育児休業制度は近年大きく変わり、2022年の法改正では男性の取得促進や分割取得の柔軟化など、重要な変更が導入されました。人事労務担当者として、これらの最新ルールを把握し適切に運用することは、社員のワークライフバランス支援と法令順守の両面で必須となっています。
育休はいつから取得できるのか、男女でどう違うのか、分割取得の新ルールとは何か。本記事では、法改正後の育児休業制度の全体像と実務対応のポイントを、人事労務担当者の視点から解説します。
育児休業制度の基本と最新の取得可能時期
育児休業制度にはさまざまな取得条件や特徴があります。産休と育休の違いから始まり、女性特有の取得期間と延長条件、そして近年大きく変わった男性の育休取得制度まで、人事労務担当者として押さえておくべき基本知識を解説します。
産休は女性のみが取得できる制度です。育休は、女性は産後休業終了後から、男性は子の出生日から取得可能です。
特に2022年10月に始まった「産後パパ育休」は、男性の育児参加を促進する重要な制度です。給付金の支給条件や支給額、連続取得のメリットなど、従業員からの相談に適切に対応するための知識を身につけましょう。
産休と育休の違いと連続取得の流れ
産休と育休は、出産・育児に関連する重要な制度ですが、その目的や期間に違いがあります。産休(産前産後休業)は女性のみが取得でき、産前休業は出産予定日の6週間前(双子などの多胎妊娠は14週間前)から、産後休業は出産翌日から8週間取得可能です。一方、育休(育児休業)は男女問わず取得でき、原則として子どもが1歳になるまで利用できます。
産休中の収入を補填するのが出産手当金で、健康保険加入者には賃金日額の3分の2(約67%)が支給されます。育休中は育児休業給付金が支給され、開始から6か月間は賃金の67%、それ以降は50%となります。
育休中に次の子を妊娠した場合も連続取得が可能です。この場合、産前休業を申請せず育休を継続する方が、育児休業給付金と出産手当金の両方を受け取れるため経済的にメリットがあります。ただし、産後休業に入ると育休は終了します。
連続取得の場合、育児休業給付金の条件緩和があり、通常「育休開始前2年間で11日以上労働した月が12か月以上」必要ですが、連続取得時は4年間まで遡ることができます。
女性が育休を取得できる期間と延長条件
女性の育休取得は、原則として産後休業が終了する日から子どもが1歳になるまでが基本期間です。しかし、条件を満たせば最長2歳まで延長できます。2017年の法改正により、従来の1歳6か月から2歳までに延長されました。
育休の延長が認められるのは、保育所に入所できない場合や養育者の事情変化などの理由で引き続き休業が必要な場合です。具体的には、1歳(または1歳6か月)の時点で次の条件を満たす必要があります。まず、育児休業中であること、認可保育所への入所を申し込んでいるが入所できないこと(無認可施設は対象外)、または配偶者の死亡・病気などで養育が困難になったことなどです。
延長を希望する場合は、延長申請を育休満了日の2週間前までに会社に提出します。申請には保育所の入所保留通知書などの証明書類が必要です。ただし、育休を延長する目的で意図的に保育園に入園しないことは認められません。育休期間の延長が認められると、給付金の支給期間も延長されます。
男性の育休取得制度と出生時育児休業の活用法
2022年10月1日より、男性の育児参加促進を目的とした「産後パパ育休(出生時育児休業)」が創設されました。これは、子の出生日から8週間以内に取得できる制度で、最大4週間まで利用可能です。
産後パパ育休の特徴は、通常の育児休業とは別に2回まで分割して取得できる点にあります。申出期限も通常の育休より短く、原則として休業開始の2週間前までとなっているため、柔軟に対応できます。
さらに、産後パパ育休中は労使協定がある場合に限り、労働者の合意のもとで就業することも可能です。これにより、完全に休業するか一部就業するかを選択できるようになりました。
給付金については、出生時育児休業給付金として休業開始時賃金の67%相当額が支給されます。2025年4月からは「出生後休業支援給付金」も始まり、既存の給付金と合わせると最大で休業開始時賃金の80%が支給される予定です。
制度名 | 対象期間 | 最大取得期間 | 申出期限 | 分割回数 |
出生時育児休業(産後パパ育休) | 子の出生後8週間以内 | 4週間 | 原則2週間前まで | 2回まで |
通常の育児休業 | 子が1歳になるまで(延長可能) | 約1年間 | 原則1か月前まで | 2回まで |
育児休業給付金の申請時期と支給額の計算方法
育児休業給付金の申請方法と金額計算の基本を理解することは、人事労務担当者として重要な役割です。ここでは申請手続きの流れ、給付金の具体的な計算方法と実際の手取り額、そして受給条件と就業制限について詳しく解説します。
育休をいつから取得できるかという点だけでなく、給付金はいつからどのように支給されるのか、具体的な数字を交えて説明します。
育児休業給付金の申請手続きと支給開始時期
