健康経営とは、企業が従業員の健康維持、促進を戦略的に進めることです。ここでは、健康経営について解説します。
目次
1.健康経営とは?
健康経営とは、従業員の健康を個人の問題と片づけず、経営的視点からとらえて、従業員の健康維持促進を戦略的に進めること。経済産業省によると健康経営は「従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践すること」という意味になっています。
企業理念にもとづいて健康投資を行うと、従業員の活力や生産性、企業業績や株価向上といった効果が得られると考えられているのです。
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今回は経営とは何...
提唱者
健康経営の提唱者は、アメリカの経営心理学者ロバート・ローゼン。1992年発行の著書『The Healthy Company』のなかで提言しました。日本では2000年代後半ごろから、健康経営の概念が認識されるようになったのです。
働き方改革との関連
健康経営は、働き方改革のベースとなる経営戦略で、従業員の健康増進に関する取り組みをコストと見なさず戦略的投資と考えるのです。健康経営に取り組むと、企業価値や企業評価を高められます。
2.健康経営が必要な理由
健康経営が必要な理由は、3点あげられます。それぞれについて解説しましょう。
- 労働人口の減少
- 企業の赤字解消
- 長時間労働の定着
①労働人口の減少
少子高齢化により、生産年齢人口(15歳から64歳までの人口)の不足が深刻化しています。2060年には2015年の約60%の水準である約4,800万人になると予測されているほどです。
また従業員の高齢化も進んでいるため、健康で長く働くための健康経営に期待が集まっています。
②企業の赤字解消
健康経営に取り組む企業には、モチベーションや作業効率の向上、欠勤率の低下や医療費抑制、業績やブランドイメージ、株価の向上といったさまざまなリターンが生じます。つまり健康経営は企業競争力を高めながら赤字解消に導けるのです。
③長時間労働の定着
少子高齢化による労働人口の減少で、従業員一人当たりに求められる仕事量は増加傾向にあるとされています。その結果、長時間労働を強いるブラック企業が社会問題になっているのです。
健康経営を推進すれば、長時間労働や自殺、労働災害といった問題が防げる労働環境を生み出せるでしょう。
3.健康経営のメリット
健康経営にはメリットがあります。それぞれについて解説しましょう。
- 人材の確保・定着率の向上
- 企業イメージアップ
- 生産性の向上
- 医療費負担の削減
①人材の確保・定着率の向上
健康経営を実施していると従業員が働きやすい環境を整備していると見なされ、就職先企業として選ばれやすいです。採用難や離職率の高止まりに悩んでいる企業が健康経営に取り組めば、人材不足を解消しやすくなります。
②企業のイメージアップ
経済産業省は、健康経営に取り組む企業を「健康経営優良法人」として認定する制度を設けています。認定を受ければ従業員だけでなく、求職者や取引先、株主から評価されるでしょう。また人材獲得や株価向上といった可能性も高まります。
③生産性の向上
健康経営により労働環境の改善が進めば、健康状態が良くなり欠勤や長期休業なども減ってモチベーションが高まります。従業員が心身ともに健康で生き生きと仕事をするようになれば、生産性の向上も期待できるでしょう。
④医療費負担の削減
企業が健康経営に取り組めば従業員の体調不良が減ります。健康を維持促進でき、「見えない人件費」と称される医療費も低減できるのです。経営を静かに圧迫していく医療費が減っていけば企業の経営状態も健康に保てます。
4.健康経営オフィスの考え方
健康経営オフィスとは、「従業員の健康を保持、増進できる行動を誘発する」「従業員の心身の調和と活力の向上を図る」「従業員がパフォーマンスを最大限に発揮する」などが可能なオフィスのこと。
ここでは経済産業省の資料をもとに「健康経営オフィス環境における従業員の健康を保持・増進する行動」について解説します。
- 快適性
- 休憩・気分転換
- 適切な食行動
- 清潔の維持
- 健康意識
- コミュニケーション
- 体を動かす
①快適性
快適性とは換気や室温、植栽や設備、機器といった労働環境を整えて、快適性を感じながら仕事をすること。ストレスから解放された快適なオフィスは運動器や感覚器、メンタルヘルスなどに良い影響を与えます。
②休憩・気分転換
休憩・気分転換によって従業員は心身ともにリフレッシュできます。「お茶を飲む」「軽食をとる」「新聞や本に目をとおす」「仮眠を取る」など、ちょっとしたリフレッシュタイムを設けると健康保持・増進に効果的です。
③適切な食行動
適切な食行動とは、日々の食生活に注意を払うこと。
社内に食堂があれば、カロリー表示された栄養バランスの整ったメニューを提供できます。食堂がない場合は「忙しくて食事時間がとれない」状況にならないよう、健康に配慮したお弁当を提供しましょう。
④清潔の維持
清潔の維持とは、衛生管理のこと。新型コロナウイルス感染症の広がりとともに手洗いやうがいの習慣化、消毒液や検温器の設置などが当たり前になりました。これらはほかの感染症対策にも有効です。こまめな清掃も含め、清潔を維持する工夫に取り組みましょう。
⑤健康意識
健康意識とは、従業員の健康に対する自発的な行動のこと。血圧や体重の増減をチェックしたり食事のメニューを工夫したりして、従業員が健康状態を把握したうえで行動できるきっかけを作ります。
⑥コミュニケーション
コミュニケーションとは、休憩室の設置や社内報の発行、社内行事の企画などで、従業員同士がコミュニケーションを図ること。気分転換につながると同時に、社内の健康経営に関する情報共有を進めます。
⑦体を動かす
体を動かすとは、デスクワークで凝り固まった身体をほぐすこと。肥満の改善や生活習慣病を予防するため、オフィスのレイアウトを工夫して体が動かせる環境を作ります。
