ヘッドハンティングは、日本企業の人材採用方法の一つとして広く認知されるようになってきました。ビジネスパーソンにとって非常に身近な話になってきたヘッドハンティングについて、
- ヘッドハンティングとは何か
- ヘッドハンティングの種類
- 登録型人材紹介との違い
- 採用フロー
- ヘッドハンティングにおける注意点
などの観点から詳しく説明します。
目次
1.ヘッドハンティングとは?
ヘッドハンティングとは外部で活躍している優秀な人材を自社に引き入れる人材採用のこと。
たとえば、
- 経営幹部
- 管理職
- 将来の幹部候補生
- エンジニア
- トップセールスマン
といった、会社の経営を担う人材や専門スキルを持つ人材をスカウトし、自社に引き入れます。アスリートやタレントがスカウトされるような仕組みをイメージすると分かりやすいかもしれません。
ヘッドハンティングは外資系企業を中心に、日本の雇用市場で自社のビジネスに有益な人材を獲得するために行われていました。
しかし、
- 雇用の流動化
- 転職活動の認知
- ビジネスのグローバリゼーション
といった時代の流れによって、現在では外資系企業だけでなく日本企業においてもヘッドハンティングの効果的な活用が進んでいるのです。
ヘッドハンターとは?
ヘッドハンティングは英語で「首狩り」、ヘッドハンターとは同じく英語で「首狩り族」を意味しています。ビジネスの世界でヘッドハンターとは、「特定の職業に就いている有能な人材を引き抜く者」のこと。
一般的にヘッドハンターといえば、
- 職業紹介事業者
- スカウター
を指します。また、優秀な人材を採用したい企業からヘッドハンターが採用依頼を受け、ヘッドハンターが対象者とコンタクトを取ることで進められることが多いようです。
2.ヘッドハンティングが注目されている理由
ヘッドハンティングがこれだけ注目されるようになった理由に、時代背景があります。
- 人材流動化の加速
- 企業の海外進出の活発化
- 最先端技術産業分野での人材ニーズの急増
- 終身雇用制の崩壊
- 労働者側に転職の志向が高まりつつある
かつてヘッドハンティングは、
- 外資系企業
- ハイクラスの人材
- 専門的職業
などに限定されていました。しかしその認知が進んだことにより、一気に一般化したと考えられているのです。ここでは、ヘッドハンティングが一般化した背景を掘り下げてみましょう。
- 終身雇用制度が崩壊し、転職者数が増加
- 日本を取り巻く人材不足問題
- 外資系だけでなく日系企業による活用も盛んに
①終身雇用制度が崩壊し、転職者数が増加
ヘッドハンティングが注目されている理由に、終身雇用制度の崩壊による転職者数の増加があります。総務省が発表した労働力調査によると、
- 2010年の転職者数は283万人
- 2015年の転職者数は298万人
ほんの5年間に転職者数が約15万人も増加しています。
また、
- 2015年の転職者比率(転職者数÷就業者数)は4.7%
- 男女別に転職者比率を見ると男性が3.9%、女性は5.7%
この調査結果から分かるとおり、日本型経営の象徴でもある終身雇用制度が崩壊し、転職は当たり前になりつつあるのです。女性を中心に企業から流出した人材は、新しい職場やより良い仕事を求めて、雇用市場を活発に動き回るようになりました。
②日本を取り巻く人材不足問題
日本を取り巻く人材不足問題も影響しています。日本社会では人材の流動化が進んでいるにもかかわらず、人材不足を経営の最大課題としている企業が多いのです。
つまり転職者数は増加していますが、企業が必要としているスキルや経験を持ち合わせている人材はさほど多くない、つまり、転職者の「数」はクリアしても、「質」に関する課題が未解決のままなのです。
とりわけ「エグゼクティブ層」といわれる経営者層の人材の不足が際立っています。
- 世代交代
- 事業継承
を控えているにもかかわらず経営者の後任が見つからない、といった経営者不足は深刻な問題となっているのです。
③外資系だけでなく日本企業による人材活用も盛んに
外資系だけでなく日本企業でも人材活用が盛んになっている、これも理由の一つと考えられます。
