人事評価の実施において気になるのは、評価者による評価エラーでしょう。こうした評価エラーの中に、ハロー効果と呼ばれるものがあるのですが、一体どのようなものなのでしょう。
- ハロー効果の種類や実例
- ハロー効果以外の評価エラーが持つ特徴
- 評価エラーを防ぐための方法
などについて見ていきます。
目次
1.ハロー効果とは?
ハロー効果とは、ある対象を評価する際、一部の特徴的な印象に引きずられ、全体的な評価が歪んでしまう現象を指す言葉です。たとえば、難関大学卒ならば仕事でも優秀だろうと判断してしまうなどです。経験による先入観や直感によって、非合理的な判断をする心理現象「認知バイアス」の1つに数えられます。
社会心理学の専門用語で、ハロー効果(halo effect)のハロー(halo)とは、「聖人の頭上に描かれている光の輪」を指します。これは認知バイアスの一つで、「ハローエラー」とも呼ばれています。
ハロー効果は、物事の目立つ一部分だけで判断することにより即断を可能とするハロー効果の歴史を紐解くと、原始的時代にまでさかのぼります。
厳しい環境で生き延びる必要に迫られていた原始時代は、ハロー効果のような考え方が生存に有利であったと考えられています。そしてそれは遺伝子によって現代社会にまで受け継がれているのです。
ハロー効果には、
- ポジティブ・ハロー効果
- ネガティブ・ハロー効果
の2つがあり、人事用語では、
- 人事評価時の評価内容の正当性や乖離内容を表す指標
- 人事評価時に管理者が留意するべき事項
という意味で活用されています。
2.ハロー効果の種類
ポジティブ・ハロー効果とは?
ポジティブ・ハロー効果とは人材評価を行う場合に特定の能力の評価が高いと感じたとき、別の効果もそれにつられて高く評価してしまう現象のこと。
ネガティブ・ハロー効果とは?
ネガティブ・ハロー効果とは人材評価を行う際、特定の能力の評価が高いと感じたとき、その反動で別の評価を低く評価してしまう現象です。
3.ピグマリオン効果との違い
ピグマリオン効果とは、「期待」の心理を向けられた人間はその通りの成果を出しやすいというもの。
たとえば上司から「期待」された部下がいるとします。すると、この部下は期待された通りの成果を出しやすくなるのです。ピグマリオン効果は、実験を行った教育心理学者ローゼンタールの名を取り、ローゼンタール効果とも呼ばれています。
ピグマリオン効果は、相手の潜在能力を引き出す際に有効で、部下や新人を育成する際などに役立ちます。しかし、期待をかけすぎては負担のもと。過度なプレッシャーにならないようコントロールしなくてはなりません。
- ピグマリオン効果:育成時に相手へ使う手法
- ハロー効果:評価の見え方を変化させる現象
と考えると違いが分かりやすいでしょう。
ピグマリオン効果とは?【具体例でわかりやすく】ゴーレム効果
部下を褒めて育てるピグマリオン効果は、
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新しいイノベーションの創造
高いモチベーションを維持できる部下の育成
を目的に、さまざまな企業で活用されています。ピ...
4.ハロー効果が表れる例
ハロー効果が表れやすい例とはどんなものなのでしょう。人事評価でよく見かける代表的な3つの事例をご紹介します。
- 人事評価
- 採用や入試で行われる面接
- 有名人
①人事評価
人事評価とは、
- 過去の経緯
- 過去の業績
- 現在の業務
これらを同時期にまとめて評価を行うこと。
たとえば、
- 前期、営業成績がトップだった
- 前勤務先が大手企業だった
といった場合、過去の高い評価が他の評価項目にも影響を及ぼし、全般的に評価を高くつけてしまう場合があるのです。また、
- 前職がアルバイトだった
- 反対意見を述べた
といった場合、その人物の評価が全般的に低くなってしまうことがあります。
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②採用や入試で行われる面接
次は採用、入試などで行われる面接の場面です。
たとえば、
- 有名大学の出身
- 容姿端麗
- 面接官と出身地や母校が同じといった共通点がある
など目立つ特徴があると、その特徴とまったく関係のない能力や性質についても好印象を抱いてしまうのです。
反対に、
- 面接官と特段接点がない
- 際立った特徴がない
といった場合、評価が全体的に下がり気味になってしまいます。
③有名人
最後は、有名人。企業が自社の製品を宣伝する際、
- 好感度の高い有名人
- 知名度の高い有名人
を起用するのは、ハロー効果が有名人の特徴に表れやすいからです。好感度や知名度が高い有名人がコマーシャルに登場すれば、
- 品質の高い製品
- 欲しくなる製品
といったイメージを見る側に植えつけるでしょう。他にも、選挙で立候補した人物に、政治家としての知識や能力があるかどうかより、ネームバリューのあるなしで多くの票を投じてしまう、これもある種のハロー効果です。
5.その他の評価エラー(評価誤差)
ハロー効果以外でも、評価エラーや評価誤差を生み出すものがあります。
- 寛大化傾向
- 中央化傾向
- 酷評化傾向