育児休業給付金の申請手続きは、原則として事業主を通じて行います。申請には「雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書」と「育児休業給付受給資格確認票・(初回)育児休業給付金支給申請書」の提出が必要です。また、母子健康手帳の写しなど育児の事実を確認できる書類や、賃金台帳・出勤簿などの証明書類も添付します。
申請のタイミングは初回の場合、育休開始日から4か月を経過する日の属する月の末日までとなっています。2回目以降の申請は、ハローワークが指定する支給申請期間内に行います。申請先は事業所を管轄するハローワークです。
給付金申請は事業主経由が原則ですが、被保険者本人が希望すれば直接申請することも可能です。2025年4月以降は出生後休業支援給付金制度も始まり、原則として育児休業給付金の申請とあわせて手続きを行います。人事労務担当者はこれらの手続きのサポートと、従業員への適切な情報提供が必要です。
休業前給与に対する給付率と実際の手取り額計算例
育児休業給付金は、休業前賃金を基準に計算され、育休取得期間によって給付率が変わります。具体的には、休業開始から180日目までは賃金の67%、181日目以降は50%が支給されます。
この給付金には上限額が設定されており、休業開始時賃金日額の上限は15,430円(2023年8月時点)です。例えば、月収30万円の場合、180日目までは月額約20.1万円、それ以降は15万円が支給されます。月収15万円なら、それぞれ約10.1万円と7.5万円が受け取れます。
注目すべきは2025年4月からの制度改正です。子の出生直後の一定期間内に両親がともに14日以上の育児休業を取得した場合、給付率が67%から80%に引き上げられます。
休業前の月収 | 180日目まで(67%) | 181日以降(50%) |
15万円 | 10.1万円 | 7.5万円 |
20万円 | 13.4万円 | 10万円 |
30万円 | 20.1万円 | 15万円 |
育休給付金を受給するための条件と就業制限
育児休業給付金を受給するには、まず雇用保険の被保険者であることが基本条件です。さらに、育休開始前2年間に、賃金支払基礎日数が11日以上ある月が12か月以上必要となります。
育休中の就業については、支給単位期間(1か月ごと)の就業日数が10日以下、かつ就業時間が80時間以下であれば給付金の受給資格を維持できます。この制限を超えると、その期間の給付金は支給されません。
就業による賃金が休業前賃金の13%(6か月経過後は30%)以下であれば満額支給されますが、それを超えると減額され、80%以上になると支給されません。申請手続きは原則として事業主を通じて行いますが、従業員本人が直接ハローワークに申請することも可能です。
育休分割取得の最新ルールと企業の実務対応
2022年の法改正により、従来は原則1回だった育児休業が分割取得できるようになり、夫婦間での交代取得も容易になりました。本節では、改正育児・介護休業法による分割取得の具体的方法、育休申請から承認までの実務フロー、そして育休取得希望者への適切な対応と不利益防止策について解説します。
人事労務担当者として押さえておくべき法的義務と実務のポイントを確認し、従業員が安心して育休をいつから取得できるか、その環境整備に役立つ情報をお伝えします。
改正育児・介護休業法による分割取得の具体的な方法
2022年10月1日施行の改正育児・介護休業法により、育児休業の分割取得制度が導入されました。この改正で、従来は原則1回だった1歳までの育児休業が、分割して2回まで取得できるようになりました。具体的な方法としては、それぞれの取得希望日の1か月前(特別な事情がある場合は1週間前)までに個別に申請する必要があります。
さらに、夫婦間での育休の交代取得も容易になりました。例えば、子どもが1歳時点で一方の親が育児休業を取得していれば、もう一方の親と途中交代することが可能です。ただし、両親の育児休業期間に空白期間を作らないことが条件となります。
人事労務担当者としては、社内規定を改正法に合わせて更新し、従業員に制度を正確に周知することが重要です。また、育休取得を理由とする解雇や降格などの不利益な取り扱いは法律で禁止されていることもあわせて社内に周知しましょう。
育休申請から承認までの実務フローと必要書類
育休申請の受理から承認までは、企業と従業員双方にとって重要なプロセスです。まず人事労務担当者は、従業員から育休開始予定日の1か月前までに「育児休業申出書」を受け取り、内容確認後、おおむね2週間以内に「育児休業取扱通知書」を交付する必要があります。この通知書には申出受理の旨、育休の開始・終了予定日、拒否する場合はその理由の3点の記載が必須です。
トラブル防止のため、育休中の待遇や復帰後の労働条件も記載しておくと安心です。書類交付は、従業員の希望があればメールやファックスでも可能です。
