HRBPとは、経営視点に立って人事戦略を打ち出す戦略人事のプロです。近年、日本の人事領域にてHRBPの注目度が高まっており、HRBPの導入を検討している企業も多いでしょう。
今回はHRBPの具体的な役割や従来の人事との違い、導入効果やHRBPに必要なスキル、実際の導入方法などを詳しく解説します。
目次
1.HRBPとは?
HRBPとは、経営者や事業責任者のパートナーとして、経営者視点に立って人事戦略を打ち出し、企業・事業の成長をサポートする戦略人事のプロのことです。HRBPは「Human Resource Business Partner」の略で、別名「HRビジネスパートナー」ともいいます。
HRBPはアメリカのミシガンビジネススクール教授デイビッド・ウルリッチが定義した概念です。人事機能のひとつであり、そのなかでも経営者の視点からアプローチする役割を持ちます。
変化の激しい時代で企業が成長するには戦略的な人事施策が欠かせません。HRBPは戦略人事を実現させるための専任担当者といえます。
2.HRBPの役割・仕事内容
ここでは、HRBPの役割・仕事内容を詳しくみていきます。
HRBPの役割
経営者視点から従業員と組織のパフォーマンスを上げる戦略人事を実行し、業績向上や企業の成長につなげること。つまり、人事面から戦略的に経営をサポートするポジションとなるのです。
経営者と現場、それぞれに近い立場として中立的な役割を持ち、経営層から現場、現場から経営層のそれぞれに対する課題の解決を図る役割も持ちます。
経営者や事業責任者のパートナーとして、経営に影響する人事について本質的な課題を見抜き、解決に向けて戦略的に動くことが求められるのです。
人事部の役割におけるHRBP
HRBPの定義者でもあるデーブ・ウルリッチ教授は、人事機能を下記の4つに分類しています。うちHRBPが該当するのは「戦略実現パートナー」です。
- 戦略実現パートナー:戦略を具体化して実現する
- 管理エキスパート:人事制度やプロセス管理を実行する
- 従業員チャンピオン:従業員の声を聞き入れ、コミットメントと能力を向上させる
- 組織改革:トランスフォーメーションと変革をリードする
HRBPの仕事内容
従業員と組織のパフォーマンスを向上させるため、経営者視点に立ってあらゆる面から戦略人事を実行すること。具体的には事業戦略に沿って、採用・配置・評価など必要な人事施策を策定・実行します。
また、戦略の立案・実行だけでなく、HRBPはコンサルティングのような役割も担います。事業部門のリーダーに対する人事面のコンサルやコーチングを行ったり、経営者の考えを具体的な施策に落とし込んで現場に反映させたりするのもHRBPの重要な仕事です。
なおHRBPの仕事内容は、企業の事業戦略やHRBPの立ち位置によって多岐にわたります。
3.HRBPが役割を発揮すると得られるメリット
HRBPが役割を発揮するとどのようなメリットを得られるのでしょう。それぞれについて見ていきます。
- VUCA時代に対応できる
- 経営者・事業責任者の負担を軽減できる
- 攻めの戦略人事が実行できる
- タレントマネジメントを進められる
①VUCA時代に対応できる
現代、下記要素が混在したVUCA時代といわれる、変化の激しい時代に突入しています。
- V=Volatility(変動性)
- U=Uncertainty(不確実性)
- C=Complexity(複雑性)
- A=Ambiguity(曖昧性)
世の中の動きが予測不可能なため、リスク管理が難しい状況にあります。変化に合わせて経営戦略や事業戦略を変えていくなか、人事面からも柔軟な対処が求められるのです。
HRBPは経営視点で人事戦略に取り組むため、変化に対応しながら適切なアクションが実行できるようになります。
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②経営者・事業責任者の負担を軽減できる
HRBPはHRパートナーともいわれるように、経営者や事業責任者の頼れるパートナーとしても機能します。頼れる人が少ない上位ポジションの人の精神的負担を軽減する役割もあり、良き理解者・相談者として活躍するのです。
経営者や事業責任者の負担を軽減できるため、よりよい戦略の実行に取り組めるでしょう。
③攻めの戦略人事が実行できる
これまで終身雇用や年功序列といった守りの人事が主でした。しかし今後、こうした守りの人事手法では優秀人材を伸ばしにくい傾向にあります。
そうしたなか、HRBPの役割によって経営視点から戦略人事が実行でき、組織開発に大きく影響を与えるような攻めの人事が行えるようになるのです。
たとえば、優秀な人材は早期に上位ポジションに配置するといった適材適所な配置のように、大胆かつ積極的な施策を実行可能です。結果、若手でも能力のある人が活躍でき、適切に評価される環境が構築されます。
重要なのは業績を伸ばして、企業を成長へと導くこと。HRBPの存在によって最適な攻めのアクションが行えるようになるのです。