これまでヘッドハンティング市場は、外資系企業が独占していました。しかし、日本企業の参戦によって需要と供給のバランスは崩壊。対象の人材が優秀であればあるほど採用競争が激化する傾向にあるのです。
3.ヘッドハンティングの種類
ヘッドハンティングの種類は2つ。
- 人材を必要とする企業が自らヘッドハンティング市場に出て人材を採用する
- ヘッドハンティング専門の人材紹介会社に依頼して人材を採用する
自社で人材を発掘する、これはたやすいことではありません。そのため一般的に、ヘッドハンティングを専門とする企業に調査や選定を依頼します。
①企業が直接スカウトを行う
- 企業が直接、有能な人材をヘッドハンティングする場合、
- 昔から取引のある企業の社員を引き抜く
- 仕事を発注する側が受注者側企業の社員を引き抜く
というパターンがほとんどのようです。
その理由は、
- 実際の仕事ぶりについて確認が取れている
- 採用される人材も、取引先企業の企業文化や仕事の進め方、同僚になる人材を理解している
ため、雇用のミスマッチが生じにくいからです。取引先以外では、SNSが広まるにつれ、
などのツールを活用してヘッドハンティングする企業も増えており、
- Wantedly
- ビズリーチ
といったサービスも、企業が直接ヘッドハンティングするためのツールとして活用されています。
②ヘッドハンティング会社に業務依頼する
主流は、ヘッドハンティング会社に業務依頼する方法です。ヘッドハンティングを専門とする人材紹介会社に、
- 人材の発掘
- 人材との交渉
- 人材の採用
を委託します。そのパターンは2つ。
- 事前に一定金額を支払い委託するケース
- 採用が実現した後で成果報酬を支払うケース
4.ミドルハンティングとは?
ミドルハンティングとは、
- 部長
- 課長
- 専門職
といった即戦力が期待できるミドルプレイヤーを対象としたヘッドハンティングのこと。
- ミドルプレイヤーに育つ前に転職や退職をする社員がいる
- 就職氷河期で採用を絞った世代の人材不足が表面化している
- 長い不況の中で採用を手控えた結果、社員がマネジメントを学ぶ機会がなかった
- ミドル世代は子育て世代で転職市場に人材が流出しにくい
などが理由となり、中間層であるミドルプレイヤー数が不足している企業が多いのです。
また、ミドルプレイヤーの教育、育成には時間がかかります。自社採用では人材に関する情報が不足しがちなため、外部の人材紹介会社に依頼するケースが増えているのです。
5.登録型人材紹介とヘッドハンティングの違い
ヘッドハンティングに類似したものに、登録型人材紹介があります。登録型人材紹介もヘッドハンティングも、求人企業と求職者のマッチングを行うものですが、両者にはいくつかの違いがあります。
ここでは、登録型人材紹介とヘッドハンティングにはどのような違いがあるのか、強みや弱みなどと併せて説明します。採用活動を行う際の参考にしてください。
登録型人材紹介とは?
登録型人材紹介の特徴は、
- 転職を希望している人に氏名、住所、連絡先、職歴、スキル、保有資格、希望する企業の条件などを事前に登録してもらう
- 企業から求人の依頼があった際に、求められているポジションと登録している人材とをマッチングする
登録型人材紹介のメリット
登録型人材紹介のメリットは、
- 採用活動の初期費用がかからない
- 採用要件を満たしている人材から効率よく選考できる
- 求人から採用までの時間が短く、採用担当者の負担が軽減される
登録型人材紹介のデメリット
登録型人材紹介のデメリットは、求職者を積極的に集めることが難しい点。人材紹介会社に登録する人材は、求職者からの登録活動が起点になります。
- 人材紹介会社のホームページ
- 求人サイト
にアクセスした人材のみに限定されるため、応募待ちの採用活動になってしまうのです。
ヘッドハンティングの特徴
ヘッドハンティングの特徴は、求人企業の代理人として適格な人材を探し出し、こちらからの声掛けでコンタクトを開始する点にあります。
- 求人企業の魅力
- どうしてヘッドハンティングの対象に選ばれたのか
などを丁寧に説明し、求人企業に最適な人材を主体的に獲得する採用方法です。登録型人材紹介のような「待ち」の姿勢とは真逆のアプローチとなります。
