現代社会の深刻な問題のひとつとされる「人手不足」は、労働人口の減少や雇用のミスマッチなど複雑な問題が絡み合って、多くの企業にさまざまな影響を与えています。
そんな人手不足とは一体どのようなものでしょうか。ここでは、原因や問題点、骨太方針における解消対策、若者のIT業界離れや技能実習生の活用といった観点から人手不足問題について解説します。
目次
- 1.人手不足とは?
- 2.経済財政諮問会議「骨太の方針」の人手不足対策
- 3.人手不足のトレンドと現在
- 4.なぜ人手不足は問題なのか?
- 5.人材不足が著しい業種・職種とは?
- 6.人手不足を解消できない理由
- 7.若者のIT業界離れの原因
- 8.メーカー(製造業)の人手不足の現状
- 9.人手不足による転職市場への影響
- 10.人手不足倒産の件数は? 日本の深刻な現状
- 11.今後はどうなる? 人手不足の対策
- 12.日本企業のAI人材不足と獲得競争
- 13.改正出入国管理法で人手不足は解消するのか?
- 14.採用に苦戦する中小企業の人手不足対策
- 15.正社員採用が増加している業界ランキング
- 16.アルバイト・パートなど非正規雇用が不足している業種ランキング
1.人手不足とは?
人手不足とは企業の経営を続ける上で必要な従業員が不足して事業が行えない、もしくは行いにくい状況になること。
人手不足が進むと、製品やサービスに対する需要に対して、生産や提供を行う企業側の供給が間に合わないという現象が発生します。さらに1人当たりの従業員にかかる業務の負担が増えるなどといった弊害もあるのです。
そのような状況が続くと労働環境が悪化し、従業員の離職が増えます。それによりさらに人手不足が深刻化してますます生産が間に合わない……といった負の連鎖を生む場合もあるでしょう。
2.経済財政諮問会議「骨太の方針」の人手不足対策
令和元年6月21日、「経済財政運営と改革の基本方針2019~『令和』新時代:『Society 5.0』への挑戦~」(骨太方針2019)が経済財政諮問会議(2001年、内閣府に設置された内閣総理大臣が議長を務める会議)での答申を経て、閣議決定されたのです。
- それによると、
- 雇用環境が厳しい時期に就職活動を行った影響で不安定な働き方になった人が多い「就職氷河期世代」(現在、30代半ばから40代半ばの人)を対象とした3年間の集中支援策
- 高齢者の就業意欲を削いでいると批判される「在職老齢年金制度」の将来的な廃止も視野に入れた見直し
などに注力すると明らかになりました。3年間で30万人の正規雇用増とこれまでの実績の2倍のペースの目標を設定し、実現に向けて取り組む予定です。
経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)とは?
今回、人手不足問題が取り沙汰された「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」とは、政権が進める財政や経済政策の基本方針を示すものです。
首相が議長を務める「経済財政諮問会議」でまとめるもので、これまで働き方改革(2017)、外国人労働者の受入れ拡大(2018)などの政策が盛り込まれてきました。骨太の方針は毎年6月頃、経済財政諮問会議で議論し、まとめられます。
人手不足に関する主な項目
今回の方針で、人手不足に関する項目として挙がったのは以下のようなものです。
- 高齢者雇用や中途採用の促進
- 就職氷河期世代の支援プログラム
- 最低賃金の引き上げ
- 地方への人材供給
- 外国人材の円滑かつ適正な受け入れの促進
- 介護人材の処遇改善
- 地方の乗り合いバスの共同経営
具体的にどういった支援や施策がなされるのか、特にポイントとなる3点について解説します。
ポイント①就職氷河期世代の就労支援
前述の通り、いわゆる「就職氷河期世代」と呼ばれ、現在でも不安定な働き方をしている世代への雇用安定に対して集中的に支援する政策です。
正規雇用を希望しているものの不本意に非正規雇用で働いている人、就業を希望しながら、さまざまな事情により求職活動をしていない人、社会参加に向けてより丁寧な支援を必要とする人など、支援対象は100万人程度です。
