1927年から1932年の5年間、アメリカ・シカゴ州の郊外にあるウェスタン・エレクトリック社のホーソン工場にてある実験が行われました。この実験で発見されたのは、生産性の向上に関する事柄です。
この内容は、以降の人材育成や管理に、大きな影響を与えました。
目次
1.ホーソン実験とは?
生産性の向上は、多くの経営者やマネージャークラスの人間が抱える命題でしょう。
仕事の能率が悪く、どうすればよいかと頭を抱えるビジネスパーソンたちのヒントとなるのがホーソン実験です。アメリカで1世紀近く前に行われた実験ですが、現代でも学ぶべきことがたくさんあります。
ホーソン実験を行った時代の様相
ホーソン実験(Hawthorne experiments)はアメリカのシカゴ、ウェスタン・エレクトリック社のホーソン工場で実施されました。行われたのは1927年から1932年で、ウェスタン・エレクトリック社で調査が実施され、途中からハーバード大学のエルトン・メイヨー、フリッツ・レスリスバーガーらが研究に加わりました。
ご存知のようにこの時代は「狂乱の20年代」(the Roaring 20s)と呼ばれ、第一次世界大戦後の好景気で軍事市場以外にさまざまなことが拡大したにぎやかな時代です。
多くのものが消費され、アメリカ中で産業が活発化したこの時代の経営管理はフレデリック・テイラーが提唱した科学的管理法にのっとって実施されていました。
テイラーシステム
テイラーシステムとは、一日の作業量や作業手順をマニュアル化することでどのような人材でも一定の作業ができるようにするシステムです。
このテイラーシステムを取り入れて成功した企業といえば、自動車メーカーのフォードが有名でしょう。フォードでは製品を単純化して、部品を規格化するとともに、コンベアシステムを導入することでより合理的な生産が可能になりました。
このことでアメリカの自動車生産台数は飛躍的に増大、1914年にはアメリカで生産する自動車の約半分をフォードがまかなっていたといわれています。作業員の労働時間も、10時間程度だったものが8時間労働制に改められました。
このシステムは働く人の人間性を無視しているという声もありますが、工場全体をシステム化する手段として今日でも広く活用されています。
ホーソン実験の詳細
このような効率管理の重要性が叫ばれる時代に、ウェスタン・エレクトリック社はさまざまな条件下で生産性がどう変化するかを観察しました。
照明実験
そのひとつが照明実験で100ワットの照明から25ワットにまで照明量を下げ、照明と生産性の変化を観察しました。多くの研究者は明るい照明にすることで生産性がアップするだろうと予測を立てていたのです。
実験の結果、照明と生産性は相関しないという結果が出ました。
リレー組み立て実験(継電器組立作業実験)
次に行われたリレー組み立て実験(継電器組立作業実験)では、組み立て作業員と部品をそろえる世話役とでグループを作る、監督を配置して労働条件を変えるといったことから生産性を観察しました。
労働条件が改善されると作業能率は上がり、元の条件に戻しても上がった作業効率が下がりませんでした。予想に反して労働条件と作業効率の関係性は見つからなかったのです。
しかし、この実験を通じて仲間意識が強いグループや選ばれたことへの誇りが仕事のモチベーションに影響したという仮説が立てられました。続いて実施された面接実験においても、労働意欲が職場の人間関係に影響されることは確認されています。
バンク実験
最後に行われたバンク実験では社会統制機能を果たす小さなグループがあるという仮説のもと、利害関係にない傍観者が生産性に与える影響を観察しました。
バンク実験では、対内的・対外的機能を有したインフォーマル・グループの存在が明らかになったのです。また監督者に対しては防衛と共存の関係にあって、個人的な関係性が品質に反映するという結果が出ています。
2.ホーソン実験と生産性に影響する人間関係論
ホーソン実験が行われるまで、人間の感情部分は生産性に直接関わらないと考えられていました。
休憩時間など物理的な労働環境や仕事で受け取る報酬が生産性に与える影響は限られています。一方で、周囲から注目を浴びることでモチベーションがアップするなど、社会的な成果や感情は組織に影響を与えるとわかっています。
