HSPとは、「Highly Sensitive Person」の略称で、感受性が高く繊細であり、物事に敏感な性質を持つ人のこと。本記事では、HSPの定義や特徴、原因などについて解説します。
1.HSPとは?
HSP(Highly Sensitive Person)とは、感受性が高く繊細であり、物事に敏感な人やその性質を指す言葉です。HSPには人一倍繊細で、音や光、においなどの刺激に敏感、または、他人の感情に共感しやすいといった特徴があります。
特定の脳領域の機能が活発であるとHSPになりやすいとされているものの、病気や障害ではなく、あくまでその人の性質だと捉えるとよいでしょう。
なお、5人に1人がHSPだとされているものの、自覚していない人も多いようです。
2.HSPの定義
HSPは、1996年にアメリカの心理学者であるエレン・N・アーロン氏が提唱した概念です。
以下4つの特徴すべてに当てはまる人はHSPに該当するとされています。
- Depth of processing(物事を深く考える)
- Overstimulation(刺激に敏感で疲れやすい)
- Emotional response and empathy(感情的な反応をしやすい)
- Sensitivity to Subtleties(些細な変化に敏感である)
上記4つの特徴は、頭文字をとって「DOES(ダズ)」と呼ばれます。それでは、HSPを定義する特徴をそれぞれ詳しく解説します。
①Depth of processing(物事を深く考える)
HSPは、ひとつの物事や結論に対して、深く考える傾向にあるため、多角的に物事を捉えられ、慎重に検討できる人が多いとされています。
それは、脳の情報処理に関する領域が活発に働きやすいことが原因とされているようです。多くの情報をインプットし、それらを活用して思考や判断することに長けています。
さらに、細部にまで気づく洞察力やインプットした感覚情報を活用し、創造性や芸術的な才能を発揮することもあります。
②Overstimulation(刺激に敏感で疲れやすい)
HSPは、五感に敏感で、音や光、においへの刺激に対して強く反応してしまう傾向があります。また、処理する情報量が多くなってしまうため、人混みや大きな音のする場所を苦手とします。
これらは、感覚情報を人一倍吸収する力があるがゆえの特徴で、たとえ楽しい出来事であったとしても気疲れし、ほかの人以上にどっと疲れてしまうことも多いでしょう。
③Emotional response and empathy(感情的な反応をしやすい)
HSPは、共感性が高く、他人の感情の影響を受けやすい人が多いとされています。
たとえば、相手の感情の変化に敏感に気づくため、同調しすぎてしまい、相手の感情のポジティブさやネガティブさに関係なく、気疲れしてしまうことも少なくありません。
一方で、ちょっとした仕草や声色などにも敏感で、相手の機嫌を察知する力に長けているとも言えます。
④Sensitivity to Subtleties(些細な変化に敏感である)
HSPは、些細な変化にも敏感で、ほかの人は気づかないような細かい部分からも情報や刺激を受け取ります。
たとえば、何気ない時計の音が気になってしまったり、強い日差しが苦手だったり、周囲の香水やタバコなどのにおいを感じやすく気分が悪くなりやすかったりすることもあるでしょう。
これらは、感覚情報を受け取りやすい脳の仕組みが要因となっています。
3.HSPの特徴
HSPの定義である「DOSE」の各要素ごとに、代表的なものを紹介します。
Depth of processing(物事を深く考える) | ・物事を始めるまでに考えすぎて時間がかかる ・ひとつの物事や調べ物を深く掘り下げる ・深く考え込んでしまう ・一を聞いて十を知る |
Overstimulation(刺激に敏感で疲れやすい) | ・人ごみや騒音が苦手 ・楽しかった後でも帰宅するとどっと疲労を感じる ・芸術作品に感動しやすい ・些細な言葉に傷つきやすく、いつまでも忘れられない |