都道府県と企業が連携する新たな枠組みをつくり、支援の実施計画や目標を定めていきます。
ポイント②最低賃金の引き上げ
最低賃金の全国加重平均が1,000 円になることを目指す内容も組み込まれました。
ポイント③70歳までの高齢者雇用機会確保策
働く意欲のある元気な高齢者の雇用機会確保策については、定年廃止や70歳までの雇用延長のほか、起業支援などが選択肢として列挙されています。これは、企業にも努力義務を課すもので、関連法改正案を2020年の通常国会に提出する予定です。
3.人手不足のトレンドと現在
なぜ人手不足が問題になっているのか、その背景について解説しましょう。
産業構造の変化
産業構造の変化を背景に、日本では企業の常用的パートタイムや、臨時・季節(パートタイムを含む)の求人数の伸び率が高いという特徴があります。
中小企業庁が発表する「中小企業白書」によると、1986年時点で北海道、青森県、高知県、九州および沖縄を除くほぼすべての地域で、製造業の従業者が最多となる市町村が多かったと判明しました。
しかし、2014年時点では、小売業やサービス業、特に医療・福祉の従業者数が最多となる市町村が著しく増加。製造業からサービス業へと産業構造が変化している点がうかがえます。
このような産業構造の変化を受けて、製造業の従業者が緩やかな減少傾向にある一方で、医療や福祉の従業者数は増加を続けているなど、従業者の構造も大きく変化しています。
求人倍率の推移
同じく「中小企業白書」のデータによると、有効求人倍率について地域別に見たとき2016年の有効求人倍率は、47都道府県すべてで1倍を超えており、全国的に求人数が求職者数を上回っていると分かりました。
新規求人倍率、有効求人倍率、正社員の有効求人倍率についても同じく上昇を続けています。
完全失業率の要因分解
完全失業率の変化について、「中小企業白書」によって行われた要因分解の結果を確認すると、需要不足による失業率がマイナスになっています。
また現在発生している失業は、企業が求める能力・資格・労働条件などと求職者の実際に関する違い(ミスマッチ)の発生や、求職者の求職活動と企業の選考活動などの労働移動に時間を要していることによるものだと分かります。
すなわち失業は、「職探しや再就職に時間がかかる点から生じる摩擦的失業」「求人と求職の条件が一致しないことによって生じる構造的失業」がその多くを占めていると考えられるのです。
4.なぜ人手不足は問題なのか?
人手不足の深刻化によって、企業の成長や事業運営に与えるマイナス影響は計り知れません。企業の成長に優秀な人材の確保は欠かせませんが、実際のところさまざまな企業が、人手不足を感じているのです。
ここでは問題点や5年後、10年後に起こり得るこれからの人材にまつわる課題などから、人手不足の現状に迫ります。
問題点①企業と求職者間のミスマッチ
企業と求職者間のミスマッチというのは、雇用のミスマッチのこと。
デジタルテクノロジーの発展に伴い、産業構造が急激な速さで変化を遂げています。それによって、必要な仕事とそうではない仕事の幅もこれまで以上に広がってくるでしょう。世界の企業や経済との関係性の変化も、産業構造や雇用構造に大きな影響を及ぼします。
職業別有効求職者数と有効求人数の差
「中小企業白書」によると、職業別求人倍率を2016、2017、2018年の3年間で比較すると、管理的職業を除くすべての職業の求人倍率は増加。全体的に人手不足感が強まっていると分かります。
ただし、職業ごとに人手不足の程度に差異があり、最も高い保安の職業の有効求人倍率が 2018年時点で7.8倍である一方、事務的職業は0.5倍と1倍を下回るなど、職業間で人手不足の程度にばらつきが生じているのです。
職業別有効求人倍率
職業別有効求人倍率とは、有効求人数(仕事の数)を有効求職者数(仕事をしたい人の数)で割って算出する数値で、厚生労働省が毎月算出し、発表しています。
職種によって求職者数および求人数は大きく異なります。たとえば2013年から2016年にかけての有効求人倍率を職種別に確認すると、3年間でどの職種でも求人倍率は上昇しており、有効求職者数に対して有効求人数が増加しているのです。
