ヒヤリハットとは? 意味や具体例、報告書の書き方を簡単に

ヒヤリハットとは、事故や災害につながる可能性があった状況を体験すること。またその状況を発見することも含まれます。ここではヒヤリハットについて、解説します。

1.ヒヤリハットとは?

ヒヤリハットとは、主に業務において重大な事故や災害につながる可能性を秘めた状況を体験、あるいは発見すること。危険な状況に遭遇して「ヒヤリ」とする様子と、思いがけない状況を発見することで「ハッ」とする様子を表しています。

なお厚生労働省の定義は、「危ないことが起こったが、幸い災害には至らなかった事象」です。

インシデントとの違い

インシデントとは、重大な事故や災害につながる出来事そのもののこと。出来事自体の発見は含めません。そのため誰も発生に気づかないインシデントも多数存在します。ヒヤリハットは実際に危険な状況を体験している点で、インシデントと大きく異なるのです。

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アクシデントとの違い

アクシデントとは、すでに発生してしまった事故や災害そのもののこと。ヒヤリハットは、アクシデントにつながる危険な状況を意味します。

つまりヒヤリハットの場合、まだアクシデントが発生していません。ヒヤリハットへの対策を講じれば、アクシデントを未然に防げるのです。

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2.ヒヤリハットとハインリッヒの法則の関係

ヒヤリハットを事故防止の取り組みで活用するとき、あわせて使われるのが「ハインリッヒの法則」。なぜならハインリッヒの法則にもとづくと、ヒヤリハットの件数を想定できるからです。ここではハインリッヒの法則について説明します。

ハインリッヒの法則とは?

重大な事故や災害の発生前に生じるヒヤリハットの割合のこと「1:29:300の法則」と呼ばれる場合もあるのです。この「1:29:300」の比率とは、「重大な事象:中規模な事象:小規模な事象」のそれぞれの発生件数を表します。

わかりやすくいうと「重大な1件の事故(アクシデント)が生じるまでには、29件の中規模な事故(軽微な事故)と、300件の小規模な事故(ヒヤリハット)が発生している」という考え方です。

この法則は、インシデントの裏に潜む多数の危険要素を示唆しており、業界や業種を問わず世界的に定着しました。

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教訓

ハインリッヒの法則における教訓は、「1件の重大な事故を防ぐためには、中小規模の事故が発生した段階で対策を行う必要がある」「この中小規模の事故を防ぐには、さらにその前に起こる小規模な事象、つまりヒヤリハット対策を講じなければならない」こと。

「大事に至らなくてよかった」ではなく、「今後、大事故につながるかもしれない」と考えて防止策を講じることを推奨しています。

ビジネスにおける活用

ハインリッヒの法則が適用されるのは、人がけがをする物理的な事故のみと考えられがちです。しかしこの法則は、企業経営やオフィス業務などビジネス分野でも適用します。

顧客からのクレームや社員による不正などが、表面化していないだけで発生している場合もあるからです。

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3.ヒヤリハットが起こる原因

ヒヤリハットの原因のほとんどは、ヒューマンエラーによるものです。自社のヒヤリハットを防ぐためには、どのようなときにヒヤリハットが起こっているかを知り、的確な対策を講じる必要があります。

  1. 焦りや油断などによる不注意
  2. 知識や経験、スキル不足
  3. コミュニケーション不足
  4. 労働環境に影響

①焦りや油断などによる不注意

ヒヤリハットの原因としてとくに多いのが、焦りや油断、疲労などによる不注意。たとえば制限時間内に作業を終わらせようとして、定められている手順を省いた結果、ヒヤリハットが起こるケースが挙げられます。

また「自分は大丈夫」といった根拠のない思い込みから、作業中にミスを起こすときも。業務に慣れているベテランほど注意が必要です。

②知識や経験、スキル不足

社員個人の知識や経験、スキルの不足から不注意やミスが生じて、ヒヤリハットを起こす場合があります。たとえばまだ業務に慣れない新人は、自身が判断ミスや作業ミスをしやすいうえ、業務プロセスや作業環境に異常が生じていても気づきにくいからです。

重大な事故や災害を防止するためにも社員の知識や経験、スキルを高める機会や経験を積む機会を提供しましょう。

③コミュニケーション不足

コミュニケーション不足による認識のずれから誤った行動につながり、ヒヤリハットが起こるときもあります。とくに複数の社員が働く現場では、常に指示や報告といった情報が飛び交います。

全員がこれらの情報を正確に共有できないと、正しい判断やアクションを行えません。その結果ヒヤリハットが発生してしまうのです。ヒヤリハットを防ぐには、情報共有を円滑化する仕組み作りが必要となります。

