インセンティブとは、従業員のモチベーションを維持するための報酬のこと。今回は、言葉の意味やインセンティブ導入のメリット・デメリット、設計方法などを詳しく解説します。
目次
1.インセンティブとは?
インセンティブ(Incentive)とは、目標を達成した報酬としての報奨金を指します。もともとは「刺激」や「動機」を意味する単語です。企業や組織におけるインセンティブは、社員のモチベーションを引き出すための成果報酬であり、行動を促す動機づけの役割を果たします。
また報酬は金銭に限らず、昇給・昇格や褒賞旅行など、内容はさまざま。企業は、社員の労働意欲を高めたり、組織全体の生産性を高める目的でインセンティブ制度を導入します。
2.インセンティブと似た言葉との違い
インセンティブと似た言葉に、以下の4つがあります。インセンティブとの違いを押さえ、意味と役割を正しく理解しましょう。
- 歩合制
- 報奨金
- ボーナス(賞与)
- 手当
歩合制
歩合制は、実績に応じて一律の割合で報酬が支給される制度です。たとえば商品の販売1件に対して、5,000円が支給されるといったもの。
一方、インセンティブは、目標を達成して初めて報酬が発生する制度であり、目標が5件で設定されていれば、5件販売するまで報酬は発生しません。そのため歩合制とインセンティブには、報酬発生の条件が実績に応じたものか、目標達成によるものかという違いがあります。
報奨金
報奨金とインセンティブは同じ意味を指します。厳密にいうと、インセンティブに報奨金が含まれる関係です。
ボーナス(賞与)
ボーナス(賞与)は、企業の業績に応じて支給される報酬で、業績の好転・悪化に応じて金額が変動します。
インセンティブは、社員が達成した成果によって支給の有無や金額が変動し、また報酬が金銭であるとも限りません。社員の頑張りをいたわるといった役割は類似するものの、ボーナスとインセンティブでは、発生する条件が異なります。
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手当
手当は、基本給にプラスして支給される賃金です。一般的には、役職手当、家族手当、通勤手当などがあり、毎月決まった額で支給されます。手当はインセンティブと異なり、努力や成果への「対価」としての役割はありません。
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3.インセンティブのメリット
インセンティブを導入すると、企業は以下のようなメリットが得られます。
社員のモチベーション向上を促せる
目標達成による報酬は、社員のモチベーション向上に貢献します。とくに、金銭的なインセンティブは明確な指標となるため、外発的動機付けとして効果的です。
ボーナスのように年1〜2回のみではなく、月毎など短いスパンで設計できるため、短期的なモチベーションの向上効果も期待できます。
またインセンティブ制度は、年齢や在籍年数に関係なく、自身の頑張りで得た成果がダイレクトに評価されるため、評価への不公平感を解消するのにも貢献するのです。
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企業理念・ビジョンの浸透につながる
インセンティブは、間接的に企業理念・ビジョンの浸透につながります。インセンティブ制度を通して、企業がどのようなアクションを高く評価するか示し、社員は企業が目指す方針を理解することにつながるのです。
さらに、目標達成を目指した行動は結果的に企業理念・ビジョンを体現することになります。それにより達成者は、ロールモデルとなって周囲に浸透させる役割を果たすのです。
明確な行動を促せる
インセンティブ制度を導入すると、社員は具体的な行動を起こしやすくなります。インセンティブ獲得の条件がわかりやすい指標となるため、行動に落とし込みやすくなるからです。企業が達成したい目標と連動すると、従業員に求めるアクションを引き出しやすくなります。
経営圧迫のリスクが抑えられる
インセンティブは、ボーナスのように全社員に対して必ず支給する報酬ではありません。ボーナスは固定費ですので、経営を圧迫しやすい側面があるものの、インセンティブは変動費であるため経営圧迫のリスクを抑えられます。
4.インセンティブのデメリット
メリットがある一方で、インセンティブには以下のようなデメリットもあります。インセンティブ制度を導入する場合は、デメリット解消できるような工夫を取り入れることがポイントです。
社員にプレッシャーがかかる
