ヘルスリテラシーとは、健康情報に関する情報リテラシーです。ここではヘルスリテラシーについて解説します。
目次
1.ヘルスリテラシーとは?
ヘルスリテラシーとは、健康情報に関する情報リテラシーのことで、以下のような定義があります。
- 健康情報を入手・理解・評価・活用するための知識や意欲、能力
- 日常生活におけるヘルスケアや疾病予防、ヘルスプロモーションについて判断や意思決定
- 生涯を通じて生活の質を維持・向上
ヘルスリテラシーは、健康情報にもとづく意思決定で自身の健康を決める力ともいえます。
ヘルスリテラシーが重要な理由
ヘルスリテラシーが重要な理由は、個人の生命や生活の質(QOL)の維持・向上に重要な要素だからです。ヘルスリテラシーが低いと、病気にかかりやすくなったり、受診が遅れたりして、生命や生活の質を脅かされます。
生活の質を維持し、健康であり続けるには、ヘルスリテラシーの概念が重要です。
QOLとは?
Quality of Lifeの頭文字を取ったもので、肉体や精神、社会や経済など、あらゆるものを含めた生活の質を意味する言葉です。恵まれた環境下にある、仕事や生活を愉しむ、豊かな人生と解釈できます。
医療・福祉の分野では、患者の人間性を取り戻すという意味で使われているのです。
ヘルスリテラシーの低さが生むデメリット
ヘルスリテラシーが低いと、下記のようなデメリットが生じます。
- 病気や治療に関する誤った情報に振り回される
- 病気の兆候を見逃してしまう
- 慢性の病気を悪化させてしまう
- 健康診断やワクチンを適切に活用できない
- 医師や看護師へ、症状について正確に伝えられない
日本における取り組み
日本における取り組みの始まりは、2015年、厚生労働省が発表した「保健医療2035」にヘルスリテラシーという言葉が用いられた点にあるのです。ヘルスリテラシーの重要性は、医療や保健、教育といった分野で唱え続けられています。
しかしヘルスリテラシーについて、理解を深めている人は多くないという現状があるのです。
厚生労働省が提言する保健医療2035について
厚生労働省は、保健医療2035について提言をしています。
保健医療2035とは、2035年を目途に「保健医療で守るべき基本理念や価値観」「保健医療に関する変革の方向性」などについて検討し、提言したもの。少子高齢社会の克服や世界をリードしていくために作成されました。
2.ヘルスリテラシーの種類
ヘルスリテラシーには、いくつかの種類があります。ナットビームとザーカドゥーラスらによる定義について、解説しましょう。
ナットビームによる定義について
ナットビームによる定義とは、シドニー大学やサウサンプトン大学で学長を勤めたナットビームにより提唱された定義のこと。へルスリテラシーを下記3つの段階に分けました。
- 基本レベルである機能的ヘルスリテラシー
- 基本レベルを発展させた相互作用的ヘルスリテラシー
- 高度なレベルである批判的ヘルスリテラシー
①基本レベルである機能的ヘルスリテラシー
「医師から説明のあった内容がわかる」「薬剤師から受けた薬剤の説明を理解できる」「医薬品の説明書を読んで理解できる」といった、基本的な読み書きをする能力のこと。健康や医療に関する日常的な情報を理解するのに欠かせない基本能力です。
②基本レベルを発展させた相互作用的ヘルスリテラシー
「知人から健康情報を入手する」「評判のよい病院を調べて、通院する」能力のこと。機能的ヘルスリテラシーを発展させたもので、自ら健康情報を探して他人に情報を伝達するため、「健康に関心がある」「周囲とコミュニケーションが取れる社会性を持つ」といった特徴があります。
③高度なレベルである批判的ヘルスリテラシー
「流行中の病気を調べ、最低な予防方法や治療方法を知人とシェアする」「健康情報を収集して自分の生活に生かし、SNSでも情報発信する」能力のこと。高度なヘルスリテラシーで、「批判的な情報も受け取り、情報を鵜呑みにしない」「主体的に情報を活用する」など、社会的活動を伴う能力です。
ザーカドゥーラスらによる定義について
ザーカドゥーラスらによる定義とは、ザーカドゥーラスによって提唱されたヘルスリテラシーの定義のこと。この定義では、下記4つに分類できるとしています。
- 基本的リテラシー
- 科学的リテラシー
- 市民リテラシー
- 文化的リテラシー
①基本的リテラシー
「読み書き」「話をする」「計算能力」を意味する言葉で、健康や医療に関する情報収集のために必要不可欠な能力のこと。
健康関連用語には専門用語も多くあり、理解が難しいケースもあります。健康格差を縮小させるためにも、基本的リテラシーの現状を把握し、現状に見合った対策を講じることが重要です。
②科学的リテラシー
「科学の基本的知識」「科学技術の理解能力」「科学の不確実性の理解」といった能力のこと。
急速な科学の進歩により、専門用語やエビデンス、確率やリスクなどへの理解が必要となっています。健康や医療以外にも広く科学に対して好奇心を持ち、科学的リテラシーを高めていくことが求められているのです。
③市民リテラシー
「市民が広く社会問題を意識する」「社会問題に関する意思決定過程に参加する」といった能力のこと。
市民リテラシーを高めるためには、「マスメディアから得る情報を正確に理解し、メディアリテラシーを活用する」「健康や医療、福祉などの政策に関心を持ち、政策決定にかかわっていく」なども求められます。
④文化的リテラシー
「健康に関する情報を解釈する」「自らが属する文化を認識して、解釈した情報を活用する」能力のこと。
ここでいう文化とは、集団としての信念や習慣、慣習や世界観、社会的アイデンティティなどのことです。文化的リテラシーには、健康に関するダイバーシティを受け入れて学ぶ姿勢も必要となります。
3.ヘルスリテラシーと健康経営の関係について
ヘルスリテラシーは、健康経営と関係性があります。ここでは下記3つについて、事例を交えて解説しましょう。
- 健康経営とは?
