不機嫌ハラスメントとは、「不機嫌」を表す言動で相手に不快感を与えること。具体例、原因、対処法などについて解説します。
目次
1.不機嫌ハラスメント(フキハラ)とは?
不機嫌ハラスメント(フキハラ)とは、口調や態度で自分が不機嫌な気分であると示し、相手に不快感や威圧感などを与えること。たとえば不機嫌な態度で部下に対して無理難題を押しつけたり、ほかの人に対して悪態をついたりするなどです。
周りの人に気を使わせたり、相手との確執が生じたりするので、人間関係のトラブルの原因になるのも少なくありません。
モラルハラスメントの一種
不機嫌ハラスメントは、「サイレント(無言の)モラハラ」と呼ばれる場合もあります。
モラハラとは、理屈や常識から逸脱した言動をとり、相手へ精神的な嫌がらせをすること。一般的なモラハラでは直接的かつ攻撃的な言動が見られるものの、不機嫌ハラスメントは不機嫌な雰囲気を出して相手に気を使わせようとします。
そのため不機嫌ハラスメントは表面上に現れにくく、気づかずに話しかけた人が被害を受けてしまうのです。
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2.不機嫌ハラスメントの職場における具体例
不機嫌ハラスメントは職場においても起こりえます。職場で見られる不機嫌ハラスメントの例を解説しましょう。
- 特定の人への不機嫌な態度
- 無意識下の不機嫌な態度
①特定の人への不機嫌な態度
ほかの人とは普通に接しているのに、特定の人に対してのみ不機嫌な態度を取るケース。
たとえば上司が特定の部下に対してのみ不機嫌になるといったものです。この場合は立場の弱い人や言いにくい人を狙って、意図的に不機嫌ハラスメントを行っている可能性があります。
被害を受けた部下は、自分に問題があると思い込んでしまい、自己評価やパフォーマンスが低下するかもしれません。
②無意識下の不機嫌な態度
誰に対するでもなく、無意識のうちに不機嫌な態度が現れるケース。たとえば不機嫌になった上司が舌打ちやため息をしたり、物にあたったりするなどです。
本人から周囲へ直接何かを伝えるわけでもないため、部下たちはどうしたらよいか困惑してしまいます。上司と部下のコミュニケーションが希薄になりやすく、業務の遂行に支障が出る可能性も高いです。
3.不機嫌ハラスメントが起こる原因
不機嫌ハラスメントの直接的な原因は本人の感情そのもの。ただし不機嫌になるきっかけがいくつかあります。ここでは不機嫌ハラスメントが起こる原因を解説しましょう。
- 体調不良
- ストレス
- 自信の評価への不満
- 不機嫌のアピール
- 相手への支配欲
①体調不良
体調がすぐれないときにイライラした気分になり、不機嫌ハラスメントをしてしまうことがあります。病気や寝不足、過労などによる体調不良で自分に余裕がなくなり「周囲へ不機嫌を見せない」といった配慮ができなくなるからです。
たとえば病気で痛みを感じている人が、その痛みが収まらないことにイライラしてしまい、つい他人へ当たってしまうケースがあたります。
②ストレス
ストレスが高じて自分に余裕がなくなり、イライラした気分になって不機嫌ハラスメントをしてしまうことがあります。職場では「思いどおりに物事が進まない」「努力に見合った成果が得られない」などが発生し、ストレスを溜めてしまう場合も多いからです。
たとえばプロジェクトの進捗が遅れていて、自分に大きなプレッシャーがかかったときに、つい周囲に当たってしまうといったケースがあげられるでしょう。
③自信の評価への不満
自分への評価が正当ではないと感じたとき不愉快な気分になって、不機嫌ハラスメントをしてしまうこともあります。とくに「自分は周りよりもできる」と思っている人は、他人が褒められたときに不機嫌ハラスメントをしがちです。
たとえば自分よりも相手の評価を下げる目的で、相手に対して否定やダメ出しをする不機嫌ハラスメントが見られます。
④不機嫌のアピール