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④労働環境に影響

作業環境や管理環境、人間環境などが原因となってヒヤリハットが発生するケースもあります。それぞれの環境で原因になるのは、下記のとおりです。

  • 作業環境で原因になりうるもの:作業に適さない照明や温度、広さなど
  • 管理環境で原因になりうるもの:部下に対する業務管理が行き届かずミスが起こるケース
  • 人間環境で原因になりうるもの:上司や同僚によるプレッシャーを受け、焦りや緊張でミスを起こす

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4.ヒヤリハットの事例

ヒヤリハットは、日常的に発生するものから、特定の業界に限定されるものまでさまざまです。ここでは業種別のヒヤリハット事例を紹介します。

  1. 日常生活
  2. オフィス・事務
  3. 製造業
  4. 建設業
  5. 保育園
  6. 介護
  7. 看護
  8. 薬局
  9. 医療

①日常生活

日常生活におけるヒヤリハットも、重大な事故やケガを引き起こしかねません。たとえば以下の状況が挙げられます。

  • 子どもが勝手にベランダに出て遊んでいた
  • ヤカンでお湯を沸かしていると忘れ、キッチンを離れてしまった
  • 子どもが家電の電源コードに足を引っかけ、転びそうになった
  • 地震が発生した際に固定していなかったテレビが倒れそうになった

②オフィス・事務

オフィス・事務業務では、以下のようなヒヤリハットが考えられます。

  • 床に置いておいた備品につまづいて転倒しそうになった
  • オフィス内の導線が定まっておらず、社員同士が衝突しそうになった
  • 停電時にパソコンが強制終了し、重要なデータが消失しそうになった
  • 社員が個人で所有するパソコンがウィルスに感染し、社用パソコンも感染しそうになった

③製造業

製造業は機械による事故が生じやすく、その分ヒヤリハットが発生する可能性も高まるのです。たとえば以下の状況が挙げられます。

  • 工場内の動線がわかりづらく、社員がフォークリフトにひかれそうになった
  • 回転する機械に作業員の衣服が巻き込まれそうになった
  • 作業手順が統一されておらず、不良品を出荷しそうになった
  • プレス機に手を挟まれそうになった

④建設業

建設業は高所作業でのヒヤリハットが発生しやすい業種です。たとえば以下の状況が挙げられます。

  • 命綱を正しい方法で使用していなかった作業員が転落しそうになった
  • 作業で使用する器具を高所から落としてしまった
  • トラックが現場から道路へ出る際に歩行者に気づくのが遅れた
  • 工事日程に余裕がなく、強風が吹いているにもかかわらず作業を中止できなかった

⑤保育園

保育園におけるヒヤリハットは子どもに危険がおよぶため、早急な対策を講じる必要があるのです。たとえば以下の状況が挙げられます。

  • 園児がブランコから転落しそうになった
  • 園児の食物アレルギーに関する情報が職員の間で共有されていなかった
  • 壊れたおもちゃの破片を園児が誤飲しそうになった
  • 入口の門が空きっぱなしになっており、部外者が侵入できる状態になっていた

⑥介護

介護業界におけるヒヤリハットには、介護そのものだけでなく、家族や利用者同士が原因になるケースも見受けられるのです。たとえば以下の状況が挙げられます。

  • 利用者が使用する車椅子のブレーキが壊れていた
  • 利用者に服用させる薬の量を間違えそうになった
  • 入浴時にお湯の温度を普段よりも高く設定してしまった
  • 家族が差し入れた食べ物で利用者が喉を詰まらせそうになった

⑦看護

看護分野におけるヒヤリハットは、命にかかわる事故に発展しかねないため早急な対策が必要です。たとえば以下の状況が挙げられます。

  • 医師の指示を聞き逃し、違う薬剤を手渡しそうになった
  • 電子カルテに入力中、別の患者の情報を入力していると気づいた
  • 人工呼吸器の回路を逆に接続しそうになった
  • 検査台から患者が転落しそうになった

⑧薬局

薬局では、処方や受け渡しでミスが起こりえるのです。たとえば以下の状況が挙げられます。

  • 本来処方すべき薬をわたし忘れそうになった
  • 処方箋の確認不足によって、誤った分量を渡しそうになった
  • ほか利用者の処方薬の説明文書を誤って別の利用者に渡しそうになった
  • 服用頻度に関する説明を利用者が正しく理解していなかった

⑨医療

医療業界におけるヒヤリハットは重大な医療事故につながる恐れがあるのです。たとえば以下の状況が挙げられます。

  • 同姓の患者間で投与すべき薬を取り違えそうになった
  • 情報の共有不足によって、同じ患者に二度同じ薬を投与しそうになった
  • 採血を行った際、別の患者の容器に検体を入れそうになった
  • 点滴指示において誤った薬剤単位を伝えたと気づき、投与前に訂正した

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5.ヒヤリハットを未然に防ぐ対策

ヒヤリハットを未然に防げれば、大きな事故や災害の予防にもなります。ヒヤリハットを防ぐための取り組みでは、「KYT(危険予知訓練)」を実施するのが効果的です。そのため多くの企業ではこのKYTに重点を置いた対策が講じられています。

KTYとは?