しかし、事務的職業、運搬・清掃・包装などの職業では1倍を下回っています。依然として有効求職者数が有効求人数を上回っているのです。
問題点②人手不足と余剰人員が同時発生
余剰人員、つまり、必要のない人手について問題視する声も挙がっています。
前述の通り、日本は空前の人手不足。各企業は人材の確保に苦労しています。しかし一方で、大量の余剰人員が発生するという問題も指摘されているのです。人手不足と余剰人員、相反する問題が同時に浮上するのはなぜなのでしょうか。
経済産業省が2019年4月に発表した「IT人材需給に関する調査」によると、2030年にはIT人材が45万人不足すると予想されています。
日本では最新の技術に対応できない技術者が増加しており、それは業界では深刻な問題となっているのです。従来型IT人材のスキル転換がスムーズに進まないと仮定した場合、逆に10万人以上の技術者が余剰になると考えられます。
問題点③リストラや社内失業者が増加
余剰人員の問題と関連して、リストラや社内失業者の増加といった問題も懸念されており、大企業では、実際にこのような問題が浮き彫りになっている例もあるのです。
リクルートワークス研究所の調査によると、日本企業の内部には、社員として在籍しているものの、事実上仕事がない、いわゆる社内失業者が400万人いるとされています。
メガバンク各行や富士通、NECといった大手企業が相次いでリストラ計画を打ち出しているという現状もそれを物語っています。業績が絶好調のソフトバンクグループですら、事務部門から収益部門への異動を行う方針を打ち出しているのです。
5.人材不足が著しい業種・職種とは?
9割の企業が人材不足を実感する中、特に人材不足が著しい業種は「IT」「メーカー」「不動産」だということも明らかになっています。
6.人手不足を解消できない理由
人手不足問題は年々深刻化し、全国的に大きな問題として注目されています。なぜこのような事態が起こっているのでしょう。また、なぜ人手不足問題を早期解決することが難しいのでしょうか。
その原因として考えられるのは、生産年齢人口の減少など人口問題や労働を取り巻く環境の変化などです。
生産年齢人口の減少
「生産年齢人口」とは、労働意欲の有無にかかわらず社会で働くのに適した年齢である15~64歳までに該当する人口のこと。この生産年齢人口の減少が、企業の人手不足を引き起こす原因のひとつと考えられています。
NHKがある番組内で発表した調査によると生産年齢人口は1995年にピークを迎え、その後は減少の一途をたどり、2015年時にはピーク時より1,000万人も減少しているそうです。その背景には高齢化や少子化による人口の減少があります。
今後も増加の見込みはなく、2050年にはさらに2,000万人以上の減少が予想されているのです。生産年齢人口は、日本の総人口の減少率よりもはるかに速いペースで減少しています。
機械化してもAIやIT、IoTを扱える技術者が少ない
人手不足の対策としてAI(人工知能)やIoT(モノのインターネット化)を取り入れている企業は増えており2017年6月に行われたロイター企業調査によると、「AIやIT(情報技術)、IoTを扱う人材が不足している」(輸送用機器)といった結果が出ています。
つまり、AIやIoT、RPAやブロックチェーンといった最先端テクノロジーに精通している人材はまだ数が少なく、高度な機能を持つシステムを扱える人間、技術を扱う専門的知識を持つ人材自体が不足しているのです。
国内のエンジニアは2020年には約40万人不足するともいわれています。人手不足対策としての業務の機械化に関する課題が山積みとなっているのです。
短期的な人手不足への対応に懸念
一方で、人手不足が進んでいく現状に焦り、急速に人員を増加することへの懸念も挙がっています。
2016年のNewsweek日本版の記事によるとある与党議員は「短期的な人手不足で雇用を増やすと、5年後以降に大幅な人員余剰になる可能性があり、それを懸念する声が多かった」と明らかにしたそうです。
これは量的な問題のみならず、必要な人員が不足し余剰人員が生じる質的なミスマッチが発生する懸念もはらんでいます。
人手不足でも賃金が上がらない原因は?