社員間で差が生じ、成果を残せなかった社員が居心地の悪さを感じる可能性も否めません。とくに、インセンティブ付与の条件がチームの成果である場合、「自分が足を引っ張ってしまった」もしくは「自分は頑張ったのに」という思いが生じやすくなります。
インセンティブが、個人に負担や頑張りを強要する要素とならないよう、注意が必要です。
人間関係に悪影響をおよぼす可能性もある
個々が成果を追求するあまり、過度な競争意識が生まれ、チームワークが乱れる恐れもあります。たとえば自身の成果に集中してしまい人材育成への意識が低下する、ライバル関係が生まれノウハウが共有されないなど、組織の成長が意図せず阻害されるかもしれません。
インセンティブを導入した結果、チームワークの悪化によってかえって生産性が下がらないように配慮するのがよいでしょう。
評価が一部に偏ることで不満が生じる
成果をもとに公平に評価できる一方、インセンティブを獲得する社員がいつも同じ、という状況も多々起こります。
評価されなかった社員はかえって仕事への意欲が低下し、組織への帰属意識が薄れる可能性もあるため、フォローを忘れないこともポイントです。また、定量的な成果だけでなく、定量的な成果を条件としたインセンティブの導入も検討しましょう。
ほかにも、インセンティブだけに囚われないモチベーション向上施策や、一人ひとりのやりがい・意欲に直結する施策をあわせて取り入れるなどの対策も可能です。
インセンティブを得ることが目的になる恐れも
この場合、社員の意識が目の前の成果に偏り、仕事全体を俯瞰して見られなくなってしまいます。また、一部の社員がインセンティブを得ることに固執すると、チームワークの悪化にも繋がりかねません。
短期的なモチベーション向上だけをインセンティブの目的とせず、組織への中長期的な影響も考慮して、制度を設計することがポイントです。
5.インセンティブの種類と具体例
インセンティブには、金銭以外の報酬も含まれます。自社にあったインセンティブを導入するためにも、インセンティブの種類と具体例を確認しましょう。
金銭的・物質的インセンティブ
たとえば下記のようなものです。
- 報奨金(業績手当、出来高給)
- 株式
- 賞品
- 旅行
金銭や物品の獲得をモチベーションとして、効果を発揮するインセンティブです。支給する内容は企業それぞれで設定可能。代表例は報奨金で、物質的なインセンティブには、賞品や旅行などがあります。
評価的インセンティブ
たとえば下記のようなものです。
- 社内表彰
- 人事評価(昇進・昇格)
評価を得ることを報酬として、モチベーションを引き出すインセンティブです。具体的には、社内での表彰や昇進・昇格といった報酬が与えられます。表彰などにより周囲から価値ある存在だと認められ、褒められることは、人のモチベーション向上において非常に効果的です。
人的インセンティブ
たとえば下記のようなものです。
- 上司や先輩社員、同僚との交流
- 尊敬する上司と同じチームになる
良好な人間関係や環境づくりを報酬とするインセンティブです。「あの人と働くことがモチベーションになる」「あの人のために頑張りたい」と思える関係性や環境が人的インセンティブとなり、仕事の生産性に良い影響を与えます。
自己実現的インセンティブ
たとえば下記のようなものです。
- 理想のキャリアにつながる業務を任せる
- 裁量権の譲渡
- 自己実現の機会提供
自己実現を報酬として、モチベーションを引き出すインセンティブです。社員個人の夢やビジョンを後押ししたり、勉強会や研修の機会を提供したりするなど、内容はさまざま。スキルアップが業務へ還元されるなど、企業にとってのメリットも期待できるでしょう。
6.インセンティブ制度が向いている職種
インセンティブ制度は、どの職種にも適用できます。最も相性が良いのは成果を数値で判断できる職種でしょう。代表例は営業職で、不動産や保険、証券の営業にはインセンティブ制度を採用している企業が多い傾向にあります。
一方、売り上げに対する個人の貢献度を数値で可視化しにくいマーケティングや企画、人事や総務などの職種では、どう適切な目標を設定するかが、インセンティブを効果的に機能させるカギとなります。
7.インセンティブ制度の導入企業事例
インセンティブにはさまざまあり、企業によってインセンティブ制度の内容も異なります。以下で、具体的な企業事例を紹介します。
株式会社メルカリ
株式会社メルカリでは、ストック・オプションおよびキャッシュ賞与を支給しています。ストック・オプションとは、あらかじめ定められた金額で会社の株式を取得できる制度です。
業績向上によって株価が上昇すると、取得時の価格と株価上昇分の価格との差が、利益として受け取れるため、実質上のインセンティブとなります。
