法人事業概況説明書とは、事業内容をはじめとする企業概要について詳しく記載したもの。ここでは法人事業概況説明書の役割や書き方、注意事項について説明します。
1.法人事業概況説明書とは?
「事業内容・支店・子会社・海外取引・期末従業員数・PC利用・販売形態・経理・売上」など企業の概要について詳しく記載する書類のこと。記載にあたっては決算期末時点における状況にもとづきます。
役割
法人事業概況説明書は、管轄の税務署が法人の事業内容などを毎年的確に把握するためのものです。書類には、法人名や納税場所、業務内容や主要科目、海外取引の有無などを記載し、確定申告書とともに提出します。
資本金が1億円以上の法人では、法人事業概況説明書ではなく会社事業概況書の提出が義務づけられています。
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平成18年度から義務化
従来、法人事業概況説明書は任意による提出とされていました。しかし平成18年度に実施された税制改正にて、すべての法人に提出が義務づけられたのです。
提出せずとも罰則は課せられません。しかし法律により未提出の場合は書面や電話による督促が行われます。よって確定申告書とともに提出するのが望ましいです。
2.法人事業概況説明書と会社事業概況説明書との違い
確定申告書を提出する際の書類は、その法人を所轄するのが国税庁か税務署かによって異なります。
国税庁が所轄する法人は「会社事業概略説明書」、税務署は「法人事業概況説明書」です。一方、資本金が1億円以上の法人は所轄にかかわらず、法人事業概況説明書ではなく会社事業概況書の提出が必要となります。
3.法人事業概況説明書の項目別の書き方
法人事業概況説明書は各種申請に必要となるため、記載内容について的確に把握しておくとよいでしょう。ここでは法人事業概況説明書におけるそれぞれの項目の書き方について詳しく説明します。
国税庁ホームページには法人事業概況説明書のPDFが用意されているため利用しましょう。あるいは法人事業概況説明書の無料テンプレートやエクセル形式で入力するツールなどもあります。どちらも必要事項の抜け漏れをなくしたいときに便利です。
参考 法人事業概況説明書PDF国税庁- 事業内容
- 支店・海外取引状況
- 期末従業員の状況
- PC利用状況
- 販売形態・株式または株式所有移動の有無
- 経理の状況
- 役員または役員報酬の異動の有無
- 主要科目
- 代表者に対する報酬の金額
- 事業形態
- 主な設備の状況
- 決算日の状況・帳簿類の備付状況
- 税理士の関与状況
- 加入組合の状況
- 月別売上高や売上原価の状況
- 当期の営業成績の概要
①事業内容
法人が営む事業内容を記載します。表面には簡略化したものを記載し、具体的な内容については裏面の「事業形態」欄に記載するのです。いかなる業種や事業でも第三者が見て、理解しやすいよう記載するとよいでしょう 。
②支店・海外取引状況
国内にある支店や営業所、出張所や工場、倉庫、また海外にある支店数や所在場所などを記載します。なお平成18年の法改正にて、記載誤り防止の観点から、国内支店と海外支店に分けて記載できるように改訂されているのです。
③期末従業員の状況
作業員や事務員、技術員や販売員、料理人やホステスといった、常勤役員以下の具体的な職種とそれぞれの職種における人数について書きます。また期末従業員のうち、代表者の家族人数についても記しましょう。
④PC利用状況
PCの有無や利用しているPCのOS、PCが必要とされる業務や会計ソフトの利用の有無、利用する会計ソフトの名称、メールソフトやデータの保存先について詳しく記載します。なおPCはパソコンだけでなく、タブレット端末も含まれます。
⑤販売形態・株式または株式所有移動の有無
インターネット販売などの電子商取引の有無や、その具体的な内容について記載します。電子商取引を使用している場合にはホームページについても記載しましょう。また自社の株主の異動や株主間の持ち株数の異動の有無についても、記載します。
⑥経理の状況
現金出納や預金通帳の管理責任者の氏名を記載します。また管理責任者と法人の代表者との関係についても記す必要があるのです。試算表の作成状況や源泉徴収対象所得、消費税や社内監査の有無への記載も求められます。
⑦役員または役員報酬の異動の有無
社内における役員の異動あるいは役員報酬額の異動があるかどうかについて、記載します。法人事業概況説明書内の該当項目には、「有」か「無」のいずれかに〇印をチェックして表示させる方式となっているため、適切に記載しましょう。
⑧主要科目
主要科目は、その大多数が確定決算書における貸借対照表や、損益計算書から引用できます。決算額によるものの申告調整が必要な場合は、交際費を除いて調整後の額を記載しましょう。なお千円単位で記載する点に注意してください。
⑨代表者に対する報酬の金額
該当部分を必要に応じて記載します。同族会社のケースでは、代表者に対する「報酬」「賃借料」「支払利息」「貸付金」「仮払金」または代表者からの「借入金」「仮受金」の額を千円単位で記載する必要があるのです。
⑩事業形態
以下の3つの項目を必要に応じで記載します。
- 兼業の状況:2種類以上の事業を経営する場合、主な事業内容を可能な限り具体的に記載。売上(収入)高に占める兼業種目の売上高の割合についても記す
- 事業内容の特異性:同業種の法人と比べてその事業内容が異なる項目を記載