人手不足を解消する方法のひとつに、賃上げがあります。優秀な人材を確保するため、一定水準の報酬は必要でしょう。
しかし企業には、賃上げに踏み切れない理由があると東京大学社会科学研究所の玄田有史教授は指摘しています。その理由とは何でしょうか。
何か起こった際賃下げできない
一度賃金を上げると、不況に逆戻りした場合でも賃下げするのは難しいでしょう。賃下げを行えば従業員のモチベーションが低下し、生産性は下がります。これにより、賃金の増減を嫌う企業が多いといわれているのです。
年齢とともに賃金を上げる制度を廃止する企業の増加
高所得者の増加は企業に負担をかけます。つまり、年齢とともに賃金を上げるいわゆる年功序列制度を廃止する・廃止したいと考える企業が増えているのです。
就職氷河期に新卒だった層が多い
就職氷河期に就職活動をし、新卒で企業に入社した層の多くが、希望の職に就けずに早期退職した、あるいはそもそも就職できなかったなどの結果に見舞われ、現在でも不安定な雇用状況にあります。
この時代に新卒入社した労働者には、十分な教育や訓練がされずスキルが不足したという考えもあり、それが人手不足の原因のひとつとされているのです。
7.若者のIT業界離れの原因
最新かつ高度な技術を持ったエンジニアが不足していることを前述しましたが、若者のIT離れもその現状に拍車をかけています。
厚生労働省の発表した「労働市場分析レポート 第 61号(平成28年1月29日)」を読み解くと、20代の若い世代を中心として、IT業界に属する企業への就職を避ける傾向にあると分かりました。
特にエンジニアやプログラマーの求職者数の減少が目立っているようです。同資料の平成26年「情報処理・通信技術者」のデータによると、
- 求人者数:16,172人
- 求職者数:4,975人
- 求人倍率:3.25倍
平成21年は9,442人だった求職者数が、約5年で半分ほどに減少しています。このままの見込みで計算すると、2030年にはIT人材が79万人不足するという事態になるでしょう。
8.メーカー(製造業)の人手不足の現状
メーカー(製造業)においても必要となる人材確保の問題が顕在化しつつあります。
平成30年7月に経済産業省が発表した「製造業における人手不足の現状および外国人材の活用について」によると、94%以上の大企業・中小企業において、人手不足が顕在化していました。
そのうち大企業は29.4%、中小企業では32.2%が「経済活動に影響が出ている」と回答していたのです。
また、「ビジネスにも影響が出ている」と回答した上位の業種が輸送用機械、鉄鋼業、非鉄金属、金属製品であることも上記の調査で浮き彫りになりました。
技能人材の確保に課題
上記の調査からは、中小企業ほど「技能人材」の確保に苦労していることがうかがえます。
製造業における人手不足の対策法
メーカー(製造業)の人手不足の解決方法としてどのようなものが挙げられるのでしょうか。
IT・デジタル人材育成による生産性向上
製造業特有のオペレーションノウハウとIT・データなどのデジタル技術を融合したスキル転換が必要と考えられます。これらを実現するための個人のキャリアアップ支援として、専門実践教育訓練給付金の拡充などが実施されているのです。
技能実習生など外国人材の活用
厚生労働省が発表した「外国人雇用状況」によると、日本の外国人労働者数は国籍別では中国人が最も多く、業種別では製造業に就業している人が多いと判明しました(全体の約30%)。
これらから、製造業においては一定の専門性・技能を有する外国人材の受け入れを積極的に進めていくべきとの声が上がっています。
9.人手不足による転職市場への影響
人手不足が深刻化する中、転職市場にはどのような影響が出ているのでしょうか。厚生労働省の調査によると、地域によって差はあるものの平成21年を境に有効求人倍率が右肩上がりに上昇し、それに伴い、就職率も同様の上昇を見せています。
同じく厚生労働省の調査では正社員・非正規社員を合わせた平成28年の有効求人倍率は1.36倍となり、平成3年の1.40倍以来、25年ぶりの高水準となりました。転職市場の現状は過去数十年以来の売り手市場だといえます。
このような転職売り手市場で常に「買い手市場」といわれる大手企業への転職も増加傾向にあります。
平成30年の厚生労働省発行資料によると2010年以降、転職者が大企業へ転職するケースが増加しており、特に「中企業→大企業」「小企業→大企業」の転職は増加が著しくなっているのです。
反対に「大企業→小企業」「中企業→小企業」の転職は減少しています。つまり、中小企業の人手不足はより深刻化していると考えられるのです。
10.人手不足倒産の件数は? 日本の深刻な現状
人手不足の深刻化により、事業の運営がままならず事業縮小に追い込まれる、倒産に至るといった企業が後を絶ちません。
中小企業や零細企業を中心に、人手不足による倒産は相次いで発生しており、今後も増加する見込みとされています。また、後継者が見つからない、採用難で若い人材が確保できないなど、企業によってその課題はさまざまなのです。
帝国データバンクは、「従業員の離職や採用難等により人手を確保できず、収益が悪化したことなどを要因とする倒産」を「人手不足倒産」として、平成25年から平成29年の5年間で起こった倒産について調査しています。
この調査結果をもとに、日本の人手不足倒産の現状を見ていきましょう。
人手不足倒産とは?