- 期末誤差
- 論理誤差
- 対比誤差
- 分散化傾向/二極化傾向
- 逆算化傾向(逆算割付)
①寛大化傾向
寛大化傾向とは、
- 評価者の部下に対する気遣い
- 評価者に対する批判や反発に対する恐れ
- 評価者の自信の無さが表れた場合
などが原因で、評価全体が甘くなってしまうこと。たとえば、5段階評価で「5」「4」といったレベルに評価が集中するケースです。
- 悪く思われたくない
- 嫌われたくない
というネガティブな気持ちに支配された評価者が陥ります。
寛大化傾向の特徴には、
- 下位評価を受けるものがいなくなる
- 評価に差が出くなる
などがあり、結果、部下の成長をストップしてしまうことが大きな問題点となってくるのです。
「評価の基準をどこに置くか」これは非常にデリケートで難しい問題でしょう。しかし寛大化が進むと評価そのものの意味がなくなってしまう危険性があるので、評価者は注意が必要です。
②中央化傾向
中央化傾向とは、評価者が
- 非常に優秀
- 非常に劣っている
といった両極端の評価をあえて避けることで、評価を「普通」のランクに集中させてしまう傾向のこと。中心化傾向とも呼ばれることもあります。
5段階評価の場合で説明すれば、ほとんどの部下の評価を「3」に集中させてしまうようなケースでしょう。1~5までの評価の平均値となる3で評価しておくことで、
- 部下からのクレームを避ける、いわゆる事なかれ主義
- あまり部下を観察していなくても評価したように見える、観察不足
などといった評価者の考えがカモフラージュできるのです。
波風を立てないような無難な評価をしたい、という気持ちが中央化傾向を生み出しているといえますが、それは同時に適正な評価ができていないということでもあります。
③酷評化傾向
酷評化傾向とは、その名の通り、部下の評価を「酷評」するケースのこと。厳格化傾向とも呼ばれています。
- 自分に自信を持っている
- 能力が高い
- 有能である自分を基準として評価を行う
といった評価者が陥りやすい傾向です。特定の世界で頂点を極めた人物が部下を指導する際に陥る心理的傾向であるともいわれています。
- 完璧主義を貫く人
- 対象者を追い詰める人
- 重箱の隅をつつくように小さなことにまでこだわってしまう人
にも、酷評化傾向が表れやすいようです。
このような場合、ほとんどの部下が酷評されてしまうので、上位評価を受ける人材が不在になるため、中間から下位層に評価が集中します。
これも適正な評価にはつながりません。何より酷評は部下のモチベーションに大きく悪影響を及ぼすもの。モチベーションの観点から考えても、十分な注意が必要です。
④期末誤差
期末誤差とは、期末にだけインパクトのあることを提案したり発言したりして、強いインパクトを相手に与えてしまうこと。評価者が直近の評価を重要視してしまう傾向から起こる現象です。
- 会議中、発言のなかった者が、会議の最後に挙手して発言する
- 期中モチベーションの低かった者が、期末に大きな仕事を取ってきた
このような場合、評価期間中は冴えない活動状況だったとしても、最後の挽回でプラスの評価を得るでしょう。これは、期末誤差の象徴例です。
一方、
- 期中は高い売り上げを保っていたが、最終月で大きく売り上げを落とした
- 会議では常に意欲的に発言していたが、クロージングの際には別の意見が採用された
といった場合、今まで頑張ってきた評価が薄れ、直近の悪い印象がマイナス評価となって大きく影響を及ぼすこともあります。
⑤論理誤差
論理誤差とは、正当で論理的な事実確認や分析を行うことなく、推論で部下を評価してしまうこと。論理誤差では、
- 2世だから、甘やかされて育っているに違いない
- トップセールスマンは、話上手で押しが強い人だろう
- 経理の仕事に就いている人は、生活全般も几帳面に違いない
- 大学を出ているなら、このくらいのことが分かっていて当然だ
といったように、評価者が自分の理屈を正論として評価対象者である部下の人格までを決めつけてしまうことから起こります。
少し考えてみてください。大工道具であるカンナのかけ方は知っていても、実際にカンナをかけたことがなければ、木材を思うように平らにすることはできません。
また、どの鍵盤を押せば「ド」の音が出るのか分かっていても、ピアノを弾いたことがなければ名曲を弾きこなすことはできないでしょう。
これらと同じです。部下をしっかりと観察、評価、分析することのない、自己流の思い込みによる評価は認められないでしょう。
⑥対比誤差
対比誤差とは、比較評価する人物を設定してその人物と対象者を比較することで生じる評価誤差のこと。絶対評価とは真逆に位置する評価で、実際よりも、
- 過小評価
- 過大評価
してしまう危険性をはらんでいます。たとえば、
- 話の上手な人と話をした直後に普通の会話レベルの人と話をした場合、「話の面白みに欠ける人だ」という印象を持ってしまう
- 自分が苦手な分野や持っていない技能を有している部下がいると、必要以上に高い評価をつけてしまう
- 何でも積極的に行動する上司にとって、慎重に行動を積み上げる部下はやる気のない人材に映ってしまう
といった具合です。
- 実情以上に無意識に良い評価、悪い評価をしてしまう