育休期間中の社会保険料免除手続きは、企業側が「育児休業等取得者申出書」を年金事務所に提出します。免除期間は育休開始月から終了予定月の前月まで(終了日が月末の場合は当月まで)で、この期間も将来の年金額計算に反映される点を従業員に説明しましょう。
手続き | 提出先 | 期限 | 必要書類 |
育休申請 | 会社 | 開始日1か月前 | 育児休業申出書 |
育休承認 | 従業員 | 申出から2週間以内 | 育児休業取扱通知書 |
社会保険料免除 | 年金事務所 | 育休開始時 | 育児休業等取得者申出書 |
育休取得希望者への適切な対応と不利益防止策
育休取得希望者が安心して制度を利用できるよう、人事労務担当者は法的義務を理解した対応が必要です。まず重要なのは、育児休業の申出や取得を理由とする解雇や降格などの不利益取扱いが法律で禁止されていることです。
事業主には、育児休業の申出が円滑に行われるための環境整備措置が義務付けられています。具体的には、育休制度に関する研修実施、相談体制の整備、取得事例の収集・提供、制度や取得促進方針の周知のいずれかを実施する必要があります。
また、従業員が妊娠・出産を申し出た際には、個別に育休制度の周知と取得意向の確認を行わなければなりません。この際、育休制度の内容、申出先、育児休業給付に関する事項、社会保険料の取扱いについて説明します。
さらに、上司や同僚からのハラスメントを防止する措置も義務化されています。育休中の従業員の業務を適切に分配し、職場全体で支える体制づくりも重要です。
育休復帰支援と公平性確保
育休取得者の円滑な職場復帰と公平な評価は、企業の持続的成長を支える重要な基盤です。本節では、復帰後のスムーズな職場適応を実現する段階的復帰プランの構築方法と、短時間勤務制度の効果的な活用について詳しく解説します。また、育休取得者が評価や昇進面で不当な不利益を受けないための具体的な公平性確保策もご紹介します。
育休の取得可能時期を理解するだけでなく、復帰後も見据えた一貫したサポート体制を整えることで、従業員のワークライフバランスと企業の生産性向上を両立させる方法を人事労務担当者の視点からお伝えします。
育休からの段階的復帰プランと短時間勤務制度の併用
企業として育休からの従業員復帰をサポートするには、段階的復帰プランの整備が効果的です。まず人事労務担当者は、復帰前に面談を設定し、短時間勤務制度の利用意向を確認しましょう。この制度では、3歳未満の子を養育する従業員に対し、1日6時間勤務を基本としつつ、多様な勤務時間の選択肢を提供できます。
復帰初期は保育園の慣らし保育期間(約2週間)に配慮し、勤務時間を段階的に延長するプランを提案すると、従業員の負担軽減につながります。また、短時間勤務に加えて始業時刻の変更や時差出勤、テレワークなどを組み合わせることで、より柔軟な就労環境を整備できます。
改正育児・介護休業法では、3歳から小学校就学前の子を養育する労働者のために、始業時刻変更、テレワーク、短時間勤務など5つの選択肢からふたつ以上の措置を提供することが事業主の義務となっています。
育休取得者の評価・昇進における公平性確保の方法
育休取得者の評価・昇進における公平性確保は、人事労務管理の重要課題です。まず、評価制度の透明性を高めるために、評価基準を明確化し全従業員に周知することが大切です。育休期間中の評価方法として「同期社員の平均評価を適用する」「前期と同じ評価を維持する」などの公平なルールを導入している企業が増えています。
特に年功序列的な昇給制度がある場合は、育休取得者だけを不利に扱わないよう注意が必要です。就業規則では、「前年度に一定期間以上の不就労があった場合は昇給しない」という規定が育休にのみ適用されていないか確認しましょう。昇給規定はシンプルにし、昇給停止に関する細かい条件は設けないほうがトラブル回避につながります。
育休取得者の評価では、休業期間だけでなく就労期間の業績や勤務態度も総合的に考慮し、復帰後のキャリア支援体制も整えることが重要です。
育休取得者の公平評価のポイント | 具体的施策 |
評価制度の透明化 | 評価基準の明確化と周知 |
育休期間の評価方法 | 同期平均適用、前期評価維持など |
昇給・昇進の公平性 | 就業規則の見直し、総合的評価 |
キャリア支援 | 復帰後の相談体制、研修機会の提供 |
まとめ
育児休業制度は子が1歳(最長2歳)までの期間取得でき、給付金は休業開始から6か月間は給与の67%、それ以降は50%が支給されます。2022年10月からは分割取得が可能となり、企業は公平な制度運用のための規程整備が求められています。育休からの復帰時には短時間勤務制度も活用でき、円滑な職場復帰と両立支援のための体制づくりが重要です。申請手続きや必要書類の確認も忘れずに行いましょう。
育児休業に関わる労務業務、特に休業手続きは複雑で担当者の負担となります。申請書類の作成・提出から給付金計算、社会保険料免除手続きまで、正確な処理が求められます。さらに、育休分割取得の新制度導入により手続きはより煩雑化しています。
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