Emotional response and empathy(感情的な反応をしやすい) | ・相手の仕草や声色、目線で、機嫌や考えが感じ取れる ・人が怒られていると自分が怒られている感覚に陥る ・映画などの登場人物に感情移入しやすい ・幼児や動物の気持ちも察することができる |
Sensitivity to Subtleties(些細な変化に敏感である) | ・時計の音など、ちょっとした音に敏感で気になってしまう ・強い光や日差しが苦手 ・タバコや強い香水の匂いで気分が悪くなってしまう ・第六感が働く |
4.HSPの原因
HSPは、特定の脳機能が活発に働きやすいことに起因していると言われています。これは、脳機能の差異によって生じるものであり、基本的には性格のような先天的な気質だと捉えるとよいでしょう。
ただし、幼少期の環境や人間関係などの外部要因で後天的に敏感になる場合もあります。とりわけ、感受性はそれに関わる特定の遺伝子タイプを持っていることに加え、幼少期の環境を通じて形成されると考えられています。
特定の遺伝子タイプを多く持っており、かつ幼少期の環境が交互作用的に脳の敏感さを形成し、HSPのような気質として表れるということです。
そして、感受性は成人期以降、別人レベルで高低することは一般的にありません。
5.HSPのセルフチェック方法
HSPの傾向は簡易なセルフチェックでも確認可能です。以下の項目に当てはまる人は、HSPの可能性が高いといえます。
- 相手の気分や感情に影響されやすい
- 大きな音や、開けた場所の日差しなど、強い刺激を不快に感じる
- 短時間でやることが多いとオロオロしてしまう
- 香水やタバコの強いにおいを不快に感じる
- 他人と長時間過ごすとどっと疲れる
- 人混みや大人数で集まる場所が苦手
- 芸術や映画などに大きく心が揺さぶられる
- 生活環境の変化に混乱する
- 幼少期に親や教師から「内気」「敏感」であると見られていた
- 肌に触れるチクチクした素材や時計の音などが過剰に気になる
6.HSPの人の長所
HSPは、一見短所のように思われるかもしれませんが、その特徴ゆえの長所もたくさんあります。HSPの主な長所は以下の通りです。
- 相手に寄り添うことができる
- 芸術的センスやクリエイティビティに長けている
- 危機管理能力が高い
- 誠実で信頼されやすい
①相手に寄り添うことができる
共感性が高く、相手の感情を察知できる能力があるため、相手に寄り添うことに優れています。
さらに、相手の気持ちを理解して共感できるため、他人と衝突することが少なく、良好な人間関係を築きやすいでしょう。とりわけ自分が安心できる環境では、周囲の人に対して高いホスピタリティが発揮できます。
②芸術的センスやクリエイティビティに長けている
HSPは、感覚が鋭く、多くの情報を吸収する力とそれを広げる力が交互的に作用し、優れた芸術的センスを発揮しやすい長所を持っています。
さらに、潜在的なニーズを汲み取り、画期的なアイデアやサービスを生み出せるポテンシャルもあるとされています。
③危機管理能力が高い
物事を深く、慎重に考えることができるため、ミスやリスクを予測したうえで判断および行動に移すことに長けています。
ひとつの物事を多角的に捉えられるため、あらゆる方向から起こりうる可能性などを検討しつつ、慎重に物事を進められるためです。
④誠実で信頼されやすい
HSPは、何事にも真摯に取り組む傾向にあり、その誠実な姿勢を見ている周囲から信頼を得ていることも多いでしょう。
たとえば、ビジネスシーンでは、納期厳守や丁寧な対応、細かな気配りなどができ、さらに相手の気持ちを汲み取れるため、相手が求めていることを理解しつつ行動できます。
7.HSPの人が抱えやすい悩み
HSPがゆえに、以下のような悩みを抱えやすくなる傾向が見られます。
- 積極的に動けない
- 頼まれごとを断れない
- 他人の感情に影響されやすく気疲れしやすい
- マルチタスクが苦手
- 些細なことが気になって集中できなくなる
上記の悩みをあらかじめ把握しておくことで、その観点に着目して対処できるようになることもあるでしょう。それぞれについて詳しく解説します。
①積極的に動けない
すべてのHSPがそうとは限らないものの、一般的にHSPは内向的な傾向にあるようです。
