障害者雇用促進法は、障がい者の雇用安定を目的とした法律です。ここでは基本理念や措置、障がい者の定義や改正のポイント、効果や採用の手順について解説します。
目次
1.障害者雇用促進法(障害者の雇用の促進等に関する法律)とは?
障害者雇用促進法とは、障がい者の職業安定を実現するために作られた法律のことで、正式には「障害者の雇用の促進等に関する法律」といいます。1960年に制定された「身体障害者雇用促進法」がその前身で、数々の改正を経て現在に至っているのです。
障がいのある人が職業生活で自立するための職業リハビリテーションの促進や、事業主の障害者雇用義務について定められているほか、差別の禁止や合理的配慮の提供義務などが規定されています。
基本理念
障害者雇用促進法は、下記4つの理念を軸としています。
- ノーマライゼーションの理念:障がい者が一般市民と同様に社会の一員として活動に参加する
- 障がい者の職業人としての自立の努力:障がい者が職業人としての自覚を持ち、自立するよう努める
- 事業主の責務:事業主は障がい者の自立に協力する責務があり、雇用の安定を図らなければならない
- 国および地方公共団体の責務:憲法第25条の生存権、第27条の勤労の権利と義務にもとづき、障がい者の雇用安定の施策を実施する
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2.障害者雇用促進法にもとづいて事業主が行う措置
障害者雇用促進法では障がい者の職業安定を目指しています。ここでは事業主が行う措置について、見ていきましょう。
- 雇用義務制度
- 納付金制度
①雇用義務制度
障害者雇用率に相当する人数の障がい者の雇用を義務づける措置のこと。民間企業の障害者雇用率は、2.2%から2021年3月に2.3%へと引き上げられました。また国や地方公共団体、特殊法人の障害者雇用率は2.6%です。
障害者雇用率の計算方法
障害者雇用率は「障害者雇用率=(対象障がい者である常用労働者数+失業している対象障がい者数)÷(常用労働者数+失業者数)」にて算出します。社会の変化に対応するため、雇用率は5年ごとに見直しされているのです。
上記の障害者雇用率を用いて、実際に雇用すべき障がい者数を計算する際は、「障がい者の雇用義務人数=(常用労働者数+短時間労働者数×0.5)×障害者雇用率(2.3%)」にて算出できます。
②納付金制度
上述の障がい害者における法定雇用率を事業主が満たさない場合、障害者雇用納付金が徴収されます。障害者雇用納付金は、不足が1人につき月額5万円で、常用労働者100人を超える事業主に課されるのです。
調整金・報奨金
常用労働者が100人を超える事業主で法定障害者雇用率を満たしている場合、雇用している障がい者1人あたり月額2万7,000円の障害者雇用調整金が支給されます。
また常用労働者が100人以下の事業主で、各月の障がい者雇用数の年度間合計数が一定数(各月の常用労働者が4%の年度間合計数もしくは72人のいずれか多い人数)を超えている場合、一定数を超えて雇用している障がい者数に2万1,000円をかけた額の障害者雇用報奨金が支給されます。
特例調整金
障害者雇用調整金を申請した事業主が、前年度に在宅就業障がい者もしくは在宅就業支援団体に仕事を依頼し、業務の対価を支払っていたとします。
その場合、事業主が当該年度に在宅就業障がい者に支払った総額を35万円の評価額で割り、そこに2万1,000円の調整金をかけた金額が、在宅就業障害者特例調整金として支給されるのです。
特例報奨金
障害者雇用報奨金を申請した事業主が、前年度に在宅就業障がい者もしくは在宅就業支援団体に仕事を依頼し業務の対価を支払っていたとします。
その場合、事業主が当該年度に在宅就業障がい者に支払った総額を35万円の評価額で割り、そこに1万7,000円の報償額をかけた金額が在宅就業障害者特例報奨金として支給されるのです。
助成金