ヘッドハンティングの強み
ヘッドハンティングの強みは、
- 人材が転職活動をしているかしていないかにかかわらず、企業は求める人材をあらゆる労働市場から探し出せる
- ヘッドハンティング会社は転職マーケットのみに頼らないため、イニシアティブを発揮できる
など。
ヘッドハンティングの弱み
一方、ヘッドハンティングの弱みは、
- 企業が求める人材を探し出すまでの期間が長い
- 転職希望のない人材にも積極的にアプローチするため、交渉に時間がかかる
- 採用担当者の手間や採用コストがかかる
などが考えられます。
6.ヘッドハンティング会社の種類・タイプ
ヘッドハンティング会社は3つのタイプに分類できます。それぞれの特徴を理解し、採用活動の際どういったタイプのヘッドハンティング会社に依頼するのがベストなのか、見極めましょう。
- 欧米型(エグゼクティブサーチ)
- フルサーチ型
- 業界特化型
①欧米型(エグゼクティブサーチ)
欧米型は、「エグゼクティブサーチ」と呼ばれています。その名の通り、
- 代表取締役
- 取締役
- 重役
- 経営者層
といった幹部クラスのヘッドハンティングに特化しているのです。
ヘッドハンティングの歴史が長い欧米において、経営層のヘッドハンティングは一般的でした。そのため、外資系ヘッドハンティング会社の多くは、「エグゼクティブサーチ」を得意としています。
②フルサーチ型
フルサーチ型とはミドルマネージャーといった中間層や特殊なスキルや技術、キャリアを持った技術者の人材発掘やマッチングを得意とするもの。
対象は、
- すべての職種
- すべてのレイヤー
なのでリサーチに時間を要するデメリットはありますが、求人企業が求める人材を獲得できるアプローチ方法だといえます。
③業界特化型
業界特化型とは、
- IT業界
- 不動産業界
- メディカル業界
- 広告宣伝業界
などある特定の業界に属する人材のヘッドハンティングを得意としているものです。ヘッドハンター自体が、特定の業界出身者や業界経験者であるため、業界の人脈を駆使して採用活動を実施できます。
またヘッドハンターの持つ人脈が求人企業のニーズとマッチングした場合、さほど時間をかけずに採用まで進めることができるでしょう。
しかし、
- ヘッドハンターの人脈とマッチングしない
- 人脈が途切れて人材を探すことが困難
といった場合、紹介すらままならないこともあります。
7.ヘッドハンティングの採用フロー、方法
ヘッドハンティングには、採用フローがあります。ヘッドハンティングは、多数の応募者からなる母集団の中からマッチングする方法ではありません。
転職の意思があるかないかにかかわらず求人企業が求めている人材を探し出す方法を取るるため、マッチングまでの工程が複雑になっています。ここでは、一般的なヘッドハンティング会社の採用フローについて説明しましょう。
①ヘッドハンティング会社へ依頼
採用フローのファーストステップは、ヘッドハンティング会社へ依頼すること。ヘッドハンティング会社のホームページにあるお問い合わせフォームなどからアクセスします。会社によって得意不得意な業界や職種があるので、事前のチェックが必要です。
②サーチハンティングプランを打ち合わせ
依頼の後には、サーチハンティングプランの打ち合わせがあります。初回はヘッドハンティング会社からサービス概要のガイダンスを受け、希望する人材のヒアリングによって、
- スキル
- キャリア
など求める具体的人材像を固めてから、打ち合わせに臨むのです。サービスに納得できたら契約を結びます。
③ヘッドハンティング会社によるサーチ開始
ヘッドハンティング会社と求人企業の契約が成立したら、いよいよヘッドハンティング会社によるサーチが開始されます。ヘッドハンティング会社は、
- SNS、新聞などの公開情報
- 資格情報、IR情報などの公的情報
- ネットワーク
- 他転職サイトとの連携
などの情報源を活用し、候補者を探すのです。
④ヘッドハンティング会社が候補者とコンタクト
条件に合致した候補者が見つかった場合、ヘッドハンティング会社は候補者とコンタクトを取ります。最初から転職希望があるケースは多くありません。そのため、どのような環境なら転職を考えてもいいか、といった角度からアプローチを行います。