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④タレントマネジメントを進められる
HRBPが役割を発揮すると、従業員と組織のパフォーマンスを最大化するためのタレントマネジメントが進められます。
なぜなら、組織の課題や経営戦略に応じていかにパフォーマンスを最大化できるかに重点を置くため、従業員のスキル・能力を最大化する配置・育成などを積極的に実行できるからです。
なおタレントマネジメントを有効的に進めるには、人材情報が活用できる環境の構築がポイントになります。
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4.HRBPと従来の人事、CHROとの違い
HRBPの役割をより理解するため、従来の人事やCHROとの違いを解説します。
HRBPと従来の人事の違い
従来の人事は労務管理の側面が強いオペレーション業務であり、仕組みや制度を整備し、効率的に運用・管理する役割を持ちます。経営者や事業責任者とは独立したポジションであるため、経営戦略とは連動していない点が特徴です。
一方、HRBPは経営視点を持ったうえで、経営目標や事業目標の達成・業績向上のために戦略人事を能動的に実行する役割を持ちます。つまり従来の人事とHRBPでは、経営戦略と連動しているか否かに違いがあるのです。
HRBPとCHROの違い
「Chief Human resource Officer」、通称「CHRO」は最高人事責任者のこと。人事領域の機能を持つ点では共通するものの、CHROはあくまで経営幹部の一人。HRBPはCHROが策定した人事戦略を理解し、現場に落とし込む役割を担うのです。
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5.HRBPが求められる背景
HRBPはアメリカで取り入れられてきた人事機能で、近年、日本でも注目を集めています。なぜ日本においてもHRBPが求められているのか、その背景をみていきましょう。
- VUCA時代への突入
- 人材獲得競争の激化
①VUCA時代への突入
現代は変化の激しいVUCA時代。変化に対応し、適切なリスク管理やアクションが起こせないと経営に大きな影響を与える場合もあります。
そのため人事は時代の先を予測し、社会環境の変化に対応していくことが求められるのです。その一例として挙げられるのは、新型コロナウイルスの感染拡大におけるテレワークの導入。
経営視点から人事領域における課題の早期発見やリスク管理を行う戦略人事の重要度が高まっている点からも、HRBPの必要性が高まっているとわかります。
②人材獲得競争の激化
少子高齢化により労働人口が減少する日本では、人材獲得競争が激化しています。くわえて、DXの進展も人材獲得競争の激化を促進させている要因です。
社会環境の変化に対応しつつ、世の中のニーズに対応するには従来の人事では不十分といえます。企業に変革をもたらすような優秀人材やDXに対応できるデジタル人材を獲得・育成するためにも、経営戦略と連動した戦略人事が重要なのです。
6.HRBPに求められるスキル・資格
HRBPは従来の人事と異なり、経営視点を持って戦略的かつ能動的に施策を策定・実行することが求められます。そのうえで求められるスキルやあるとよい資格をご紹介しましょう。
HRBPに求められるスキル
HRBPに求められる主なスキルは、次の3つです。
- コミュニケーションスキル
- 課題分析・解決スキル
- 経営スキル
①コミュニケーションスキル
経営陣・現場からの信頼があってこそHRBPとしての役割が発揮できるもの。そのためにはコミュニケーションスキルが重要です。
HRBPは経営層と現場の橋渡し役ともなります。経営層の考えを現場に浸透させたり、現場の声を経営層に届けたりするには、適切かつ高度なコミュニケーションが必要なのです。
また、コミュニケーションスキルとあわせて、ファシリテーションスキルも重要になります。
②課題分析・解決スキル
企業によって抱える課題はさまざま。自社にどういった課題があり、どう解決すべきか考えて実行するスキルが求められるのです。
現状を的確に分析してこそ、本質的な課題が見えてくるもの。さまざまな手法を理解したうえで、状況に応じて適切な解決策を提案するスキルや独創性があるとなおよいでしょう。
③経営スキル
HRBPは経営者のビジネスパートナーとなるため、経営視点から戦略人事を実行するには経営スキルも必要です。経営スキルが高いほど、経営戦略と人事の連携が強化されるため、経営層に劣らない経営スキルを持っていることが理想といえます。
また経営層と同じレベル感で議論したり、課題解決に取り組んだりするためにも経営スキルが欠かせません。
HRBPにあるとよい資格
HRBPになるにあたって、資格は必要ありません。しかし、資格取得のために学んだ知識はHRBPの役割を発揮するために役立ちます。下記は、HRBPにあるとよい資格です。
- MBA
- メンタルヘルス・マネジメント検定
- キャリアコンサルタント
- ビジネス・キャリア検定
- 産業カウンセラー