人手不足倒産とは、人手不足が深刻化し、事業が回らなくなり倒産にまで追い込まれること。倒産する企業の数自体は低い水準が続いていますが、人手不足が原因の倒産件数は増加しているのです。
倒産に至るほど人手が不足する原因には、「新規雇用がうまくいかない」「事業の主力として働いていた従業員が退職し、事業自体がストップしてしまう」「後継者が見つからない」などが挙げられます。
特に深刻視されているのが、ファミリーレストランやファストフードなどの外食産業。客単価が安い分、時給を上げにくいため人員を確保できず、閉店に追い込まれる店舗が目立ちます。
かといって時給を上げると人件費は高騰してしまい、今度はそれを払いきれずに窮地に追い込まれてしまうのです。
業種別倒産件数ランキング
人手不足の最悪の結果である人手不足倒産ですが、主にどのような業種がこのような事態に陥っているのでしょうか。前項の同調査から平成25年から平成29年の5年間における累計倒産件数を業種別に順位付けすると、以下のような結果になりました。
- 1位 建設業
- 2位 サービス業
- 3位 製造業
- 4位 運輸・通信業
- 5位 小売業
ここでは上位3位の業種について、過去数年の傾向について解説します。
1位:建設業
倒産件数が最も多い結果となったのは建設業で、平成29年度は31件と過去最多でした。5年間の累計で見ても129件が倒産に追い込まれており、他業種と比較しても突出して深刻な状況にあることが見て取れます。
2位:サービス業
建設業に次いで倒産件数が多かったのはサービス業。平成29年度は27件、5年間の累計は106件でした。ただし、平成28年度と比較すると18.2%減少しており、年度によってバラつきがある業種といえます。
3位:製造業
ワースト3位となった製造業。平成29年度の倒産件数は16件で、5年間の累計は38件でした。平成29年度の件数は前年度と比較すると66%増と著しく、平成28年以前と比較しても急激な上昇が見られました。
都道府県別倒産件数ランキング
人手不足倒産件数が多いのはどの都道府県でしょうか。同調査の結果から、5年間の累計件数に順位を付けると次のような結果になりました。
- 1位 東京都
- 2位 大阪府
- 3位 福岡県
- 同数4位 北海道、静岡県、愛知県
同様に、3位までの都道府県の傾向と、企業数、人口との比較について見ていきましょう。
1位:東京都
東京都は47都道府県中、群を抜いて倒産件数が多く、5年間で49件という結果でした。平成29年度は13件で、前年度と比較すると18.2%増です。人口、企業数共に多いことが背景にあると考えられます。
2位:大阪府
2位の大阪府は5年間で累計26件という結果でした。平成29年度は10件で、前年度と比較して25.0%増加しています。件数としては東京の約半分ですが、大阪を拠点とする企業も多く、人口の多さが数値に影響を与えていると考えられます。
3位:福岡県
ワースト3位となった福岡県は5年間の累計が25件で、大阪府と僅差です。首都圏と比較すると人口は少ないものの、企業数が全国でも上位に入る福岡県全体にも、働き手不足の問題があると考えられます。
11.今後はどうなる? 人手不足の対策
多くの企業が人手不足を痛感し、対策を練っていますが、なかなか現状を打破できていません。今後、企業はどのような方法で改善を目指し、この問題を解消していけばいいのでしょうか。
高齢者雇用の拡大や、AI・ロボットの導入検討、さらに外国人労働者の採用など、各企業はそれぞれの業種が抱える課題に対して最適な方法を模索しています。そんな現在進みつつある取り組みについて解説しましょう。
高齢者の雇用を拡大