それゆえ、自分から積極的に動くことが苦手であったり、些細なことを敏感に察知するためいつもと違う行動を取ることに抵抗感があったりします。
その結果、思い通りの行動を取れず、のちのち後悔や反省をして、自己肯定感が低下してしまうことがあります。
②頼まれごとを断れない
共感性が高く、相手のつらさやしんどさも理解できるため、自分を頼ってくれた相手からの頼まれごとを断れないという悩みを抱えがちです。
ときには、キャパオーバーとなり、自分で自分の首を締めてしまうこともあるでしょう。相手のことを考えると、断ること自体が心理的負担となるかもしれませんが、自分の状況も考えたうえで依頼を引き受けるかを冷静に判断することが大切です。
③他人の感情に影響されやすく気疲れしやすい
HSPは、他人の感情に影響されやすく気疲れしやすいという悩みを抱えている傾向がみられます。
たとえば、誰かが怒られていると自分に関係なくてもネガティブな気持ちになったり、相手が悲しい思いをしていると共感して同じ気持ちになったりするなど、他人の感情にあわせて自分の感情も揺さぶられてしまいがちです。
良くも悪くも周囲からの影響を大きく受けてしまうため、悪い影響を与えることが多い人とは距離を置くことも必要です。
④マルチタスクが苦手
HSPのなかには、一度に多くの物事を処理しなければならない状態では、冷静でいられなくなってしまう人もいます。そのため、マルチタスクが苦手だという悩みを抱えることも多いでしょう。
HSPは、ひとつのことから多くの情報をキャッチするがゆえ、同時に複数のことが起こると、情報を受け取るキャパがなくなり混乱しがちです。
どうしてもマルチタスクをこなさないといけない状況になった場合は、やることリストを作ったり、落ち着いて自分の置かれている状況を俯瞰して見る意識を持ったりすることが大切です。
⑤些細なことが気になって集中できなくなる
HSPは、五感が優れているため、些細なことでも気になってしまい、集中できなくなってしまうこともあるでしょう。
周囲の話し声や機械音、強い光やにおいなど、刺激が多い環境に身を置くとストレスを感じやすくなってしまいます。
さらに、相手の些細な変化も敏感に察知してしまうため、必要以上に気負いしがちです。
8.HSPとの向き合い方
HSPは一種の性格ともいえ、簡単には変えられません。そのため、HSPがゆえに悩みを抱えた場合は、きちんと向き合う姿勢が必要です。HSPとの向き合い方として、2つの方法を紹介します。
- HSPの特性を理解し、適した環境に身を置く
- 受け取る情報量を減らす
①HSPの特性を理解し、適した環境に身を置く
HSPがゆえに悩みを抱えた場合、悩みを克服するために努力するより、まずHSPである自分を受け入れます。自分の長所や短所を理解した上で、自分の長所を活かせる環境に身を置けば、生きやすくなるでしょう。
HSPの特性を理解しないまま、自分に合わない環境に身を置き続けてしまうと生きづらいだけでなく、ストレスなどから心身に不調をきたしてしまう恐れがあります。
②受け取る情報量を減らす
HSPは、感覚情報をキャッチしやすいため、普通に過ごしているだけで疲れてしまうこともあります。
そのため、視覚や聴覚、触覚などの五感からキャッチする情報量を減らしたり調整したりすることで適度な心地よさが得られるようになるでしょう。
たとえば、照明を暗くする、遮光カーテンをつける、ノイズキャンセリングのイヤホンをつける、ゆったりとした服を着る、人混みではマスクをつける、などが考えられます。
情報は意識せずとも入ってきてしまうものですので、自分で調整する工夫が必要です。
9.HSPの人との関わり方
HSPの人と関わるときは、HSPの特徴を理解することが大切です。
特徴を理解したうえで、HSPの人が不快に感じるようなことをしない必要があります。自分はなんとも思っていないことでも、HSPの人からすると「怒っているのかな」「何かしてしまったかな」と不安に感じさせてしまうことがあります。
たとえば、HSPの人と会話するときは、ゆっくりと優しい口調で話すといった工夫してみるとよいでしょう。また、HSPの人が長所を発揮できる環境を提供したり気を配ったりすることも有効です。