意図的に不機嫌ハラスメントを行い、自分が不機嫌であるとアピールしている場合があります。目的は、周囲の人からの注目や気遣いを得ること。自分を中心に物事を考え、相手が自分に気を使うのが当たり前と考えている人に見られる不機嫌ハラスメントです。
⑤相手への支配欲
相手の行動をコントロールするため、不機嫌な言動をとる場合があります。たとえば上司が不機嫌をあらわにして部下に威圧感を与え、相手が気を使って自分の指示に従うようにしむけるといったものです。
部下が反抗的な態度を示した場合、さらになった上司は不機嫌になってしまうでしょう。
4.不機嫌ハラスメントが企業にもたらす影響
不機嫌ハラスメントはチームや部署内にとどまらず、企業全体に悪影響を与える可能性もあります。ここでは4つの影響を解説しましょう。
- 周囲への伝染
- 生産性の低下
- 企業イメージの悪化
- 離職率の増加
①周囲への伝染
不機嫌ハラスメントを受けた人が多いほど、周囲に不機嫌が伝染していきます。必要以上に気を使ったり萎縮したりしてしまい、気が休まらずイライラするようになるからです。
とくに人の脳はネガティブな感情を受け取りやすくなっています。そのため、他人が不機嫌になると気づかないうちに自分自身もネガティブな気持ちになりやすいのです。
よってひとりの上司による不機嫌ハラスメントであっても、部下全員に不快感が浸透していき、職場全体の雰囲気が悪化していく恐れもあります。
②生産性の低下
不機嫌ハラスメントが発生した部署やチームの生産性が下がる恐れもあります。社員のストレスや不安感が高まり、業務効率や仕事に対するモチベーションが低下するからです。
また不機嫌ハラスメントが原因で休職や長期病欠が増えた場合も、生産性が低下するでしょう。ほかの社員でその分をカバーしなければならず、社員の負担が増加し、業務の遅滞や品質の低下が起こりやすくなりからです。
③企業イメージの悪化
不機嫌ハラスメントが発生したと社外へ伝わると、企業イメージが下がってしまいます。「ハラスメントが起こるような職場環境の悪い企業」あるいは「ハラスメントを放置する企業」といったイメージを与えてしまうからです。
広く知られるほど多くの取引先や顧客との信頼関係が失われ、さらに新規顧客の獲得も難しくなります。企業の売上や市場シェア、株価などの低下を招きかねません。
④離職率の増加
不機嫌ハラスメントを受けた社員がストレスで退職に至った場合、離職率が増加し、優秀な人材の流出や、採用コストの増加など大きなダメージを受けます。
離職率が増えると社員は自社に対する不信感や不安を持つようになり、さらなる離職者を出してしまう可能性もあるのです。新たな人材が入社しても不機嫌ハラスメントが続いていれば、すぐに退職してしまうかもしれません。
5.不機嫌ハラスメントが起こった際の対処法
不機嫌ハラスメントが起こった場合、どうすればよいのでしょう。ここでは3つの対策方法を解説します。
- 本人への指導
- 配置転換の検討
- 業務指示系統の改善
①本人への指導
不機嫌ハラスメントが発生したら、まずは事実を確認し、本人への指導を実施しましょう。不機嫌ハラスメントを行っている本人に、その行為が周囲にどのような影響を与えているかを具体的に説明し、不機嫌ハラスメントに至った根本的な原因を究明するのです。
仕事で生じたストレスや過労が原因だった場合、勤務時間や業務量の調整が必要かもしれません。
②配置転換の検討
不機嫌ハラスメントを行った本人、または被害を受けた社員の配置転換を行い、環境を変えるのもひとつの方法です。とくに特定の社員に対して不機嫌ハラスメントが行われている場合は、改善効果が期待できます。
ただし本人を配置転換した場合、配属先でまた不機嫌ハラスメントが発生する可能性も否めません。配属先の上司とも情報を共有し、再発防止策などを講じておく必要があります。
③業務指示系統の改善
上司から部下への業務の指示系統を見直すと、不機嫌ハラスメントが改善される場合もあります。特定の上司からの業務指示を不愉快に感じて、部下が不機嫌ハラスメントを行うケースもあるからです。
