの認証取得は、以下の手順で行います。

①HACCPチーム、プランの構築

まずは7原則12手順に従ってHACCP運用の体制を整えます。認証審査を受けるには3ヶ月以上の運用が必要であるため、構築後仮運用する形が基本です。

②認証機関に相談

仮運用中に並行して認証機関に相談しておくとスムーズに進められます。認証は主に3パターンあり「地方自治体の認証」「業界団体の認証」「民間審査期間の認証」です。機関の選定は自社にあった認証機関を複数比較して選択します。

③審査

初めてHACCP認証を受ける際は審査が2段階です。なお、認証機関によっては、第1段階審査の前に事前調査やプレ審査を実施してもらえる場合も見られます。

第1段階審査はHACCPプランの整備状況の確認がメインです。そして第2段階審査では、運用状況や手順、定めた方針や目的などがチェックされます。なお、審査に関しては実際の作業状況の視察や記録内容の確認も行われます。

④改善措置

第2段階審査の結果、改善が必要とされた場合に改善措置を講じなければなりません。改善措置を実行した結果、適切と認められることで最終的な報告書が作成され、登録決定会議に進んでいきます。

⑤認証取得

登録決定会議にて審査に通れば、認証取得終了です。登録証が発行されるため、受取を行います。

⑥認証取得後

認証取得後は、年1回の継続審査が必要です。この際、HACCPプランが適合しているか、維持できているかが審査されます。また、3年ごとに更新審査もあり、継続審査よりも細かい審査でHACCPプランの適合性や有用性が確認されます。

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7.HACCP認証取得にかかるコスト

ここからはHACCPの認証取得にかかるコストを紹介します。

時間

審査を受けるまでに通常3ヶ月以上の仮運用期間が必要です。その後、第1段階審査で1〜3日ほどの期間を要します。

そして、第2段階審査は第1段階審査の1か月半〜2か月後に実施し、改善措置は1か月ほどです。構築から始める場合は、取得までおよそ1年と考えておく必要があります。

費用

HACCPの認証取得にかかる費用は、審査費用と研修の参加費用が主です。費用は事業規模や審査機関によって異なるため、事前の資料確認を推奨します。

一般的に、民間審査機関は地方自治体や業界団体よりも高額になるものの、ISO22000やSQFのように世界的にも知名度のある機関で認証が受けられる点がメリットです。