職場の人間関係が良好であれば生産性が向上するというのは、今までの人間性や感情を軽視した管理方法からは考えられないことです。この時代テイラーシステムによる管理方法が行き詰まりを見せていたこともあって、新しい生産性拡大の理論は新鮮さを持って受け入れられました。
この結果にはこの時代、人々の生活水準が上がるなど好景気に沸いた時代だったという社会的背景もあるでしょう。
生活を保持する以上に人々は社会的欲求や尊厳欲求を求めるようになり、これはのちに生まれるマズローの欲求階層理論にもつながったのです。
3.インフォーマル・グループがもたらす好影響
ホーソン実験によって得られた知見で注目すべきは、直訳すると非公式組織となるインフォーマル・グループ(インフォーマル組織)です。
インフォーマル・グループは、組織内で個々の自由意思のもと自然発生的に生まれる友好関係のため、職責や階級などの縦割り関係にとらわれない仲間ともいえるでしょう。
ホーソン実験では、勤労意欲を支えているモチベーションにインフォーマル・グループの一体感や仲間意識が強く関係していると判明しています。
一方で課やチームのような形で会社によって系統立てて組織化されたグループをフォーマル・グループと呼びます。
フォーマル・グループは、所属によってはっきり線引きされているため、組織図を簡単に書くことができ、指揮系統や責任者、構成する人々の序列も定められているのです。
そのため企業や目的を持った団体のように秩序に基づいて実行される行動にはフォーマル・グループが適しています。
4.社内の人間関係を円滑にし、生産性を上げる方法
ホーソン実験の結果を踏まえて、生産性を上げるにはどのような方法があるのでしょう。ホーソン実験からは社内での人間関係やインフォーマル・グループが生産性に影響を与えていることがわかっています。社内の人間関係を円滑にして、働きやすい職場を作る方法とはどのようなものでしょう。
相談先を複数持たせる
まず考えたいのが会社の組織図です。何か困ったときにすぐに相談できるような組織になっているでしょうか。多くの場合、仕事に行き詰った際相談するのは直属の上司ですが、上司に相談しづらい場合も考えられます。
そのようなケースでは、
- チームを作ってより密度の高い関係性を築き上げる
- 第三者として相談を受けるような窓口を設定する
などの方法があります。
利害関係がある人に相談できないような内容でも秘匿性があって客観的な第三者であれば相談できる場合があるため、相談を受ける窓口は複数持たせることが大切でしょう。
相談先が少ないと視野が狭くなり人間関係にも行き詰まりが生じますがいざというときに相談を受けてくれる人の存在は安心感を生み、働きやすい組織作りにも役立つでしょう。
社内でコミュニケーションの場をつくる
生産性の向上には、インフォーマル・グループの存在が重要ということはご説明しました。しかし現実的に階層や所属、年代の壁があるためインフォーマル・グループを作りにくいことがあるでしょう。
同期や同僚といった横のコミュニケーションだけでなく経営層と一般社員、上司と新入社員のように縦のコミュニケーションを取れる場所が必要になります。
たとえば、
- 経営層と一般社員の懇談会
- 組織やチームに関係ない交流会
- レクリエーションとしてイベントを企画
などを行うとよいでしょう。縦のコミュニケーションが可能となるイベントを通じて交流を深めることができるのです。
町のゴミ拾いや清掃活動といった社会貢献活動などで交流を深める例もあります。多くの企業が課題と感じる社会貢献活動などをテーマとしたスローガンや企画募集などの実施も社員の一体感を高める取り組みといえます。
サークル活動など社外活動を企画する
福利厚生として行うサークル活動も社員の一体感を高める取り組みです。同好会やサークルは、所属や職階に関係ないグループ作りにつながります。
サークル活動というとスポーツをイメージする人も多いですが会社で行うサークル活動に制限はないためバラエティ豊かなサークル活動があります。
たとえばカラオケや食べ歩きのような娯楽性が高いものもサークル活動にできます。また、健康志向の高まりを受けたダイエット部や仕事帰りにウォーキングをするサークル活動があってもよいでしょう。
このようなサークル活動を通じて他部署の人と知り合う機会が増えるとコミュニケーションの活発化や人脈の広がりが期待できます。また、サークル活動を通じて普段と違う上司や同僚の一面を知ることができます。