- 自分と似ている点を持つ者を高く評価してしまう
- 自分を基準にして経験や実績、行動パターンや思考回路を評価してしまう
このような現象は、人事評価の現場で比較的よく見られる傾向です。しかし、適正な人事評価といえない部分が多いことは言うまでもありません。
⑦分散化傾向/二極化傾向
分散化傾向は、小さな差や些細な問題を、拡大解釈して評価してしまうことで、二極化傾向、極端化傾向ともいいます。
前述の中央化傾向とは正反対の評価傾向であり、人事評価時に評価者が注意を払う必要がある傾向の一つです。
分散化傾向では、
- 部下の能力や技術、行動パターンなどをしっかりと把握していると思い込んでいる上司
- 部下の評価に大きな差をつけることで、部下のモチベーションを高めたいと考えている上司
が陥りやすいようです。しかし、評価の良し悪しが極端に表れるため、評価にばらつきが生じます。また、事実を反映した適正な評価とはいえない側面があるため、
- 人事評価の正当性
- 人事評価と実状の乖離
などの観点から考えても、非常に問題が大きいと考えられるでしょう。分散化傾向は、人事評価時に評価者が留意しなければならない事項として認識すべきです。
⑧逆算化傾向(逆算割付)
逆算化傾向とは、優良な評価をつけるために、最終評価から逆算して評価を行ってしまうこと。
- 評価が賃金に直結する場合に、部下から評価について文句を言われたくない
- 昇給の基準に合うようにして、チーム全体の評価を底上げしたい
といった評価者の打算的感情から生まれることがほとんどです。逆算化傾向を防止する施策として、
- 評価基準を明確にする
- 具体的な行動を分析して評価基準に当てはめて評価する
- 評価と処遇をリンクさせて考えないようにする
- 関連部署の上司など、複数の上司が評価に関わる
などが考えられます。
評価は、部下の現状や実績を正当に評価したものでなければ、行う意味がありません。報酬や昇給、昇格などと切り離して評価を実施し、評価の客観性を高めることが重要です。
人事評価エラー(バイアス)とは? 種類と対策をわかりやすく
人事評価エラー(バイアス)とは、偏った思考により不公平な人事評価を行ってしまうこと。人事評価エラーは企業全体に悪影響を及ぼすため、早期の是正が必要です。
1.人事評価エラーとは?
人事評価エラーとは...
6.人事評価でハロー効果(評価エラー)を防ぐ方法
人事評価でハロー効果(評価エラー)が起こる原因として考えられるのは、
- 人間の深層心理
- 人間の認知
評価エラーを出さないようにする意識づくりだけでは、限界があります。評価エラーを防ぐには、研修やトレーニングを活用しながら評価エラーそのものを防ぐ仕組み作りが必要です。
仕組みづくりで重要となる視点は、
- 恒常性:被評価者に変化がない限り、評価を何度実施しても同じ結果が得られる
- 客観性:評価者が誰でも、常に同じ結果が得られる
ただし、客観性においては、評価者がどれだけ部下の仕事に関わりを持つかによって誤差が生じてしまいます。そのため、ある程度なら容認せざるを得ないでしょう。
①恒常性
評価基準・評価項目の明確化
恒常性は、評価基準、すなわち評価項目の明確化によって実現できます。
人事評価に必要な項目は、
- インプット評価といわれる「能力評価」
- スループット評価といわれる「情意評価」と「行動評価」
- アウトプット評価といわれる「成果評価」
の3つ。各評価項目の代表的な基準には、
- 能力評価・・・知識、技能、技術、企画力、コミュニケーション能力、交渉力
- 情意評価・・・業務態度、職場規律、企業倫理、協調性
- 行動評価・・・課題発掘、率先垂範、問題解決力
- 成果評価・・・業績
があります。企業規模や経営方針によって、何を評価項目に設定するのかはまちまちですが、企業の価値基準や職場ごとの業務との適合性を考慮しながら、どの評価項目からどの基準を選択するのかを定めましょう。
評価理由の明文化
- 先入観や感情などの主観に左右されていないか
- 事実や行動をベースに評価しているか
などを確認するため、評価理由を併記するような仕組みにします。
この仕組みは、
- 事前に評価者に伝えることで適正な評価を行う
- 評価される部下に対して、評価理由を説明する
- 評価後には評価者の評価としてフィードバックする
という目的で活用します。
②客観性:評価者の訓練
客観性は、評価者に評価エラーを低減させる訓練を実施することで実現できます。
訓練の形式は4つ。
- 講義形式:評価エラーが起こりやすいケースを講師がレクチャー
- グループワーク形式:評価者同士がグループをつくり、自社の評価基準についての理解を深め評価エラーについて議論を行う
- ロールプレイング形式:評価をロールプレイングで行った後、オブザーバーから評価についてフィードバックしてもらう
- オブザーバー形式:評価を行う際にオブザーバーも同席して、評価者との2者で評価を決定する
このような訓練を、単独もしくはいくつかを同時に実施するといった工夫で、評価者の評価能力の客観性を高めることが可能です。
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