職場や作業現場にひそむ大きな事故や災害の危険性を発見し、それらを未然に防ぐ解決策を考案する訓練のこと。危険の「K」、予知の「Y」、トレーニングの「T」から考案された造語で、詳細な訓練内容は4つのラウンドによって構成されています。

  1. 第1ラウンド:危険性の発見
  2. 第2ラウンド:認識の共有
  3. 第3ラウンド:対策の検討
  4. 第4ラウンド:行動目標の設定

①第1ラウンド:危険性の発見

業務上で危険だと確認されたシーンを挙げ、そこから起こりうる事故や災害などの具体的な事象をリストアップします。ここでは危険要因とその原因を誘発する行動、それによって導かれる結果をセットで行うことが大切です。

そのため一連の業務をひとつの流れとしてくまなくチェックしなければなりません。

②第2ラウンド:認識の共有

第1ラウンドでリストアップした危険性のうち、より緊急性と重要性の高いものを1個から2個ピックアップします。選出された危険性に「危険のポイント」と印を付け、次にそれぞれの危険性について発生する確率や詳細な原因、想定される結果などを分析。

最後にスタッフ全員と認識を共有し、全員で危険のポイントとその概要を読み上げ、指差し確認を行います。

③第3ラウンド:対策の検討

第2ラウンドでリストアップした危険性に対して、具体的な対策案を検討します。関与する社員が対策を考案し、その有効性について議論を重ねるのです。この対策案は具体的であるだけでなく、現場で実践が可能な内容でなければなりません。

また「注意する」といった対策案は、個々の意識によって結果が左右されるもの。危険性に対して、誰もが同じ行動を取れる内容にします。

④第4ラウンド:行動目標の設定

対策案が明確になったら、実践における行動目標を設定します。行動目標も、現場で誰もが実践できる内容に限定されるのです。

たとえば所作業で脚立から転落するヒヤリハットがある場合、「脚立を使うときはこまめに位置を調整する」といった行動目標が設定できます。複数のチームが関与する場合は、チームによって異なる目標を設定しても問題ありません。

設定した目標も全体で共有し、読み上げと指差し確認を行います。

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6.ヒヤリハット報告書の書き方

ヒヤリハット報告書とは、個人が体験または発見したヒヤリハットを自社へ報告し、共有する書類のこと。

記載されたヒヤリハット情報は、原因の分析や再発防止の取り組みに活用されます。そのため具体的な内容を記載し、小さなヒヤリハットでも報告書を作成するのが理想的です。ここではこのヒヤリハット報告書を作成する際のポイントについて説明します。

  1. 項目は5w1hで整理
  2. 客観的に事実内容を記載
  3. 原因は直接的と間接的の両方記載
  4. 専門用語は避けて記載

①項目は5w1hで整理

ヒヤリハット報告書は、多くの人に共有されます。わかりやすく作成するために、「5w1h」で整理してから具体的な内容を記載しましょう。以下の項目に沿ってまとめるのがオススメです。

  • When…発生した日時
  • Where…発生した場所
  • Who…主体となった人物
  • What…対象となったものや行動
  • Why…発生した原因
  • How…発生した事象に対して行った対処の内容

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②客観的に事実内容を記載

発生した事象に関して、客観的な立場から事実内容を記載しましょう。具体的には、体験あるいは発見したときの様子や状況などをそのまま書きます。主観や推測を含めてはいけません。

また責任を追及されると考えて他責的に書く人もいるでしょう。しかし報告書の目的は、ヒヤリハットの共有と再発防止。ヒヤリハットの発生に自分の言動がかかわっていたとしても、ありのままを記載しましょう。

③原因は直接的と間接的の両方記載

ヒヤリハット報告書には、直接的な原因と間接的な原因の両方を記載します。ヒヤリハットの発生には、作業環境や管理環境、人間環境なども関与するからです。

たとえば機械の故障でヒヤリハットが生じた場合、直接的な原因は「機械の故障」です。しかしその背景には、「機械の動作チェックが行われていなかった」という間接的な原因があるかもしれません。

ヒヤリハットの再発を防止するには、このように複数の原因への対策が必要なのです。

④専門用語は避けて記載

誰が読んでも理解できるよう、専門用語を避けて作成しましょう。報告書はほかの部署や業務に慣れていない新入社員が読む可能性も高いです。また専門用語と同様、部署内だけで通じる略語や、意味が広く知られていない外来語の利用も可能な限り避けましょう。