- 売上区分:売上(収入)高に占める現金売上と掛売上の割合を記載
⑪主な設備の状況
事業のために必要な機器や車両、店舗や倉庫、客室などの設備について、それぞれの名称や用途、型や大きさ、台や面積、部屋数などを記載します。ただし申告書の内訳明細書に記している内容については省けます。
⑫決算日の状況・帳簿類の備付状況
売上や仕入、外注費や給料の締切日と決済日、支給日を記載します。また作成している帳簿類についても記入しましょう。
記載例として上げられるのは受注簿や発注簿、生産指示簿や生産日報、原材料受払簿や商品受払簿、売上日程表や工事日報、運転日報や注文書などです。
⑬税理士の関与状況
税理士の関与状況について記載する項目です。顧問税理士がいるケースでは、その氏名や住所、電話番号を記します。その場合はあらかじめ税理士に事項の確認を取るとよいでしょう。複数の税理士が関与する場合、主な1名について記載します。
⑭加入組合の状況
加入している組合や団体があれば、その名前や役職名、営業時間や定休日について記載します。経理担当だけでは必要な情報を得るのが難しい場合、ほか部門とコミュニケーションを図りながら情報を集めましょう。
⑮月別売上高の状況
月別の売上高や売上原価について記載します。複数の売上がある場合、主な2について、原価とともに記載するのです。源泉徴収税額や人件費についても記す必要があるため、毎月の月次決算時に情報を収集しておくと、円滑に進められるでしょう。
⑯当期の営業成績の概要
経営状況の変化により、大きな影響がおよぼされた事項や経営方針の変更によって影響のあった事項などについて、具体的に記載します。同様の内容が記載された書類を作成している場合、それを添付すると項目の省略が可能です。
4.法人事業概況説明書の注意事項
法人事業概況説明書を作成する際、注意点があります。ここでは、「金額の記載」「出資関係図の提出」「間違いの多い記載例」などをもとに、注意すべき事項を詳しく説明していきましょう。
金額の記載
金額を記入する欄のほとんどは千円単位ですが、別の単位である場合には該当欄に単位が指示されているので、それに従いましょう。千円未満の端数は切り捨てとなります。
金額がマイナスの際は、その数字のひとつ上の桁の枠内に「-」あるいは「△」を記します。また数字を訂正する際は、書き間違えた部分を二重線で消し、余白に正しい金額を記しましょう。
出資関係図の提出
平成22年度の税制改正にて、法人事業概況説明書に「出資関係図」の添付が必要となりました。ただし国内法人かつ完全支配関係にあるほかの法人がある場合にのみに限られます。完全支配関係とは下記条件のうち、いずれかに該当する場合です。
- 一の者が法人の発行済株式等の全部を直接または間接に保有する関係として政令で定める関係
- 一の者との間に当事者間の完全支配の関係がある法人相互の関係
出資関係図とは
出資関係図とは、法人と期末に100%資本関係がある法人や個人を図で表したもの。原則、出資関係図には当期末にて当該内国法人との間に完全支配関係が生じている、すべての法人を記載するとされています。
平成22年度に行われた税制改正で、法人事業概況説明書に添付する必要が生じました。
間違いの多い記載例
一般的に間違いが多いのは下記の2点とされています。
- 「資産の部合計」欄が、「負債の部合計」欄と「純資産の部合計」欄の合計と一致しない:法人事業概況説明書の自動作成ソフトを用いていても「資産=負債+純資産」とならないケースもあるため注意が必要
- 「源泉徴収税額」欄が年末調整で過不足額精算を行っているのもかかわらず、精算後の税額を記載していない:たとえば源泉徴収税額が10万円で年末調整による超過税額が12万円の場合、△2万円と記載するのが正解。10万円と記載するのは誤り
困ったときは税理士に相談
法人税の確定申告における難易度は高いため、専門知識がない場合、非常に多くの時間と労力が必要となります。可能な限り税理士に依頼するとよいでしょう。法人事業概況説明書のみならず、決算書や法人税申告書なども、一括で依頼できるため、業務負担を大幅に削減できます。
4.法人事業概況説明書の提出について
法人事業概況説明書は作成するだけではなく、当然ながら提出しなければなりません。ここでは、然るべき提出場所や提出期限、提出しなかった場合の罰則などを詳しく説明します。
提出時期
法人税確定申告書は原則、決算の翌日から起算して2カ月以内に提出しなければなりません。たとえば決算日が3月31日の企業は、5月31日が提出期限です。
また自然災害などの被害にあったといった、一定要件に該当するケースでは、法人税確定申告の期限を1カ月延長できます。
提出場所
法人事業概況説明書は、法人の本社が所在する地域の税務を管轄する税務署へ提出します。直接の持ち込みはもちろん、郵送やインターネット送信でも可能です。書式は手書き、デジタルともに対応しています。
数値をのぞいては基本、事業内容は毎年変わりません。よってデジタルで行うほうが合理的でしょう。
法人事業概況説明書を提出しなかったときの罰則
法人事業概況説明書は、平成18年の法改正によって「確定申告書の添付書類」として定められました。財務諸表とともに確定申告書に添付する書類として義務付けられる一方、提出しなくても無申告加算税のような罰則はありません。
とはいえ給付金申請や確定申告のためには、作成しておくほうが得策でしょう。