定年を迎えた高齢者の雇用拡大は、人手不足解消の有効な手段と考えられています。近年、定年後も非正規社員として企業に残ることを希望する人が増えており、仕事をするのに差し支えない体力と労働意欲のある60~70代は増加傾向にあるのです。
高齢化が進み定年を迎える労働者も増加し続ける中、国を挙げてシニア世代の就業支援に取り組む動きが活発化しています。人口比率の高いシニア世代が労働力になれば、若年層の負担も軽減するでしょう。
AIやロボットの活用
コンビニのレジの機械化やロボット導入がまだ行き届いていない企業も少なくありません。自動車の自動運転などに代表される新技術を有効に活用しようという声が上がっています。
大手コンビニチェーンのローソンでは本格的なAIの導入を進めており、2017年12月に無人レジなどの最新設備を設置した、次世代型の実験店舗を東京都内にオープンさせました。
深夜帯の人手不足が深刻化する問題を、無人レジやICタグを使った自動支払いなどの技術を使って解消しようという試みなのです。
外国人労働者の採用
製造業をめぐる人手不足問題でも触れた通り、外国人労働者の採用も有効な手段です。すでに、就労ビザを持たず、技能実習生として労働している外国人が多数存在します。この考え方の背景にあるのは、人手不足の原因が国内の労働人口減少にあるというものです。
日本国際交流センターの毛受敏浩氏は、「不安定な状況の外国人労働者を安定した仕事に就業させ、国内に定住できるようにすることが人手不足問題の重要な解決策につながるのでは」と指摘しています。
12.日本企業のAI人材不足と獲得競争
AI時代の到来を踏まえ、AI人材基盤の確立は急務といえます。先端IT人材、一般IT人材、ユーザーなど、すべての人材レベルに対する育成が必要でしょう。2020年には、先端IT人材は約5万人不足するとされ、一般IT人材は約30万人の不足が見込まれているのです。
さらに2030年には60万人が不足。人材獲得競争は非常に激しく、日本企業は優秀なAI人材を確保するため、国外に活路を求めるなどさまざまな対策を練っています。
人工知能技術戦略(平成29年3月策定)とは?
人工知能技術戦略とは、人工知能技術戦略をより具体化し強化するため、産学官が連携して行っている取り組みです。
先端IT人材(先端IT技術者)とは?
先端技術とは、クラウドコンピューティング、ビッグデータ、IoT(Internet of Things)、人工知能など、IT関連分野において近年高い注目を集めている先端的な技術・サービスのこと。
先端IT人材・先端IT技術者とは、これらのビッグデータの分析・活用を担う人材、IoTを活用した新たなビジネス創出を主導するプロデューサーとしての役割を果たす人材、組込みソフトウェアからネットワーク、アプリケーションに携わる人材などのことです。
広範な知識やスキルを持ち、スピーディにシステムを構築できるフルスタックな人材が求められています。人工知能技術戦略では、将来に備え、年間2~3万人の先端IT人材の育成が必要だとし、その育成を目標のひとつに掲げているのです。
AI分野における人手不足の解消方法
先端IT人材育成には、待遇面での人事や給与などの環境整備が必要だとされます。世界的な獲得競争が起きているAI人材は給与水準が高く、高度な人材の引き抜きは年俸億単位になり、企業間で人材の争奪戦が起こることも珍しくないそうです。
日本のIT企業には、AIなどの分野ですぐれた海外の技術者を獲得するために、新たな人事制度を設けて、AI人材の市場価格に対応しようとする企業も少なくありません。
13.改正出入国管理法で人手不足は解消するのか?