たとえば複数の人から指示を受け、困惑や混乱からストレスが生じて不機嫌になってしまうなら、指示系統を一元化するとよいでしょう。
6.不機嫌ハラスメントを防ぐ方法・対処法
不機嫌ハラスメント対策では、発生時の対処だけでなく、防止も必要です。ここでは防ぐ方法と対処法について8つ、解説します。
- セルフチェックの実施
- 各従業員の特性を把握
- 定期的なアンケート調査
- 相談窓口の設置
- ハラスメント研修や教育の実施
- 企業方針の明確化と周知
- 処罰内容の規定
- 健康管理の徹底
①セルフチェックの実施
セルフチェックをとおして自分の性格や感情を把握させると、無意識で行われる不機嫌ハラスメントを抑制できます。チェック項目の例は次のとおりです。
- 物事が自分の思いどおりにいかないとイライラすることがある
- 気分に左右されることが多く、怒りが抑えられないことがある
- 愚痴や不満、他人の噂話や悪口などをいうことが多い
- 自分の気持ちを理解してもらえないと感じることがある
- 言わなくても自分の気持ちを理解してほしいと考えることがある
②各従業員の特性を把握
従業員の性格や特性を把握するため、性格テストや面談を活用する方法もあります。とくに攻撃的な性格の人、自己管理能力やストレス耐性が低い人などは要注意です。不機嫌ハラスメントのみならず、ほかのハラスメントを起こす可能性があります。
そのような社員は普段からマークし、不機嫌な様子が見られたら本人への指導と周囲へのフォローを行いましょう。
③定期的なアンケート調査
アンケート調査を定期的に実施し、不機嫌ハラスメントの有無や、不機嫌ハラスメントに対する社員の意識などを把握しましょう。問題が発覚したら速やかに対策を講じ、状況の改善に努めなければなりません。
またアンケートの分析結果は、社員のメンタルヘルスや職場環境に関する情報です。これらは組織全体の改善にも役立ちます。
④相談窓口の設置
社員が不機嫌ハラスメントについて相談できる窓口を設置すると、不機嫌ハラスメントの予防や発見につながります。
具体的には相談窓口の担当者と相談があったときの対応のプロセスを策定し、全社員へ周知する流れです。相談窓口の担当者はハラスメントの知見がある人材が好ましいでしょう。社内での設置が難しい場合、外部機関を利用する方法もあります。
⑤ハラスメント研修や教育の実施
不機嫌ハラスメントに関する研修を行って、不機嫌ハラスメントに対する社員の認識を高めると予防効果が高まります。無意識あるいはハラスメントに該当する行為だと知らずに不機嫌ハラスメントを行っているケースもあるからです。
研修では具体的なケーススタディーを取り入れ、原因や発生しやすい状況、改善方法などを学ばせましょう。
⑥企業方針の明確化と周知
「不機嫌ハラスメントを行ってはならない」という自社の方針を経営者から明らかにし、管理者も含めた全社員へ周知および浸透させると、予防や抑制につながるのです。
この方針に沿って不機嫌ハラスメントに関する就業規則を策定し、必要に応じて別途ガイドブックも作成します。また経営者は定期的にメッセージ発信やコミュニケーションを行い、不機嫌ハラスメントを起こさない企業文化の醸造を促進しましょう。
⑦処罰内容の規定
不機嫌ハラスメントに関する就業規則とともに懲戒処罰も策定し、該当行為や判断基準なども明文化しておきます。不機嫌ハラスメントを行った場合の処罰が明確になり、抑止力を高められるからです。また社員に対して自社の方針を強く伝える効果もあります。
不機嫌ハラスメントが発覚したら本人および関係者へ聞き取り調査を行い、策定した基準と照らし合わせて処罰を決定するのです。
⑧健康管理の徹底
過労やストレスなどによる体調不良から引き起こされる不機嫌ハラスメントを防止するために、社員の健康管理を徹底し、健全に働ける環境を整える必要があります。
たとえば健康診断やカウンセリング、ストレスマネジメントやメンタルヘルスに関する研修などの実施です。また労働環境を改善するために、休憩時間や休日の確保、適切な労働時間の管理も重要になります。