- 健康経営のためにヘルスリテラシーは重要
- 従業員のヘルスリテラシーを高める方法
- ヘルスリテラシーと健康経営との関係性がわかる事例
①健康経営とは?
「企業が従業員の健康に配慮して、経営面に大きな成果を期待する」「経営的な視点から従業員の健康管理について取り組みを行う」戦略的経営のこと。
健康経営は企業に生産性や従業員の創造性、企業イメージの向上といった効果をもたらすリスクマネジメントのひとつと考えられています。
②健康経営のためにヘルスリテラシーは重要
健康経営のためにヘルスリテラシーは重要な要素です。
企業では従業員の健康管理をリスクマネジメントかつ投資と位置づけ、戦略的に取り組まなければなりません。そのためにも従業員のヘルスリテラシーは必須といえます。つまり企業経営と健康経営、ヘルスリテラシーの3つに密接な関係性があるのです。
③従業員のヘルスリテラシーを高める方法
従業員のヘルスリテラシーを高める方法は、3つあります。それぞれについて解説しましょう。
現在のヘルスリテラシーがどの程度か確認する
ヘルスリテラシー対策を具体的に考えていくため、まず従業員がどのくらいヘルスリテラシーを認識しているのか、程度をチェックします。チェック方法には、「伝達的・批判的ヘルスリテラシー尺度」があり、5つの質問に答えると認識の程度を把握できるのです。
健康診断や情報提供の場を用意する
健康診断やストレスチェックの結果を見ると、従業員が自分の健康状態を理解し、健康に関する意識を高めるきっかけになります。そのため企業は従業員に、健康診断を行うといった健康情報が提供できる場を設けるのです。
周囲に影響を与えるキーパーソンを増やす
キーパーソンとは、ヘルスリテラシーを高めた結果、健康を回復できた従業員のこと。キーパーソンの存在により、ヘルスリテラシーが重要だという説得力が高まります。その結果、キーパーソンを中心として周囲にヘルスリテラシーが普及していくのです。
④ヘルスリテラシーと健康経営との関係性がわかる事例
2つの事例を挙げて、ヘルスリテラシーと健康経営について解説しましょう。
大手化学製品メーカーの場合
専門家を配属して健康経営を行っています。掲げている目標は「ヘルスリテラシーの高い社員を増やす」です。
そしてポピュレーションアプローチと個別アプローチを組み合わせ、PDCAサイクルで本人の健康度を高めていきながら、生活習慣病やメンタルヘルス、女性の健康などを意識しています。
大手航空会社の場合
全従業員の健康データを収集・分析して予防策を講じる手法の確立に取り組みました。
分析結果をもとに、「20~30代の若手社員に健康指導」「社員食堂にヘルシーメニューを追加」「個々人の生活習慣の見直し」「肩こりや腰痛予防のプログラムを導入」などを実施した結果、国民1人当たりの医療費と比べ、約2割の医療費削減ができたのです。
4.ヘルスリテラシーを測定する方法
ヘルスリテラシーを測定する方法があります。ここでは、「Health Literacy Tool Shed」を活用したヘルスリテラシーの測定方法について、解説しましょう。
「Health Literacy Tool Shed」を活用
アメリカの国立医学図書館やボストン大学医学部が集めたデータベースである「Health Literacy Tool Shed」を活用した測定方法です。データベースは公開されており、測定内容や質問数、測定方法などの項目を選んで探せます。