仕事を超えて生まれた一体感はモチベーションの向上をもたらしてくれるでしょう。
5.チーム内の生産性を上げるためのリーダーシップ論
生産性が高いチームを作るには、優秀なリーダーの存在も不可欠です。特にリーダーシップを発揮できる人材の確保はどの企業にとっても重要な課題といってよいでしょう。生産性を上げるために必要な考え方とはどのようなものでしょうか。
リーダーシップは後天的に身につくもの
多くの人がリーダーシップに関して、生まれつきの性格だという勘違いをしています。もともと内気でリーダーになるには向いていないと悩む人もいるでしょう。実は仕事で求められるリーダーシップに生まれついての才能は必要ありません。
ワンマン企業のように、一人のリーダーに対してほかの人が一丸となって追従するような組織は共倒れの危険性もあります。むしろ一人のリーダーシップを持つ人間にすがるのではなく、一人ひとりがリーダーシップを発揮できる環境が必要と考えられているのです。
リーダーシップを発揮するため必要なのは、考え方の変革とちょっとしたテクニック。会社からの働きかけによって、リーダーに向いていないと考えられた人間が大きく才能を開花させた例は数多いです。
リーダーシップ研修やマネージャー研修という形の研修制度でリーダーを育成する試みを始めている企業も多いでしょう。リーダーシップが後天的に身につくものという考え方は、すでに有名企業からも受け入れられ始めています。
リーダーとなる人材に必要な考え方と姿勢
リーダーは、組織全体を考えた多角的、経営的視点など現場で働くプレイヤーと違う視点が必要です。プレイヤーとして実力を発揮していた人が、マネジメントする立場になった際、ギャップや今までの仕事との違いに戸惑うこともよくあるでしょう。
ギャップを埋めるには、仕事の対する考え方や姿勢の変革が必要です。リーダーとなる人材に必要な考え方や姿勢とはどのようなものなのでしょう。
目的達成に向け自ら動く姿勢
リーダーとなる人間は、リーダーの役割を認識しなければいけません。リーダーといえば、指示や命令をする役割だと考える人もいますがリーダーの仕事は多角的で、指示や命令という行動は手段のひとつにすぎないのです。
リーダーとなる人は、
- 組織がどのような目的を持って経営しているのか
- そのために社員が何をすべきなのか
を把握して、メンバーに共有する役割があります。目的を達成するには、人に指示や命令を人にするのではなく、自ら動いてその姿勢をメンバーに見せる必要があるのです。
リーダーだから仕事を人任せにしてよいのではありません。むしろ目的達成のために自ら動いて、組織に必要な働きを見せることが大切です。
常に誠実であること
リーダーは人柄も問われます。古代ギリシャの哲学者アリストテレスは説得力を上げるものとして3つの要素を挙げました。
- パトス 熱意や感情 心に響く言葉を伝えるために必要なもの
- ロゴス 論理や理性
- エトス 人から信頼されるために必要な人間性
聞き手の立場から考えると、人はまず話す相手が信頼に値するかを考え、その後相手の論理性や熱意を見るのです。つまり、相手のことを信頼できなければ熱意や論理性を持った言葉も響きません。
リーダーになると当然自己主張して周りを率いる必要も生まれるでしょう。しかし、自分が相手にどう思われているか考えているでしょうか。相手の心を動かすには、誠実さという自分の人間性も重要なのです。
チームメンバーの手本となる意識
リーダーと一般の社員では、組織から求められるものが異なります。リーダーは率先して働くとともに、手本として組織のためにあるべき姿を見せなければいけません。
戦国時代の武将武田信玄も「組織はまず管理者が自分を管理せよ」と言ったと伝えられており、リーダーが口だけで美辞麗句を並べてもメンバーはついてこないのです。
仕事のために必要な研修や勉強があれば、まず自分が積極的に取り組みましょう。リーダーがやる気を見せることでメンバーのモチベーションも上がりますし、はっきりと言葉で伝えなくても意思を伝えられます。
自らを律することがリーダーに求められる資質のひとつといえるでしょう。リーダーシップは努力によって身につけることができる能力です。諦めることなく自分を奮起させ続ける人こそが、思い描いたビジョンを実現できるでしょう。