ハインリッヒの法則とは、アメリカのハインリッヒ氏が提唱する「1件の重大な事故・災害の背後には、29件の軽微な事故・災害があり、その背景には300件の異常がある」という労働災害における経験則です。
ここでは、
- ハインリッヒの法則が広まった背景、原因
- 「1:29:300」とは?
- バードの法則とは?
- 事故を防ぐためのドミノ理論
などから、ハインリッヒの法則を詳しく説明します。
目次
1.ハインリッヒの法則とは?
ハインリッヒの法則とは、アメリカの損害保険会社に勤務していたハーバート・ウィリアム・ハインリッヒ氏が、5,000件以上の労働災害を調査した際に掴んだ内容をもとに提唱した労働災害における経験則です。
その内容とは、1件の災害が発生すると29件の軽傷を伴う災害が起き、一歩間違えると大惨事になるような「ヒヤリ」「ハット」する事件が300件あったというもの。
また、この結果から、別名「1:29:300」の法則やヒヤリハットの法則ともいわれています。
ヒヤリハットとは? 意味や具体例、報告書の書き方を簡単に
ヒヤリハットとは、事故や災害につながる可能性があった状況を体験すること。またその状況を発見することも含まれます。ここではヒヤリハットについて、解説します。
1.ヒヤリハットとは?
ヒヤリハットとは、...
2.ハインリッヒの法則が広まった背景、原因
ハインリッヒの法則は1930年にアメリカで発表されて以来、世界中で災害防止のバイブルとなり、さまざまな企業の労働現場で事故への注意喚起として活用されています。
日本では、1951年に『災害防止の科学的研究』という名称でハインリッヒ氏の著書が翻訳されました。するとリスクマネジメントとしてこの法則が伝わっていったのです。
現在では製造や建設、運輸などの産業界をはじめ、医療や行政といったさまざまな業界にも広く通じる法則として活用されています。
3.「1:29:300の法則」とは?
ハインリッヒの法則は別名、「1:29:300の法則」とも呼ばれています。ハインリッヒは、ある工場で起こった5,000件以上の労働災害を調査し、その発生確率を分析しました。
すると、1件の重大事故の裏には29件の軽い事故と災害に至らない小さな事故、俗に言う「ヒヤリ」「ハット」する事例が300件あったのです。「1:29:300の法則」はここから名付けられました。また別名「ヒヤリハットの法則」とも呼ばれています。
4.バードの法則とは?
ハインリッヒの法則が発表された40年後の1969年に、約175万件を超えるデータから導き出されたバードの法則が発表されました。
アメリカの21業種297社、1,75万3,489件のデータから「ニアミス:物損事故:軽傷事故:重大事故=600:30:10:1」という比率が示されています。
比率の内容は1件の重大事故の裏には10件の軽い事故があり、さらに軽い事故の裏には30件の物損事故があり、そしてその裏には600件のニアミスがあるというものです。
5.事故を防ぐためのドミノ理論
ドミノ理論とは、ハインリッヒが提唱した労働災害を防ぐためのハインリッヒの法則の段階のこと。災害をなくすためには事故を防ぐべきで、事故を防ぐには不安全行動や不安全状態をなくせばよい、という理論です。
たとえば人は、各々環境によって形成された特性を持ち、それが属人的なミスを引き起こします。そしてそのミスは大きなミスの引き金を生み出し、災害となり、それによってケガなどを負うことになるのです。
ハインリッヒは、労働災害のきっかけの88%がミスの引き金を生み出す段階にあると定義しています。
6.厚生労働省が紹介するヒヤリハットの事例
厚生労働省は、公開する「職場のあんぜんサイト」にて、397件のヒヤリハット事例を状況と対策、原因別に案内しています。その中から一例を紹介しましょう。
交通事故
- トラック後退時に人をはねそうになる
- 路面の凍結によるスリップ
- トラックの後退誘導時に電柱との間に挟まれそうになる
- 荷台に乗ろうとして転落しそうになる
- 歩車分離式信号機のある交差点で横断する人をひきそうになる
- 洋服がドアに挟まったまま車が発進しそうになる
- ビニール袋が風で舞い、運転手の視界を妨げた
- 車と車の間から道路に出て、走行してきた自転車と衝突しそうになる
墜落・転落
- 階段を下りている最中スマホに夢中になって転落しかけた
- 脚立がぐらついて落下しそうになった
- 配膳車とともに配膳用リフトのピット内に転落しそうになった
- 足場にしていた枝が折れて落下しかけた
- トラックから荷物を下ろしている最中に足が滑って落下しそうになった
- 競馬のレース中に他の馬と接触して落馬しそうになった