事業主が申請できる助成金は、採用前・雇用時・採用後によってそれぞれ異なります。
- 採用前:障害者作業施設設置等助成金・障害者福祉施設設置等助成金・重度障害者多数雇用事業所施設設置等助成金
- 雇用時:特定求職者雇用開発助成金・トライアル雇用助成金
- 採用後:障害者介助等助成金・キャリアアップ助成金(障害者正社員化コース)
3.障害者雇用促進法にもとづいて障がい者本人に行われる措置
障がい者本人に対する措置として、下記の就労支援関係機関での自立支援を行っています。
- 全国549か所のハローワーク:職業紹介や職業指導など
- 全国47か所の地域障害者職業センター:専門的な職業リハビリテーションの実施
- 全国246か所の障害者就業・生活支援センター:就業・生活両面における相談と支援
4.障害者雇用促進法における障がい者の定義
障害者雇用促進法において障がい者は、下記3つに区分されています。
- 身体障がい者
- 知的障がい者
- 精神障がい者
①身体障がい者
「身体障害者障害程度等級表」にて1~6級の障害がある人、もしくは7級の障害が2つ以上重複している人のこと。
障がいの種類は視覚障害や聴覚障害、肢体不自由や音声・言語機能障害など。身体障がい者である点は「身体障害者手帳」によって確認できます。
②知的障がい者
厚生労働省の定める知的障がいがある人のこと。児童相談所や精神保健福祉センター、精神保健指定医などの知的障がい者判定機関にて、知的障がいがあると判定された人です。
知的障がい者かどうかは、都道府県知事が発行する「療育手帳」または判定機関が発行する判定書によって確認できます。
③精神障がい者
「精神障害者保健福祉手帳」を保有している人または統合失調症や双極性障害に罹患している人で、病状が安定しており就労可能な人のこと。
精神障がい者であることの確認は「精神障害者保健福祉手帳」もしくは医師の診断書によって可能です。
4.障害者雇用促進法改正のポイント
2020年4月1日、障害者雇用促進法の改正法案が施行されました。ここからはその背景と改正のポイントを紹介します。
改正の背景
2018年8月に発覚した、中央省庁や地方公共団体における障がい者雇用の水増し問題。それを受けて、2019年6月14日には再発防止策を盛り込んだ改正障害者雇用促進法が公布されました。
また人材紹介会社を通して障がい者を採用した場合にかかるコストは約100万円といわれています。つまり多くの企業がコスト面で障がい者の雇用に課題を抱えていたのです。
法定雇用率の引き上げと精神障がい者の雇用義務
先述のとおり、障害者雇用促進法の改正で法定雇用率が引き上げられ、2021年3月時点で2.3%となりました。また改正以前に雇用義務があったのは身体障がい者と知的障がい者のみだったものの今回の改正で精神障がい者も対象に追加されたのです。
差別の禁止
事業主には採用や賃金、昇進などのあらゆる場面で障がい者であることを理由とする差別が禁止されています。たとえば「障がい者であるから」という理由のみで採用しなかったり、採用後に能力を適切に評価せず昇進させなかったりするといったもの。
いわゆる障害者専用求人は積極的な是正措置となるため、禁止される差別に該当しません。
合理的配慮
合理的配慮とは、障がい者もそうでない人も平等に人権を行使できるよう、個々のケースに応じて発生する問題を取り除く調整のこと。人によって直面している問題はそれぞれなので、必要となる合理的配慮も異なるでしょう。
たとえば肢体不自由で移動が困難な人にはスロープを設置したり、文字の読み書きが苦手な人には音声読み上げソフトで学習できたりするようにします。
合理的配慮とは?【意味を簡単に】具体例、義務化、問題点
合理的配慮とは、障害を持つ人が障害を持たない人と同様に社会生活を送れるよう、社会的障壁を取り除く配慮のこと。義務化された背景、問題点、企業にできることなどを解説します。
1.合理的配慮とは?
合理的...