体系的に知識をインプットするため、HRBPとしてのスキルを上げるためには資格が有効です。
7.HRBP導入の進め方
HRBPの役割ややるべき業務は企業ごとに異なるため、正解がありません。そのため経営戦略や現場との連携を強化しながら、臨機応変に人事戦略の実行・改善を図ってPDCAを回していくことが大切なのです。
ここでは、HRBPを導入する下記4つのステップをそれぞれ解説します。
①人事戦略を明確化
まず自社独自の人事戦略を明確にします。その際、経営戦略と連動し、必要な人材や目指すべき組織のあり方を決めるとよいでしょう。
人材は採用だけでなく、育成まで加味して計画を立て、2〜3年ほどを見込んで検討事項をまとめます。
②具体的な手法を策定
次に人事戦略を実行するための具体的な手法を策定し、体制を整えます。現在の人事部体制で問題ないか、HRBPが本当に必要かを判断するステップです。
③トライアルの実行
検討の結果、HRBPの導入が必要となればまずはトライアル的に導入しましょう。
現場側もHRBPの役割を認識する必要があるため、段階的に進めます。なぜなら、現場との信頼関係を構築できてこそ、HRBPが役割を発揮できるからです。
④HRBPの本格的な運用開始
トライアル的に導入し、ある程度安定してきたら本格的な運用を開始します。
HRBPは継続的にスキルを高めながら、経営層や現場と連携して具体的な施策を実行し、数値含めた実績を生み出していくことが求められるのです。
人事戦略とは? 目的や戦略の立て方、フレームワークを紹介
働き方が大きく変わるなか、人事戦略は企業の重要な施策として注目されています。どのようなもので、どうやって戦略を決定していくのか。フレームワークの使い方をふくめて確認しておきましょう。
1.人事戦略と...
8.HRBPを導入する際のポイント
ここでは、HRBPを導入する際のポイントを解説します。
- ほか部署と連携する
- 現場との信頼関係を構築する
- 徐々に導入していく
①ほか部署と連携する
従来の人事はほか部署から独立する傾向にありました。というのも、労務管理的なオペレーション業務がメインであったため、ほか部署と連携する必要性があまりなかったからです。
一方、HRBPは経営層と現場をつなぐ橋渡し役であるため、ほか部署との連携が欠かせません。HRBPを軸に連携を強化し、組織が一体的になってミッションを達成する姿勢を作り上げることがポイントです。
②現場との信頼関係を構築する
HRBPの役割は、信頼関係があってこそ発揮できます。なぜなら、経営層の考えを現場に浸透させたり、現場の声を引き出して経営層に伝えたりできるのは信頼関係があってこそできるものだからです。
とくに、現場の本当の声は信頼関係があって初めて引き出せるもの。よってHRBPと現場が信頼関係を構築できるかどうか、は必須のポイントになるのです。
③徐々に導入していく
HRBPは、設置後すぐに機能すると期待してはなりません。なぜなら、ほか部署との連携強化や信頼関係の構築には、徐々に導入を進め、組織にHRBPを認識してもらう必要があるからです。
導入の進め方にもあったようにトライアル的に実行し、HRBP浸透のためのPDCAを回すとよいでしょう。
9.HRBPを導入する企業の事例
ここでは、HRBPを導入する企業の事例を3社からご紹介します。
- LINE
- カゴメ
- DeNA
①LINE
LINEのHRBPチームは、LINEの人・組織の課題解決に向けた企画立案、マネジメントを主な役割としています。
LINEは事業領域ごとにカンパニーが存在。そのためカンパニーや部門ごとに1〜2名のHRBPをアサインしています。カンパニーや部門ごとに相談に対して多面的に情報を集めて分析を行い、組織のミッションと連携して施策を設計しているのです。
課題解決のその先のニーズまで分析し、具体的な施策を実行した結果、退職を検討していた社員の面談にありつけたといった事例もあります。
②カゴメ
カゴメでは、人的資本の拡充を目的とする人事制度の変革にともないHRBPを設置。HRBPの役割を明確にし、人材開発委員会のなかの人事部長との同格ポジションとしてHRBPを置いているのです。
従業員がHRBPを認識できる環境を構築し、社員へのヒアリングやタレントマネジメントの実行など、社員の自律的なキャリア開発に注力しています。
③DeNA
DeNAのなかでも、規模の大きいゲーム・エンターテイメント事業部には、全社HR本部とは別に、独自の機能を持つHRBPが所属する組織開発部を設置しています。その背景には、ゲームクリエイターの相次ぐ退職や採用が滞っているなどの課題がありました。
そこで同社のHRBPは採用とマネジメント強化の取り組みを実行。具体的にはリファラル採用の強化や選考フローの整備、選考プロセスや給与水準の見直しなど、ゲームクリエイターにとって魅力的な職場への変革を進めたのです。
くわえてマネージャーの数を増加し、マネージャー1人あたりの担当メンバーを減らす取り組みも実施。現場からの依頼がある前から主体的に課題解決に取り組み、退職防止や採用強化に成功しました。