高温や低温の物質と接触
- 熱湯が足にかかりそうになった
- 服に火が付きヤケドしそうになった
- 炎天下で草刈り作業を行い、終業後に具合が悪くなった
- 温度が100度以上と分からずに鉄板を素手で触ってやけどしそうになる
- 暖房用のジェットヒーターが作業服に引火してやけどしそうになった
激突
- ドアが透明だと気付かず激突した
- フォークリフトと通行者が激突しそうになった
- 大掃除の最中に足元のバケツにつまずき、黒板の角に頭をぶつけそうになった
- 倉庫で床の商品を持ち上げた際に、壁掛けフックに目を接触しそうになった
- エレベーターに走り込んできた客と衝突しそうになった
倒壊・崩壊
- 積み込み作業中パレットが荷崩れを起こした
- フォークリフトで作業中に棚から落ちてきた荷物に体が当たりそうになった
- 約200kgの縦型ミキサーを移設中にずれ落ちて倒れ、下敷きになりそうになった
- 神社境内を歩行中に石灯ろうが倒れてきて下敷きになりそうになった
- サーバー用のガスボンベが倒れて足先がつぶされそうになった
巻き込まれる・挟まれる
- 風によって閉まりかけた車のドアに挟まれそうになった
- 車いすの利用者の降車介助をしていた際に、リフトと地面の間に挟まれそうになる
- 食器の洗浄機に指を挟まれそうになった
- 防寒頭巾の裾がローラーコンベアのローラーに巻き込まれそうになった
- プレス機械に手が挟まれそうになった
- 食肉加工用のミキサーに手を巻き込まれそうになった
有害物
- 容器に漂白剤が入っているにもかかわらず別の洗浄剤を入れてしまった
- パーツクリーナーで汚れた手を洗浄した後、タバコを吸おうとしてライターで火を付けた
瞬間に引火した - ブラシの洗浄作業中にエタノールが飛散して目に入りそうになった
- 地下マンホールで作業中に別の業者のコンプレッサの排気が流れ込み気分が悪くなった
火災や感電
- 喫煙所にある吸い殻から火が出た
- 白衣にエタノールがこぼれ、ガスバーナーの火が引火した
- 風通しの良い場所に設置した喫煙所の吸い殻が発火した
- 雨とほこりで汚れている看板の蛍光灯を取り外そうと握った際に感電してはしごから落ちそうになった
- 鉄製のスコップで廃油貯蔵タンク内に溜まった固形物を掃除していた際に火花が出た
落下や飛来
- 除雪作業の際、屋根から雪が落ちてきてケガをしそうになった
- 店内の売り場で上部の吊り看板が落下して頭部に当たりそうになった
- 枝の剪定作業中に枝が弾けて目に当たりそうになった
- トラックの荷台から台車が落ちて足に当たりそうになった
- 両開きのロッカーの扉を開けた際にロッカーの上に置いてあった段ボールが落下して身体に当たりそうになった
転倒
- 商品を運ぶ際、転びそうになった
- 雪道で足を滑らせ転倒しそうになった
- 大鍋のお湯を捨てる際に足が滑って転倒しそうになった
- トイレ内が暗いので手探りで照明のスイッチを探している際に段差につまずき転送しそうになった
- ガソリンスタンドで給油機のホースにつまずき転倒しそうになった
激突される
- 商品を運ぶ台車にぶつかって転倒してしまった
- ごみ収集車を後ろ向きに駐車して降りた際、車が動きだして挟まれそうになった
- 高圧洗浄車のワイヤーホースが跳ねて顔に激突しそうになった
- クレーンで資材を下ろす作業中に、作業者につり荷が激突しそうになった
破裂
- トラックのタイヤを交換中にチューブが壊れ、タイヤをホイールに固定するサイドリングが吹き飛んで作業員に当たりそうになった
- 大型トラックのタイヤに空気を補填している最中、突然タイヤが破裂した
こすれる・切れる
- 冷凍した魚をさばく際、滑って手を切りそうになった
- 食器を洗浄中に食器が割れてしまい、ガラスの破片を誤ってつかんでしまった
- 回転カッターの刃の交換作業中に、刃を手でつかんでけがをしそうになった
- 電動丸ノコによる木材の加工作業で、危うく手が刃に接触しそうになった
動作
- 果物の入った箱を持ち上げる際、腰を痛めてしまった
- 灯油の入ったポリタンクを2缶持ち上げようとした際に腰をひねった
- 運搬用の大型ローラーコンベアの上を歩いていて足を取られて転倒して膝を打った
- コピー用紙棚からコピー用紙の箱を持ち上げた際によろめいてギックリ腰になりかけた
その他
- 破損したフェリーを水中で点検作業中、潜水士のヘルメットが外れてしまった
- ビニールハウス内で作業中に蜂に刺されそうになった
- 朝からの大雨でビルの地下にある飲食店が冠水したため慌てて非難した
- 足場用の鋼管を運転中のポンプの操作パネルに当ててしまい、給水ポンプを停止させてしまった