有料事業主認定制度
改正後の障害者雇用促進法には、障がい者の雇用に積極的な中小企業を対象とした障害者雇用優良認定制度があります。優良企業として認定を受けると、自社の商品や広告、求人票に認定マークを使用できるといったメリットがあるのです。
「評価基準にもとづき20点以上を得る」「実雇用率が法定雇用率を下回っていない」など、一定の認定基準があります。
特例給付金
週10時間以上週20時間未満で勤務する雇用した障害者数に応じて、事業主に特例給付金が支給されます。常用労働者が100人を超える事業主は1人あたり月額7,000円、100人以下の事業主は1人あたり月額5,000円が支給されるのです。
支給の上限人数は週20時間以上勤務する障がい者の数で、対象となる障がい者は、障害者手帳を保有しており、1年を超えて雇用されている人です。
5.障害者雇用促進法における取り組みで企業が得られる効果
事業主が障害者雇用促進法における取り組みを実施すると、業務の効率化や人材確保、企業価値の向上といった効果が得られます。
業務の効率化
障がい者を雇用する際、程度や特性に合った業務を準備するため、業務内容の見直しが必須となります。それによって無駄な業務が見つかれば、業務の最適化や効率化につながるでしょう。
人材確保
障がいがあっても、業務は問題なくこなせる人や非凡な才能を発揮できる人も多々存在します。つまり障がい者の雇用によって、優秀な人材を確保できる可能性も高まるのです。また人材の獲得経路が増えるため、人手不足解消にもつながります。
企業価値の向上
障がい者を雇用すると活躍の場を創出するため、社会貢献にもなります。法定雇用率以上の障がい者を雇用すれば、社会的責任(CSR)を果たしている企業とされ、企業価値も向上するでしょう。
6.障害者雇用促進法における採用の手順
障がい者を採用する際、どのような手順を踏めばよいのでしょう。
- 支援機関へ相談する
- 全労働者が障害者雇用への理解を深める
- 採用計画の策定
- 障害者職業生活相談員の選任
- 募集・採用活動
- 雇用
①支援機関へ相談する
障害者雇用の支援機関は国や地方自治体、民間企業にわかれており、種類や数も多いです。ここでは3つの支援機関を紹介します。
ハローワーク
ハローワークは、個々の障がい者に応じた職業紹介や職業指導を行っています。また障がい者の雇用を検討している事業主に対しては、雇用管理上の配慮といったアドバイスを行うのです。さらに必要に応じて、専門機関の紹介や各種助成金の案内も実施しています。
障害者職業センター
障害者職業センターは、障害者雇用促進法にもとづいて、事業主に対する障がい者の雇用管理の相談や援助を行っています。
また障がい者が職場に適応するサポートとして、企業へ「ジョブコーチ」を派遣したり、労働者向け研修会の講師派遣を実施したりしているのです。活用するとさまざまなメリットが得られるでしょう。
障害者就業・生活支援センター
障害者就業・生活支援センターは、事業主に対して障害者雇用に対しての相談や課題解決のほか、ハローワークと連携し各種情報提供を行っています。受け入れ体制や業務の切り出しも行っているため、業務の効率化にも有用でしょう。
②全労働者が障害者雇用への理解を深める
初めて障がい者と働く際、戸惑う労働者もいるでしょう。人事担当者が講師となって、全労働者に障がいの特性や配慮すべきこと、コミュニケーション方法などについて講習会を開催するとよいでしょう。
③採用計画の策定
障がい者の雇用に向けた、採用計画の策定も重要です。たとえば業務の選定やOJTリーダーの決定、職場のバリアフリー化や安全対策など。必要に応じて、支援機関に相談しながら進めるとよいでしょう。
雇用数の算出
障がい者を雇用する際は法定雇用率(2.3%)をもとに、障がい者を何人雇用する必要があるのか把握します。もし法定雇用率に達していない場合が、不足しているポイントはいくつなのか、正確に把握しましょう。
また年度ごとに各業務における採用計画を立てるのもおすすめです。
④障害者職業生活相談員の選任
障がい者を5人以上雇用する場合、障害者職業生活相談員の選任が義務づけられています。
障害者職業生活相談員は、障がい者が安定して就労し続けるための重要な役割を担う人物です。障害者職業生活相談員になるには一定の要件があるため、事前に確認しておきましょう。
⑤募集・採用活動
採用は、面接や筆記試験など一般的なもので問題ありません。ただし障がい特性に応じた配慮を行う必要があります。面接時は、業務に関連する障がいの状況や職場で配慮すべきことについて細かに確認しましょう。
ハローワークで募集する際の注意
ハローワークで求人を出す際は求人票に助成金を受けるのかどうか、必ず記載するのです。また昨今、精神障がい者の応募が増加しています。「主治医の意見書」も参考に、実際に自社で働けるかどうか、状況に応じて判断しましょう。
⑥雇用
障がい者の雇用が決まったら、利用できる助成金を確認し、申請に必要な書類を準備します。また常用労働者が45.5人以上の企業はハローワークに、毎年6月1日現在の障がい者の雇用についてまとめた「障害者雇用状況報告書」を提出しなければいけません。
障害者雇用状況報告書とは?
障害者雇用促進法により提出が義務づけられているもの。「事業主情報」「常用労働者と障害者雇用の状況」「雇用者の事業所別の内訳」「障害者雇用推進者」「記入担当者」を記載するのです。
常用労働者の算出方法は事業内容によって異なるものの、一般的には障がい者が就業できない業務を行う事業所の常用労働者数を一定の割合除外して、雇用率(除外率)を算出します。