このような状況の中、2019年4月1日、日本で外国人材の受け入れを拡大する「改正出入国管理法」が施行されました。
改正出入国管理法とは?
出入国時の管理規制や難民の認定手続きの整備を目的とした出入国管理法が改正された背景には、日本の人手不足が大きく関係しています。入管法改正が可決されたことによって、新たな在留資格「特定技能」が設けられ、外国人の単純労働に門戸を開放しました。
また、人手不足が深刻化している介護や建設といった14業種について、5年間で最大34万人余りの外国人を受け入れる見込みです。
外国人雇用の受け入れ状況
厚生労働省による「『外国人雇用状況』の届出状況まとめ」によると、日本における外国人労働者数は、1,46万463人に上るといいます。
労働者数が多い上位3カ国は、中国、ベトナム、フィリピン。外国人労働者・外国人労働者を雇用する事業所共に、製造業が最も多くなりました。
技能実習生の活用における課題
外国人材拡大の要と期待される「外国人技能実習制度」は、さまざまな問題が指摘されています。海外から訪れた技能実習生たちが、受け入れ先の企業から一方的に解雇され、帰国させられる事例が相次いでいるのです。
2019年1月には、農家で働くベトナム人の実習生21人が解雇を言い渡され、弁護士や支援団体に助けを求めるという事例がありました。改正出入国管理法による新たな制度で、このような技能実習生を取り巻く環境が改善されることが期待されています。
14.採用に苦戦する中小企業の人手不足対策
中小企業庁による「中小企業・小規模事業者における人手不足対応研究会 とりまとめ~中小企業・小規模事業者人手不足対応ガイドライン~」によると、中小企業では大企業に比べて、入社後短期間で離職する若年層が多いそうです。
特に宿泊業・飲食サービス業、生活関連サービス業・娯楽業といった人手不足が深刻な業種については、入社後3年以内の離職率が高いことがデータから浮き彫りになりました。
これらから、中小企業や小規模事業者では働き手の離職と人材不足が表裏一体だと推測できます。
女性の活用
大企業と比較しても深刻な人手不足に悩む中小企業にとって、女性の採用、登用は有効な手段です。
上記の中小企業庁の資料からは、新卒の女性と比べて中小企業を選んで就職する出産後の女性の比率が高いと判明しました。
また、出産適齢期の女性の就業率が落ち込むいわゆるM字カーブはなだらかになりました。しかし出産や育児と仕事の並行には大きな負担を伴うため、就業したい意思を持ちながら働くことを断念する女性は今もなお多いとされています。
よって潜在的な労働力は数百万人程度に上るというデータも存在するのです。
高齢者の活用
多様な人材を掘り起こして活路を見出すという観念から考えると、高齢者も大きな潜在力を持つといえるでしょう。高齢化率が急速に進む中仕事を持ち続ける高齢者と、リタイアする高齢者、どちらも年々増加傾向にあるといわれます。
健康寿命が延伸していることも手伝い、日本には心身共に健康で強い就業意欲のある高齢者が多数いる、つまり潜在的な労働力が大きいとされています。実際、現在就業している高齢者は業種を問わず存在しており、その一層の活躍が期待されているのです。
高齢化が加速する中、今後も就業意欲の高い高齢者を取り込んでいくことは、人手不足を克服するための有効な手段でしょう。
外国人留学生の活用
グローバル化に伴い、日本でもさまざまな国籍の外国人労働者が活躍するようになってきました。雇用されている外国人労働者は2016年10月時点で108万人と、3年連続で過去最高を更新しています。
在留資格ごとに整理すると、最も多いのは「身分又は地位に基づく在留資格」ですが、一方で「専門的・技術的分野の在留資格」「技能実習」「留学」も増加傾向にあるのです。
卒業後に日本で就労する留学生は、就労を希望する留学生の3割にとどまっていますが、日本企業への就職に伴い、就労可能な在留資格変更が許可された件数は、近年増加傾向にあります。卒業後も日本に活躍の場を求める学生が増えているといえるのです。
こうした留学生の就職先は、中小企業の割合が非常に高く、大きな潜在力として期待できるでしょう。