メンバーが、事業の成長や企業価値の向上のために取り組んでいるからこそ得られる利益であるため、得られた成果を全員で分かち合うとの考えのもと導入されました。この考えを推進するために、持株会制度やその他の奨励金も設けられています。
出典:株式会社メルカリ『よくあるご質問』
株式会社インテリジェンス ビジネスソリューションズ
株式会社インテリジェンス ビジネスソリューションズでは、労働時間の制約に関係なくパフォーマンスを発揮できる組織を目指すための手段として、インセンティブ制度を活用しています。
同社の制度は、残業ゼロかつ生産性の高い社員に対して、残業代20時間分に相当する報奨金を支払うものです。職種に限定されないルールであり、「働き方改革の推進」と「生産性向上」への効果を期待して、導入されました。
出典:パーソルプロセス&テクノロジー株式会社『残業ゼロの社員にインセンティブを支給生産性高く活躍する社員を賞賛し、長時間労働を抑制』
8.インセンティブ制度の設計・導入方法
次に、インセンティブ制度の設計・導入方法をステップ別に解説します。
- インセンティブ制度導入の目的の明確化
- 目的にあったインセンティブ種類・内容の選択
- インセンティブの付与条件の設定
- 運用開始・効果検証
①インセンティブ制度導入の目的の明確化
まず、インセンティブを付与して、自社が何を達成・実現したいのか明確にします。たとえば営業利益を〇〇円まで上げたい、企業理念を浸透させたいなど。
目的を達成するために、インセンティブの対象となる社員や、その社員に望む行動・目標数値を明確にします。前提として、インセンティブ制度の導入自体が目的にならないよう注意が必要です。
②目的にあったインセンティブ種類・内容の選択
導入目的に合わせて、適切なインセンティブの種類・内容を決定します。インセンティブの種類は、金銭的・非金銭的の2つです。
- 金銭的インセンティブ:金銭というわかりやすい報酬のため、社員のモチベーションを引き出しやすい。売上目標の達成を条件に設定するのが一般的で、企業が営業利益を確保できることが前提のインセンティブ
- 非金銭的インセンティブ:本人が希望する業務上の役割・チャンスなどを与える方法。ユニークな内容を設計しやすい制度であるため、恣意的な内容にならないよう注意する
どちらを採用する場合でも、社員へヒアリングを行って、社員のニーズにあったインセンティブを設定することが、制度の導入効果をアップさせるポイントです。
③インセンティブの付与条件の設定
次に、インセンティブを付与する条件を決定します。社員のどのような成果・行動を評価するか、具体的な内容を策定しましょう。
このとき、高すぎる売上目標といった非現実的な条件では、かえってモチベーションを下げてしまうため、努力によって達成できるストレッチ目標が効果的です。また、不公平感を生じさせない、客観的な評価軸を設定するように注意します。
④運用開始・効果検証
制度を策定したら、運用に移る前にトライアル期間を設けるとよいでしょう。トライアルを実施すると、制度の内容や、運用における課題が見えてきます。
トライアルを経て本番の運用を開始したら、導入した目的を果たせているか効果検証が重要です。成果が出ていない、プラスに影響していない場合は、制度の見直しや修正を進めます。
9.インセンティブ制度導入の注意点
インセンティブ制度を導入するにあたって、以下のポイントに注意しましょう。
インセンティブは課税対象
インセンティブを金銭・物品で支給する場合は所得税の課税対象です。給与と合わせて支給する形式が一般的で、インセンティブを合わせた合計額から所得税を算出します。
内発的動機も意識する
評価や報酬といった、外発的動機付けだけに着目しないようにしましょう。とくに金銭的インセンティブは、社員間の収入差を広げる要因にもなり、不公平感が生じる恐れも。
社員のモチベーション向上にも着目し、内発的動機を醸成するようなインセンティブも導入するとよいでしょう。
内発的動機付けとは?【外発的動機付けとの違い】具体例
内発的動機付けとは、自分自身の内側から生まれる動機付けのことです。ここでは内発的動機付けの具体例や外発的動機付けとの違い、活用するメリット、デメリットなどについて解説します。
1.内発的動機付けとは...
競争意識を煽らない
過度な競争意識を醸成する内容では、チームワークを乱し、組織力が低下しかねません。競争意識が先行しないよう、チームで目標達成する仕組みなども組み合わせるとよいでしょう。その際、一部のメンバーに過度なプレッシャーがかからないよう配慮も必要です。