5.健康経営の導入方法
健康経営の導入方法には5段階のプロセスがあります。プロセスを追いながら導入方法について解説しましょう。
- 健康宣言の実施
- 経営理念・方針への組み込み
- 環境や体制の整備
- 計画の実行
- 検証と改善
①健康宣言の実施
経済産業省の「健康経営優良法人取り組み事例集」には、「健康経営を経営理念の中に明文化する」「社内外に発信する」などからアプローチを始めるとあります。
中小規模事業者の場合、協会けんぽなどの医療保険者が企画している「健康事業宣言」に参加すると健康宣言が可能です。
②経営理念・方針への組み込み
健康経営の推進には、経営陣が健康経営の重要性を認識したうえで、従業員に健康経営の意義や行動指針などを浸透させることが不可欠です。そこで健康経営を経営理念に盛り込んだり、理念を行動指針にブレイクダウンしたりします。
③環境や体制の整備
健康経営に関する理念をスムーズに実現するため、担当者や責任者を設置するなど組織体制を整備します。整備の際は、思い切った人員配置や健康経営専門分野の設置などが必要でしょう。
最初は小規模から始めてその後、企業全体に取り組みを広げていくのが理想的です。
④計画の実行
健康経営の計画を実施する際、下記を適切に管理します。健康経営に特化した専用アプリを活用すれば、管理の手間も省けるでしょう。
- 従業員の健康データを可視化
- 運動会といった健康促進イベントの実施
- 禁煙や肥満解消プログラムの提供
- 外部講師を活用した健康教育の実施
⑤検証と改善
健康経営の計画を実施したら、結果を検証するとともに改善点を洗い出すのです。企業理念や方針の達成度の確認だけでなく、次のステップにつなげるための積極的な検証を心掛けます。
6.健康経営を導入する際の注意点
健康経営を導入する際の注意点は4つあります。それぞれについて解説しましょう。
- 従業員の健康意識を高める
- トップダウン型で取り組む
- 中長期的視点で運用する
- 会社に合わせて設計する
①従業員の健康意識を高める
全従業員に健康経営の理念や方針、意義や重要性などが浸透していなければ、思うような戦略的成果は得られません。そこで「社内体制の構築」「責任者や外部アドバイザーの設置」などをとおして取り組み姿勢を示し、従業員の健康意識を高めます。
②トップダウン型で取り組む
健康経営を成功させるためには、従業員をひっぱるトップの強い力が欠かせません。健康経営のための体制や環境整備などをトップは率先して進めていきます。
またトップ自ら健康維持、増進に努めている様子を社内に発信するとよいでしょう。そうした取り組みをとおして従業員のモチベーションに働きかけられます。
③中長期的視点で運用する
健康経営をスタートしても、効果をすぐに得られるわけではありません。効果を実感しにくい期間があっても、中長期的視点を持って運用します。
④会社に合わせて設計する
健康経営の計画は、長時間労働や高い離職率、メンタルヘルスなど、それぞれの会社が抱える課題に合わせて設計します。それによって効果が出やすくなるからです。そのためにも計画立案前の段階で、自社の課題を可視化しておきましょう。
7.健康経営優良法人認定制度
地域の健康課題や日本健康会議が進める健康増進への取り組みについて、優良な健康経営を実践する企業を顕彰する制度のこと。
目的は従業員や求職者、関係企業や金融機関などから「従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組んでいる法人」という社会的評価を受けるための環境整備です。
対象企業
対象企業は大規模法人部門の場合、業種と従業員数により、「101人以上の卸売」「51人以上の小売」などと基準が定められています。
中小規模法人部門の場合、「1~100人以下、または1億円以下の卸売」「1~50人以下、または5000万円以下の小売」など業種ごとに、従業員数と資本金額または出資の総額のいずれかを満たすことが基準となっているのです。
認定基準
認定基準は、以下の5項目です。
- 健康管理に対する取り組みや組織内外への情報発信などを定めた、経営理念や方針の明確化
- すべての事業場に健康管理担当者を設置した、組織体制
- 生活習慣病やメンタルへルス対策といった一定基準の実行を含めた、制度と施策の実行
- 40歳以上となる従業員の健康診断データ提供を求めた、評価と改善
- 法令違反や安全衛生上の状況が問われる、法令遵守とリスクマネジメント
認定企業が受けられるインセンティブ
認定企業が受けられるインセンティブは、以下のとおりです。
- 金融機関や民間保険など提供のインセンティブとして融資の優遇、保証料の減額や免除
- 自治体によって行われる独自の健康経営企業認定や、県知事による表彰
- 自治体が行う公共工事、入札審査での公共調達加点評価
- 自治体が提供する融資の優遇、保証料の減額、奨励金や補助金などのインセンティブ
- ハローワークなどの求人資料へのロゴやステッカーの使用
健康経営優良法人とは?【わかりやすく】メリット、認定基準
健康経営優良法人とは、従業員の健康管理について戦略的に取り組んでいる、優良な法人のことです。認定制度により選ばれています。
1.健康経営優良法人とは?
健康経営優良法人とは、従業員の健康管理や健康増...
8.健康経営導入の事例
最後に健康経営導入の事例として下記の2社を解説します。
- パソナグループ
- ピースマインド
①パソナグループ
パソナグループでは、下記のような取り組みを実施しています。
- 部署ごとにスーツのまま勤務中に運動をする「執務室エクササイズ」
- 療養制度や復帰プログラムの設定
- ウシやヤギを飼育するパソナ大手町牧場の運営
②ピースマインド
ピースマインドでは、下記に取り組んでいます。
- EAP(従業員支援プログラム)相談窓口の提供といった、心身の健康作り支援
- 柔軟な働き方に対応する、年次休暇の時間単位利用
- ハラスメント防止研修の実施