15.正社員採用が増加している業界ランキング
次に、正規雇用と非正規雇用に焦点を当てて日本の雇用状況を見ていきましょう。まずは正規雇用、正社員から解説します。
厚生労働省が平成29年度に発行した「労働市場分析レポート平成28年の求人倍率の概要」内の「新規求人数(正社員)の増加率と産業別内訳(寄与度)」によると、正社員としての求人数は平成21年を境に右肩上がりで上昇しています。
平成28年の正社員有効求人倍率は0.86%で、集計を開始した平成17年以降、過去最高の数字となりました。平成28年時の「正社員求人数の増加率」における業種ごとの上位3位は、下記のような結果になっています。
- 1位 医療・福祉(介護施設など)
- 2位 建設業
- 3位 製造業
1位:医療・福祉(介護施設など)
正社員の求人数増加率が最も多いのは、医療・福祉関係で前年比1.5%増でした。同資料によると平成27年の増加率は1.6%なので、やや減少していることがうかがえます。
高齢化に伴い、医療や福祉の需要が増しているという社会的背景もありますが、資格職が多く収入が安定するため、求職者から人気を得やすいと考えられます。
2位:建設業
建設業は医療・福祉に次いで2位、前年比1.0%増となりました。平成27年は0.1%以下だったのに対して、大幅な上昇を見せています。
平成28年度のパートタイムなどの非正規雇用を含む全体の順位としては0.4%で5位となった建設業ですが、正規雇用に限定した調査では倍を超える数字となりました。
建設業の場合、専門的な知識が必要となる職種が多いため、正社員としての雇用が必要になるという事情が理由として考えられます。
3位:製造業
続いて正規雇用の増加率が高かったのは製造業の0.8%です。
- 平成26年は1.7%と高水準
- 平成27年は0.8%と大幅に減少
- 平成28年は変化なし
という結果になりました。
これは新規求人数の増加を指すもので、それ以外も合わせると平成28年度も正規雇用率はさらに増加しています。製造業におけるパートタイムを含む全体の増加率は、
- 平成26年は1.0%
- 平成27年・平成28年は0.3%
とゆるやかに減少している傾向にありました。
16.アルバイト・パートなど非正規雇用が不足している業種ランキング
正規雇用の正社員同様、非正規雇用でも人手不足問題が深刻です。平成30年4月に帝国データバンクが行った調査によると、正社員・非正規社員を含む全体の傾向として、人手不足を感じている企業が多いと判明しました。
平成30年4月時点で「非正規社員が不足している」と回答した企業は32.1%。平成29年度では29.6%という結果でしたので、非正規雇用者に対する人手不足感は徐々に高まりを見せていると考えられます。
以下は、「非正規社員が不足している」という回答が多かった業種の上位3位です。
- 1位 飲食店
- 2位 飲食料品小売
- 3位 電気通信
以下、娯楽サービスや旅館・ホテルが続いており、小売や個人向けサービスを営み消費者と接する機会の多い業種で不足感が高いと分かりました。
1位:飲食店
「人手不足を感じている」との回答が最も多かったのは飲食店で77.3%。平成29年度調査は80.5%だったため比較すると下がっていますが、8割近い高数値です。業界における人手不足の深刻化は根深いものだと推測されます。
平成30年に帝国データバンクが発表した「外食関連業者の倒産動向調査」では飲食店は707件と過去最多を記録。この原因も、人手不足が深く関わっていると考えられます。
2位:飲食料品小売
飲食店に続き、人手不足に関して問題視する回答が多かったのは飲食料品小売。73.1%の企業が人手不足を実感していることが明らかになりました。平成29年度は59.4%でしたので比較すると13.7ポイント増で、慢性的な人手不足に悩まされていると分かります。
3位:電気通信
ワースト3位は電気通信で58.3%の企業が人手不足を実感しているという結果になりました。平成29年度は38.5%でしたので、前年比19.8ポイント増です。ITが現代社会に不可欠な存在となり需要が高まる中、供給がまだ追いついていないことが考えられます。