⑤候補者の紹介と面談
候補者の転職意向が確認でき、その他の条件がマッチングした場合は、ヘッドハンティング会社が求人企業に候補者を紹介します。そして3者間で面談し、
- 求人企業の魅力
- キャリアアップの可能性
を丁寧に説明して、候補者の転職意向を高めるのです。
⑥オファーを提示し、入社条件を調整
面談を繰り返す中で、
- 求人企業が候補者の入社を熱望している
- 候補者の転職意向が高まった状態にある
となったら、待遇や給与面でのオファーを提示して細かな入社条件のすり合わせを行います。
⑦内定、内定後フォロー
候補者が入社を快諾した場合、オファーレターにサインをして内定を確定させます。そしてヘッドハンティング会社は、候補者が求人企業の入社日まで、
- 退職に関するコンサルティング
- 入社までの手続きなどのフォロー
を行うのです。
8.ヘッドハンティングの方法【注意点】
ヘッドハンティングの際、注意すべき2つのポイントを説明します。
- 企業は「選ばれる」側に立つ
- 内定まで平均4~6カ月かかる
①企業は「選ばれる」側に立つ
1つ目は、企業は「選ばれる」側に立つということ。
新卒採用といった通常の採用活動では、企業は「選ぶ」側に立つでしょう。しかしヘッドハンティングの場合、力関係が逆転します。ヘッドハンティングされる人材が転職を希望しているケースばかりではないからです。
ヘッドハンティングを成功させるには、
- 企業の魅力を理解してもらう
- 転職へと気持ちを高めてもらう
ことが必要。「選ぶ」側の立場で交渉を行うと、交渉決裂やミスマッチなどが起こり、ヘッドハンティングが失敗に終わる可能性が高まります。
②内定まで平均4~6カ月かかる
2つ目は、内定まで平均4~6カ月と期間を要する点。
ヘッドハンティング会社は、求人企業から「このような人材が欲しい」というリクエストを受けてから、人材サーチに乗り出します。事前にターゲットが決まっているケースは少ないため、サーチ期間に数カ月かかることもあるのです。
また候補者が決まっても、
- 転職意向を高める
- 条件面での交渉を行う
などで時間がかかります。ヘッドハンティングを依頼する際は、時間的な余裕を持つようにしてください。
9.ヘッドハンティングに向かない企業とは?
ヘッドハンティングに向かない企業があります。どのような企業がヘッドハンティングに不向きなのか、2つの要素を説明します。
- 求人のターゲットが曖昧
- 転職市場にいる職種やポジションを探している
①求人のターゲットが曖昧
1つ目は、求人ターゲットが曖昧な企業です。
- 候補者のキャラクターを重視したい
- 自社の社員との相性が良い候補者を見つけてほしい
など曖昧なターゲット像は、ヘッドハンティングを難航させます。
- 必要なスキルや資格
- これだけは外せない職務経歴
など客観的で明確なターゲット像を組み立てましょう。
②転職市場にいる職種やポジションを探している
2つ目は、転職市場にいる職種やポジションを探している企業です。
- 経理や総務などの管理部門の社員
- 営業職
といったどの業界でも必ずある職種やポジションの採用方法に、ヘッドハンティングは向きません。転職市場にいる職種やポジションについての採用は、人材紹介会社を活用したほうが、効率がよいことも多いようです。
10.ヘッドハンティングをされる・受ける側の心理
ヘッドハンティングの成功率を高めるには、候補者の心の動きをつかみ、候補者に合った個別の交渉を進める必要があります。
求人企業の人事担当者も
- 人心の機微
- 機微に応じた対応策
の熟知が必要不可欠です。
ヘッドハンティングを受けて悩むケースとは?
ヘッドハンティングを受けた候補者が、転職に悩むケースがあります。ヘッドハンティングの受け手の一般的な心理的変化は、
- 初めてコンタクトを受けて困惑し、警戒する
- 話を聞くうちに、求人企業に興味を持つ
- 話が進むにつれ、現実感が増す
- 転職すべきか、残留すべきか、比較検討が繰り返される
- 比較検討結果に迷いが生じる
- 最終的に決断する
といった6段階があるといわれています。特に、転職すべきか残留すべきかの段階で最も迷いが大きくなるようです。